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ある春の日(TRPG・SW2.5・キャンペーン後の1シーン)

作者: 山犬。

 本作はTRPG「SW2.5」を1年間キャンペーンとして友人たちとプレイしている「PC 及び NPC」を用いた後日談です。

 PCは魔導都市ユーシズを舞台に1年間の潜入捜査(治安維持のアウトソーシング活動)を依頼されました。それは学園の5年生として在籍し、NPCである学園学生や教員たちと交流しながら、発生するであろう数々の問題を解決することを期待されました。多くのクエスト(クラスメイトたちへの承認、林間学校での魔獣トラブル、昇級試験、生徒会選挙における不正と妨害捜査、夏季休暇における魔剣騒動など)を解決し、いまPCたちは1年間の契約を終えて学園を去る時期になった時「私のPC」がどのような行動をとったかを「夢想した」短編です。


 去る前、親しくなったNPC(国内有力者のお嬢様)をひとり、仲間(阿漕で不安定な冒険者稼業)に「口説き落とそう」と画策するシーンを描きました。

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登場人物:NPC

■委員長:アズマイラ・パストラル:ハイマン:女性:シナリオ開始時17歳。

  生真面目で義理堅いお嬢様。高名なユーシズ学園、自クラスをそれに相応しい場にまとめ上げようと奮闘している。


その父:リシャーダ・パストラル:人間:存命、シナリオ開始時49歳。ユーシズ公国の大臣のひとり。

その母:リリアナ・パストラル:ハイマン:アズマイラが10歳の時に他界(寿命)

その弟:ヴェンゼール・パストラル:3歳年下の14歳、父より教育(政治学や外交術など)受けている最中。

※注1:ハイマンの寿命は平均で30年ほど

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登場人物:PC

■自PC:アウル・ビル:レプラカーン:女性:21歳

  好奇心から森を出た、面白いことを見聞きすることが大好き。レンジャー・シーフ・シューター。

■他PC:シルヴィア・ブラックバーン:ティエンス:女性:26歳

  生家は蛮族に滅ぼされた騎士家。理知的で計算高い軍略家。ファイター・ライダー・ウォーリーダー・プリースト。

※注2:ティエンスの寿命は平均で50年ほど。

■冬の気配が薄れ、春の気配も近い頃、ユーシズに卒業シーズンがやってくる。あと2週間もすれば学園に居る最高学年の学生たちは巣立ちを迎える。留年確定の者も、計画的に留年して研究室に残ろうと画策する者もいるが「まっとうな」学生なれば学園を去ることになるだろう。学園内に教員や助教として務める僅かな精鋭以外、ユージズ国内に籍を置くものはそのまま国に残りはするが、それぞれ所属する国や土地に帰っていく。輝かしい青春時代の軌跡を残し、思い出を胸に帰郷し、それぞれの土地で雄飛するはずだ。そこにはもちろん「親ユーシズ派の有力者」として活躍してほしいというヴァンデルゲン公王陛下の思惑も当然入っているだろう。ひと族の心とは移ろうものなれど、思い出は美化され、その者の宝石をなるのだから。それこそがユーシズの外交戦略の一枝なのだ。


■そんな春待ちの日、「アズマイラ・パストラル」は学友にして冒険者パーティの仲間である「アウル・ビル」からお茶会の招待を受けた。彼女からお茶会のに誘われるのは珍しくはない。森育ちで自然児として育ったアウルは、その育ちに似合わず几帳面な部分があり、月に2度ほど定期的に招待状が届く。最初こそ来訪の誘いは庶民的だったものの、ユーシズに通うようになって数カ月、上流階級の「誘い方」というものを学んでから、蜜蠟付きの封筒にて「パストラル家のアズマイラ嬢へ」と手書きされた招待状を渡すようになった。もちろん招待状の差し出し主は、彼女が(勝手に)女主人としている「シルヴィア」嬢であり、蜜蝋には彼女の生家「ブラックバーン」家の印章が押されている。


 ただアズマイラには、アウルがこの「印章を押す」という行為について、どれほどの重さがあるのかを理解しているのか少し不安に思う時もある。なんだかアウルはシルヴィアの大らかさに悪乗りし「名家ごっこ」を楽しんでいる気配がするのだ。印章の重さ、家名の重さ、そこまでまだアウルは学んでいないのでは、そう思う時がある。それでもこのお茶会の時間はアズマイラにとって決して不快な時間ではない。アズマイラは時間と機会が許される限り、アウルのお茶会の招待を受けていた。そしてもしかしたら、これが最後のお茶会になるかもしれない。もうすぐ私はユーシズの最高学年になり、そして――彼らは学園を去るのだから。


■「ようこそいらしてくださいました。ご招待をお受けいただいたこと、我が主に代わり感謝を述べさせていただきます。本日は天候も良く、テラスにお席をご用意させて頂きました。こちらへ。ご案内いたします」


 いつもなら「やほー。いっらしゃい!」と声をかけるであろうアウルが、丁寧な上流階級の使用人仕草で出迎えてくれた。仕立ての良い給仕服とアウルのシーフとしての技能の相乗効果なのか、とても堂に入った上級使用人仕草だ。これだけの事が出来るなら、いますぐにでも貴族の館の使用人として推薦状を受けることもできるだろう。アウルが「それを望み、それを続ける気があれば」の話だが。


 春枯れの庭でも、いくつかの草花は色を付けた葉と蕾を見せている。優美な春や夏を予感させる丁寧に手を入れられた庭園を眺めることができる白大理石のテラス席に案内された。綺麗に掃き清められた床にはカーペット。優美な椅子と机。真っ白なテーブルクロス。アウルは静かに椅子を引きアズマイラを着席させた。


「大変申し訳ないことながら、我が主はいま急用により別室におります。お茶のご用意と共に、いま一度声をかけて参ります。お目汚しながら、ひとまず春の庭園を愛でて頂きながら、当家のお茶をご賞味ください」


 すぐにワゴンで茶器を運んでくる。上等な陶器のティーカップとティーボットだ。柄も季節に合わせた「春の小鳥たち」で、菓子を乗せた三段のティースタンドは芽吹きの小枝を模している。すぐに膨潤な香りが漂い、琥珀色の液体が真っ白な茶器に注がれた。物音はしない。菓子の種類も彩も心躍らせるものがある。アズマイラは紅茶の色と香りを楽しんだ後、ひとくち口を付けて上品な笑顔をアウルに向ける。紅茶の温度も文句の付けようが無かった。合格だ。


 アウルは優雅に膝を折り、一礼の仕草を済ませたあと、その場でくるりと一回転する。女給服の裾とエプロンがふわわりと花開くように広がり可憐な風情がひと目を引く。応接・客間女給として本当に問題がない。満点だ。


 アズマイラがそう判断をしたところで、唐突にアウルの表情が変わる。先ほどまでの上級使用人に相応しい、品のある微笑みから、天真爛漫な下町の笑顔に変わった。


「これで3回連続の合格点。これなら貴族のお屋敷へ潜入することも出来そうだね」


 可憐な笑顔で物騒なことを言う。だがその大胆さが彼女の冒険者気質を表している。アズマイラにとって、これはこれで頼もしく、見慣れた彼女の顔だ。


「アネゴの不在は、実はちょっと細工があってね。アネゴの愛馬「ブラウ」の蹄鉄を任せている蹄鉄師。彼の業務スケジュールに手を加えたんで、いまアネゴは業務開始が遅れている馬房で蹄鉄交換を見守っているよ。愛馬の蹄鉄は要だから必ず立ち会うのがアネゴの流儀。なのでアネゴはキミとのお茶会の約束に気を向けながら、早く丁寧にきちんと仕事をしろと、彼に発破をかけている頃かなぁ」


 手際よく茶菓子を取り分けながら、本当に物騒なことを言う。アウルにとってシルヴィアは、朋友にして主人的立ち位置のはずだ。だが彼女は「彼女自身が良かれと思えば、仲間の行動や心すら操ろう」とする傾向がある。苦笑しか出ない。これはこれで、彼女自身を信じることが出来るならとても役に立つ使用人となるのだろうか。それはもはや、客間女給ではなく、執事や家令の領域の仕事になる訳なのだが。

 しかし、アウルがシルヴィアを、お茶会の席に遅らせることに何の益があるのだろう?


 不審げな表情を見せるアズマイラを、アウルは真剣な目で見つめてきた。


「アズマイラ、僕は君のことを友達だと思っている。生まれも定かでない僕が、立派な国の立派なお家のひとを、こう思うのは不遜なのかもしれないけれど、正直な気持ちだ。キミは僕にとって信頼できて大切で大事な友達だ」


 硬い声音。真剣な眼差し。


「とても大事なことを君に聞きたくて、僕はキミと二人きりの時間を作った。あと20分。どうか僕に付き合ってほしい」


 アウルは言葉を続ける。


「友達だから余計なお節介であることを許してほしい。キミはこの学園を卒業したらどうするんだい? キミの進路。もっといえば、キミがキミの幸せに至るまでの、その人生の道順を聞きたいんだ」


 なんとも答えにくいことを聞いてきた。



■アズマイラは自身の想いを、今後の事を誠実に答えた。いま自分が持っている選択肢、進路、考えている先、そしていずれ到達したいと願う――母様のように「愛する証」を残し繋いでゆくという――目標について、正直ゆえに少し気恥ずかしい気持ちになる話をした。恥ずかしくはあるが、真剣な相手には真摯に対応する。それは彼女にとって当然の事だった。少し高揚した頬になったアズマイラの、その言葉を一通り聞いたのち、アウルは言った。


「キミがいま手に持っている進路、そして胸に抱いている目標を聞かせてくれて、ありがとう。その輝かしい未来を知って、あえて言わせてもらう。キミが望むなら、キミが僕たちを信頼してくれるなら、キミが僕たちに賭けてくれる気があるのなら、キミの時間を3年間、僕たちに預けてくれないか。そうすれば、僕たちのキミが幸せに至る道について、有益なものを返せると思う」


 アウルは言葉を重ねた。


「ひとつ、前提として僕たちはもうすぐユーシズを出る。それはアネゴの目標である『仇の探索、家名復活、領地の確保』の為ではあるけれど、同時にアネゴはもうひとつの目標を抱いているようだ。それは『グレート・ミッションのクリア』だ。『始まりの剣の探索と、それに触れることによる、永劫の命と使命』を願っている」


 アウルはため息のような大きな深呼吸をした。


「壮大で馬鹿げているような話だ。だがアネゴは真剣だ。これには多くの苦難があるだろう。たぶんアネゴひとりでは為しえない。僕が協力してもまだ無理だ。優秀な、信頼のできる、目標を同じくする魔術師が必要だ。それをキミに求めたい」


「もちろん益は君にもあるはずだ。現在、君には『君が認めた伴侶』がいない。この国で最も優秀な者たちが集まる学園で出会いが無かった以上、その対象を外へ向ける事で出会いの可能性を上げることが出来る。かつキミ自身が国外の見分を広めることはユーシズの益に繋がる。伴侶が国外の者で、国外に伝や身分がある状態なら、それもまた良いことだと思う」


「そして、もし『始まりの剣』探索が成功して、延命の機会が得られるとしたなら、それは君と君の子供たちにとって素晴らしい福音になると思う。5年間。ひとまずそれだけの期間を協力してもらえれば、アネゴと僕はきっと糸口を見出して見せる」


 真剣で真摯にアウルはアズマイラを見つめて言った。その後、少し視線を外し、心もとなそうに繋げた。


「というのは建前だ。本心を伝えるなら、僕は僕が好きな人たちと共にいたい。少しでも長く。キミと出会ったのは嬉しいことだったけど、期間が1年という短いものだった。学園の皆は6年間、共に学ぶのにね。それがちょっと悔しくて、せめてあと5年、いや3年でもいい、キミと同じ時間を過ごしたいと願って、いまフル回転で脳みそを回して理由を生み出した。確かにキミに益が無いわけではない。だけどリスクも当然ある。命の危険はもちろん、キャリアの寄り道になるかもしれない。キミの大事な家族との時間も代価になる。それでも僕は、キミとアネゴとの楽しい時間をあと少しだけ延長したいと願ってしまうんだ」


 不安そうで申し訳なさそうなアウルは、それからいつもの、幼子じみた表情に戻るとアズマイラを見つめなおした。


「答えは今すぐでなくていいよ。僕たちがユーシズを去るまで、あと2週間ばかりあるから、それまでにゆっくり考えて。ご家族ともきちんと相談して回答を決めて。結論は君の卒業後で構わない。僕は1年間、君と連絡が付くようにしておくつもりだ。大事な僕の友達に後悔はさせたくないからね。話を聞いてくれてありがとう」


 そう言うと、アウルは哀愁を帯びた表情で優雅な一礼をもう一度して、テラスを去った。冷えた空気の中、小鳥の鳴き声が聞こえた。



■テラス席から広間を抜け、廊下へ続く扉に手をかけてから、アウルは表情を改めた。後はシルヴィアが来るまでの10分間を彼女がどう使うかに賭けるだけた。似たような提案を、もうすぐシルヴィアがアズマイラに持ち掛けることは分かっていた。たぶんシルヴィアはアウルより、より的確に、より理知的に話を進めるだろう。だがシルヴィアの欠点として、彼女の説得手法は「無機質で打算的」な雰囲気を帯びることが良くある。ならばアウルは同じ内容でも「よりウエットで、より感傷的で、より情感的で」行うべきだと判断し話を伝えたた。シルヴィアの先を打つことで、彼女の冷たさの奥の暖かさも感じてもらえれるよう、匂わせたつもりでもある。


 あとはアズマイラ次第。


 ――そして実は、僕はもうひとつの可能性を頭に抱いている。アズマイラの伴侶問題について。才豊かで情に厚い彼女に相応しい、彼女のお眼鏡にかなう伴侶なんて、そう簡単に見つかるだろうか? 正直この手の「色恋」についてはアウルにとって難しい。色恋に落とすのならまだしも「幸せに至る」色恋となると手に余る。出会いは運命。操作は出来ない。


 だが、かつて神世に伝わる秘薬「ムーンライト・ドローン」が手に入るなら。一時的に男性を女性に変え、女性を男性に変えることが出来ると言われる伝説の薬。もしそれが手に入れば「アズマイラにとって最も相応しい相手」を用意できそうな気がする。彼女が信頼し、頼りにし、年月を経て多くを共有した人物を「一時的にでも」伴侶として用意できるのでは? という気がするのだ。唐突な変化に戸惑う若い男女、その刹那に湖や河川に叩きこんで、濡れた服を焚火で乾かす月のひと夜、そんな冒険を用意してあげたら、あるいは?


 面白いよねー。無垢な童女の笑みをアウルは浮かべた。胸の内は誰にも知らせない。


※この小編はゲーム仲間、特に「キャンペーンとして一緒に卓を囲んだ方々」を想定して描写したものなので、読んでいて説明不足な部分があるのはご容赦願います。

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