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ACROS THE AMBER WILL  作者: neun
1章 昇る月が告げるのは
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1-1 プロローグ

 

 小学校の卒業式。そこには珍しく父の姿もあった。まだ賑やかな校門を抜け、父と母と手をつなぎ帰る。こうして揃って一緒に歩いたのは片手で数えられるくらいだった。


 父は軍に所属する偉い立場の人だったらしい。それ故に家にいることも少なかったけれど、娘の小学校生活最後の晴れ舞台は見逃せないと、無理やり時間を作り軍服のまま来て号泣していた。


「ねーねー、昔もさー卒業式ってしてたのかなー?」

「んー?お父さんとお母さんの子どもの頃もちゃんとあったわよ」

「なんだか、懐かしいなぁ」


 そう言って笑う母の穏やかな笑顔と父の優しい声は今でも夢に見る。


「うんうん、違うよ!もっと昔、人がまだ地球?って別の星に住んでたってころ!」


 うーん、きっとしてたんじゃないかなーと父と母は目を細めて笑っていた。やがて、いつも友達と遊んでいる公園が見えてくる。帰ったら荷物を置いてまた友人たちと集合してあそぶ予定だった。夜は3人で、母の作るご馳走を食べる。なんとも心が躍るスケジュール。幸せだった。


 突如サイレンが街に鳴り響いた。

 その聞き慣れない不気味な音に身体が恐怖で硬直した。父と母が私の手をぎゅっと握り、剣呑な表情でどんよりとした曇り空を見た。


 見慣れぬ飛行機が空を通過し、そして、爆発が起こった。気付けば街は燃えて、空は赤黒くまるで地獄のようだった。思い出の公園の遊具はひしゃげ、家々は瓦礫に。私は何度も転けそうになりながらも、父と母に手を引かれ走っていた。


 家があった場所に着いた頃には、あちこちで戦闘の音が聞こえ、その激しさを増していた。家だった瓦礫の近くに見覚えのある屋根のない緑色のトラックが止まっている。


「ベルト隊長!ご無事で!」

「何が起こった!」

「ユーラルシアです!ユーラルシアの連中が!くそっ民間人まで巻き込みやがって!」


 トラックに乗っていたジメリアの兵士は父を、見つけるとホッとしたように少し表情を緩め状況を伝えていた。父は険しい顔で母に何かを言うとハグをすると、私のそばに来て頬にキスをした。


「リンファ、星が降った日に逃げ込んだシェルター、あそこにお母さんと逃げるんだ、いいね」


 愛してる。優しくも悲しい目だった。

 父とはそれっきり会っていない。


 暫く私は母に手を引かれ走っていた。もっと幼い頃に小さな隕石が遠くに落ちた時もこうして手を引かれて走った。先導していた父の背中は今はない。


 母の顔は見えなかったけれど泣いているようで、手を引く娘に気を向ける余裕もなかったのだろう。遂に私は母の歩幅についていけずに繋いだ手が外れた拍子にそのまま転んだ。地面に散らばるガラスの破片が片足に刺さり痛みでうまく立てない。母は振り返るとハッとした表情で私に駆け寄ると、急いで私を起こし、崩れて降ってきた瓦礫から私を庇った。


 コンクリートの塊の下から赤い液体が流れ出ていた。私は頭が真っ白になり泣くことも出来ず、父の言葉に従ってシェルターへと走った。何かの間違いだ、これは悪い夢だ。ただ、そう思いたかった。


 足を引きずり血を流しながらも、シェルターの近くまで近づいていた。最後の坂道を見上げると、登りきった先には見知った友達が立っていて、私を見つけると少し安心したようにおーい!と手を振って急かしていた。まだ見えないシェルターの方へと姿を消した友達に追いつきたくて、いつの間にか溢れていた涙を拭う。私は最後の力を振り絞り坂道を一歩踏み出し、シェルターのある方から響く爆発音を聞いた。


 やっとのことでたどり着いた私の眼前に広がっていたのは、燃えさかり黒い煙が噴き出すシェルターの入り口と、横たわる友達だったもの、そして、それをしたであろう、TCG(人型汎用戦術兵器)と呼ばれる鉄の巨人の姿だった。


 ユーラルシアのTCGは力なく膝から崩れ落ち絶望した私を一瞥すると何処かへと去っていった。その機体の肩に描かれた蝶のマークは未だに鮮明に覚えている。


「着席」


いつか戦場であの機体と相対することはあるのだろうか。ん、周りがなんだかさわが、、、


「朱、朱 凛風。どうかしたのか」「リンファ」


 呼ばれてハッと我に返る。隣に座る青年に袖を引っ張られ同期たちよりも一拍遅れて座り、背中に同期たちの怪訝な視線を感じ、汗がドッとでて顔が熱くなる。卒業式だからと昔のことに意識を持っていかれていた。恥ずかしすぎる。檀上の男がわざとらしく咳払いして司会進行を再開する。


「大丈夫か?顔色がわるいぞ」

「大丈夫、ボーッとしてただけ」


 隣に座る青年、マークに心配されながらも、士官学校の卒業式はつつがなく進んでいった。


 下唇を少し噛みながらなんとか、ポーカーフェイスで乗り切ったことを、誰かに褒めて欲しい気分だ。


「それは、ポーカーフェイスじゃないでしょ」


式の後、合流した友人に殴りかかってマークに止められた。解せない。

 





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