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第3話 ラーメンが食べたい天使さん


 日常パート開始です! ラーメンはやっぱり、高校生なら嫌いな人あまりいないですよね!


「ラーメンが食べたいな♪」

 放課後とは、何事にも代えがたい尊いものである。朝から夕時までを勉学に費やした末に得られるその時間は、鳥籠から脱出した小鳥の如き解放感は、生徒たちを教室から一気に解き放つ。

 だからこそ、俺はここで立ち止まる訳にはいかなかった。例え、聞く者を魅了するウィスパーボイスが、邪悪な悪魔の狂言に聞こえたとしてもだ。

「さてと、今日はじいちゃんのお家にお手伝いに行くご予定があってだな」

「貴方のお祖父さん、確か去年亡くなってたでしょ?」

「何で知ってるんですか!?」

 今日はバイトもなく、久しぶりにどこか遊びに行こうと思い、明人たちを誘うために屋上に来ていた。男友達を誘ってゲーセン巡りにでも行こうと思ったのだが……現在、俺は天使改め悪魔さん……もとい、天使 亜梨紗に話しかけられる形で捕まっていた。ちなみに、明人は多分まだ教室だ。

「そんな事は些細なことよ。それより、私はラーメンを食べたいの。それはもう、すっごく」

 周囲に人がいない……それでもここが学校だからか、彼女の表面上の敬語と裏の砕けた口調が交互に出ていた。

「……一応聞くけど、なんでお前屋上にいんの?」

「貴方が教室から屋上へ行くのが見えたから」

 どうやら、教室から俺をずっとストーキングしてきたらしい。

「ごめんね、僕性格の悪い女の子はちょっと」

「塩酸ぶっかけるぞ雄介」

「あら怖い」

 一目惚れしてしまいそうなほどの天使スマイルを浮かべる亜梨紗。……その表情に恐怖を覚える俺は異常なのだろうか?

「……なんで俺なんだよ。他の人を誘ってもいいじゃんか。普段一緒にいるクラス委員長とかさ。なんだっけ、原田って言ったっけ?」

 素の彼女はともかく、普段の彼女の人気は留まることを知らない。当然、亜梨紗の周囲には常に人が集まっており、その周囲にいる人筆頭の男が、原田……だったはず。クラス委員長なので、一応覚えていた。男子にも女子にも人気で、亜梨紗ほどではないにしろ、原田も人気者の一人だ。

「……あの人はダメよ……」

「?」

 何か嫌な思い出でもあったのか、視線を逸らす亜梨紗。深く聞いて怒られるのも嫌だし、詳しくは聞かないでおこう。

「俺、今日は明人たちと遊ぼうと思ってたんだけど」

「私と東條くんたち、どっちが大切な」

「あいつら」

「…………そんなんだからモテないのよ」

 最後まで言い切る前に即答したのが気に食わなかったのか、亜梨紗は虚無の瞳で俺を見てくる。

「……それで、なんでラーメンなんだ? 一人で行けばいいじゃん」

「それはダメよ。今日はいきつけのラーメン店でスタンプ三倍フェアがやってるから」

「スタンプ三倍フェア?」

 俺の疑問に答えるかのように亜梨紗はポケットから白いスマホを取り出すと、俺にその画面を差し出す形で見せてくる。 

「ラーメン一杯を完食したお客様には、本日限定でスタンプを三つプレゼント?」

「しかも、同伴者の分も3倍だそうよ」

 なるほど、俺を使ってスタンプとやらを多く貰うつもりらしい

「さっきも行ったけど、俺の答えはノーだ」

 わざわざこの女と放課後を過ごすつもりはない。

「そう……残念ね……」

 どこか諦めたかのように嘆く亜梨紗。瞳の端にはうっすらと涙が浮かんでおり、彼女の美貌も相まってとても良心が痛む……と思ったが、ふと気が付く。

「俺に泣き落としは通用しないぞ」

「……ちっ」

 その数秒後に、しっかりと舌打ちが聞こえた。この女、やはり嘘泣きだったか……

「はぁ、まぁいいわ。今度こそ諦める。大人しく諦めて一人でラーメンを食べに行くわよ」

「おう、そうしてくれ」

 鞄を持ち、そのまま屋上の出入り口に向かって歩き始める。

「あーあ、きっと私はラーメンを一人で食べに行って、ナンパされたりするのねー! 可哀そうとは思わないのかしら―!」

「すまん、マジでなんとも思わない」

 気のせいだろうか。まだ夏の季節だというのに、周囲の気温が一気に下がった気がする。亜梨紗の方を見ると、瞳孔の開いた目で俺を見ていた。

「きっと暴漢に出会って、酷いことされたりするんだわー!」

「数日前に暴漢をボコボコにした奴が何言ってんだか」

 それだけ言うと亜梨紗はいじけたのか、声を荒げる。

「もう! 少しくらい私を気にしてくれたって良いじゃない!」

「かまってちゃんかよめんどくせぇ!」

 今までは泣き落としで大抵の人を落とせていたのかもしれないが、俺には通用しない。

「人間の心とかないの?」

「お前だけには言われたくねぇよ」

 売り言葉に買い言葉とでも言うのか、お互いに一歩も引かない状態が続いていたその時だった。

「おいっす~、わりぃ、先生の話がクソ長くてさ~」

「あ、明人」

 突然、出入り口の扉が勢い良く開いたかと思うと、ホームルームの終わったであろう東條明人が現れた。

「あ、東條君。こんにちは」

「えぇっ!? なんで雄介と天使が屋上に!?」

 お手本のようなオーバーリアクションで俺と亜梨紗を見て叫ぶ明人。

「はぁ……めんどくせぇタイミングで出てきやがって……」

「おい雄介、ちょっとこっちに来い!」

 こっちに来いと言いつつも、俺の方へ来た明人は俺の肩に手を回し、強制的に連行してくる。

「おいっ! お前天使さん狙ってないって言ってたじゃん、あの言葉は嘘だったのか!?」

「狙ってないから安心しろ。あいつには好意の欠片もないから、お前は存分にアタックすればいいさ」

「……だよ」

「は?」

 ふと、ぼそぼそとした明人の声が聞こえる。それと同時に、肩に回された明人の腕に力が込められる。

「もうすでに告って振られてんだよくそったれえぇぇぇっぇ!!」

「いだだだだだだ!? ば、バカ野野郎! 首! 首ぃ!」

 明人の腕は、俺の首にしっかりと入り込み、的確に頸動脈を絞めていた。

「ちょっ、待っ、ホントに助け……はっ!?」

 ふと、首を絞められる俺を見てニヤニヤと笑みを浮かべている亜梨紗……もとい、悪魔が視界に入る、。その表情は、ずっと狙っていた獲物がようやく隙を見せた! と喜んでいる狩人のようであり……その顔はこうも物語っていた。

「助けてあげても良いけど、代わりに私の言うこと何でも聞けよ?」

と。

「こ、この悪魔がああぁぁぁああ!!」

「誰が悪魔だこの裏切り者おおおぉおぉ!!」

その日の放課後。屋上には俺の絶叫と、好きな女に振られたことで暴走した友の慟哭が響くのであった。





 

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