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ACROS THE AMBER WILL  作者: neun
1章 昇る月が告げるのは
2/14

1-2 哨戒任務

 格納庫にブザーが響き、警告灯が点灯する。兵士達が忙しなく()()を走りまわり、鉄の扉がゆっくりと開いていく。日は既に傾き空は薄暗い。


 整備兵が誘導灯を振り、車両に続いて数機のTCGが外へと出ていく。目を閉じ何度か深呼吸する。すぐにヘッドセットからオペレーターからの指示が届く。軽く伸びをして、手元のスイッチを操作し、コクピットのハッチを閉じる。起動したモニター越しにマークと目が合った気がして、少し笑ってしまう。


『マークのところがでるぞ、さっさと道をあけろ!お前らも今日で最後だからって機体を雑に扱ったらぶっ飛ばしてやるからな!!』


 整備兵を束ねる親っさんの荒っぽい声と共に、機体に装着された固定具のロックが解除され、正面の機体が武装を受け取り動き出す。

 緑とグレーを基調にした、一つ目のカメラアイが特徴の機体。サイクロプスⅡ前期型。とっくに現役引退した型落ちのTCGだが、扱いやすく訓練兵や私たちのような試用任務中の兵士に充てがわれている。


 マークは士官学校首席だけあって、前線基地についてからも早々に小隊長のような仕事を任されていた。隣では、同じくマーク班であり同期のユーリの機体が始動し、一つ目をこちらに向け器用に手を振ってくる。さっさとしろと、親っさんの怒声が聞こえる。何やってるんだか。


『システム問題なしっと。ハイデ警備小隊、マーク班、マーク・ネクスト出ます』

「同じく、朱 凛風出撃します」

『ユーリ・アルバーン行ってきまーす』


 マークに続きリンファ、ユーリのTCGは格納庫から外へ出ると基地西部からユーラルシア国境付近へと、いつもの哨戒(さんぽ)ルートへと歩き出した。あくまで仮とはいえ四カ月間の試用任務を共にした機体は、士官学校時代の訓練機よりも愛着が湧いていた。


『いやーやっと終わりかー、長かったねー』

『ユーリ、気を抜いてるとまた親っさんに怒鳴られるぞ』


 完全に気の抜けたユーリに注意するマークも初任務の頃と比べるとかなり気を抜いるようにも思えた。ユーラルシアとジメリアの国境警備という重要な任務ではあったが、五年前に停戦協定が結ばれてからは戦闘が行われた記録はない。


 ユーラルシアを酷く憎み駆逐したいとまで願っているリンファにとっては歯がゆい任務でもあり、哨戒中にユーラルシアの機体を見つければ、国境を超え戦闘を仕掛けかねない程には苛立っていた。

 それを止めるマークとユーリ、そしてそのストレスで腹痛に襲われる小隊長がいなければ早々に戦争は再開されていただろう。その為、基地内でもリンファは過激派として有名である。


『猛犬がいなくなったら隊長も胃薬卒業かなー』


 初日こそガチガチだったユーリもいつもの調子を取り戻し、リンファや基地の兵士たちにも軽口を叩くようになっていた。親っさんに怒鳴られている姿はもはや日常である。


「誰が猛犬だ失礼な。はぁ、いくら上司とは言えあんな調子だと、いざって時にまともに戦えるかが心配」

『いやいや、止められなきゃ、しっかり国際問題だからな。その責任を取らされるとなっては流石にああもなるさ』


 苦笑するマークを無視して、ため息を吐く。一方的に宣戦布告し、攻めるだけ攻め殺すだけ殺した奴らが旗色が悪くなれば停戦だと、認められるわけがない。つい操縦桿を握る手に力が入る。


『けど、最近きな臭いんだろー、他の班の奴らが言ってたけどさ』

『国境付近での軍事行動が増えてるし、向こうさん(ユーラルシア)のいざこざも落ち着いたらしい』

「なら、攻められる前に攻め返せば良いのに」


 荒野を歩いていたリンファ達は機体を止め、目の前の盆地に広がる廃都市に目を向ける。天災のパニックに乗じて仕掛けられたユーラルシアの侵略戦争。この廃都市もその傷跡を色濃く残していた。


 隕石がユーラルシアに落ちていれば戦争なんて起きなかったのに。そんな、ことすら考えてしまうが、その場合、当時のユーラルシアとの国境付近にあった故郷も無事ではないことはリンファの頭からは完全に抜けている。


『いつ見てもすごい景色だ。これで最後だと思うと少し寂しいな』

『ほんと、月明かりじゃなくて、出来れば夜景を楽しみたかったよ。絶対綺麗だったし、そうすりゃもっと()()も楽しかったのにさー』

「ギリギリ私達の領土だし、さっさとあいつらをぶっ潰して復興してもらえばまた見られる」

『ははは、間違ってはないけど、血気盛んと言うか物騒すぎ。やっぱり、いつまでたっても結婚出来なさそう』

「余計なお世話」

『相変わらず口調もキツイし〜』

 よし、こいつは帰ったら締めよう。

『さて、時間だ。いつもならここらで他の班と会うんだが、、、会わなきゃいけないわけでもない、都市巡回へ行くぞ』

『マーク班の廃墟探訪も遂に最終回!』

「いいから行く」

『はいはーい』


 マーク達に続き廃都市の方へ降りていこうと機体を動かした瞬間だった。

 ん?気のせい?何か光った?

 リンファは廃都市の中で一瞬小さな光が瞬いたのを見た。しかし、その後遅れて届いた音は三機のTCGが斜面を駆け下る音でかき消され、誰の耳にも届かない。


 □■□


 廃都市に入ると、見通しも悪くなる為より緊張感が増す。嫌な予感がする。いつもと違う空気感にプレッシャーすら感じた。マークも何か感じだったのか、いつもよりも少し歩みが遅い。

 いつも鈍感なユーリが二人の様子を見て少し困惑し辺りを警戒するも何もなく、レーダーにも何も映らない事に首を傾げる。


『んー、何か気になることでもあった?』

『確証はないが嫌な感じがする』

『でたよ、はいはい感じね感じ』


 ユーリの鈍感さとそれに付随する思い切りの良さは彼の武器であったが、ここでは活かせそうにもない。

 進むにつれプレッシャーを強く感じるようになり、リンファの額がじんわりと汗ばむ。そして、廃都市の中心部へとたどり着き三人は足を止めた。広場には、前大戦で破壊された見上げるほど巨大なユーラルシアの決戦兵器『ギガフロント』が無残な姿で放棄されている。


『やはり、ここまで来るとレーダーや通信にも障害が出るな、、、二人とも警戒を怠るなよ』

「わかってる。にしても、相変わらず不気味なモニュメントよね、これ」

『確かに、ああはなりたくないよなー』


 ユーリが機体をギガフロントへと向け、そして頭部が爆ぜた。


「な!?」

『敵襲!、、、!、、、』


 バランスを崩し倒れるユーリの機体をマークが受け止める。不意を突かれたリンファはハッとして、ギガフロントへとマシンガンを向ける。

 レーダーに続いて通信系統が使えなくなった。リンファは時たま聞こえる雑音に耳を顰め、ヘッドセットを外す。


 ギガフロントの巨体の陰に隠れていた多脚戦車が、その機動力を活かし三人の後方へと回り込む。ロックオンが効かず、視線から外れそうになるのを慌てて機体を動かし視界に留める。


『リン、、、ファ、、ECM(電子攻撃)、、手動で、、、!!』


 放り捨てられたヘッドセットからブツブツとマークからの声が聞こえるが、リンファには届かない。


「くたばれぇぇぇ!!!」


 ズダダダダダダダダ


 リンファの怒声と共にマシンガンが火を吹くが、多脚戦車はそれを躱し三人が来た道を戻るように逃げていく。懸命に撃ち続けるも、当たらない。


 くっ、早すぎる。手動で照準を合わせる前に逃げられる!出鱈目に撃ってるだけじゃ!


 多脚戦車は回避行動を取りながらも、砲塔をこちらに向けおちょくるようにリンファ達へと発砲する。そして、一発が機体の肩部に命中し、衝撃をリンファへ伝える。


 クソッ、ちょこまかと!


 頭に血が上るのを感じる。もはやリンファに冷静さの欠片もなく、それを止めるはずの仲間の声も届かない。多脚戦車はそのままどんどんと逃げていき、射程外へと達すると、速度を上げさらに逃げ始めた。

 完全におちょくられている。リンファの理性と微かに残っていた自制心が振り切れる。


「このまま逃がすかぁ!!」

『、、ファっ!、、、め、だ!待っ!』


 マークの制止する声も遠く、リンファはペダルを一気に踏み込み、操縦桿を強く握る。背面のブースターが火を吹いた。

 頭部を破壊されただけでユーリは無事なはず。だがあいつは必ず殺す。このまま良いようにされてたまるか。

 リンファの機体はブースターによって一気に押し出され多脚戦車を追う。



 □□■



 取り残された二人の機体。頭部のないユーリの機体がマークの機体を支えに立ち上がる。


「マーク!リンファを追うぞ!どっちにしろ基地の方向もあっちだし!」

 ハッチを開き、ユーリが身を乗り出し叫ぶ。

『サブカメラは?』

 ユーリが肩をすくめ首を振る。

「風通しが良くて気持ちはいいよ。弾もよく通すだろうけど」

『わかった、、、そうならないことを祈ってる。ん?走行音?ユーリ!さがれっ!』


 ゴーという地を這うような音が大きくなり、同型の多脚戦車が都市の奥から二台現れる。砲は二人へと向いており、マークがユーリの機体を下がらせた瞬間、マークの機体の胸部装甲に直撃する。


「マーク!」

『この程度じゃ装甲は抜かれない。ユーリ、先に行け!』

「くっ!了解!死ぬなよ」

『そっちも』


 ユーリが離脱する。マークは後方のユーリに当たらないよう、砲撃を受けながらもユーリを追おうとした片方に正確に照準を合わせマシンガンを撃つ。回避しようとした多脚戦車だったが、一瞬足を止めてしまい幾らか弾を受けた所で脚部が損壊し、そのまま爆発する。


 [馬鹿な!ジャミングは正常に作動してるはずだ!この軌道に当てられるわけが!?新兵ではないのか!?駄目だ、一度ひ、、]


 そして、僚機を失い引こうとしたもう一台も建物や瓦礫を上手く縫って回避してはいたが、マークに動きを予測され間もなく撃墜された。


『はぁ、はぁ、やっぱり、訓練とは違うな』


 マークは炎上し煙を上げる二つの残骸を一瞥し、少し震える手をごまかすように操縦桿を握り直す。ドクドクと早まる鼓動と息を整え、撃ち切ったマシンガンの弾倉を交換する。

 二人に早く追いつかないと。


 そして、二人の向かった方へと振り返った瞬間、黒いTCGがマークへと大剣を振り下ろした。




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