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第6話 告白を断る天使さん


 そろそろストックが消えそう。速く書かなきゃ……



「ね、眠い……」

「寝たら死ぬぞ。エナドリ飲むか?」

「悪い……一つ貰う……」

 亜梨紗と共にラーメンを食べた次の日の昼休み。俺は、友人の明人と共に屋上で昼食をとるため、くつろいでいた。

ちなみに補足しておくと、今の季節は十二月。バリバリの冬である。なのになぜ外に出て俺たちは明人と飯を食っているのか。

「ぶえっくしょいっ! ……いやぁ、流石十二月。やっぱ寒いな」

「……なぁ、わざわざロマンを求めて屋上で食う必要あるか?」

「馬鹿だねぇ、屋上で男と食う飯……青春じゃねぇか」

「はぁ……」

 執拗なまでに青春の何たるかを語る明人に、俺は呆れたようなため息を零した。

 ちなみに、明人がこうなってしまったのには理由がある。なんでも、亜梨紗に振られて青春というものが信じられなくなってしまい、なんとか心の平穏を取り戻すために青春アニメを何作品も一気見したらしい。結果、青春に関して一種の悟りを開いた様だ。ただ、今朝登校して顔を合わせるなり唐突に「バンドやろうぜ! 目指すはアリーナ!」と言っていた時は、亜梨紗含めたクラスの全員がドン引きしていたが。

「それで、どうだったんだよ」

「は? なにが?」

 昼食であるコンビニ弁当を食べていたのだが、何の前触れもなく、明人が質問をしてきた。質問の意図が分からず、思わず聞き返してしまった。

「とぼけんなよ~。昨日の天使さんとのお茶会、どうだったんだ? ぶっちゃけ今日眠いのって、天使さんとのお茶会が夜まで続いたからとかじゃないのか?」

「おちゃかい、おちゃかい、おちゃかい……お茶会?」

「ゆ、雄介?」

 果たして、アレをお茶会と言っても良いのだろうか。昨日やった事と言えば、公園で亜梨紗が着替えて、悪魔みたいなラーメンを食べさせられて、たい焼きを食べられて飴をぶち込まれた。どうして俺があんなことになったのか。なぜ俺はあの日あの場所でラーメンを食べてしまったのか……。

「お、おーい? もしもーし、雄介? 戻ってこーい!」

「はっ!?」

 明人に声を掛けられたことで、ようやく正気に戻った。

「は、はぁ、はぁ、はぁ……なんか、変な汗出てきた……」

「お前……天使さんと何かあったのか?」

 明らかに様子のおかしい俺に、明人が怪しげな目を向ける。

「いや、何でもない……なんでもないんだ……」

「……あんまり無理するなよ?」

「おう……」

 心配そうに言葉を掛けてくれる明人。妙に照れくさくなり、誤魔化すように手元の弁当に箸を伸ばした時だった。

「ん? 誰かここに来たみたい」

 ガチャリと、屋上と屋内を繋ぐ唯一の扉が開いた音がした。

「こんなクソ寒い中屋上に来るなんて……どんな頭のネジがぶっ飛んだやつなんだ?」

「明人、ブーメラン」

 本来、学校にある屋上は貯水タンクを設置するために用意されたと聞く。

俺と明人は、音を立てないように屋上からもう一段上の位置……貯水タンクの設置してある場所に上がり、身を隠した。

「誰が来たんだ?」

「……えっ、天使さん!?」

「あ、ホントだ」

 顔を少し出し、上から入ってきた人物を確認した。屋上にやって来たのは……つい昨日、、俺にトラウマを植え付けた張本人こと、天使 亜梨紗だった。

「何やってんだアイツ? お、何か手に持って……」

「お、オイ! あれラブレターじゃねぇか!?」

 屋上にやって来た亜梨紗の手には、白い封筒のようなものが握られていた。遠目からでは分からないが、恐らく明人のいう通りラブレターなのだろう。

「あ、また誰か来た!」

 亜梨紗が現れてからおよそ一分後……再び扉が開き、新たな人物が現れた。

「あれは……ま、まさか山田か!?」

 現れたのは、何の変哲もない男子生徒だった。一応、明人の知っている人物らしく、尋ねてみる。

「知り合い?」

「あ、あぁ……地味で目立たない男山田くん……小学校では、鬼ごっこ開催時に歩いてクラス最速の逃亡者を捕まえたという伝説を持つ男だ……」

「足速いの?」

「いや、影が薄すぎて普通に歩いて捕まえたらしい。そのあまりの陰の薄さから、一部界隈では〝影に潜伏せし男・山田〟と呼ばれている!」

「だ、だせぇ……」

 改めて、山田と呼ばれた生徒を見る。うん、見れば見るほど普通だ。むしろ普通過ぎて印象に全く残らない。

「き、来てくれてありがとうございます、天使さん!」

「ううん、大丈夫だよ山田くん」

 どこか緊張した様子の山田と、いつも通り変わらない様子の亜梨紗。やがて、山田は意を決したように一歩踏み出すと、大きな声で叫んだ。

「ず、ずっと前から好きでした! いつも大体気が付いて貰えない僕に気が付いてくれたのは天使さんだけなんです! 僕と付き合ってください!」

 まさに魂の叫び。心地良いくらい元気な告白だった。

「なぁ、アイツあんな告白して悲しくないのかな?」

「しっ、それを今言うな!」

 明人に怒られた。

「ごめんなさい……山田くんの事は友達だと思ってるけど、それ以上では見れないや……でも、告白はとっても嬉しかったよ! 良かったら、これからも友達でいて欲しいな」

「……っ! わ、分かりました……ありがとうございます」

 山田は、一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐに表情を変え、どこか晴れやかな……すっきりとした表情をしていた。

「おぉ、すげぇ綺麗な振り方だな……あれ、どうした明人?」

「うっ、お、俺っ……前に天使さんに告って振られたことを思い出して……っ!」

「はぁ?」

 嗚咽の混じった涙を流す明人。

「ちなみに聞くけど、どんな風に断られたんだ?」

「東條くんは良い人だし、私なんかよりも良い人はいると思うなって……」

 流石亜梨紗。告白してきた人に対して、それぞれ違う言葉で振っているのだろう。

「あ、他にも誰か来たみたいだぞ?」

「あ、あれはっ!?」

 丁度、山田が屋上を出たところで入れ違いになるかのように別の男子生徒がやって来た。案の条、明人の知る人物だったようだ。

「まさか……レディーキラー佐伯!? 同年代と比べてかなりの童顔……恐ろしい男だ。あいつの顔や仕草に心奪われ、母性本能の赴くままに告白した年上の女は数知れず……」

「異名……だせぇなぁ」

 影に潜伏せし男・山田、レディーキラー佐伯。こんなクソダサい異名を付けられる彼らに、同情してしまう。

「噂では、あいつを取り合って幾千もの女が争ったと聞く……まさか、天使さんまでもが奴を狙って……っ!?」

「いやぁ……それはないんじゃないかなぁ」

 その言葉に、俺は結末を見届けるべく、亜梨紗の方に視線を向けた。

「あ、えっと……あ、天使さん! あの時、僕を助けてくれてありがとうございました!」

「気にしなくても大丈夫だよ? 友達を助けるのは、当たり前の事でしょ? 佐伯くんが無事で良かった」

 佐伯の言葉に笑顔で答える亜梨紗。その言葉がとても嬉しかったのか、佐伯の顔が笑顔になる。そして、その直ぐ後に何か覚悟を決めたような表情をすると……山田同様、一歩踏み出した。

「ぼ、僕! 天使さんのことが好きです! 頼りない男だっていうのは分かってます……でも、天使さんを支えられるような、一人前の男になりたいんです! だから、どうか……僕とつ、付き合ってくれませんか……?」

 勢い余って言ったせいか、徐々に告白の勢いが弱くなる佐伯。

「すげぇや、冴えない男子が自分を助けてくれた女子との出会いをキッカケに変わろうとするドラマが始まってるぞ」

「視聴率四十パーは固いな」

 そんな事を話す俺たち。普通に考えるならこの後、亜梨紗がオーケーを出して青春ドラマが始まるのだろうが、亜梨紗の性格上それはないだろう。

「告白、ありがとね佐伯くん。でも……ごめんなさい。私、今はやりたいことがあるの……学生である間は、その事に専念したいんだ」

「そ、そっか……」

 悔しそうに唇を噛みしめる佐伯。

「でもね、告白はすっごく嬉しかったし、かっこよかったよ? ……もしも私たちが学校を卒業することになって、それでも私のことが好きだったら……その時は、また思いを伝えて欲しいな」

「……っ! うん! うん! 天使さんに相応しい男になれるよう、僕頑張るね!」

 相手の告白を断りつつ、それでいて望む言葉を掛けて円満に告白を終わらせる……なるほど、これが告白お断りのプロというやつか。

「流石天使さんだ……俺が同じ立場だったら『ごめんねもっと良い人いるよ』の繰り返しボットになってるぞ」

「安心しろ、億が一にもそんな状況にはならないから」

「言うんじゃない、泣けてくるだろ」

「涙拭けよ」

「ありがとね、でも僕キミの言葉で傷ついたんだ」

 俺の言葉に涙を浮かべる明人に、ハンカチを渡す。

「おっ、次の男が来たぞ」

「もう次って言ってる時点で察してるんだよなぁ、色々と」

 今度は佐伯と入れ違いになるように別の男が現れた。次に現れたのは、やたらと背の高い大男だった。茶色い髪はオールバックという形で纏められており、見た目と相まってかなりの威圧感を放っていた。そして見るからに分かる……あれは、歴戦の不良であると。

「ま、まさか奴は……三年の漢気番長(あずま)!?」

「うん、もうその通り名だけで大体内容が察せるんよ」

「奴はこの朝桐の番長……空手一段、柔道黒帯、剣道三段……その他各種格闘技の天才! その実力は中学時代からの折り紙付きで、この学校に、スポーツ推薦で入ったとされる超体育系! この朝桐の中で最強は、間違いなくあの男だ!」

「なるほど、ようは強いってことか」

 懇切丁寧に解説をしてくれる明人に感謝しつつ、ふと、俺の心の中で一つの疑問が浮かぶ。

(この三年の番長さんと亜梨紗を戦わせたらどっちが強いんだ?)

「天使亜梨紗……頼む! 俺と付く会ってくれ! あの時の事は今でも覚えてる……完全に天狗になっていた中三の夏……俺は、お前に完膚なきまでに叩きのめされた!」

 どうやら、中学時代に既に決着はついていたらしい。

「これ多分アレだ。俺は強いと思ってた不良中学生が異性の天才に負けて悔しくて、それで自分を認めさせたくて強くなって、でも高校で再開したソイツは武の道を外れて……的なやつ」

「友情努力勝利の少年漫画、学園内での学年別の王道スポーツ系ラブコメ漫画、応募するならどれだ?」

「悩みどころだな」

 明人と再び評価を始める。なぜ亜梨紗の近くではこんな漫画のようなストーリーが溢れているのだろう。アイツ、ヒロインというよりは悪の組織の女幹部かその首領的な立ち位置な気がするのに。

「ごめんなさい、先輩! 私、先輩のことは尊敬してます! 中学校の頃に私が勝てたのは本当に偶然で……でも、先輩はそれをキッカケに空手をドンドン鍛えて、今年は全国大海で優勝したんですよね? 凄いです、本当に尊敬してます! だからこそ、私に構って欲しくないんです……先輩は、こんな所で立ち止まって良い人じゃないんです!」

 まるで、言いたくないことを必死に口から絞り出して言うかのように、亜梨紗は言葉を続ける。というか、絶対アレ演技だろ。

「天使……」

 その言葉を、大人しく受け止める東さん。かなり堪えたのか、声は震えている。だが、その瞳には一切の動揺も揺らぎもなく、真っ直ぐと亜梨紗を見ていた。

「あぁ……そうだな……俺は、こんな所で止まる訳には行かない……俺は、全国程度で満足する男ではないんだ!」

 一歩踏み出し、東先輩は全力でその覚悟を口にする。

「俺は全国を制覇した程度では終わらない……俺は、世界を制覇する! 天使よ、もしも俺が世界の頂点に立った際には……もう一度、俺の言葉を聞いてもらっても良いだろうか?」

「はい! 私、いつまでも待ってます!」

 亜梨紗の返事に満足したのか、東先輩は屋上から離れて行った。

 ちなみに、これは数年後の話なのだが……この言葉をキッカケに、東先輩は数年に一度の世界大会にガチで出場するに至ったとか。

「マジですげぇな、アイツ……」

「あぁ、お互いに傷を与えない、まさに百点満点の振り方だ。アレ? でもあのラブレターはなんだ?」

 影に潜伏せし男山田、レディーキラー佐伯、男気番長東と告白はしていたのだが……誰一人として、ラブレターの話題には触れていない。その証拠に、亜梨紗の手には未だに白いラブレターが握られていた。

「どうせ、次も誰か来るだろ」

「もはや投げやりになってるな」

「あぁ。でも、俺は嬉しいぜ? だって、天使さんに振られた同士がこうして増えていくんだからなぁ!」

「性格悪っ」

 心底、本当に、たまらなく嬉しそうな笑顔を浮かべる明人。

「さぁさぁ、次の同士は誰だぁ?」

「お前、本当に楽しそうだな……」

 楽しそうな明人を横目に、屋上から移動する気配のない亜梨紗に視線を向ける。それから数分もすると、屋上の扉が再び開いた。

「さて、今度は誰……って、あれは……原田?」

 男気ツンデレ番長こと、東先輩と入れ替わるかのように現れたのは、俺や亜梨紗、明人と同じクラスの委員長を務める原田と呼ばれる男子生徒であった。青みがかった紺色の髪が特徴的で、女から見ても男から見てもかなり容姿の整った男である。一応クラス委員長も務めていたため、なんとなく覚えてる。

「やぁ天使さん。そろそろお返事をいただいても良いかな?」

 口角を吊り上げ、まるでお手本通りのような作り笑みを浮かべながら、彼は亜梨紗の手に握られたラブレターに視線を注ぐのだった。


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