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第15話 あ、あの姉ちゃんにやられた……

「星さんは信の家のことを何かご存じなのですか?」


 荷馬車は次の村に向かって、街道を南に進んでいる。

 昨日の夜、信のことを話すときの甘鏡さんの話題の避け方がおかしかったし、その前も星さんは私に何か話そうとしていた。もしかして事情を知っているのかもと思ったのだ。


「そっか、玲玲りんりんは知らないんだ。そう言うことなら黙っていた方が面白そうだね」


 やっぱり知っているんだ。


「教えてくださいよ。気になるじゃないですか」


「うーん、でもこれは関係ない俺が言うより、本人から聞いた方がいいんじゃないかな」


 そう言われてしまったら、これ以上聞くことができない。


「わかりました。信にはもうすぐ会えそうだし、その時に聞いてみます」


 前の村で、猫が一時集まっていたという情報を得たのだ。たぶん信が前の村を通ったはずなので、近いうちに合流できるだろう。


「それにしても、本当に猫のうわさが聞けるとは思わなかったよ。実際のところどうなのか早く見てみたいね」


 普通、猫を自由に集めることができるって思わないよね。私だって、あの時クマを手懐けているのを見てなかったら信じられないもん。


「それにしても、この国はどうなっちゃうんだろうね……」


 御者台の星さんは街道沿いの畑を眺めて呟く。このあたりもこれまでのところと同じように、雨が降ったような形跡がない。


「おばばさんは私が朱雀廟にいったら分かるって言うんですけど、何をやったらいいのかさっぱりわからなくて……このまま、雨が降らなかったら……それが私のせいかもしれないって思うと……」


 怖くて言葉が出てこない。


「何があっても玲玲のせいじゃないよ。心配しなくても俺が付いているから大丈夫」


「あ、ありがとうございます」


 星さんが一緒だとなぜ大丈夫なのかわからないけど、そう言ってもらえるだけでもちょっと気が楽になった気がするよ。


「ところでさ、信少年はこの先にいそうだけど、もう一人の大女とはどうやって会うの?」


 大女……そういえば宿で暴れた女の人がいたって果物をくれたおじさんが言っていたけど、たぶん祥さんだよね。


「祥さんは大女ではありませんが、たぶん猫を頼りに来てくれるはずです」


 普段でもあれだけ社交的なんだから、きっとうまく立ち回ってくれると思う。


「ふーん、まあ、面白かったら、俺は誰だっていいけどね」


 馬車は乾燥した大地を静かに進む。









「明日ぐらいでしょうか?」


 宿の部屋で荷解きをしている星さんに尋ねる。

 この村には夕方たどり着いたんだけど、一通り回っても猫が集まっている場所はなかった。ただ、昨日なぜか宿の近くに猫が集まっていたという話を聞けたので、信はいたんだと思う。


「うん、明日向かう村にいるかも。信少年も、玲玲が追いついて来ているのか先に進んでいるのかわからないからもどかしいんじゃないかな」


 追いつくのがわかっていたら待ってればいいけど、先に行っていたら追いかけないといけない。連絡手段がないのがほんとにもどかしい。


「そうだ、玲玲、お湯を貰ってくるから、先に体拭いたら」


 元々この宿屋には大浴場があって、それが人気だったらしいんだけど、雨が降らないから今は使えないんだって。その代わりに一人につき桶一杯分のお湯で辛抱してくれって、受付の時に宿の人が言っていた。水が大事なのは知っているから、これだけでも嬉しい。


「あ、ありがとうございます。星さんは?」


「今はふところが暖かいから、これに行ってくるよ」


 星さんは右手でクイッという仕草をした。お酒か。


「先に行っているから終わったら来て、食事にしよう。あ、ゆっくりでいいからね」


 星さんはお湯の入った桶を運んでくれたあと、慌てて部屋を出て行った。余程飲みたかったみたい。


「それじゃ、お言葉に甘えて、のんびりと体を拭かせてもらおうかな」


 誰かが間違って部屋に入らないように念のため鍵をかける。

 甘鏡さんから貰った包みの中から手ぬぐいを取り出しお湯につけ、着ている衣服を脱いでいく。万一の時にはすぐ逃げられるように一度に脱がずに少しずつ……


「あー、気持ちいい」


 外は乾燥していて、砂埃がすごかった。汗と一緒にそれを拭きとれるだけでも助かる。


「さてと、あとはこの水を庭に持っていって……」


 体全体を拭き、手ぬぐいを洗い終わった水が入った桶を抱え部屋を出る。

 残ったら裏庭の畑に撒いてくれって言っていたからね。少しの水でも無駄にできないよ。


「ありがとうございます。おかげでさっぱりしました」


 裏庭から戻り、空になった桶を受付に返したあと、宿の隣にある酒場まで向かう。

 宿屋から酒場へは表に出なくても専用の通路があり、そこから出入りすることができるらしい。宿屋の人から聞いた廊下を伝い、酒場の裏口の前に立つ。


 ゆっくりしちゃったけど、星さんが待っているはずだ。

 念のため、中の様子をうかがう。

 ん? 思ったよりも静か。人が少ないのかな。

 そっと扉を開け、中を覗くと驚きの光景が広がっていた。


「えっ? な、何があったの?」


 そこはまさに死屍累々たる有様。

 床で伸びてたり、テーブルでうつ伏せになってうめいている人たちがたくさんいたのだ。


「大丈夫ですか? な、何があったんですか?」


 近くで倒れているおじさんに駆け寄り、声を掛ける。


「あ、あの姉ちゃんにやられた……」


 おじさんはガクっと倒れ、


「ち、ちょっと! って、酒臭い!」


 ごぉごぉといびきをかいて寝てしまった。


 周りを見ても似たり寄ったりで、どうもみんな飲み過ぎで倒れているみたい。そんな中で立っているのは星さんと背の高い女性だけだった。


 あれ?


「星さん、大丈夫ですか?」


 カウンターに近づき、女の人と並んでいる星さんに少し大きめな声を掛ける。


「玲玲、ちょっと待ってて、もう少しで決着がつくから」


 真っ赤な顔の星さんはこっちを振り向き、にこやかに笑った。


「え、玲玲?」


 女性は振り向きこちらを向いた。

 やっぱり!


「祥さん!」

「玲玲ちゃん!」


 私と祥さんは抱き合って再会を喜んだ。


「え、もしかしてこの人なの? 大女じゃないじゃん……」


 次の瞬間、星さんは床に倒れ込んでしまった。


「せ、星さん!」


 だから大女じゃないって言ったじゃないですか。

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