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五常昴

 僕は何処にいるの? ああ、ここか。良かった。良かった。俺の名前は五常昴。多分きっと恐らく。ああ、本当に俺の名前か ? ……いや、俺の名前だ。光が僕を昴君と呼んでくれるのなら、僕の名前は五常昴だ。光は、僕の恋人だ。俺は立花光だけを心から愛して、僕は立花光だけを信頼する。それ以外の信頼関係はきっと、今だけだろう。だから彼女の隣にだけ、俺は生きることを許される。僕は悪魔だ。僕は人と共存出来ない悪魔だ。だけど彼女は、俺を人間だと言ってくれた。愛してくれた! ……何度でも思うんだ。僕は、彼女の隣にいても良いのだろうか。彼女は僕を受け入れてくれる。そして抱擁をしてくれる。彼女の温かみは心が安らいで、そして救われた気持ちになる。……ああ、でも、嫌だ。彼女に触れる度に、彼女の一番高潔で清浄な部分が穢れていってしまう。だから、もう、触れたくない。嫌いなんじゃない。僕は彼女を誰よりも愛しているし、僕の行動は全て彼女の為だ。愛してくれなくても良い。僕は永遠に彼女を愛したい。……だから、ずっと、ずっと思うんだ。……彼女の為に、俺は生きてちゃいけないんだ。鏡に映る僕の姿は、実に醜く醜悪で、そして誰よりも穢れている。隣にいる光の姿が映っている姿は、太陽の様に輝いて見える。だけど僕が触れると、そこだけ淀んでしまう。彼女はそれを見て微笑んでいる。ああ、嫌だ。辞めてくれ。僕に微笑まないでくれ。僕を愛さない方が、きっと彼女の為に良かった。何で僕を愛したんだ? 何で僕を愛してしまったんだ。何で僕を愛して微笑むんだ。ああ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ! 僕を見ないでくれ。僕を見ないでくれ。僕の姿を見ないでくれ。僕はただ、死にたくなかっただけなんだ。僕の生きる理由は光だけだ。でも、だから、幸せになって欲しいんだ。僕の、僕の傍にいないで。僕の隣にいないで。僕に微笑まないで。クスクスと笑うその可愛い笑顔を、向けないで。僕は、僕はそれでも良いんだ。光が生きているだけで良いんだ。もう、嫌なんだ。君が少しずつ穢れていくのが。君が少しずつ僕の所為で壊れていくのが。大丈夫と微笑んでも、僕はそれが嫌なんだ。頼む、頼む、お願いだ。僕の傍にいないで。眩しいんだ。目が潰れてしまう程に、眩しいんだ。傷付けない様に優しく触れて、ただ幸せになりたくて抗って、それで分かった。僕は君の傍にいたら駄目なんだ。僕は幸せになれない。なったらいけない。なったら駄目だった。もう一度それが分かった。だからもう、辞めてくれ。俺の前でその言葉を吐かないでくれ。嫌だ、ああ嫌だ。もう辞めて、辞めて、辞めてくれ! 誰の所為だ! 誰の所為だ誰の所為だ誰の所為だ誰の所為だ誰の所為だ!! ……ああ……誰の所為でも無い。俺の、僕の所為だ。誰の所為でも無い。僕が産まれたから、僕が生きているから、僕がここにいるから、僕がそこにいるから、僕の、僕の所為だ。……ああ、僕が、死んだら、彼女は泣いてしまうだろうか。僕はそれだけの理由で生き続けている。それでも、それでも彼女は友人に恵まれている。同じ科学者で、話が通じる黒恵なら暇はしないだろう。それに黒恵の活動は好奇心を滾らせて楽しいだろう。ミューレンもいる。ミューレンなら光が歩む道をきっと示してくれるだろう。だから、僕はもういらないんだ。僕はもういらない。彼女はもう、僕がいなくても幸せになれる。だからもう、良いんだ。もう良いんだ。愛さないで、恋い焦がれないで、僕を見ないで。僕を見ないで。僕を見ないで。……僕を見ないで、立花光。こんな僕を見ないで、立花光。その星みたいに綺麗で見惚れてしまう瞳で見ないで、立花光。ああ、そうだ。きっとそうだ。ああ、そうだ。きっとそうだ。ああ、そうだ。きっとそうだ。ずっと、祈っている。僕がいなくても、きっと幸せになれて、笑える日常を。あんまりだ。あんまりにも、彼女が救われない。終わらせたくない。終わらせたくない。終わらせたくないよ、最愛の人(たちばなひかり)。ずっと、貴方の中にいさせて。貴方の中にいさせて。ずっと祈っているから、貴方の綺麗な唇から、その綺麗な瞳で僕を見詰めながら、言って。貴方がいなくてももう平気だって。僕がいなくても、笑えて、恋をして、忘れて、もう大丈夫だって、言って。お願い。お願い。お願い、最愛の人(たちばなひかり)。……もう、彼女の前から去ってしまいたい。彼女の瞳をもう見たくない。だからもう、僕に死ねない理由を与えないで。もう疲れてしまった。彼女が僕がいなくても幸せに微笑むことが出来る様にするには、僕が遠く離れて誰からも見付からず、たった一人で息を止めるしか無い。ああ、そうだ! そうすれば僕のことをすっかり忘れて、幸せに生きられる! なんて簡単な……ああ、簡単だ。そうなったら、僕のことをずっと探し続ける。彼女はずっと、僕に囚われ続ける。ああ、もうその言葉を言わないで。言ってしまえば、僕はきっと光の傍にいてしまう。もう、好きにならないで。……ああ、なんて酷いことを言っているのだろう。僕は光だけを見詰め続けるのに、彼女にだけは僕を見ないでなんて。違う! 違う違う違う! 僕は彼女を愛している! 僕は彼女を誰よりも愛している! 彼女は僕を救ってくれた! もう、良いんだ……。その言葉は、僕を縛り付ける。きっと、彼女の心の中はとても綺麗で、僕のことばかり考えているのだろう。僕は彼女の中を知らない、見れない、見たくない。だから、本当にそう思っているのか、分からない。今までの全ては僕の妄想で、彼女は僕を愛していなく誰よりも僕を愛していないのだと……ああ、違う。それは彼女じゃ無い。それは立花光じゃ無い。それは違う。ああ、違う。違うんだ。違う違う違う。……彼女に、会いたくない。その言葉を聞きたくない。彼女と微笑みを、見たくない。ずっと、ずっと、僕を見ないで欲しい。僕じゃ無くて、白神黒恵と、ミューレン・ルミエール・エルディーを、見ていて欲しい。あの綺麗な星の様な瞳で、自分の周りにいる大切な人を見て欲しい。時偶銀色に輝くあの瞳を、ずっと、僕から、背けて欲しい。声を、聞きたくない。




























































「大好きだよ、昴君」

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