00300.やっと本当に強くてニューゲーム
マリアの家で寝泊まりする日々が続いていき、そして――
予定通りに、挨拶回りも一段落つき、僕たちの自由な時間は増えた。
だから、自然と。
ラスティアラと僕の間で、二人で軽くお出かけしようという話が持ち上がった。
それは間違いなく、「デート」と呼ばれるものに相当するだろう。
当然ながら僕は、うきうきと期待に胸を膨らませて、その日を待ち望んだ。
恒例のようにしっかりと「ラスティアラと白い砂浜で追いかけっこする光景」や「劇場やカフェで仲睦まじく談笑する光景」などを妄想してから、そのデートの日はやってきて――
「というわけで、カナミ! デートにやって来ました! 迷宮まで!」
その気持ちを、ラスティアラに裏切られる――のを、僕は前向きに楽しんでいく。
「ああっ! やっぱり、デートと言えば迷宮だな! あはははっ!」
正直、迷宮デートに以前ほどの抵抗はない。
迷宮の楽しさは再確認しているし、単純に思い出深い場所でもある。
デートの一案として、そこまで悪いとは思わない。
だから、僕は文句を零すことなく、ラスティアラと早朝に迷宮までやってきていた。
人目につかない内に急いで入り、一層を歩いていく。それと当然のように、すぐ『正道』から離れて、できる限り行ったことのないエリアを目指す。
「あぁ……。迷宮を歩いていると、やっぱり懐かしいね……。それと血も沸き立つ。なんだか、すごくいい気分だ……」
「おっ? おー、嬉しい反応! カナミも一皮剥けて、私みたいな『冒険』愛好家にちょっと近づいたね!」
「いや……、それは少し違うと思うよ。元々僕こそが、一番の『冒険』愛好家だったんだ。隠してたつもりだったけど、その趣味を読み取ったティアラがおまえまで繋げてくれたんだよ」
「お母様が……? へぇ、そういうことだったんだね……。ということはつまり、カナミのほうが『冒険』愛好家として、先輩?」
「先輩だよ。なにせ、僕の迷宮『冒険』の経験値は凄いからね。子供の頃、他ジャンルが苦手で、もうこればっかりで……。しかも、別の新しいゲームに、すぐには手を出さない派で……。同じラストダンジョンに何度も入っては、レベルカンストさせていくのが大好きな冒険者だったんだ!」
「わ、私だって負けないよ! 生まれたときから、もうほんと冒険譚ばっかりだったもん! ハインさんのせいで、読む本がすごい偏ってて……。お気に入りの本は、くたびれるまで何度も読んで……。四六時中、迷宮と『冒険』のことしか考えてなかった!」
と妙な競い合いをしながら、「あははっ」と笑って探索していく僕とラスティアラ。
若干狂気的なカップルだと思う。
久しぶりのまともな迷宮探索(+デート)に、僕たちのテンションは明らかにまともじゃなかった。
だが、許して欲しい。
歩いているだけで、気分が高揚して堪らないのだ。迷宮探索が楽しすぎる。そして、その最大の要因は、やはり「レベル1だから」だろう。
何度か僕は「強くてニューゲーム」という表現を使ってきたが……。いまの僕の気持ちは「お気に入りゲームの続編を購入して、わくわくしながら起動する瞬間」のほうが正しいかもしれない。
間違いなく、この楽しさはレベル1のいましかない。
その最高の時間を、ラスティアラと二人で迎えていて……。
さらに言えば、長い戦いと物語を経て、いま、やっとだから……。
少しはテンションもおかしくなる。
その感覚を僕が口にすると、相方は深く頷いてくれる。
「なにより、レベル1からの『冒険』というのが最高だ。新しい本を開いた感覚になる」
「いましかできない『冒険』だからね! 本を開いたときの匂いが漂ってきてる気がする! ……けど、ちょーっと急がないと!」
ラスティアラは早歩きになって、少しだけ後方を気にした。
その意味が言葉はなくとも共感できる。
「うん、急がないと……。スキル『感応』も、全速力で楽しめ親友……って、教えてくれてる。昨日の夜あたりから、ずっと」
「昨日の夜あたりから、ほんとプレッシャーすごい! 特にマリアちゃんからが、半端なかった!」
そして、出た名前はマリア。
スキル『炯眼』を我が物として、いまや誰よりも頼りになる仲間となった彼女だった。
ただ、だからこそ最近マリアは、僕たちのリーダーとしての自覚が芽生えて――さらに超えて、みんなの世話を焼く母親のような立ち位置にまでなってしまっている。
特にレベル1となった僕とラスティアラに対しては、子供扱いが半端ではない。
母親のように、何度も「お二人とも、体調は大丈夫ですか?」「できるだけみんなと行動してくださいね」「レベル10を超えるまでは、絶対に危険なところへ行かないように」「あと、正体も隠す為に変装も必須です」「カナミさんたちを仕留めて、名を上げようという輩もどこにでもいるはずです」「とにかく、隠居です」「隠居ですよ? 言葉の意味は分かってますよね?」「ゆっくり休むというのは、静かに過ごすということですからね!」「いいですね!?」といった小言と釘刺しを、僕たちは本当にたくさん繰り返され続けた。
そのマリアの変化を、ラスティアラは少しオーバーに冗句を交えながら嘆く。
「う、うぅ……、マリアちゃん。前のカナミみたいな慎重派になっちゃって……。私の大好きな勢いで家を燃やして、恋敵は殺してやるな素敵メンタルマリアちゃんは、どこにいったの……? 悲しいね、カナミ……」
いまとなっては、家を燃やされたのもいい思い出だ。
あの頃のマリアから本当に大きく成長したことを、兄代わりとして僕は感無量に思っている。
とはいえ、それはそれとして、ラスティアラの嘆きも分からなくはない。
「うん。確かに、ちょっと寂しいね……。僕に似てくれてたのは、ちょっと嬉しくもあるけど……」
「できれば、私に似て欲しかった! あんなに夜は一緒に、一杯語り合ったのにぃ!」
「語り合ったから、ラスティアラを反面教師にしたんだと思うけど……。それはそれとして、マリアの言う「変装必須!」は有り難い忠告だと僕は思ってるよ。……という経緯で用意されたのが、こちら。アリバーズさん特性の変装道具です。どうぞ、ラスティアラさん」
「あ、どうも」
そう言って、『持ち物』から取り出されたのは二色の仮面。
意匠盛りだくさんで、千年前を想起させてくれるお手製の黒仮面と白仮面だ。
すぐさま、二人で顔に被ったあと、互いを見合う。
正確には、仮面の出来を確認し合って、僕たちは声を漏らす。
「おぉ。思ったよりも、いい……」
「いいね、カナミ!」
というか、ほとんど始祖時代の僕の仮面――最近だと、ティーダの魔石の仮面のコピー品と言った方がいい代物だ。
なので、仮面はそこそこ目立つ形状をしている。
ただ、そこに歴代の仮面たちに宿っていた『認識阻害』や『隠密』といった魔法効果は無い。
ので純粋なファッションとして、僕と似たセンスのラスティアラは小躍りするほど喜んで、興奮していく。
「ほんといいよ、これ! 本の登場人物になったみたいで!」
「……分かる。仮面ってだけで、かなり特別感あるよね。あと、たくさん想像できるのもいい。正体を隠しているということは、つまり何か重い過去を背負っているってことだから……。そのちょっとした影がキャラの厚みを増して、格好良く感じる……!」
「分かる! あと単純に、その奥にある顔を好きに想像してもいいってのも強みだよね」
「そうだね。僕の場合は火傷跡を隠している形になっているけど……。仮面の奥に見たことのある王家の顔が隠されているパターンも物語だと、あるあるだ」
「王子様やお姫様が身分を隠すパターン! というか、私がまんまそれだけどね!」
「あっ……。そういえばそうか。余り気にしたことなかったけど、おまえって一応フーズヤーズの王族扱いだっけ……?」
「名を冠しちゃってるからね! ということで、私は流浪の謎の仮面剣士――だけど実は、高貴な身分を隠しているって設定で、探索を進めていこう!」
設定というか、ラスティアラの言うとおり「まんまそれ」なのだが、それでも仮面で「高貴な身分を隠している」というシチュエーションを僕たちは全力で楽しみつつ、一層の奥へと向かって行く。
途中、虫型モンスターと遭遇した。
二本の大きな角が特徴で、RPGならば最初に遭遇しそうな王道であり基本形のリッパービードル。かつてはレベル1の僕に『持ち物』を駆使されて、火炙りで倒されたモンスターだ。
いま同じレベル1の僕たちだが、もう避けることも小細工も必要ない。
僕とラスティアラは迷宮を進むままに、真正面から会敵して、そのまま剣を振り抜いていく。
かつて戦ったときは、鉄の片手剣が文字通り「歯が立たず」に弾かれた。
しかし、今回は違う。
すんなりと剣が、リッパービードルの固い甲殻を切り裂き、その中身まで届く。
致命的な二閃によって、あっさりとモンスターは絶命して、魔力の粒子に変わっていく。
落ちた魔石を拾いながら、僕は考える。
いまのあっさりとした勝利は、スキル『剣術』の違いだけでは説明できないだろう。
持っている剣の質が良すぎるのかもしれないと、僕が『クレセントペクトラズリの直剣』を見つめていると、『天剣ノア』を掲げながらラスティアラは勝利ポーズを決める。
「ふっ、討伐……! というか、ここらへんは流石に楽勝だねー。前に入ったときの経験値を消化して、さっさと次の層に行く?」
その指摘に、僕は『表示』する。
【ステータス】
名前:相川渦波 HP50/50 MP15/15 クラス:冒険者
レベル1
筋力1.01 体力1.00 技量5.00 速さ2.00 賢さ4.00 魔力1.00 素質1.12
状態:
経験値:720/100
経験値は、もう十分。
神聖魔法《レベルアップ》を使えば、レベル2になれるだろう。
ただ、すぐに次の層へと行くという提案は承諾しかねる。
もうゲーム趣味は抑えないということで、僕に迷宮に対する新たな欲求が膨らんでいたからだ。
――その代表的な欲求の一つが、コレクター趣味。
『風の理を盗むもの』ティティーと一緒に店で売っている魔石のコンプリートはしたので、次は非売品の迷宮ドロップアイテムを目指したかった。
そのコンプリートに、できるだけ時間をかけて、ラスティアラと一緒に楽しみながら達成したい……。
もちろん、単純に迷宮を隅々まで見て回りたいのもある。
平行して、モンスター全種制覇とマップ制覇もしたいと心の隅の予定表には書かれていた。
しかし、目の前には子供のように眼を輝かせたラスティアラ。
僕と違って、新しいものを次々と味わって、どんどん迷宮の楽しみを堪能したいのだろう。
最近、完全に趣味趣向が重なり合ったかのような感覚はあったが、やはり全てが全て同じというわけにいかない。
一言で言えば、どちらもゲーム好きだけども、最初に選ぶ難易度設定が少し違う。
僕は「イージー」で隅から隅までゆっくりと、ラスティアラは「ハード」で手応えのありそうなところを次々と――といった感じか。
だから、また昔のように、僕はラスティアラの間で方針を摺り合わせていく。
「前の分の経験値が溜まってるからレベルアップはできるけど……。その前に色々と決めておこう、ラスティアラ」
「ん、決める? 何を何を?」
もうラスティアラも方針を摺り合わせるのには慣れているので、その提案に眉を顰めることはない。
「まず決めるのは、僕たちの成長の方針だね。つまり、体内に吸収した『魔の毒』を、どのような『質量を持たない細胞』に変えるか……。簡単に言うと、ラスティアラはどんな才能を伸ばしていきたい?」
「あー、なるほど。才能の方針かー。いまなら、そういうのが出来ちゃうね」
まずはゆっくりと、将来のことを決めていきたい。
僕は一度迷宮をクリアしたことで、この世界の『魔力変換』『変換結果』の仕組みを把握している。というか、自分が作ったシステムなので、裏設定あたりまで完璧に理解している。
なので、『変換結果』には、いわゆる職業補正やボーナスポイントというものがあると知っている。
ステータスの職業欄を決めることで、『魔の毒』の変換の方向性が固まるのだ。
ボーナスポイントというキーワードを意識することで、変換するのに余ってしまった『魔の毒』を自分の足りないと思ったところに足すことも出来る。
その新たな流れを、ここで決定していく。
※宣伝「私の好きなライトノベル2021上」が開催中。異世界迷宮の最深部を目指そう一五巻をどうかよろしくお願いしますー。
タイトルにKanamiのK要りませんね。直しました。
次は火曜日で、設定メモも少し公開していく試験をしていきます。
後日談らしいぶっちゃけたあとがきを目指して。