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05004R.迷宮作りと経験値システムの始まり


 迷宮とは何か。

 造られたのはいつか。


 始めたのは、異邦人のカナミだった。

 時期は、使徒シスの『世界奉還陣』によって世界が半壊した後。


「というわけで、ここに迷宮を作ろうか。それと攻略チャートも」


 戦争の中心地にあった世界樹の下。

 ぽつんと荒野にそびえ立つ大木の根元で、始祖カナミは使徒レガシィと話していた。


「カナミの兄さん、ダンジョンについては説明されたからもう分かる。しかし、こーりゃくちゃーとというのは?」

「よく聞いてくれた。それは千年後、陽滝がレベル99になるまでの流れを予め書き出しておくことだ」

「ええっと……、つまり予定表のことかい? 向こうでは、ただの計画を変な呼び方をする」

「そう、予定表であり計画でもあり、チャート。ふふっ、いい。いい響きだ、あはははっ」


 千年前の始祖カナミは妹を喪い、長らくやさぐれていた。身体の状態も含めると、壊れていたと言い換えてもいい。

 しかし、『世界奉還陣』の後は少し事情が変わる。


 希望を見出したことで、部分的にだが異世界に呼ばれたての彼に戻れていた。

 それは本来のゲーム好きな少年だった部分カナミ

 稲を刈るように進む王道が好きだった部分カナミ

 そのぬる甘い部分が半端に混じった始祖カナミにとって、やることが決まっているチャートは安心そのものだった。


 チャートがあれば、もう迷わない。

 もう悩まない。

 もう失敗しない。

 そう信じている始祖カナミの前で、レガシィは疑問を投げかける。


「しかし、レベル99も……。正直、限界までレベル上げする必要はあるのかい? そこまでしなくとも、千年待つだけで相川陽滝の浄化は終わるだろうに」

「浄化しただけじゃ駄目なんだ。それだけじゃ足りない。またすぐに毒が身体に溜まって、あの状態に戻ってしまう」

「その度に浄化する……というのは向こうでは対症療法だったかな? それじゃあいけないのかい?」

「いけないという訳じゃない……。けど、僕とティアラが目指してるのは根治だ。そのためには、もうどれだけ『魔の毒』が溜まってもいい器まで、陽滝の健康レベルを――つまり、『素質』と『体力』を引き上げる必要がある」

「……なるほど」


 レガシィは頷いたが、本心では首を振っていた。


 いい予感が全くしない。

 健康レベルや『体力』なんて言っているが、その副産物に『筋力』や『魔力』といった物騒な数値も比例して上がるのだ。


 果たして、あの相川陽滝にそんなものを与えていいものか……というレガシィの不安をカナミは誤解して「素人の下手な治療は控えるべきじゃないか……?」と受け取ってしまい、力強く宣言する。


「レガシィの不安はわかる。……それでも、僕は万全を期したい。まだ全ての敵が消えたわけじゃない。またシスのようなやつが現れるかも知れない限り、準備はしてもし足りない」

「そう……、かもしれない。まだ敵は消えたわけじゃない。まだ俺たちは『終わり』じゃない」

「ああ。もしもの敵に備えて、千年後での選択肢はたくさん用意しないと」


 敵同士となる二人だが、二人とも自分に言い聞かせるように話す。

 その再確認の後、情報共有を続けていく。


「そのたくさんの選択肢のために99の《レベルアップ》が必要……。俺も少しずつ今後の方針がわかってきた気がするな」

「そういうことだ。あと、その明るい未来にはレベルアップが絶対必要……っていうのは何も陽滝だけじゃなくて、いまの僕とレガシィも含んでる話だ」

「……俺は別に、いま健康や魔力で困ってないが?」

「僕が言ってるのは、強さや魔力が上昇する《レベルアップ》だけじゃない。この世界の理解、適応、充足――それらの上昇のことも言っている。その『本当のレベルアップ』だけは、みんなで進めないといけないって最近は思ってる」


 異世界で揉まれた始祖カナミの考えるレベルアップには、多くの意味が含まれていた。

 強さの上昇。

 健康の上昇。

 理解の上昇。

 かつて次元の上昇とも表現していたことを思い出して、レガシィは「くくっ」と頬を緩ませる。


 上昇、上昇、上昇。

 カナミの兄さんはどこまで上がっていくつもりなのだろうか。

 目標や最終地点は視えているのか? その『頂上』に向かって、いつまで突き進む。

 それとも、その『頂上』さえ超えて、どこまでも行くつもりなのだとしたら……。

 楽しみだ……。


 レガシィは始祖カナミの独特な持論を決して否定しない。

 もう二人きりだからこそ、その生来の無口は消えて、より促していく。


「この世界に対する理解……。それと、ルールの把握と適応……。確かに、それらはずっと俺も感じていたことだ」

「本当にね。ルールを読み違えて、僕たちは何度も痛い目に遭った。でも、千年後つぎは違う。むしろ、ルールを活かすんだ。それが僕の千年後つぎの新しい生き方となる」


 ――…………。

 言っていることは立派だが……。

 ただ千年後つぎでも我が元主カナミはルールを読み違えるし、チャートとやらは全くもって計画通りに進まない。

 記憶喪失だけが原因ではないだろう。単純にゲーム的思考が濃すぎたのだ。カナミは千年後つぎを同じゲームの二週目のように考えていた。そして、同じゲームの攻略には絶対の自信を誇っていた。それらの悪癖によって、千年後つぎでもカナミは大変な目に遭ってしまうのだが……。


 しかし、その久しぶりのゲーム的思考で浮かれている始祖カナミを見て、レガシィは「いい。それはいい」と感銘を受けてしまっている。


「それが俺たちの新たな生き方……。今回の失敗を、千年後つぎに活かす為の計画……! 素晴らしいなっ!」


 子供のように興奮するレガシィを前に、始祖カナミも子供のように夢を語る。


「だろう!? ははっ。じゃあ見直しを含めて、色々再確認といこうか」

楽しい計画チャートを作る前の擦り合わせか。頼んだ、カナミの兄さん」


 こうして、無駄に波長が合ってしまった二人は、攻略チャートの書き出しを始めていく。その計画議論のほとんどが、楽しいだけで無駄になることは知らずに。


「まず、千年後つぎでの最終目標が『陽滝の根治』ってことは忘れないようにしよう。その最終目標達成の手段として、『レベル99まで引き上げること』を最優先とする」

「まず、使徒として保証しよう。レベル99になれば、それはもう『世界の主』にさえなれる領域だ。間違いなく、生物の病という枠組みから外れる」

「そのレベル99になる為には条件が二つある。一つ、高純度の魔石で陽滝の『魔の毒』許容量を増幅させること。二つ、『最深部』にある大量の『魔の毒』を注ぎ込んで変換しきること」


 語りながら、始祖カナミはどこかから持ち出した紙束に、立ったままで記録していた。その整理をレガシィも相棒として手伝うが、もちろんこの紙束も作るのが楽しいだけで意味はなさない。


「その二つの条件を達成できればレベル99を超えて、完全無欠なレベル100となるだろう。『理を盗むもの』という領域を超えて、魂は別次元まで進化する」

「……僕は進化よりも昇華って呼びたいかな。今度こそ、ただ単純に上昇させるだけの《レベルアップ》は超えるんだ。きっとそれこそが、本当の意味で花開かせるための道となる」

「本当の意味で、花が開くだって……?」

「そう。だから、『本当の・・・レベルアップ』。ふふっ、ははははっ」


 始祖カナミは嬉しそうに含み笑った。


 ――…………。

 千年前、『理を盗むもの』たちの大戦争の後、カナミは新たな希望を得たことで物腰が柔らかくなった……と言えば聞こえはいい。登場人物なかまの目が少なくなればなるほど素が出る性格なのも知っている。しかし、この悪役が半端に崩れて、罅割れにぬる甘い砂糖水を流し込んでるような姿は、ちょっと元騎士の僕でも気持ち悪いかもしれない……。


 ただ、この色々パンクした状態の始祖カナミを、レガシィは大好きで心酔していた。なので、真似るように笑い出す。始祖カナミの良くない砂糖水ぶぶんだけをスポンジのように吸収しながら、話に乗っていく。


「く、くふ、くふはははっ――。そして、その『本当のレベルアップ』を促す為の道が、『迷宮・・』。魔力と魔石が無限に供給され、変換も可能な便利施設ということか!」

「そういうこと。その『迷宮』を攻略チャート通りに進めれば、モンスターやドロップアイテムを通じて、僕たちは安全に確実に昇華を――」

「あ、待って欲しい、カナミの兄さん」


 恙無く会議は進んでいたが、遮られる。

 レガシィは始祖カナミのゲーム好きに付き合うのが生き甲斐で、心の底から楽しんでいる。けれど無条件で全て賛同するわけでなく、友人としての指摘もする。邪魔それもまた楽しみなのだからと、わくわくしつつ――


「どうした、レガシィ」

「その、昇華はいいんだが、さっきからなんというか……、色々回りくどくないかい? 特に「モンスターやドロップアイテムを通じて」ってところあたりが」

「ん……、ああ。つまり、モンスターやアイテムなんて使わず、最初から魔石そのものを湧かせろってことか? もしくは魔力も直接注入すればいいって?」

「せっかくの魔力に、モンスターやアイテムの表皮ガワを被せるなんて、二度手間だ。全部直接供給したほうが、話は早い」


 始祖カナミは元の世界のゲームに精通しているが、それらの知識をレガシィはまだ完全に身に着けていない。

 だから、齟齬を無くす為にも、失敗を活かす為にも、始祖カナミは自らの趣味と反省を包み隠さず、本音で全て話すことを決める。


「…………。まず単純に、魂と魔力が湧くだけの施設は危険だって思ってる。大事なのは、それらを扱う周囲の技量――いや、経験。これから先は、いわゆる経験値・・・って言葉で揃えたいくらいに、ここはこだわりたい」

「経験の? カナミの兄さんは、経験の伴わない力が気に入らないってことかい?」

「急に魔力を一杯手に入れて、苦労なく強くなるのは、いままでの『理を盗むもの』と何も変わらない。そういう早い話はできるだけ避ける」

「確かに俺も、身心共に鍛えることこそ大事だとは思っている……。思ってはいるが……」

「それと単純に、強さの原液を垂れ流すような真似は、『最深部』の海を地上に浸水させるようなものだ。モンスター・アイテム・経験値という言葉ものを被らせる回りくどい方法はどうしても必要になる」

「…………。本当にかい? それはお兄さんの趣味とかではなく? いまのお兄さんのレベルで考えても、本当に?」

「本当に。こればっかりは趣味じゃない。なにより僕なんて、まだまだだ」

「まだまだ……」


 始祖カナミは苦笑いを浮かべて、レガシィは「何を冗談を」と思った。

 だが、それは同時に朗報でもあった。


 ――こんな化物の姿でも・・・・・・・・・まだまだ・・・・


 嬉しかった。

 まだまだ上がある。ということは、続けられるということ。『終わり』は遠いということ。この世界の『人』たちを、まだまだ俺はたくさん楽しめるのか――


 そんな友人の内心は知らず、始祖カナミは楽しい趣味を交えつつ話し続ける。


「そもそも、そういう手抜きは世界が好まないんだ。「話が早い」は正直、禁句レベルだろうね」

「……例の「楽をせずに手間をかけると世界が応えてくれる」ってやつか」

「そう。この『迷宮』作成は、一種の『代償・・』行為でもあると思ってくれていい」

「回りくどさは『代償』……。確かに俺の経験上でも――いや、経験値的にも心当たりはある。怠惰な魂は歪みだし、すぐ魔力の流れに澱みができた」


 レガシィは始祖カナミの影響を受けて、経験値という単語を使い始めていく。

 ただ、その生来の気性のまま、好奇心で重箱の隅もつつく。


「しかし、その手間や回りくどさが原因で、陽滝の身体が100層に辿り着けなかったら? そうなったら元も子もない」

「作成者の僕たちが100層クリアできないってことはないと思うけれど……。一応、もしものときのために直通ルートも作るつもりだ」

「…………。……そ、それはありなのか? 本気で『迷宮』をやる上で、そういうのは「話が早い」に当たるのでは?」

世界せかいは保険を作ることは嫌ってないんだ。……なんというか、基本的にいい子らしいからね、世界かのじょ。ただ人が頑張ってるのを応援したいだけで、不幸な姿をずっと見たいわけではない……という感じ?」

「感じ? と言われてもな。まだ俺は世界とやらを彼女と呼べるまで理解していない。楽させないくせに不幸にはなって欲しくないっていうのは、色々と矛盾している」

「矛盾してるものこそ好んでいるらしい……。とりあえず、手間をかければかけるほど上手くいく確率が高くなるのは間違いないと、ティアラは言っていた」

「…………」


 反射的にレガシィは「は? 何を馬鹿な」と思った。が、過去に主ノイから世界について説明されていたおかげか、頭ごなしに否定し切れなかった。加えて、今日まで実際に世界を生きてきた記憶が、正しく「経験値」となって理解を促した。


「……そういうものか。ただ保険がありとわかっても、直通ルートのほうはまだピンと来ないな」

「設計者用の裏口みたいなものかな。地上と『最深部』を繋ぐエレベーターだけじゃなくて、迷宮管理のデバッグルームも途中で作りたいとも思ってる。《コネクション》と《ディフォルト》を上手く使えば、階層の裏側みたいな空間は作れるはずだ」

「……まあ、カナミの兄さんは専門家だ。その兄さんができると言うならできるんだろう。次元の門が壊れやすいのが少し不安なくらいか」

「ああ、次元魔法はデリケートだから壊れやすい。だから直通ルートの門は最後の最後に僕の全てをかけて、頑強に仕上げる・・・・

「…………」


 仕上げという言葉は『終わり』を想起させるのでレガシィは嫌いだった。

 当然、保険という言葉も。


 始祖カナミはゲームのリセットのようなやり直しを好むが、レガシィは「『たった一度だけの人生』こそが本当の人生」という美学を持っていた。それはカナミの「『たった一人の運命の人』だけが本当の恋愛」にも似た歪な偏執で――


 『人』というものは、得ては失って、ときに敗北して、苦しみながら生きていくものだ。

 大事なのは、挫けずに立ち上がり、前へ進み続けること。

 楽をすればするほど、魂は醜く腐っていく。


 ――なのに、『たった一度だけの人生』に保険だって? 


 ロマンがない。美学もだ。

 そんなものがあって、本当に『人』としての成長はあるのか?

 『人』の感情や想いは積み重なるか?

 保険があるから、一度くらい失敗してもオーケー? 

 安全確実にみんなの悩みは解決していって『終わり』?


 ――嫌だ。俺は絶対に嫌だ。


 俺だって、『人』みたいに生き抜きたい。

 カナミの兄さんや『理を盗むもの』たちのように、最期の瞬間は輝いていたい。

 だから、どうか俺も、カナミの兄さんたちと一緒に。

 みんなの輪の中で、本当の人生を――


 …………。

 そのレガシィの願いは、数少ない友人である自分を探している樹人せんせい生まれる夢を見る人形あいつの二人の影響が大きい。仲間外れ気味な子供によくある焦燥と願望だろう。


 千年後では「遊び」と呼ばれるほどに、レガシィの願いはまだ軽かった。生まれたての『使徒こども』らしく、どこか破綻していて矛盾もしている。未来でパリンクロンを通じて昇華とやらをするまで、彼が『使徒』から抜け出せることはない――


 なので、いまのレガシィは子供らしく、自然と嘘を吐く。


「わかった。ギリギリだが、直通ルートとやらは理解できた。……それで、カナミの兄さん。次によく知りたいのは、包む表皮がわとなるアイテムやモンスターについてなんだが」


 レガシィは叛意を隠すのが巧妙だった。

 このとき、彼は既に「決して迷宮は仕上げさせない。俺の好きな本当の仕上げ・・・・・・をさせて貰う」と直通ルート破壊を考えていたが、始祖カナミに悟られることはなかった。


「ドロップシステムのほうは単純だよ。千年前の魂を想起・・させて、千年後に過去の遺産として収束・・させていくだけだから」

「収束というのは、魔力を魔石に固めるイメージで良さそうだが……。想起のほうはよく分からないな」

「できれば、この想起って言葉はレガシィにも使って欲しい。『迷宮』という領域は、いつか意志を持って一つの魂の形を得るんだ。だから、想起おもいだすって表現こそ最も相応しくなる」


 未来の裏切りが確定していく中、『迷宮』が本格的に楽しくなってきた始祖カナミの口は回り始めた。


「ただの施設が魂を得る? 血も脳もないのに、生き物のように記憶を持つと?」

「そう。人みたいに『迷宮かれ』は想起おもいだしてくれるんだ。なぜなら空間も物も、人と同じように魂が宿ってるから……、きっと『世界かのじょ』と同じように、いつか『迷宮かれ』にも確かな意志が生まれる」

「…………?」

「そして、反応もしてくれる。考えもしてくれる。ときには贔屓も始めるだろう。過去と重ねて思い出すこともあるはずだ。それらの現象を利用して、迷宮内の魔力で表皮を収束させるのが、ドロップシステム。千年前の魂たちを迷宮で再誕させていく奇跡の名となる……!」

「…………。その奇跡が、想起収束ドロップ……する、という認識でいいかい?」

「ああ!!」


 歯切れが悪くなったレガシィと対称的に、自信満々の始祖カナミは元気よく頷き返した。


 温度差にレガシィは困惑する。

 余りに端折った説明だ。自分本位で荒唐無稽で、ファンタジーを超えてメルヘンチック。


 ただ、それを話す始祖カナミの表情は良かった。興奮で赤くなっている。とにかく希望に満ちた顔で、言葉の端々にロマンを感じた。美学も伝わってくる。

 だから無碍には出来ず、理解しようと努力し続ける。言葉を咀嚼するべく、考えこむ。考えるのは決して嫌いじゃなかった。頑張って、熟考して熟考して熟考して――


「…………」

「…………」

「…………」

「簡単に言うとっ! この前の戦いで呑み込まれた魂たちが、なんか『最深部』に情報として記録されてるっぽいんだ! 魔力もたくさんだから、迷宮の中限定で情報それを頼りに復活可能! という感じかな!?」


 レガシィの「一体何を言ってんだろう」という顔をした沈黙に、始祖カナミは耐えきれなかった。

 始祖の威厳を失い、悪役然とした振る舞いも消えて、つい説明し直してしまう。


「ああ。なるほど、そういうことか。変に難しい言葉が多くて混乱したが、それならわかる気がするな」


 レガシィが格好付けた表現を喜んでくれるので、ここまでカナミは本音を語り過ぎていた。それは勇み足過ぎだったと反省して、包み隠さなすぎるのも良くないなと自粛していく。


「というわけで、まず『迷宮』のアイテムの目録を作ろうか。生き物モンスターより物質のほうが、魂の形がわかりやすい」

「それには大賛成だ。生き物モンスターのほうは、しっかりと想起収束ドロップの経験値とやらを貯めてから、慎重に進めた方がいい」


 それでもレガシィは頑張って、カナミの考えた造語を応用して使い続けてくれる。

 それがカナミは嬉しくて、また少しずつ調子に乗り始めていくことになる。


「あと迷宮にアイテムを収束させるときには箱も付けたいとも思ってる。野ざらしだと劣化するし、単純に目立たせたくて――」

「とりあえず誰かしらに回収して貰わなければ循環できないからな。ただ、難しそうだ。魔力の流れを考えるなら、魂の密度の低いものからそのまま置いて――」


 と非常に順風満帆に、『迷宮』の話し合いは進んでいった。

 アイテムのドロップシステムが構築されていく。


 ただそれは後に、明確な大失敗と分かるシステムとなる。

 迷宮が制作者の事故によって、途中で開発終了になってしまうのもあるが、なにより単純に――まさしく意志を得てしまった迷宮かれが、気に入った探索者の近くでばかりレアアイテムをドロップさせるようになるからだ。


 その子供の無駄遣いのような大盤振る舞いで、ここで作られたアイテムの目録はすぐ枯渇することになる。


 結果、カナミが召喚される千年後の迷宮では、碌にアイテムが落ちていない。

 残ったのは、拾った人を殺し合いに巻き込んで再ドロップし続ける『ルフ・ブリンガー』くらいとなってしまって――


 …………。

 あれはあれで僕の双剣になってくれたからいいか。

 あと、うちの元リーダーが迷宮に滅茶苦茶贔屓されたおかげで、最後の戦いは勝てたようなものだ。


 とにかく二人は、多くの致命的な欠陥もあれば、たまに奇跡のような良い噛み合わせも作りながら、迷宮計画を進めていった。

 その作業は二人にとって順調も順調で、モンスターの目録を取り掛かるまでにそう時間はかからない。

 嫉妬したティアラが二人の計画に介入してくるのも、すぐだった。



 ※コミカライズ『異世界迷宮の最深部を目指そう 8』が、ガルドコミックスさんにて6月25日発売です。

 先んじて、OVERLAPSTOREさんにて限定特装版アクリルスタンド付きセットが5月27日まで予約受け付け中です。

 コミック単品の予約もできますので、よろしくお願いします。



 迷宮は一杯褒めてくれる親であるレガシィの一族が大好き。


 この後は、『理を盗むもの』成仏RTA用の召喚順番チャート作り談義ですが、修正が終わらなかったのでまたいつか。

 今回のお話は、コミカライズ8巻にて丁度パリンクロンとカナミの「千年後、予め計画された人生チャートってなんかむかつくから壊そうぜ」というシーンがあるので、せっかくなので少し急いで投稿してみた感じです。来週のコミカライズパリンクロンの表情と合わせてお楽しみくださいませ。


 そして、一応このときの始祖カナミのノリと口調が、レガシィを通じて千年後パリンクロンに少し影響する設定なのですが……。悪く見せるべき相手はもういないのについ癖で悪く見せてしまう始祖カナミ様、その伝説の存在に憧れと対抗心を同時に持った少年パリンクロン……という設定は、本当に消化し切れないものとなった気がします。


 つまり、今回の伝説の始祖様と使徒様による意味があるようでない意味深なだけの迷宮RTA談義は、少年パリンクロンの脳みそにぶちこんで混乱させる為だけのお話だったということですね(?)。


 改めまして、絶賛暗躍中のパリンクロンが登場するコミカライズ八巻は来月末発売です。よろしくお願いします。





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― 新着の感想 ―
ライナーにボロカスに言われてるのと、パリンクロンに無駄な影響与えてるの本当に草 中二病炸裂させて引かれてるんじゃねーか 相川渦波、チャート破壊されて限界になってからが本番だからチャート破壊されて良かっ…
ゲームの話できる友達いなかったのもあってか浮かれているカナミさん。地の文ことライナーにめちゃくちゃに言われていて面白すぎます。気持ち悪いて。 頂上という誰かさんみたいな執着ワードがすでにあったり。世界…
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