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ACROS THE AMBER WILL  作者: neun
1章 昇る月が告げるのは
14/14

1-14 帰還

 

 昼夜問わず警報が鳴り響き、上空では敵味方の航空機が飛び交う。第二十二基地は敵部隊に完全に包囲されていた。敵の初動によりレーダーの半数以上を破壊されたことも相まって戦況は絶望的だった。


『ジョエル、ハイド出るぞ。空は爆撃機の処理で手一杯だ、相変わらず航空支援はないと思え』

『はっ、そんなもん、あったことの方がまれじゃないか。どちらかと言えば手伝ってやってるくらいだ』

『懲りねえやつらだ、やってやる!』


 整備と補給を受けるために戻った第3小隊(デッドスカル)と、入れ替わるようにして第2小隊(レッドファング)が出撃する。


 外から見た基地の様子は酷いもので、もはや無事な施設などなく、レーダーや対空砲、防衛施設はその殆どが破壊されてしまっていた。レイモンドがその様子に悪態をつきながら敵TCGを落とし、ジョエルが防衛ラインを越えてきた大型爆撃機を撃ち落とす。


『飛行小隊!こっちの援護は求めてないんだ、自分の獲物は自分で落としな!』

 《ちっ!分かってる!助かった!》

『礼は無事に帰ってからでいい』

 《そうさせて、もっ、、、、》


 ひとつまたひとつと敵か味方か、撃墜され燃え盛る航空機が基地領内へと落ちていった。


 ハイドが敵戦闘機の機銃掃射を受けながらもバトルアックスを振り回し地上の敵を押し返そうと奮闘する。


『ちっ、いい加減に!なんだ、新手かっ!』


 ハイド機が新たに出現したファトム三機へと真っ直ぐ突っ込んで行く。それに気が付いた前方の二機がマシンガンでそれに応戦する。いかに装甲の厚いハイド機と言えど、ファントム二機のマシンガンの威力には耐えられず、ダメージが蓄積し限界が近づいていた増加装甲は呆気なく弾け飛んだ。堪らず回避行動を取ったハイド機であったが反応が遅れた分だけ被弾し装甲各所に穴を増やした。


『ぐぅっ!』

 [このまま落とせ!落とせ!]

 [くたばりやがれ!]


 しかし、二機のファントムはハイドを仕留めきる前に、ジョエル機のキャノンによって文字通り吹き飛ばされ、残りの一機もレイモンドによって撃破された。


『はぁはぁ、た、たす、かった、、、』

『馬鹿が無策に突っ込むなといつも言ってるだろ。にしても、こんなこといつまで続くんだ?私らだって生身の人間なんだ。このままじゃ機体より先にお陀仏だ』

『他の基地とも禄に連絡も取れてないらしいからな。まあ、出来た所でどうせ傍受されて終わりさ。それよりハイド、一度戻れ』

『なっ!隊長!俺はまだ、、、!』

『バカ、機体から煙が出てんだよ。さっさと消火しに戻れ』


 敵部隊が攻撃を緩め下がっていったのは、レイモンド達が三度目の出撃してから更に二時間が経過した頃だった。


 その頃には、基地の航空戦力は殆どが消え、動かせるTCGも、第2小隊(レッドファング)が二機、第3小隊(デッドスカル)が一機、第4小隊(デッドスミス)が三機となっていた。


「おい聞いたか!包囲が解けてきてるらしいぞ!」

「本当か!じゃあ、あと少し耐えれば」


「通信が復旧したらしい」

「ノクトバーンが敵を追い返したって」


「アルダイルも虫の息らしい」


 そこかしこから聞こえてくる噂話は、どれも本当か嘘かも分からない。ジョエルはそんな喧騒を聞き流し、お気に入りのお酒を胃に流し込んだ。味はあまりしない。暫く洗えていないせいでゴワゴワの長い髪を解き、いつも通り後ろで一つに結び直していると、隣から一本の煙草を差し出された。ジョエルはそれを目だけで断る。


「私はあいにく禁煙中だ。代わりに病室のベッドまで持ってってやったらどうだ?」

「爆睡している所を起こすのはしのびないだろ」


 レイモンドは右手の煙草をそのまま自分の口元まで持ってくると、慣れた手つきで火を付けた。ゆっくりと煙を噴き出す男の目元には深い隈があった。


 二人の間に暫くの沈黙が生まれる。


「さっき、バニングに聞いたが、、、」

「これ以上の悪いニュースは聞きたくないね」

「なら、聞いてもらえそうだ」


「なに?」

「ストーム隊の奴らが帰って来るらしい」


 それを聞いたジョエルは愉快そうに笑って、レイモンドの方を見た。


「そりゃいい。遠足帰りに悪いが、若いのには存分に働いて貰おうか」


 そして、今日何度目かの警報が鳴った。



 □■□



 『さてさて、そろそろかな〜』

『私が先行します、手はず通りでお願いします』


 第二十二基地を包囲する敵部隊の一角で火の手が上がった。侵攻中の敵基地は攻略寸前、ジメリア領内でありながら完全に優勢だったユーラルシア兵達は分かり易いほどに油断しきっていた。


『無人のTCGと物資は出来るだけ攻撃を避けて、後でそのままそっくり貰って行きましょう』

『いやー、逞しいね。もしかしてパイロットとしてもやっていけるんじゃない?』

『私はあくまで臨時ですから』


 アカネの操縦するヴァミリオンが、起動したばかりのTCGを最小限のダメージで撃破し、ナツメのサイクロプスⅡ改が奪った武器を使い、待機中だった敵兵士や戦闘車両などを潰していく。


 [あ、あ、赤鬼!?な、なんで!]

 [落ち着け、良く見ろ!やつは既にボロボロなんだ!落とせ落とせ!]

 [くっ、くるなぁ!!!]


 一瞬の内に狩られる側へと変わったユーラルシア兵達はパニック状態に陥り、その動揺は基地で戦闘を行う前線部隊にまで波状していった。


 時を同じくして、ノクトバーン基地とアルダイル基地へとジメリア軍中央部からの援軍が到着し、アーバンティア全土での迎撃作戦が開始される。優勢だったユーラルシアもこれにはひとたまりもなく、各基地を包囲していた敵部隊は徐々に撤退を始めていった。


 第二十二基地では、敵の動揺や乱れを察知したバニングが待機させていた全戦力を投入。たった二機とはいえ、ナツメとアカネにによる挟撃と合わせジメリア領土側の敵部隊を殲滅したことで、残りのユーラルシア軍は陥落寸前の基地を目の前に撤退を余儀なくされたのだった。


 その後、無事基地へと帰還したストーム隊の面々は基地のあまりの惨状に言葉を失った。


 破壊された設備や武器などは、敵が放置したものや中央部からの補給物資によって順次補填されていったが、基地に所属する兵士の損耗は決して無視出来るものではなかった。



 □□■



 ストーム隊帰還から四日後。

 リンファは白く柔らかいベッドの上で目を覚ました。


 身体を起こそうとすると全身に痛みが走る。動くことを諦めて、ただ天上をぼーっと眺める。記憶が混濁しているらしく、どうして自分がここにいるのか分からない。


 いつからか、何故なのか


 そんなことをぼんやりと考えていると、さっとカーテンが開けられて部屋が一気に明るくなった。

 眩しくて目をギュッと瞑ると、同時に小さなうめきが漏れた。


 彼女は、、、


「!起きたのか、少し待ってな」


 私に気が付いたのだろう。ジョエルが手に持っていた花をテーブルの上の瓶に雑多に差し込み、病室を飛び出していくのが見えた。お見舞いに花なんて、リンファはくすりと笑い、強烈な眠気に誘われるがまま再び目を閉じた。


 それから数時間が経ち、気持ちよく目を覚ましたリンファにアカネが間髪入れずに抱きついた。

 激痛を我慢して泣いて謝る彼女のされるがままにする。一度ジョエルが呼びに行った後からずっと病室にいたらしい。ナツメがアカネを宥めながらそう言っていた。外を見ると、空は暗く星が綺麗だった。


「凛ちゃん、ご、こめんねぇ、、、」

「大丈夫、なんてことない」

「無事に目を覚ましてくれてよかった良かった」


 彼女の様子とぼやけた記憶をたぐり寄せる。まだ記憶は曖昧で、ただ、ずっと一緒にいたはずの人がそこに居ないことが全てを物語っていた。ゆっくりとマークの最後を思い出していく。


「マークは、、、」


 アカネがそっと目を伏せ、ナツメが黙って首を降る。信じたくない。目から決壊した涙が頬を伝って、病衣へと滲んでいく。私には全てを受け入れる時間が必用だった。

 そこからは、寝て覚めて、食事とリハビリと。淡々とそれだけの日が続いた。


 病室で目を覚ましてから一週間が経った。

 基地は修繕が行われていない場所の方が珍しく、朝も昼も夜も相変わらずどこも騒がしい。そのせいもあって最近は全く眠れなくなっていた。

 することもなく退院間近の病み上がりの身体を引きずって格納庫へと向かう。


 すれ違う人はこんなにも少なかっただろうか。人手は足りないらしいから、きっと修繕に駆り出されているに違いない。何時もの格納庫へと向うと瓦礫の山になっていた。keep out のテープが貼られていて、瓦礫の撤去作業が行われている。


「ちょっと、いい?」

「ん?(シュウ)曹長ではないですか!お身体はもう良いので?」

「ええ、大丈夫。それよりここに収容されていた機体達はどこに?」

「ああ、それなら第四か地下の方ですね。他は爆撃やらでこっぴどくやられたもんで」


 兵士に礼を言って今度は地下の格納庫へと向う。

 彼は確か以前、バーで少しだけ話したことがあった兵だったか。それにしても、ここまでこっぴどくやられているとは思っても見なかった。


 地下の格納庫に着くと、そこにはジメリア軍仕様に改修されているユーラルシアのTCGばかりで、ヴァミリオンや他の小隊のサイクロプスの姿はない。ジメリア軍のマークを入れられ、グレーに塗られていくファントムを横目に第四格納庫へ向う。少し散策しただけで息が切れた。


 目的地の扉を抜けると見慣れた機体達が並んでいた。以前と一つ違うのは、どれも酷くボロボロな所だろう。ふらふらと歩いているとヴァミリオンを見つける。


 痛々しい姿のヴァミリオンを見上げていると、何故かいつもよりも心は穏やかで、こうしていると何時もどこかで感じていた筈の強い焦りのようなものは無くなっていた。


「凛ちゃん!来てたんだ!」

「暇だったから。それにしてもこれは、、、」

「あはは、そうだね。無くなった左腕はサイクロプスⅢのモノを改造して付けるとして、バランスが悪くなった分はどこかで調整しないといけないし、そもそも、外だけじゃなくて中身もボロボロだから、、、」


 スノーホワイトと交戦してからの記憶は所々が欠落していて、ハッキリと思い出せるのはマークの最後くらいだろう。


 アカネの話によれば記憶の欠如は『L-System』による弊害らしく、肝心のシステムも極限状態時の私の反応速度に機体がついていけなくなったことで停止したらしい。


 ヴァミリオンの修理について一人で思考に没頭し始めたアカネをよそに、隣で修理されるサイクロプスⅡ改を見ると、肩にハンツマンのハンドアックスを受けたのだろう跡がくっきりと残っていた。


 そして、ナイトオウルの姿はどこを探してもいない。


 マークは死んだ、死んだんだ。


 病室に来たジョエルにそんなこともあると言われたが実感はない。それから、いつものように飲みに誘われたりもしたが、気分ではなく医師にも止められた為ずっと断っている。代わりとしてか丁度そこに居合わせたナツメが毎回ジョエルに捕まっていた。


「よう」


 ぶっきらぼうな挨拶。

 スキンヘッドに包帯を巻いたハイドが汚れた作業着を着て立っていた。見た目の割に細かい作業が得意らしく、TCGの整備や修理に回されていると聞いていた。


「マークのことは、、、その、残念だったな」


 自分でも折り合いがついていない内容にどう返していいか分からず黙って彼の顔を見る。


「兄貴のかたきを取ってくれてありがとう」

「え?」


 そのまま黙っていると、思ってもない事を言われて少し困惑する。そうか、彼も大事な人を奴に奪われてたんだな。


「いや、その、ああ、だめだ、、、!えっと、これだけは!これだけは言って置きたくてな、、、じゃあ!」


 そうして、ハイドは一人で勝手に盛り上がり勝手に去っていった。


 かたき、か


 マークの事を考えると、心がざわついて、不思議と澄んでいた心が濁っていく。そして、リンファは心の奥底で燻っていた何かに、再び火が灯ったのを確かに感じていた


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