表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

前編

『異世界ハーフの家出少女』登場キャラが主役の甘めな恋愛ものです。

他のシリーズよりも明るいです。

 ナダ共和国首都ノウムベリアーノ。

 冒険者ギルドの本部などがある第4区には猟団と呼ばれる小さな冒険者チームの団体事業所が点在していた。


 第4区の端に位置する小規模の事業所、『ミアガラッハ猟団』の事務所。


 私は学校を卒業後、猟団を立ち上げ団長になった。

 現在20歳。もうすぐ母から家督を継ぐことにもなっており多忙な日々を送っている。

 

 それは副団長であるユリウスが最近入った事務員であるジルに朝の挨拶ついでにかけた何気ない一言から始まった。


「やあ、おはようジル君。今日のリップはよく似合っているね」


「ありがとうございます。副団長」


「…………」


 何だろう、ごくありふれた光景なはずだがちょっともやっとした気持ちになった。

 ユリウスは学生時代の同級生で8年生の辺りからの長い付き合いだ。

 

 ※8年生=中学2年生相当。


 彼とは色々あって一度ドラゴンスープレックスで投げ飛ばしたことがあるのだがそれ以来私にアプローチしてくるようになった。

 まあ、要するに惚れられたわけだ。意味が分からない。


 私は男性が苦手で触られるのも怖い。

 彼はバカだが悪い人間というわけでは無いのはわかっていた。

 それでも交際というのはちょっと困るので丁重にお断りをしているのだがあまり理解されていないというか懲りていないというか……

 

 卒業後、私が猟団を立ち上げる際も彼はついて来た、

 結果としては創設メンバーとして、私の右腕として共に働いている。


「やぁ、リリィ君。おはよう」


「…………おはよう」


 彼の顔をじっと睨む。


「ど、どうしたのかな?何か表情が怖い気がするが……」


「は?元々こういう顔なの。何よ、怖い顔で悪かったわね」


 ユリウスはちょっと困った表情になる。


「そ、そうか。そ、それじゃあ僕はミーティングの準備でもしてこようかな」


「ん。お願い。ミーティングルームの暖炉はさっき火をつけたから」


 逃げる様に場を去るユリウスを目で追いながらやはり何処かもやっとしたこの気持ちに戸惑いつつ、仕事の準備に取り掛かる。

 

 その途中、じっと先ほどリップを褒められたジルを見つめてみる。

 リップか……確かに唇の色がいつもより少し明るめだ。

 あいつ、よく見ているわね……

 それにしてもジルの事は褒めて私には普通の挨拶だけか……


「…………いや、別にいいのか」


 今何を考えたのだろう?

 何だか釈然としないまま、私は仕事を始めた。


 もやもやした感情を残したまま、私は午前中の仕事をしていた。

 今日は現場に出ることも無くずっと事務作業。

 書類をチェックし判を押し……

 

 時々、ハンコを押した際にその音で周囲が驚くことがあった。

 むぅ、力の加減を間違えたか……


 どうも今日は変だ。

 寝不足だろうか?

 いや、昨夜は10時にはベッドに入って休んでいた。 

 起床は5時半。いつも通りだ。


 ならば食生活はどうだろう?

 いや、今は実家暮らしだし問題はない。

 朝ごはんもしっかり食べて来たし……


 様々な要素を検証していった結果、ある事が浮かんだ。

 そうか、ジルについてだ。

 今朝のユリウスとジルのやり取りあたりから何か調子が狂っている。


 つまりこれは…………ダメだ、わからない。

 もう少し深く考えてみよう。

 更に考察を続け私はある事に気づいた。

 

□□


 昼休み。

 近くの公園のベンチで食事を取るジルの前に私は立った。


「えっと、団長?」


「ジル、ちょっと話があるのだけれど……隣いい?」


「は、はい……」


 ジルの隣に腰掛け持ってきた弁当を広げる。

 会話が無く、重い雰囲気が漂う。

 さて、どう切り出したものか……というか『話がある』と言ったからにはこちらから切り出さないと。


「あ、あの私何かミスしちゃいました……か?」


 ジルが怯えた小動物の表情でこちらを見ている。

 あら、先を越された。


「そういう事ではないけど……そう言うからにはもしかして何か心当たりでも?」


「いえっ!そんな事は!だけど団長、午前中ずっと不機嫌だったからその……」


「不機嫌?」


 私が不機嫌だった?

 言われてみればもやもやすると同時に少しイライラしていたかもしれない。

 何故だろう、周期的に来るものは少し前に終わっているので体調は悪くない。


「不機嫌に見えたのね。怖がらせてしまったみたいでごめんなさい……それは別として……ええと、あなた、お化粧をしているわよね」


「あっ、はい。も、もしかして匂いとかきつかったですか!?すいません!!」


「えっ、いやそう言うわけでは無いけど……むしろその、いい匂いだとは思うけど」


「えーと……あれですか?その、職場にお化粧をしてくることについて、ですか?」


 困ったな。

 どうもこの年下新人事務員は私を怖がっているようで話が進まない。


「別に業務に支障が出ない範囲ならお化粧は構わないわ。そうじゃなくて、聞きたいのはその……あなたは何でお化粧をしているのかって意味。責めているんじゃなくてその、お化粧って何でするのかなって聞いてみたくて……」


「お化粧する意味……ですか?」


 呆気にとられた表情でジルはこちらを見る。


「え、何だろう?そういうものって思ってたから……うーん、まあそのマナー的なものって意味合いもあるし」


 なるほど。確かに小さい頃から人と会う時は薄化粧を施されていた。

 あれはそういう意味だったのか……


「後はばっちりメイクすることで気分が上がったり……後は綺麗に見せたいとか……うーん、意外と難しいですね」


 綺麗に見せたい?

 それはどういう事だろう。

 誰に見せる?誰に……

 とりあえず状況を俯瞰的に分析してみよう。

 そうか、男性に見せる為か。


「なるほど、綺麗に見せたい……という事はあなたには好いている男性がいるという事ね?」


「え?好きな人?てか私って今、団長と恋バナしてる!?うーん、どうだろう?」


 あれ、いないの?

 不可解ね。


「おかしいわね。そうだと思ったのだけど……その、例えば……えっと……ユリウス……とか」


 いや、何で私は段々と声が小さくなっているのだろうか?

 普通に『あなたってユリウスが好きなの?』って聞けばいいだけなのに……

 一方のジルは最初は首を傾げていたがやがて急に慌てだす。


「ふ、副団長を!?ちょ、ちょーっと待ってください。違う!違います!!」


 この慌て様。やはりそういう事なのね。

 彼女はユリウスの事が好きというわけか。

 やれやれ、これでようやく彼に言い寄られる日々も終わるわけね……

 何だろう。今度は少し胸がチクチクするけど……やっぱりどこか悪いのかな。


「大丈夫。私はあなたを応援するわ。私に出来る事があるなら協力させてもらうし……」


「待って待って!違う!違います!!そんな人様の男を寝取る様な真似はしませんって!私は泥棒猫じゃありません!!」


「人様の男ですって?そっれてまさか、ユリウスには恋人がいるというの!?」


 あの男、彼女が居るのにこの間も私を歌劇に誘ったというの!?

 何てこと、何年も一緒にいて全く気が付かなかった。

 最低すぎる。まさかそんな軟派な男だったとは思わなかった。

 見損なったわあのバカ!!


「恋人って……あれ?えっと………あの、確認ですけど団長と副団長って確かお付き合いされているんですよね?」


 はい?

 今とてつもなく不思議な言葉が聞こえた気がするけれど……もう一度確認してみよう


「えっと……ごめん、誰と誰が?」


「団長と副団長が……」


「その、何をしているって?」


「お付き合いを……」


 なるほど。

 私とユリウスが交際していると……なるほど。

 なるほど…………ん!?


「え、えぇぇぇぇぇぇっ!?違う違う違う違う違う違う違う違う!!!そ、そんなのあるわけが無いでしょう!?えっ、何それ、どういう事なの!?」


 何をどうしたら私とユリウスが付き合っているという話になるのだろう。

 そんなのあり得ない。何という誤解なのよ!!


「違うんですか?私てっきりお二人はお付き合いされているものと」


「違うわよ!あのね、私は男の人が苦手なの。それこそ触られるのも嫌。だから男性の客人はなるべくユリウスに相手してもらっているじゃない」


「いや、団長が男の人を苦手なのは知っているけど……でも、この間ドラゴンスープレックスで副団長を投げてましたよね?がっつり触ってますけど?」


「あ、あれはユリウスがバカな事をしたからよ。何というか昔からの癖なの。最初は大けがさせたけど最近は加減して投げられるようになってるし、あいつ自身受け身が上手になっているし……あいつを投げる際に触れるのは何とも無いっていうか……」


 そんな私を見ていたジルはポンッと手を打つ。


「もしかして団長が不機嫌だったのって……朝に私が副団長からリップを褒められてたからとか、じゃないですか?」


「ちょっ、何で私がそんな事で不機嫌になるのよ。意味が分からない。あいつが誰を口説こうが関係ないし、いや依頼者とか口説かれると面倒な事になるけど、いや、だからそうじゃなくて……」


 ああもう。

 頭がこんがらがってきた。


「大丈夫ですよ。副団長は良い人だけど私はちょっとああいう人は……」


「そ、そうよね。あいつは時々凄く自意識過剰だし、何回交際を断ってもしつこくアプローチかけて来るし、気配りはそこそこ出来るし、背がまあまあ高いから重宝するところもあるし、オムライスとか好きだし……そうよね!!」


「団長、それって半分以上は誉めてますけど………………本当にお二人はお付き合いされてないんですか?」


「断じてない!私に男性の好みがあるとしたら誰かの為に手を伸ばすことを躊躇わず、それでいて暑苦しいわけでは無くて筋肉はそこそこあって背も私より高めで、後は紳士的で、清潔感があって、オムライスとか好きだったり」


「うーん、それって…………ああ、いえ。止めておこう」


 ジルは小さくため息をついた。


「副団長がリップを褒めてくれたのは社交辞令みたいなものですよ。そんな深い意味はないと思います。というかあったら困ります」


「そ、そう……しゃ、社交辞令ね。そ、そうよね、うん……」


「あの、団長はお化粧されないんですか?」


「…………しないわね。正直、昔から興味無かったから……姉の方はおしゃれが好きなんだけど私は……」


 着飾る事に私はあまり意味を見出せない。

 最近では幾分かマシになってきたが昔はともかく自分の事が嫌いだった。

 女性であることを意識すると嫌な記憶が甦ってくるから。

 そんな自分が着飾ったところで何か変わるわけでもない。

 だからなるべく女性的な趣味などは避けて来た。


「それなら……思い切って団長もお化粧されてみてはいかがですか?」


「……それは。清潔感させあれば私は別に」


「勿体ないですよ。団長は素材がいいんだから」


「そ、素材?」


「髪もお肌もきれいだしスタイルも整ってるし」


「うぅ……そ、そんなわけないわ。あなたの方が若いしきれいよ。その、褒めてくれるのは嬉しいけど……」


「団長がお化粧したら、きっと副団長も喜びますよ?」


「な、何で私があいつを、ユリウスを喜ばせないといけないの!ああもう!早めにやっておきたい仕事があるから先に戻るわ!!」


 私は弁当を片付けると足早にその場を立ち去ることにした。

 何で私がユリウスなんかを……


□□□


 その日の晩、私は家族と食事を終えしばらくして姉であるケイトの部屋を訪ねた。

 あれから午後の仕事中ももやもやしたり色々あって、これはもうどうにかして解決するしかないと覚悟をしたからだ。


「んー、こんな時間に珍しいね。どうしたの、リリィ?」


「いや、そのあんたに相談が……」


 すると姉は何かを察したのか微笑み。


「ん。いいよ、入って」


 私を部屋に入れてくれた。


後半は明日更新予定です。

良ければ評価などお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ