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00310.やっと本当に強い職業選択


 迷宮探索一度目の僕は、無駄に命の危険に怯えて、最大HPを重視し過ぎたと思う。

 出会ったボスの『理を盗むもの』たちの順番もあるが、『剣術』への贔屓も大きかった。

 そう個人的に思っている。


 この二度目は、効率よく安全に成長したい。そう願う僕は、まずラスティアラから希望を聞いていく。

 その急なアンケートに、彼女は悩みながら答える。


「それなら私は……、やっぱり剣かな? もう前みたいに万能な戦い方は無理だろうから、『剣術』に特化したいんだ。あの『地の理を盗むもの』ローウェンみたいに」

「へー……。ラスティアラはローウェンが憧れなんだね」

「初めて、まともに戦っているのを見た『理を盗むもの』というのもあったけど、あれは反則的にかっこよかったからねー」


 すごく気持ちが分かる。

 同じ気持ちだったからこそ、僕は一度目のときに『剣術』のスキルに無意識ながら贔屓をしてしまい、多くの経験値を注ぎ込んでいた。


「それじゃあ、ラスティアラの職業は剣士に変更しようか。と言っても、変更方法は思い込みなんだけどね。どこかで視ているかもしれない『世界かのじょ』に示すように、強く強く願ってみて。『表示』の職業欄が変わったら、すぐ言うから、頑張って」

「了ー解っ! ということで、私は剣士。私は剣士私は剣士私は剣士ぃぃい――」


 と、どこかやばいやつの如く、迷宮の中で自己暗示をかけるラスティアラ。

 僕の経験的に、この職業変更はそう易々とできるものではなく、下手をすれば年単位の時間が必要になる――が、思った通りラスティアラのステータスは、



【ステータス】

 名前:ラスティアラ・フーズヤーズ HP182/182 MP47/47 クラス:剣士

 レベル1

 筋力6.01 体力4.01 技量6.00 速さ3.01 賢さ2.01 魔力3.00 素質2.70



 あっさりと、ものの数分で変わった。

 理由は様々あるが、まず彼女に色々な知識があって、『世界』への理解が深いのが大きい。


 なによりティアラ譲りの『読書』のおかげか、ラスティアラには思い込むセンスがある。

 ……思い込みすぎて、色々やらかしたことは(そのあたりは僕も同罪なので)忘れつつ、そのセンスを褒める。


「流石、ラスティアラ。もしかしたら、一日かかるかもって思ってたけど、一発だったね。これでレベルアップは『筋力』『技量』が中心になると思う。あとの細かい振り分けは、僕が《魔力変換レベルアップ》で調整していくから安心して」


 正直、『変換結果ステータス』の細かな調整は難しい技術だ。

 千年前だと使徒たちは全員自由に使えていたが、いまの僕では少々苦労するだろう。少なくとも迷宮内ではなく、落ち着ける宿屋などでやるのが最適だ。


「んじゃあ私は剣士として楽しむとして……、カナミは何にするの?」

「うーん。僕的には……、錬金術師がいいかな?」

「それは駄目ノウ! なんか一緒にお出かけできない匂いがする職業!」

「二人しかいないのに、いきなり補助職は駄目か。錬金術師は後でお楽しみの上級職としといて……。まずは基本職業を何か一つ極めよっかな。それなら……」


 悩む。

 基本職業という話で思い浮かぶのは、剣士。それから武闘家、弓使い、魔法使い、斥候。あと少し特殊な条件を必要とする騎士や指揮官などか。


 千年前の僕は、弓を中心に使っていた。それと同時に、魔法使い職を――というよりは、呪術開発者だろうか。

 始祖カナミはメインが『弓使い』の『呪術開発者』だったと思う。


 さらに言えば、現代での僕はメインが万能な『探索者』で、あとはサブに『剣士』『魔法使い』『指揮官』あたりにも手を出していたと思う。

 ボーナスポイントは生存力に特化していたので、本当に性格だけでなく職業まで八方美人が極まって、非常に器用貧乏だった。


 自分の向き不向きと趣向を考えて、僕は答えを出す。


「それじゃあ僕は、完全に魔法使い一本で行くよ。いまなら、風魔法中心が良さそうだ。仲間の速度アップと敵の妨害をしていってみる」

「いいね! 私の方向性とも合って、すごくシナジーある!」

「メインが風魔法使いで……。サブは地魔法かな。地魔法なら、あとで錬金術や物作りをしたいときに応用できるからね。スキルのほうも補助を中心に伸ばしていくよ」


 僕はスキルの方向性も、同時に頭の中で構築していく。

 まずは『後衛技術』を取って、そこから工房でも意味がありそうな『鼓舞』や『指揮』に派生していこう。――といういわゆるスキルツリーを思い浮かべて、ラスティアラについても少し考える。


 ラスティアラのスキルツリーの方向性は、宣言通りに『剣術』中心だろう。

 きっとラグネやローウェンと同じく『魔力物質化』を目指して、最後に『感応』への到達が最終目標となるはずだ。


 ……いま思えば、最後にラグネと殺し合ったとき、あの馬鹿の瞳に迷いは一切なく、前髪はローウェンのように揺れていた気がする。

 心身が一致して、世界の流れ・・を完璧に読んでいたのだろう。


 ラスティアラは、間違いなくラグネのことが好きだ。

 あの喪った自らの騎士の道の跡を辿りたいと、ここまでの言動から読み取れる。

 さらには、その主の後追いを従者ラグネが「嬉しいっす! お嬢ー!」と必ず喜ぶことも僕は分かってて、でも――ほぼ完全にラグネ・カイクヲラの真似ができるからこそ、その代弁をあの馬鹿が望んでいないことも分かるので――静かにローウェンだけを話題に出し続けていく。


「ラスティアラのスキルのほうは、ローウェンっぽく伸ばしていいんだね?」

「うん、いいよいいよ。……というか、私がローウェン的と言うなら、カナミはアイド的だよね。やっぱりカナミの中だと、アイドみたいなタイプが憧れなんだね」

「一番気が合ったのはアイドだったからね……。矛盾してるかもしれないけど、アイドは『理を盗むもの』の中で一番弱くて、一番強かったって勝手に思ってる」

「実際、そうだと思うよ。あの人の人生を現した本当の『魔法』、明らかに一番強かったもん。一人だけなんかみんなと方向性違ったし」

「『理を盗むもの』の加入時期と条件が、明らかにアイドだけは他の面々と違ったからかな……? あの『人』贔屓なレガシィのお気に入りの意味が、全部終わってやっと分かった気がするよ」

「レガシィはパリンクロンと似て、未来への布石を打つのが本当に上手かったよね。……よしっ、私たちも負けじと明るい未来を目指して、それぞれ一番強かったと思う『理を盗むもの』に向かって、頑張ろー! いつか私はローウェン・アレイスのように、カナミはアイドのように、なるぞー!!」

「おー! ということで……――魔法《レベルアップ》!」


 その方向性でレベル2になった僕たちは、疑似ローウェンと疑似アイドという目標を掲げて、一緒に手をあげて奮起した。

 そのまま、迷宮を進んでいきつつ、自らのステータスを『表示』で確認しておく。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP55/55 MP57/57 クラス:魔法使い

 レベル2

 筋力1.11 体力1.20 技量3.30 速さ2.30 賢さ4.30 魔力3.30 素質1.12

 状態:

 経験値:620/200



 職業欄は『最深部』到達記念で冒険者になっていたが、しっかりと魔法使いに変更されたのを確認して――そのあと、二回目のモンスターとの遭遇エンカウントをする。

 また同じモンスターのリッパービードルだったが、戦いの流れは同じではない。



【魔法】

 月魔法:ディメンション1.01

 魔 法:物語の世界の僕ウィズ・ラストクライスト1.88



 現在、僕の魔法はこれだけ。

 だが、目に見える『表示』だけが全てではない。


 意識を自らの体内に向けて、巡る血液に集中していく。そこに刻まれた『術式』を感じて、読み取り、起こして、魔力を流し、外界に解き放つ。


「――魔法《ワインド》」


 僕の魔力を変換して発生した風が、前方に現れたリッパービードルに襲い掛かった。

 とはいえ、その攻撃力は皆無に等しい。

 いまの僕にできるのは、風で僅かに敵の体勢を崩す程度の妨害。

 しかし、その一瞬の隙を前衛となっているラスティアラは見逃さない。


 呼吸は完璧に合っている。

 さらに残った《ワインド》で僕は、ラスティアラの背中を押して――その追い風に乗った『天剣ノア』が振り抜かれる。


 敵は一刀両断で圧勝。

 同じ結果だったが、ただ剣で倒しただけではなく、これからの課題が見えるいい戦いだった。


「勝てたけど……、まだ僕は《ワインド》だけしか使えそうにないみたいだね。フィールド系が使いたかったのに、まさかライナーの身体に刻まれてないとは……。あとで魔法屋に買いに行かないと」


 本当は空間を支配する《ワインド・フィールド》も同時に使って、勝利を盤石にしたかった。

 ただ、その補助系魔法の『術式』は身体の血に記されておらず、《ワインド》を応用して似たことを再現してしまった。


 もちろん、無理に使おうと思えば、月魔法の応用ですぐに使えるだろう。

 ただ、あれは向いていないものを無理に使うスキルだ。

 使うとすれば、本当に追い詰められたとき――謂わば、切り札。


 向いていないスキルを使い続ける道の顛末は、痛いほど理解している。

 なので少なくとも、魔力に大きく余裕ができるまでは頼らない方針を考えている。

 いま僕が頼るべきは、ライナーだ。身体を譲ってくれた彼の習得済み魔法が、そのまま僕の習得予定魔法になるのだが――


 思っていた以上に、その数が少ない。

 基本的な攻撃魔法は揃っていても、補助魔法まで手が回っていない。

 その血に刻まれたバリエーションの少なさは、彼の人生の財政状況を物語っているので、一緒に『冒険』していたときに無理矢理でも魔石を奢って呑ませておけば良かったと少しだけ後悔する。


 しかし、悔やんでいても仕方ない。

 この貰ったライナーの身体には、これまで奢れなかった分、たくさんの魔石を呑ませていきたいと思う。


 これは魔石を呑めば解決する問題だ。

 また魔法屋に行って、あの耳長のお姉さんを頼ろう。


 と色々と考え込んでいると、隣のラスティアラが新たな提案をする。


「――あ、カナミ。『持ち物』から適当な剣貸して! 双剣やってみようと思うんだ。前は片手剣だったからね」


 僕が魔法について悩んでいる間、ラスティアラは剣について悩んでいたようだ。

 そして、その飽きっぽい性格のままに、以前と同じ道を良しとせず、『剣術』から『双剣術』に派生するつもりのようだ。


 さらには、別の悩みについても相談される。


「あと思ったんだけどさ。この武器使ってるのって、ちょっと反則じゃない……?」


 この武器とは、僕たちの持つ『天剣ノア』と『クレセントペクトラズリの直剣』のことだろう。

 先ほど僕が思ったことを彼女も感じているらしい。

 それはつまり、「この剣のおかげで、本来ならば苦労する敵の堅さを実感できていない」ということ。


「双剣の上に、両方とも『鉄の剣』を使うってこと? 流石に、武器の縛りプレイまでは……、他に迷宮に挑戦している人たちに失礼じゃない?」

「そうかなあ? 世の中、アンフェアなんて当たり前だし。勝手に気を使って、やりたいことをやらないほうが上から目線な感じしない? それこそ、本当の制限攻略しばりプレイってやつだよ」


 何気ないラスティアラの言葉だった。

 ただ、それは僕にとって深い意味を持っている。


「確かに……。世界は、僕の考え方一つだけじゃない……。なら、ただ自由に生きることの方が、いまは大切か」


 そう言って、好きに生きることすら不器用な自分の弱さと驕りを見直していく。


 もっともっと自由に。

 もっともっと好きに。

 そう自分の中で繰り返しながら、探索を再開させていく。

 そのとき、丁度――


 遠目に人を見つける。

 他の探索者との接触をできるだけ控えている僕たちは、仮面を深く被り直して、離れようとする――直前、ラスティアラが喜びの声をあげる。


「あ、あれはぁ……!」


 すぐに僕も理解する。

 見つけたのは見知らぬ探索者ではなかったからだ。

 遠くの『正道』を歩いているのは、新人探索者二人組。

 僕たちと同じで、人目を避けるために早朝の時間帯を選んだのだろう。


「行こう。ラスティアラ……!」

「うん……!」


 その偶然の出会いを大切にしたかった。

 自由に、好きに、探索をしたかったからこそ。

 だから自然と僕とラスティアラの足は、その新人二人組――いまは先輩に当たるかもしれない二人組に向かっていく。



※宣伝「私の好きなライトノベル2021上」が開催中。異世界迷宮の最深部を目指そう15巻をどうかよろしくお願いします!


◆◆◆◆◆


どこかで書いた気がしますが、カナミの他にコンプリートする性格なのはスノウ(作業ゲーが地味に好き)ですね。

そして一応ですが、二人の新ステータスをペタリと。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP55/55 MP57/57 クラス:魔法使い

 レベル2

 筋力1.11 体力1.20 技量3.30 速さ2.30 賢さ4.30 魔力3.30 素質1.12

 状態:

 経験値:620/200

【ステータス】

 名前:ラスティアラ・フーズヤーズ HP217/217 MP52/52 クラス:剣士

 レベル2

 筋力6.71 体力4.52 技量6.71 速さ3.41 賢さ2.21 魔力3.20 素質2.70



足並揃えてのレベルアップ方針ですね。

続いてせっかく本編終わったので、ステータス上昇率のメモを少し清書して残しておきたいと思います。あくまで、メモです(あとで変更もあるかも!)。


◆◆◆◆◆

カナミ

20 30 050 060 070 100 070 200 計550 素質7.00(旧基本)

5 7 010 020 030 030 030 030 計150 素質1.12(新基本+魔法使い変換)

※ボーナスポイント030は旧基本時にのみ、上手く変換できていない分を任意で振り分けるシステムイメージでした。現在は上手く変換できているということで、省略気味の方向で(正直、計算が複雑になりすぎる要因でもあったので)

ラスティアラ

25 10 090 080 040 060 070 060 計390 素質4.00(旧基本)

35 5 070 050 070 040 020 020 計270 素質2.70(新基本+剣士変換)

◆◆◆◆◆


という感じでしたが、本編終盤はレベルアップ少なかったので、懐かしいメモになりますね。

本当に懐かしいです……。

かつて感想欄で、この上昇率を計算して解いて、正確に把握していた読者さんがいて、7-1章の段階で「あれ? ラスティアラはティアラ吸収して素質も上がったはずなのに、上昇率下がってない? 合計約4.22から合計約2.75くらいまで……」と見抜き、実は「7-1章『告白』でラスティアラはティアラの力を継承してパワーアップした――ように見せかけて、それどころかティアラの要素が綺麗に抜けて(これからラスティアラは死ぬので、ティアラは素質を偽装して逃げた)、数値上ではパワーダウンさせられている」という最終章じゃないと分からない真実まで辿り着きかけていて、驚いた思い出があります。

逆算だけでも凄いのに、その方には何度かステータス計算ミスを直して貰って……、本当に助かりました!

本編終わったので最後にもう一度、ありがとうございましたー!!


裏設定を少し話すと、7-1章の裏でティアラはラグネにも接触(特訓)してて、ラグネ経由でファフナーに乗り移って、7-3章ではファフナーを結構コントロールしてる(城屋上のディスタンスミュートの儀式で、ちょっと魔法が暴走したアレ)のですが、多分後日談でも語られません! 外伝しかない!

それではー!




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