05302R.アルティ・ティーダ過去編その2
私は記憶力がいい。
特技を超えて、天から授かった才と言っていいだろう。
忘却とは無縁で、幼き日から学んだ全てをいつでも引き出すことができる。
だから、その過去を、まるで今体感するかのように思い出せた。
六年前の話だ。
村長の屋敷の離れにある小屋。
その地下室には、村に代々伝わる書物が保管されていた。
それを知らず、幼いアルティと私は二人で、その小屋を秘密の遊び場とした。
もちろん、たとえ幼子でも、この暗雲の時代に遊ぶ余裕はない。
だから、偶に。
ほんのちょっと、ときどき集まっただけ――
だというのに、短期間で書物のほとんどを把握してしまった私に、村の長は驚愕していた。
だから、その地下室に私が呼び出されて、長と二人きりとなったとき。
齢一桁の子供を前に、長はどこか怯えた表情を見せた。
しかし、すぐに嘆息し、苦笑し、呆れて、告げてくれもした。
「もう止めはせん。すぐに我が家にある他の書も、この地下書庫に移そう。どれだけ隠しても、どうせおまえの『目』は見えない書まで、勝手に見通すからな」
いわゆる先代の村長さんに当たる方だ。
この時代で珍しく、髪が白くなるまで生きて――けど、ついこの間、とうとう死んじゃった人。
その長さんは、遊び場の本を読みふけった私の本質を見抜いて、ときには叱ってくれた。
それは例えば、「村の未来を考えるならば、いま私たちがやるべきは――」と新しい提案を、未熟な私が口にしたときのこと。
「わかっている。おまえは聡い。『目』からして、他の者とは根本から違う。――違いすぎる。だからこそ、この村にとって、おまえは危うき火種なのだろう」
「…………っ!」
長さんは最初に私の『目』を見出して、最初に敵意を向けてくれた人でもあった。
初めての大人の本気だったと思う。
ただそのとき、私は驚愕し、興奮して、身構えてしまった。
やるしかない――という好戦的すぎる私に、また老いた長さんは苦笑して、呆れて、諭してくれる。
「……燃えさかるような戦意と瞳だ。本来ならば、おまえのような者は即座に村から追い出すべき……なのだが、おまえはアルティと仲が良い。孫娘はおまえを良く慕っている」
優しい人だった。
その優しい長さんが、私が危ういと最初に気付いてくれた人で良かった。
「マリアよ。その瞳は、いかなるときでも隠せ。心を許した相手にしか晒すな。この老い先短い年寄りの助言を、どうか聞き入れて欲しい。できるか?」
「……はい。すみません、長様。この村の全てを知ったかのような気になり、私は少々浮かれていたようです」
「そういう可愛らしいところも、もう見せるな。孫娘がもう一人いるかのように感じるだろう……。いや、そんなことよりもだ、マリア。我が孫娘アルティと共に、どこまでもいつまでも歩んでくれると誓えるか?」
「もちろん、この身命に代えて。この魂に誓えます」
「そうか……。ならば、安心して逝けるな」
最期は孫娘の友人を信じて、一番大切な知恵を託してくれた。
懐かしい。
いつ思い出しても、敬意と親愛に満ち溢れる。
「しかし長様、一つだけ。そう言われましても、『目』を隠してばかりでは力を有効活用できません。私の見出す新たな視点やアイディアは、必ず村の発展に繋がりますのに」
「…………。ならば、おまえの『目』が見出した未来は、アルティにだけ伝えろ」
「つまり、立場の高くなるアルティを代弁者に……もしくは、身代わりをさせるのですか?」
「私が許す。表立つのは、我が孫娘のほうが向いておる。おまえは、それを影で支えるのが最も良い形となるだろう」
「責任だけ、アルティに被せているように聞こえますよ」
「そこで頭にくるおまえならば、そうはならん。……そうならんよう、二人は手を取り合って生きていく。そうだろう?」
「無論、そのつもりですが。そう簡単に上手くいくとは……」
「二人が揃えば、この暗鬱なる時代をも超えられるだろう。というよりも、二人が手を携え合わなければ、未来はない。……そうだろう?」
敬える大人からの二度の確認は、当時の浮かれた私を落ち着かせるのに十分な重みがあった。
私が静かに「はい」とだけ首肯したのを見て、長さんは満足げに続けていく。
「もう終わりは近い。世界そのものが限界を迎えておる。おそらく、この世界を守る神々が、我々を見放して――」
「長様、この世に神などいません。それだけは絶対に良くない考えと道でしょう」
だが、今度は私が釘を刺す番だった。
将来有望な私を前に気が抜けていると忠告したところ、長さんも静かに首肯する。
「そうだな。私もそう思う。では、祈るのは神ではなく、おまえたち二人にしておこうか」
「ええ、お祈りください。必ずや、このマリア・ディストラスが皆を守り、アルティ様を正しい未来まで導いてみせます」
「……任せよう」
そんな誓約があった。
だから、私は村を守る義務がある。
親友アルティを導いて、この暗き世界を生き抜く義務も。
その為に、それから私は地下室でほとんどの時間を過ごしていった。
長さんの遺言通りに、その『目』の成果を全てアルティに届け続けながら――
◆◆◆◆◆
遺言には「一人で未来を決めつけるな」「お互いの判断を仰げ」という意味もあったんだなと、今の私ならわかる。
その教えは、直系の孫であるアルティにも深く浸透している。
おかげで、私たちは手に入れた情報と見出した未来を、二人で相談し合う癖ができていた。
だから、自然と今日も。
例のいいお顔とやらを見に行く前に、慎重を期して、事前の作戦会議は行われた。
地下室にある紙束の積み重なったテーブルを間に挟んで、椅子に腰を落ち着けながら話していく。
「……え? 南から客人が来たのって、そんなに危ないことなの?」
「凄く危ない。私は北の山のモンスターよりも、南の人のほうが怖いって思ってるよ。領主様から人が寄越されたとなると、たぶん大事になる何かが南であったんだろうし」
そう忠告すると、がっかりしたアルティは顎をテーブルの上に乗せて、唸る。
「ええぇ……、そうなんだ。次は人かぁ。せっかく最近、北からのモンスターの襲撃を凌げるようになってきたのにね」
「明かりはモンスターを避けてくれるけど、逆に人を集めるからね」
「めんどっ。商人さんだけが来てくれたらいいのに」
「そうだね。……いや、そうなるようにしよう。それが私たち二人なら、いつかきっとできる」
喋りながら、私はテーブルの紙束を次々と確認していく。
村から少し距離のある家屋の備蓄やらの報告書たちだ。
私は10日ごとに、事細やかな数字を追えるようにしている。さらには人や環境の変化があれば必ず記すルールも制定済みだ(ちなみに長の屋敷周辺の情報や変化は、私が全て暗記することでとても貴重な紙を節約している)。
村の規模を考えれば、細かすぎる情報だ。
小さな単位の備蓄の変動など、記録の利益よりも手間のほうが上回る。長期間の情報の整理など、デメリットとリスクばかりだ。
――だが、『目』があれば話は別だ。
千里眼とまで呼ばれる『目』ならば、短期間で情報を読み取れる。
その読み取ったものを私は忘れず、困ったときにいつでも引き出せる。
結果、頭の中では正確な村の地図ができていて、その人や物の流れを常に把握でき、さらに獣や気候の流れまで予測可能になり始めていて、それはつまり――
「頑張れー、頑張れー。マリアちゃんー」
いつもの「頑張れ」という応援。
私はこれが好きで、聞いているとすぐに口元が緩んでしまう。
「はいはい、頑張りますよ。ということで、南の畑は少し早いけど収穫しようか。あと北の哨戒ラインを二十歩ほど上げておこう」
「収穫はわかるけど……。警備範囲は、たった二十歩の変化だけでいいの?」
「大事なのは、森のモンスターたちにこっちの変化を伝えることだから。だから、哨戒を増員する時間も少しでいいよ」
もはや、私は村周辺の未来や流れ全てが見えているような発言だった。だが、決してそういうわけではない。
私が見えているのは、目の前にある情報の数々。
それと、そこから推測される――『魔の毒』の濃さ。
とある書を通じて、私は『魔の毒』と呼ばれる存在を知った。
ただ、それは目に見えるわけではなく、他人に存在を説明しきれるものでもない。
しかし、炎の明かりを利用すれば、その緩和を確かに促せた。
存在は確認済みの実験済み。
だから、その『魔の毒』の濃淡を軸に、物資の運搬、モンスター襲撃の回避、野盗の返り討ちなどの計画を更新し続けている。
「マリアちゃんがそう言うならそうなんだろうね。これまで、予想外したことないし」
「大きくはね。小さい予測は、結構外すことあるよ」
「そのくらいだと、いつも予め準備してたーとか言って、すぐにフォローしちゃうじゃん。そういうのは、もう全部見えてるって言うんだよ」
「まあ、そう感じて貰えたほうが私は色々やりやすいかな。じゃあ、またアルティが長様たちを含めたみんなに伝えといてね。――また未来が見えましたって、いい感じの予言っぽく」
「了解! ただ、私の口からになるとただの予言じゃなくて、炎神様の預言なんだけどねー」
「……神様の預言って言い方、私は余り好きじゃないかな」
「私は好きだよ。この大地に棲まわれる古き女神様の伝説も含めて、全部!」
「伝承の、古き炎の神か――」
一概には否定できない。
なにせ、その古き神に記された書を通じて、この暗黒の時代に一番大事な『魔の毒』を私は知れたのだから。
ふと目を向けるのは、部屋の隅にある本の山。
よく使うからこそ一番上に、その書はあった。
書のタイトルは〝炎神アルトフェルの教え〟とある。
表紙には、画が描かれていた。
美しい白き翼の生えた女性と、炎を纏いし背の高い女性が向かい合っている画だ。
画付きなど、暗黒時代以前の書としても、かなり贅沢なものだ。
中を読めばわかるが、この炎を纏ったのが炎神アルトフェル。
一万年前には神がいたらしい。
人が神を妄想しただけだろうとは思う。
なにせ、出てくる神はどれも美し過ぎる。
しかも、都合良く私たちの親近感の湧く人型。
理想や欲望を押し付けたとしか思えないほどに、美男美女ばかりが出てきては、大体が裸体を晒している。
所詮、慰めの娯楽だ。と、そう昔の私は決めつけていたが、今の私は少し違う感想を抱いていた。
慰めの妄想にしては、この書から得られる情報は多く、良質過ぎた。
『魔の毒』を初めとして、どれも現実的で、有益過ぎた。
なによりも、文章の端々から――
――嘘偽りを感じなかった。
この私は嘘を見抜くことが得意だ。
あらゆる書の欺瞞に満ちた数的な記述を看破してきたからこそ、この古い伝承に嘘特有の匂いがしないと気付いてしまった。
…………。
つまり、遠い過去。
古代の時代に、神の如き何かがいた可能性がある……?
この表紙の二人。
光と炎を司る女神。
光神様と炎神様。
さらに、その女神の宿敵。
書の途中、挿絵で出てくる青年のレイスと少年のドラゴン。
魂と竜を司る魔神。
魂神様と竜神様。
……ここは魂の魔人と竜の魔人とでも呼ぶべきか?
しかし、古い存在を、今の時代の感性や呼称に合わせるのはナンセンスか。なにせ、時代背景が余りに違う。というか、文化や建造物のレベルが、書の記述と私たちで違いすぎる。
例えば、天まで届く塔なんてものが、この伝承には当然のように出てくる。
誇張表現だろう。素人の私でも不可能だと分かる幻想的建築物だ。
しかし、何かの比喩としてなら、あり得なくはないかもしれない。
正確な記述は〝全ての地平線に在る天国の塔〟なのだが、いずれかの単語が隠語である可能性は捨てきれない。
正直なところ、古代の神の物語はつまらない。
千年二千年と無駄に長く続いては、バカみたいに壮大になっていくだけ。大量生産された神々が低レベルな諍いを繰り返すばかり。
そして、その神々の頂点に立つのは、『世界の主』。その配下には『使徒』なんてのもいたりするのだが……まあ、それはどうでもいい。
しかし厭らしいことに、そのどうでもいい文章の山の中に、私たちの役に立つ知識が少しずつ点在しているのだ。
それらだけは、私は余すことなく知りたい。
知的好奇心とか興味があるからではない。
村の利益の為に。
『魔の毒』のような村や人の為になる知識があるのならば、上手く使ってやりたい。そう考えると、やっぱり――
「やっぱり、神様のお話もそこまで捨てたものじゃないかな?」
「あー、良かった! アルトフェルの神様たちから名を頂いてる『アルトティナ』ちゃんとしては、親友が神様嫌いだとちょっと悲しかったからさー」
さらっとアルティは、本当の名を口にした。
私は慌てて、周囲を見回しながら叫ぶ。
「そ、それは軽々しく口にしちゃ駄目……! その名前を秘密にすることが、『代償』になってるらしいんだから……!」
「もちろん、マリアちゃん以外には言わないよ。二人きりだから言ったんだよ」
「だとしても、どこかで誰かが聞いてるかもしれないんだからさ」
「ごめん。でも、今、マリアちゃんが遠い目してたから……。顔も、ちょっと苦しそうだったし。だから、引き戻したかった。私の傍まで」
じっと私を見つめ返しながら、そう彼女は言い返す。
その真っ直ぐな『目』に、私はたじろぐ。
「こ、こっちこそ、ごめん……。ちょっと余計なこと考えてたかも」
「だよね! で、その余計なことって何!? 二人の間で、隠し事はなしだよ!」
「その……、この古代の本を集めると、私たちの武器になるなって。たぶん、一万年前も空は真っ暗だったのに、そんな時代でも昔の人は文明を凄く繁栄させていた。『取引』『代償』『儀式』みたいな技術がもっと他にあるのなら、その全部を私は手に入れたい」
「そんなことだろうと思った! 一人で危ない橋を渡りそうな顔してたもん!」
はっきりと、ずばずばと容赦なく。
アルティは私の悪いところを突いては、その悪い方へは行かせまいと引き戻す。
「マリア、私たちは一緒だってお爺ちゃんのお葬式で誓ったよね? そういう危ないのは二人で集めて、二人で手に入れよう?」
「うん、誓った。二人に隠し事もなしだって」
「つまり、嘘もなし! じゃないと、なんかいつか良くないことになる気がするよ!」
「私もそう思ってる。だから、嘘は絶対につかない――」
「嘘はつかないけど、今みたいに一人で考え込んだあと、さらっと隠し事するときがあるから注意ねー」
「わ、私の悪いところだね、注意する……。じゃないと、長さんが死んでも死にきれないし」
「そそそ。お爺ちゃんに、死に際に言われたからねー。私たちは一人じゃなくて二人。二人で炎神様の巫女だから、強い。無敵なんだって」
そうだ。
私たち親友二人は、二人だから強い。
一人だけの思索から引き戻され切った私は、アルティに「うん」と大きく頷き返した。
これこそがアルティの一番の力だろう。
こんなに傲慢で捻くれて不遜な私の心を、いつもアルティは優しく導いて、暖めてくれる。
私と同じくらいの記憶力で、私の予言の捏造に付いてきてくれるだけじゃない。
その高次元のコミュニケーション能力で、私と村人たちの間をつなげてくれるだけじゃない。
あの長さんの孫に相応しい教養と振る舞いを持っているだけじゃない。
この『目』だ。
冷たい羽虫のような迷子を導いてくれる、太陽。
そんな輝かしい太陽の『目』が、彼女にはある。
だから、私たちは二人合わせて、伝説の『千里眼』になれた。
「で! でででー、親友のマリア様ー! 私たちが二人でやってやるには、これからどうすればいいの? あの古代魔法の明かりみたいなの凄いから、もっともっと欲しいよねー」
「魔法って言えるほど立派なものじゃないけどね。古代ではよくあった、ただの魔物除けの『お呪い』らしいから」
「おまじない? あれでおまじない程度かぁ。翼人種様の時代って本当に凄いんだね」
「凄いよ。だから、まずあの時代の本がもっと欲しい。……けど、行商人さんたちにはもう余り期待できそうにないのがね」
「私たちの家みたいに、どこかに大切に保管されてるのかなー? 他の村……いや、魔人たちの隠れ里とかを探せばある? あとはぁ――」
「……あとは普通に、貴族のお屋敷の地下とかにあるかもね。例えば、領主様の家の地下とか」
好奇心旺盛なアルティには言わない方が良いとわかっていた。
しかし、私の好奇心も溢れて止まらなくて、つい口にしてしまった。
正直、確信があるのだ。
ないはずがない。ここにあった古書やファニアの成り立ちを考えれば、絶対にある。
ただ、持ち主が持ち主なので欲しいとまでは言えない。
だから、一度だけでいい。
――こっそりと、たった一度。一度読めさえすればいい。
忘れない私は、読めば読むほど強くなれる。
情報が増えれば増えるほど、過去の推測が正確になる。
子供でも知ってる口伝の翼人種が、古い書には存在しない理由を。
代わりに記されていた神とやらの存在が、嘘か真かを。
偉い人が独占している隠された真実ってやつを全て、この『目』で丸裸にしてやれる。
「それじゃあ、二人で貴族様たちに気に入られてみる? 私たちがカワイイーって好かれちゃえば、本の一冊か二冊くらい貸して貰えるんじゃない?」
などという私一人の不法侵入計画をまどろっこしいというように、アルティは名案だと手を打った。
「……そうだね。それができれば楽だけど、私は無理だと思うな」
私は苦笑いを浮かべて、まあ理由も歴史も真実もどうでも良いかと、すぐ冷静になる。
必要なのは過去の役に立つ技術だけだと、現実的な話に戻していく。
「え、即答で無理なの? 私たち、凄く凄くカワイイって噂の女の子なのに?」
「人の少ない村でね。たぶん、外から見た私たちって、下から数えた方が早いよ」
「そそそれじゃあさっ、この私たちの溢れ出る知性で! 気品とかは無理かも知れないけど、知性に富んだ話術で気を惹いちゃおう!」
「たぶん、向こうの方が教養あると思う。……でも、話せるやつだって思われるのは悪くない案だね。向こうから見れば、わざわざ話をしに来たのはいいけれども、こんな辺境にまともに話せるやつなんているのか? って感じだろうから」
「良かった! じゃあ知的な女の子作戦は採用で!」
「成功率は半々……もないと思うから、余り気張らずにいこうか。それと、これで今日のお仕事は終わり」
そう宣言して、私は話しながら動かしていた手を止める。
立ち上がりながら紙を整理しつつ、一秒も無駄にしないように動き出していく。
「終わった? それじゃあ、すぐ行こっ! いいお顔をただ見に行くだけじゃなくて、ちゃんと目標もできたしね!」
「ちなみに私は気に入られる自信ないから、全部アルティに任せる。どうか私の為に頑張って、貸本の約束取り付けてね」
早く会いに行きたいアルティに合わせて、私は歩調を合わせる。
地下室の扉を開いて、薄暗い土の階段を上がっていく。
「そうかな? 知的な女の子作戦なら、マリアのほうが向いてる気がするけど」
「私とアルティの頭の出来は、そう変わらないよ。なら、愛嬌のあるほうが絶対に成功率高い」
「んー」
そこまで深くないので、すぐにお屋敷裏の小屋に戻れる。
遊び場は地下がメインとなっているので、そこは雑然とした物置と化していた。足下に気をつけながらそこからも抜け出して、外まで辿り着く。
ここまで来ると、来客中のお屋敷はすぐそこだ。
私たち二人はアイコンタクトをして、足音と声を小さくした。
お屋敷と周辺は誰よりもよく知っているので、真っ直ぐ向かう。
門限を過ぎて怒られるのを避けるのに、いつも使っていた完璧な侵入ルートを使って、無駄に優れた運動センスで二人こっそりと、まるで泥棒のように――
それが良くなかったのだろう。
「――どうかしたのかな?」
背後から声をかけられる。
これでも私とアルティは経験豊富な狩人。
大人顔負けの天才タッグで、どんなモンスターにも背後を取られたことなんてない――と困惑する瞬間には、私はアルティを庇いながら振り向いていた。
本編マリアも、これに似た流れで調子に乗っていた時期があって、失敗して奴隷になってカナミと出会った流れです。
本編二章の〝「アルティさんの人生には、アルティさんのような人はいませんでした」〟でボスアルティが口ごもっても説得は諦めなかった理由や、『目』を抜いたことで親和が完成した理由とか、少しでも説明できたらなと思っています。
ちなみに、古代の本は悪くないです。ノイ編の魔人化は変化強めで、服が……。
それではまた明日ー。




