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墓参り


 海の見える墓地だった。


 山の斜面を削って、段々状に平地を作ったようだ。

 中腹からだと、島の並ぶ水平線が見えて、心地いい潮風が流れてくる。

 振り返ると、紅葉の綺麗な山から自然の風が下ってくる。


 晴天の空の下で、二種の匂いを感じられた。

 さらに木の葉の擦れる音とさざ波の音も、二重奏になって耳まで届いてくれる。


 全てを五感で目一杯感じながら、僕は軽く伸びをして、視線を少し落とした。

 市の管理している総合公園かのように、綺麗に整備された平地に墓石がずらりと並んでいた。

 どれも立派で大きく、隅々まで清掃が行き届いている。

 管理人さんが毎日、手を尽くしてくれているのだろう。


 一つの墓石に近づきながら、今日までの色々なものに感謝していく。

 特に感謝しているのは、父さんと母さんだ。昨日の夜、僕が「行きたいかも」と小さく零しただけで、すぐに連絡を取ってくれて、この墓地の場所を聞き出してくれたのだ。


 おかげで、『異世界むこう』に戻る前に、こうして来られた。

 平日の朝なので、とても静かだった。

 お盆といったシーズンでもないので、本当に人っ子一人いない。


 ラスティアラと両親には、席を外して貰っている。

 少し離れた駐車場で待ってくれているので、本当に僕一人だけだ。


 だから、少しだけ急ぐ。

 何十も並んだ墓石の中から選んで、敷石の上に立った。

 もう花は添えて、お線香も寝かせてある。

 刻まれた「水瀬家」という文字の前で、僕は片膝を突いた。


 そして、報告していく。


「……ただいま、湖凪さん」


 手を合わせて、目を瞑り、拝んだ。


 もう相川家の宗教的作法は終わっているので、ここから先は自分の信じる自分のための所作だ。

 だから、拝みながら、むむむと唸った。


 なんとなくだが、いまの台詞は合わない・・・・と思った。

 その違和感のままに、少しだけ言い直す。


「……久しぶり、湖凪さん」


 再会したつもりで、挨拶を投げかけた。


 だが、これもまた違うような気がした。

 そういえば、既に「久しぶり」は百層で交わしている。

 ならば、初めての墓参りに相応しいのは、こうだろうか。


「……さよなら、湖凪さん」


 あの『終譚祭』を終えて、これから僕たちは再出発する。

 その旅路の前に一度、別れを告げるのは大事なことだろう。


 だが、これも、なんだか少し違うと思った。


 どこかから「違いますわよー」と言われた気がしたので、拝んだままの姿勢で悩むこと一分ほど。十分に「ただいま」「久しぶり」「さよなら」の想いを届けたあとに、僕は零す。


「ありがとう……、……こなちゃん」


 正直、その愛称を使うのは恥ずかしかった。

 しかし、これが合った・・・。一番大事なことだと思った。

 これを言いに『元の世界』まで戻ってきたと思えるほどに、その愛称を口にしたとき、僕の身体は軽くなる。


 そして、思い浮かべる。

 もし彼女がここにいたら、なんと答えるか。

 勝手に想像していく。


〝こちらこそ、かなちゃん。いい表情になってくれて、私も嬉しいですわ……〟


 と言って、父さんでさえ呆れた僕の『里帰り』を歓迎してくれる。

 心から、そう信じられる。


 …………。

 分かっている。

 九十層の『試練』で、既に『墓参り』は終わっている。

 その上で、『異世界むこう』だけでなく『元の世界こちら』でも、どうしても僕はやっておきたかったのだ。


 その一心で、目を瞑り拝んだまま、彼女に語りかけ続ける。


「父さんと母さんに会って来たよ。こなちゃんも、よく知ってるよね? あの二人と、昔みたいに戻りたくて、色々と頑張ってみたんだ。でも、駄目だった。もう前みたいには戻れなかった」


 今回の『里帰り』の結果を報告していく。

 ただ、もう俯いてはいない。

 子供の頃、あの葬式後のように嘆いてもいない。

 微笑を浮かべて、前を向いていた。


「でも、それで良かったんだ。やっと僕も、父さんと同じ大人になれたんだって思えた……。……うん。やっと大人になったんだ、僕も」


 離れたところで待っている両親が聞いたら、「どこが大人だ」と全力で否定するだろう。けど、僕は自信をもって、言い切った。


 少なくとも、もう子供の頃のように、人との関係を断絶することはない。

 見たくないものからも、目は逸らさない。


「こなちゃんの家族も、こっそりとだけど見てきたよ。うちの家族に似て、色々問題は抱えてそうだったけど……、大丈夫だと思う。本当にうちの家族と似てるから、みんな強くて……これから先、何も心配ないって思えた」


 ずっと考えないようにしていた水瀬家について、僕は彼女に報告する。


 子供の頃にできなかったことが、いまやっとできている。

 あの葬式の日から、ずっと止まっていたものが動き出すのも感じた。


 ただ分かっていることだが、結局のところ墓参りというのは自分自身の心の整理でしかない。

 百層で確認し終えていることだ。


 ――既に、こなちゃんの魂は、僕たちよりも先へ・・行っている。


 それでも、独りよがりで感謝して、語りかけ続けたかった。

 成長と成功で胸を張りたかった。

 僕は墓前で堂々と、色々な想いを錯綜させつつ、感謝を魔法に変えていく。


「死ぬって悲しいね……。だから、生き抜けるのが嬉しい。――魔法・・物語の世界の僕ウィズ・ラストクライスト》」


 子供の頃からずっと構築していた『魔法』も、その報告に含める。


 このときだけはラスティアラ・フーズヤーズでなく、水瀬湖凪だけを見た。

 全力で『ほんの少し、ささやかな希望に近づける魔法』を再成立させた。

 そのとき、吹き抜ける潮風が少し強まった気がした。


 山から紅葉した木の葉が、舞い落ちてくる。

 海から照り返す陽光も、より輝いて見える。

 墓地が『魔法』で飾られていく。

 心地よさが、ほんの少しだけ増して――


 それだけ。

 他に効果はない。セルドラとファフナーがいない以上、反則的な力で死者が蘇るわけでもなければ、振動こえも返ってこない。


 少ししんみりとした。

 後ろ向きネガティブになりかける。自分を苦しめることで、自分を楽にしたくなる。が、その悪癖は、もうよく知っているから、受け入れつつ越えていく。


「本当にありがとう、こなちゃん。これから先も、君は――

 ずっと僕の中で生き続けるよ。

 僕の歩く道が、こなちゃんの残した道だ。

 僕の全てが、こなちゃんのおかげだから……、どうか見守ってて」


 前向きポジティブな台詞を重ねてみた。

 それは『異世界むこう』で見つけた言葉だったり、『元の世界こちら』で読んだことのある台詞だったり……。とにかく、どれもお気に入りだった。


 ただ、まだ言い足りない。

 もっといい祝福ものがあると思った。


 だから、唱える。

 その『相川渦波の最初の魔法』を、自信をもって――


「――『この先に、希望が欲しい』『いつかは、希望が見つかる』――」


 ずっと、そう願っていた二節。

 いまならば、三節目に繋げられる。



「――『手に入れたよ。こなちゃん』」



 いま、やっと。

 言い足りた気がした。


 どうやら、これが僕は言いたかったようだ。

 合わせていた手を離して、立ち上がる。


 間違いなく、君こそが僕と陽滝の希望だった。その始まりだった。

 そして、君という希望が長い物語を経て、色々なものに繋がっていった。


 その希望の一部を、僕は振り返って確認する。


 希望は繋がって、繋がって、繋がりすぎて、こんなところまで届いている。ありがとう。

 墓地から少し遠くにある駐車場だ。

 大きめのレンタカーの前で、ラスティアラ・フーズヤーズが大声で両親と話しているのが聞こえてくる。


「――お義父様お義母様! 重婚はいいですよー、重婚は! もう私たちは帰っちゃいますが、いつでもクウネルちゃんと組んで挑戦してきてくださいねー!」

「はあ……。そういう風にお嬢さんが堂々と望むから、こっちはりづらいんだ。最低でも忘れた振りをして、隙を作ってくれないか? じゃないと台本すらこっちは書けない」

「進さん、ラスティアラちゃんにそういうのは無理よ。あれだけ『演技』を教えたのに、台本読みが壊滅的だったもの……。こっちがラスティアラちゃんのアドリブに合わせないと」


 馬鹿みたいな話をしていた。

 結構な距離があっても僕の耳まで届くほど、馬鹿みたいに大きい声だった。


 僕は苦笑して、少しだけ涙を浮かべる。


 涙は見せないと誓っていたが、これは笑い泣きなので勘弁して欲しい。

 僕は再度、「本当にありがとう、こなちゃん」と伝えてから、別れを告げる。


「また来るよ。次のお土産話は、もっと長くなるかも。楽しみにしてて」


 そう言ってから、背中を見せた。


 『未練』は一切ない。

 前だけを向いて、新しい道を歩いていく。


 そして、その墓参りの全てを、視線・・も見守っていた。

 いまの『ほんの少しささやかな希望に近づける魔法』と、『世界かれ』の関わりは深い。

 色々と思うところがあったのだろう。だから、こちらでの本当の『魔法』の使用は嫌がっていても、今回だけは許してくれた。――それが一つの・・・・・・証明・・な気がした・・・・・


 その嬉しい後押しもあってか、僕の足どりは軽い。

 すぐに家族の下まで戻っていく。

 馬鹿話をしていた三人にも、胸を張って報告できる。


「終わったよ! 行こう!」


 それは前向きで、明るく、自分でもびっくりするくらいに大きな声だった。


 報告された三人が、少し目を見開いていた。けど、すぐに僕と同じ表情になってから、頷いてくれる。


 それから、僕たちは四人で車に乗り込んで、墓地を後にした。

 海の見える丘でドライブを楽しんだあと、僕の作った《リプレイス・コネクション》まで戻って、両親に見送られながら『異世界むこう』に渡って――


 これで、終わり。


 僕は『里帰り』を、ラスティアラと一緒に大成功で終えたのだった。



来週、投稿がありません。

無期限休止します。

今度こそ完全に不定期です。


ただ、書籍の特典を、色々と確認して頂いた分だけ投稿します(おそらく、2020年分までとなります。過去特典を集めて頂いた読者さんには謝る他ありません。私個人の独断で投稿したいと決めました。本当にすみません)。

IFストーリーの『学院編』は、加筆するかもです。

あと感想の全返信したいなとか、ページの整理とか、カクヨムさんの投稿と自己感想をしっかりしたいなとかもあります。

それらが終わったら、適当な新作をするかもです。

何かありましたら活動報告か外伝に適当な話を追加してあとがきで報告したりするかもで……とにかく、それではではー! また会う日までー!


どうか、ここまで読んでくれた読者さんたちが楽しく生き抜けますように。




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― 新着の感想 ―
[一言] クウネルちゃんは徳川家康みたいですね…。 とにかく感無量です。長い物語が大団円を迎えて終わりというのが異世界転生のテンプレですが、普通は元の世界にも終わらせるべきことがあったはずなんですよ…
[一言] ありがとう! この作品に、渦波たちに逢えて本当によかったよ!
[一言] またカナミやラスティアラ達と会える日を楽しみにしています
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