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05300.ゲーム大会


 ゲームに関する一騒動が起きて、数日後。

 自然と我が家のゲームルールは固まり始めていた。


 そんなときのことだった。

 『元の世界』の手狭な部屋に、みんなが集まってゲーム大会が催される。

 その主催者は僕やラスティアラ――でなく、意外にもマリア。


「――あれからゲームについて、色々調べました。遊ぶのは構いません。しかし、少し方向性を考えましょう。……ということで、今日はゲーム大会を開催します!」


 マリアはゲーム禁止のリスクを『炯眼』で予感して、新しい楽しみを見出して貰う方向を考えてくれていたようだ。

 幼少期の僕の父や母のように、最初からゲームを無駄な遊戯と見下してくれないのは本当に嬉しかった。


 マリアに保護者となって貰えて、元ご主人様の僕は本当に幸運だ――と、よく分からない感想を抱きながら、いま大会を宣言したマリアの手元にあるノートPCを覗き込んでみる。


 そこには、動画投稿サイトなどを鑑賞した痕跡があり……調べるのはいいが、これはこれでかなり知識が偏っていそうで怖く感じる。しかし、彼女の持つ『感応』クラスに便利な『炯眼』を信じて、僕は「やったー! ゲーム大会だー!」と子供のように小躍りしておく。


 するとマリアは教卓前の先生のように、大会の説明をしていく。


「おそらく、レベル上げの伴うRPGが駄目なんです。際限のなさそうなネットゲームが特に危険だったので、そこにラスティアラさんが辿り着く前に調べられて、本当に良かったです。……ということで、今回は中毒性が低く、無茶なプレイ時間になると周囲が止めてくれるパーティーゲームの楽しさを見つけていきましょう」


 確かに、このままだとラスティアラは、全ての王道RPGを終えたあとに、所謂ネトゲ廃人となっていただろう。


 ただ本当に危険そうだと僕が思っているのは、いまも隅っこでスマホを弄っているスノウなのだが……(ちなみに、僕もスノウと同じゲームをフレンドになって遊んでいる。彼女のほうがやりこんでいて、明らかに目に隈ができるレベルで遊んでいるのだが……、身体が頑丈すぎて身体的な変化が起きていないようだ)。


 『炯眼』が発動するのは思考の焦点があった一つだけと確証が得られたところで、しかしきっちりとマリアは一つの真理の答えを出す。


「――とにかく、ゲームというのは、みんなでわいわいやるのが一番で、健康的です」


 その発言に、隅っこのスノウが叱られたかのように一瞬だけ肩を跳ねさせていた。対して、ディアやリーパーは素直に同意していく。


「だなっ。一人でやるのは、余り興が乗らなかったが、みんな一緒なら別だ!」

「それでアタシも呼んでくれたんだねー。ありがとー!」


 とりあえず、揃っているのは六人。

 もっと知り合いを呼んでも良かったが、この手狭な部屋ではこれが限界だ。


 いつか新居探しをと考えているが……。

 こうして、ぎゅうぎゅう詰めの部屋で、肩を並べ合って白熱するのもいい思い出となるだろう。

 ということで思い出作りのゲーム大会は始まっていく。


「ただ、ポピュラーなパーティーゲームって、四人用が多いんですよね。なので、まずは私がお休みするとして……。あと一人のお休みは、ジャンケンして決めますか?」

「いや、マリア。まずは経験者の僕が控えて、みんなに色々と説明していくよ」

「えっ、プレイできなくていいんですか? 私のイメージだと、カナミさんってゲーム好きを超えて、常にゲームをしていないと禁断症状が出る中毒者さんだったんですが……」

「かなり酷いこと言われてる気がするけど……確かに、そのイメージは間違ってないね。ただ、一つだけ勘違いがある」

「まず中毒者イメージを否定して欲しかったんですが。その勘違いというのは、なんでしょうか?」

「ゲーマーってのは、他人がやってるゲームも楽しめるし、なにより『教える』ってことが最高に楽しいんだ。最近、ラスティアラと遊んでて、それが判明した」

「……なるほど。『教える』もゲームをしている判定になる感じなんですかね」

「そんな感じ。正直、誰かと一緒にゲームすることなんて、ずっとなかったからね。みんなが一緒ってだけで、僕にとっては最高に新鮮な体験なんだよ」

「それなら、遠慮なく序盤はカナミさん抜きで進めましょうか。一緒にアドバイザーを、みなさんの後ろでしましょう」

「あとぶっちゃけ、上から目線で教えるのってマジ楽しい。すんごい楽しい」

「その楽しみ方は……、少し分かります。ディアより先んじて教えるのが、ちょっと生きがいになってきてますので」


 最後に、素直な欲求を冗談気味に吐き出し合ってから、ディアが「えぇっ?」と親友の本性を知ったところで、ゲーム大会の準備を終える。


 そして、マリアが用意したゲームを起動していく。

 本当にポピュラーな対戦ゲームで、それぞれがアクションキャラクターを操作して、乱闘するゲームだ。


「では、始めましょうか。これは先に、私が少し試しているやつですが、カナミさんは――」

「もちろん、やったことあるよ。有名なゲームだからね。みんなに教えられると思う」


 と確認し合って、すぐに。

 残った何も知らないパーティーゲーム初心者たちが、次々とコントローラーを手に取って、ラスティアラが号令をかける。


「よっし、やるぞー! おー!」

「おー!」

「おー?」

「お、おー……!」


 リーパー、スノウ、ディアとノリがいい順に手を上げていく。

 さらに、軽く僕とマリアでゲームの趣旨を説明してから、四人のバトルロワイアルは始まった。

 もちろん、初戦は操作すら全員おぼつかない――


「――えっ、えぇ!? これ、どうやって戦うの!?」

「いひひっ。みんな、てんやわんやだねー」

「うわぁっ! フリックじゃなくてボタンっていうのが、すごい難しい!」

「なあ! これ、何ボタンで走るんだ!? 教えてくれ、マリア!」


 だが、徐々にみんなの動きは良くなっていく。

 これでも『元の世界』に迷い込んでから長い。

 みんなの機械に関する理解が深まっていたからこそ、数分経った頃には――


「よっしゃあ! カナミのおかげで、もう操作はマスターしたよ! これで私が負けることはない!」

「って急にこっちへ突っ込まないでよ、ラスティアラお姉ちゃん!」

「なるほどー。じゃあ私はここで大人しくして、漁夫の利を……」

「スノウ、そういう卑怯なことはさせないからな! この俺がいるぞ!」


 みんな、楽しみ始める。

 そして、そのさらに、数十分後には――


「や、やばいぃぃぃ!? 思ったよりも上手くいかない……ならっ! こうなったら道連れだぁあぁぁぁあ!」

「えええ!? そういうのはやめようよ!?」

「あっ、私が最後に残ったから……。えへへ、勝ったぁ!」

「スノウのやつっ、逃げてばっかりで勝ちやがった……!」


 みんなのゲームスタイルの傾向も、ちょっと見えてきた気がする。

 一時間経つ頃には談合が行われて、即興のチーム戦が展開されたりして――


「作戦変更! まずスノウを狙おう! ディア、私と一緒に!」

「ああっ、あいつはダメだ! こそこそと、いいところばっかり取っていく!」

「酷い! 私はゲームの勝利条件を満たそうと全力なだけなのに!」

「んー、スノウお姉ちゃんは自業自得だけど……。流石に酷いことになりそうだから、アタシがスノウお姉ちゃんの味方に付くよ」


 ――四人は、遊びに遊んでいく。


 後ろで見ていて、とても和むわちゃわちゃだ。

 勝ち負け関係なく盛り上がって、マリアの企画は大成功だと安心していく。


 あと後ろからコーチングをしていて思ったのは、明らかにラスティアラとリーパーの二人の呑み込みが早いこと。

 スノウとディアが少し遅れているが、かと言ってそれが対戦の空気を壊さないのは……リーパーが器用に、全体をよく見てくれているからだろう。しっかりと一番上手いラスティアラに突っかかって相打ちを狙うことで、全体のバランスを取っている。

 そのリーパーの尽力もあって、戦いは白熱していき――


「よっしゃあああ! 勝ったぁああ!! ディアぁあああ、ナイス!」

「ああ、ラスティアラ! スノウ、これでもう卑怯な真似するなよ!」

「くぅぅ、やっぱり上手くいかなかったか……!」

「やられちゃったねー、スノウお姉ちゃん。くっそー」


 ――勝手に発生したチーム戦は、上手く決着してくれた。


 そして、ここからは「チームバトルもあるよ」と正規のシステムを紹介して、上手いラスティアラとリーパーを分けた上、色々な組み合わせを楽しむことになる。


 その途中、偶に少し疲れた人と、僕かマリアが交代することもあった。

 『体力』はあれど、ゲームへの持久力や集中力は別のようだ。

 あとディアあたりは、単純にプレイするよりも観戦のほうが楽しいのかもしれない。


 さらに昼食なども挟んで、他のゲームも試していく。

 ちなみに銃器を扱うFPSやカードゲームは親しみがなく、余り好評ではなかった。やはり、直感的に理解出来る格闘系アクションゲームの評判がいい。

 なので、その一番盛り上がったゲームで、最後にトーナメント戦が開催されることになる。


 ただ、その結果は――


 司会に徹していたマリアが宣言する。


「――ということで、第一回ゲーム大会の優勝者は、リーパー! ……意外でしたね。カナミさんが一番ゲームが上手いと思っていました」

「いえーい! 私が一番だねー! 勝利のブイッ!」


 コントローラーを片手に、画面のキャラクターと同じ勝利ポーズを取るリーパーがいた。そして、その隣には震えながら、コントローラーを取りこぼして、両手を床に突いた僕がいる。


「あ、ありえない……。馬鹿な。こ、この僕が『一番』じゃないだって……?」


 心の隅で「この僕が負けるわけがない」と思い込んでいた分だけ、身体の震えが大きくなる。

 そのオーバーなリアクションには、ラスティアラが反応する。


「カナミって謙虚な振りしてるけど、実際かなり傲慢だよね。それをラグネちゃんみたいに素直に口に出せるようになって、良かった良かった……。あと、こんなにも負けた側がショックを受けてると、勝ったほうも気持ちいいよねー! とにかくおめでとうっ、リーパー! ほんとすごいよー!」


 お祝いは他のみんなからも贈られて、リーパーは「ありがとー」と答えて回っていく。

 その姿を見ながら、僕は「この僕が負けるわけがない」という理由を口にしては、ラスティアラからツッコミが入っていく。


「こ、このゲーム……。子供の頃、やりこんでたんだ……。ずっとずっと、一人で練習していたんだ……、なのにどうして……!」

「それ、子供の頃だよね? かなり昔の話なんだから、腕が錆ついてても仕方ないんじゃない?」

「本当にやりこんでて……、CPU相手にノーダメでクリアもしたんだ……」

「カナミって、CPU相手前提のハメ技が多いよね……。でも、どれだけゲームシステムに強くても、『人』相手だと話は別だからね?」

「そ、そんなっ! そんな馬鹿なぁああ……!」


 絶対に、ありえない……!

 こんなことがあっていいわけがない……!

 この僕がゲームにおいて『一番』でないのは、何かの間違いだ!


 と、最近両親と再会したからだろうか。

 父や母、あと妹。あの悪役たちに似た台詞を、自然と頭に浮かばせることができる。


 『元の世界』に戻って、渦波じぶんらしさだけでなく相川家らしさも受け入れられている気がする。

 そして、あの僕によく似た馬鹿ラグネにも、ラスティアラの言うとおり近づいているのかも知れない。


 という感慨深い話は置いておいて、いまはゲーム。

 ゲームのほうが重要だ。


 何もかも予想外過ぎた。

 なにせ、ここで僕が『一番』上でないと、これからのゲーム布教計画に支障が出る。


 本来なら、ここで僕はみんなから尊敬の目を向けられるはずだった。

 続いて、仲間たちに手取り足取り教えていって、仲間内でゲームブームを巻き起こしていく。

 さらに、ライバルとなったラスティアラと切磋琢磨していき、ついにはプロゲーマーとなった僕は、社会的信用も取り戻す。


 そう。

 ここで僕が『一番』であることは、長らく地に落ちていた尊厳を回復させるための大事な第一歩目でもあったのだ。


 それが……、なぜ……?

 どうして……。なんか妙にリーパーが上手くて、僕に対する身内読みが激しくて……。

 結果、惨敗してしまった……。


「カナミさん、泣いてます?」

「な、泣いてないし!」


 マリアが心配そうに聞いてきたが、誇りにかけて滲んだ涙だけは流さない。

 さらに歯を食いしばって、必死に折れかけた心を持ち直す。


 そうだ。大事なのは諦めないこと……。

 それを僕は異世界で学んで、みんなから託されてきたんだ……!!


「ま、まだだ……。まだ僕は負けてない」

「え? ……いや、負けてたよ? 普通にさ」


 真っ当で冷たいツッコミが、現実主義者のスノウからすぐさま入ってくる。

 その隣ではディアが「あぁ。またカナミの駄目なところ出てきたな」と呆れられ始めているが、構わない。


 この往生際の悪さこそ、いまや僕の一番の武器なのだから。


「ま、まだ……。魔法ありなら、僕が一番強いはず……」


 なので、ルール変更の上での再戦を求めてみる。

 それに主催者であるマリアとラスティアラが反応していく。


「魔法あり? ゲームをしながらですか?」

「おっ、面白そー。つまり、こんな感じで……――《グロース》。ゲームに必要な能力を強化して、プレイ!」


 乗り気なラスティアラが手本のように強化魔法を使って、コントローラーで画面のキャラクターを操作し始めた。

 その様子を見てディアとスノウは感心しながらも、すぐ諦めていく。


「へー……。でも、俺にはできなさそうだな。ラスティアラみたいに、強化する箇所を器用に選べないから、コントローラーを握りつぶすのがオチになりそうだ」

「私もダメかなー? 大雑把で強すぎる魔法が多いし」


 いまのディアの魔法制御ならば問題はなさそうだが、万が一の破壊を考えて自信がなさそうに棄権した。

 スノウは明らかに適当だろう。難しい応用魔法を考えるより、スナック菓子ポテチを食べることを優先しているのが分かる。

 本当に向いていないのはマリアだけだろうが、競争心の薄い二人は観戦態勢に入っていく。


 つまり、これから戦う相手になるのは、ラスティアラとリーパーか。

 よし、それなら――


「僕が強化すべきは、反射神経や俊敏な手の動きじゃない。大切なのは……、――月魔法《タイムシフト》」


 次元魔法《タイムシフト》のコピーを、得意の月魔法で発動させる。

 その効果は単純で、体感時間の拡張。


 入力速度や手の動きは、元々幼少のゲーム生活で既に研ぎ澄まされている。

 視覚に映る情報処理も同様だ。

 なので、ただただ時間を把握する能力に特化していく。


 そして、再戦だ。

 先ほどのトーナメントと同じゲームで、今度はラスティアラ相手に――


「――え? げぇー! 《グロース》あっても負けた! さっきより反射速度、めっちゃ上がってたのにー!」

「よしっ! よーーーっし!!」


 圧勝した。

 余裕ある勝利に、僕はガッツポーズを取る。


 さらに僕はトーナメントの復讐をするために、周囲を見回す。

 宿敵リーパーはスノウの隣で和気藹々と、ポテチの袋に愛用の箸を突っ込んでは奪い食おうとして「これ、私の!」と怒られていた(ちなみに、完全観戦態勢のスノウは手づかみで食べている)。


 よ、余裕だな、リーパー……!

 しかし、その余裕もそこまでだ……!


 と勝手な対抗心と闘争心を燃やしていると、マリアが勝負のお膳立てをしてくれる。


「はあ……。リーパー、可哀想なのでカナミさんの相手をしてあげてください」

「ん? あいよー。ということで、アタシも――《タイムシフト》っと」


 真似っこのリーパーは僕と同じ魔法を使って、対戦に敗れて伏せているラスティアラからコントローラーを受け継いだ。


 温度の違いの激しいゲーム開始宣言が、互いの口から放たれていく。


「じゃあ、やろっか! 今回もアタシは負けないよー!」

「ああ、こっちこそ……! 負けてっ、なるものかぁあああっ!!」


 負けられない戦いは始まった――


「くぬぬっ……!」

「ぐぅっ……!」


 ――そして、その戦いは拮抗していた。

 基本的に、僕とリーパーの得意分野や能力の方向性は似通っている。

 その上で、リーパーが僕と同じ魔法を選択しているので、当然ではあった。


 このまま、戦いが長引くのならば、集中力が持続した方が勝つ。

 それならば、僕のほうにがある――と、そう考えたときだった。

 ゲームをしながら、リーパーは聞く。


「――ねえねえ。本当に魔法ありなの?」


 とても根本的な質問だった。

 だから、反射的に僕は「ああ。ありだって、最初から言って――」と口にした瞬間。


「じゃあ、使うよ。――《ダーク》」


 不意打ちすることなく、しっかりと宣言してから、僕の目の前に暗雲がかかる。


 闇だ。

 僕だけ画面を見ずにプレイというデメリットは洒落にならない。

 なので、すぐさま更なるMPを捻出して、対抗していく。


「おまっ、それは……! いやっ、月魔法《ディメンション》!!」

「流石、お兄ちゃん。二つ同時の魔法は、お手の物だね。じゃあ、次は三つ同時で。――《心異ヴァリアブル純心・バーサク⦆」


 画面の情報は次元魔法で得られるが、次に襲ってくるのは幻覚系の魔法。

 頭の中が真っ赤に燃え盛り、僕は唸る。


「くぅぅっ――!」

「さらーに、食らえい! ――《ダーク・マッド》!」


 全神経をゲームと魔法に集中しているところで、次に襲ってくるのは泥の魔法。

 冷たいヌメヌメしたものが腕を這って、コントローラーまで到達する。


「て、手が滑る!? 指の腹が、油を塗ったように――!」

「いっひっひー! 入力ミスしろー!」


 リーパーは子どものように楽しそうに、はしゃいでいる。

 だが、実際のプレイスタイルは、冷静で的確な大人そのもの。


 ゲームにおいての才能を感じた。

 だからこそ、絶対に負けられないと誓い直す――のだが、この次々とくる妨害を相殺していくのは、余り現実的ではない。

 こちらも妨害をしようと、風魔法でリーパーの目を攻撃しようと考えたところで――すぐに首を振って、僕はゲームを止める(よくあるスタートボタンの一時停止で)。


「タイム! 審判! タイムです!」

「えぇぇ……。まあ、リーパーがいいみたいですから構いませんか。はい、カナミさん。発言をどうぞ」


 笑っているリーパーとマリアはアイコンタクトしてから、審判としての務めを果たしてくれる。


「……思ったんだ。このルールは、まだまだ穴が多い」

「でしょうね。いまできたばかりのルールですから」

「正直このままだと、攻撃魔法でプレイヤーにダイレクトアタックし合う勝負になる」

「魔法ありですから……。そういう戦いのゲームになるのは当然では?」

「いや、それだと、もう魔法戦闘がメインで、ゲームがおまけになってしまう。このまま、僕が風魔法でリーパーを妨害して、リーパーが泥で僕を妨害し続ければ――」

「確かに、魔法の競い合いでしかなくなりますね。……分かりました、提案を認めます。この妨害ありのルールを突き詰めると、相手を燃やし尽くせる私が一番強くなりますし、それはよくありません。……ということで、魔法は自分にだけ使えるというのはどうです? バフ・補助オンリーです」

「ああ! それで頼む! さあ、再開だ!!」


 審判に要求を通したところで、ゲームに向かい直す。

 そのとき、後ろからラスティアラ、ディア、スノウの声が聞こえる。


「と、負けそうになると、自分に有利なルールを作るカナミなのであった」

「流石に、リーパー相手に大人げないような……」

「リーパー相手だから必死なんでしょ。娘にゲームで負けたくないお父さんが出てるね」


 その声たちは聞かなかったことにして、ゲームだけに集中していく。


 妨害がなくなったことで、《タイムシフト》だけに全魔力を注げるので、いま僕の全神経は研ぎ澄まされ切っていた。

 戦闘時ならではの『賢さ』も発揮されて、思考が加速していくのを感じる。


 同時に、心も逸る。

 合わせて、僕は得意の『話し合い』を使っていく。


「ああ、分かってるさ……! 自分が大人げないなんてことは……、そんなことは分かってる!! それでも、僕には譲れないものがある! 人生には、決して譲れないモノがある! それを僕は学んだんだ! 『理を盗むもの』たちから! なあっ、リーパー!?」

「えっ、うん!? そうだね!」


 よし。

 会話で集中を乱してやった。

 喋りながらのプレイは、僕のほうが向いているようだ。


 このまま、語りかけながら隙を見つけて――


「くぅっ! いひひっ、本当に強いね! なんでかお兄ちゃん、ローウェンとの決勝戦を思い出すくらいのやる気だ! その本気には、アタシも本気で応えないと……!!」


 リーパーの身体から、更なる魔力が溢れ出していく。

 自身の強化バフのみのルールで同条件だったので、あとは入力精度の戦いだったのだが、その新たなリーパーの魔法で状況は一転してしまう。


「――魔法《ディメンション・決戦演算グラディエイト》」


 発動したのは、以前の僕の愛用魔法。

 堂々とパクられたことに動揺しつつ、それこそが最適解の魔法であることに気づいて、対抗していく。


「そ、それ、僕の……! いや、それなら、僕だって――」


 僕も使ってやる。

 そう決意して、リーパーと同じように魔力を身体から練っていく。


 ――だが、足りない。


 単純に魔力量もだが、細かな魔法制御も、属性の向き不向きも。

 あらゆるものが足りずに、僕は呻く。


「くっ、上手く構築できない……!」


 以前、低レベルで魔法《ディメンション・決戦演算グラディエイト》を構築できたのは、次元魔法に向いているように魂を調整されていたからだ。


 しかし、いまの僕は月属性特化。

 前準備もなしにゲームをしながらの構築は、当然ながら失敗してしまった。


「…………っ!!」


 ま、不味い……。

 このままでは、不味い……!


 僕は負けるわけにはいかない。

 絶対に、いかないのだ。


 懐かしい悔しさと逆境だった。

 だからか、もっと懐かしい単語が、僕の口から出てくる。


「も、もう『契約』するしかない……! ああ、『世界きみ』よ! いま僕が考えたいい感じの『詠唱』を聞いてくれ!!」


 ゲームをしつつ、意識を『切れ目』に向けた。

 すると、すぐ問いかけの反応は返ってくる(『元の世界』に僕たちが移動してから、ずっと『世界かれ』は僕たちのことを警戒して見張ってくれている)。


 ただ、当たり前だが、『世界かれ』の反応は厳しい。

 向こうの優しくて幼くて可愛い『異世界』ちゃんと違って、こっちの『元の世界』さんは厳格な青年タイプなので、「おまえなあ。マジいい加減にしろよ?」という圧迫感だけが返ってくる。


 くそっ。やはり、こっちではまだ難しいか……。

 おそらく、妹の陽滝がやらかしたことに釣られて、兄である僕のイメージも悪くなっているせいだろう……。


 だから、こっちの『世界との取引』がスムーズにいかないと、僕が悔しがるのを読むように「妹関係ないからな? おまえ個人が大概だからだぞ」というツッコミも、『切れ目』から感じた。


 どうしてだろう……。

 なんか、すごい嫌われてる……。


 ならば、もう仕方ない。

 最終手段だ!


「ちょっとでいいんだ! ちょっと魔力借りるだけ! あとで倍にして返すから! 大丈夫大丈夫、『異世界』ちゃんのほうでは、いつもいい取引になってたよ!」


 『詐術』を『元の世界』に仕掛ける。

 しかし、当然のように上手くいかず、身体の魔力は増えてくれない。


「ダメかっ、『世界との取引』が成立してくれない……! なら、強引にでも魔力を引き出すしかないか……! この僕の本当の『魔法』で――」

「はい。審判ストップ、入ります。こっちでの本当の『魔法』の使用は未知数……というか、普通に迷惑そうにされていますので、アウトです。……ディア、お願いしますね」


 その僕の全力の叫びは、途中でマリアに遮られた。

 そして、背後から襲ってくるのは、ディアの魔法。


「気軽過ぎてビビるぞ、カナミ。とりあえず、ちっちゃめの……――神聖魔法《シオン》」


 泡のような光の魔力が背中にひっつく。

 知ってのとおり、《シオン》の力は魔力の阻害。

 反則技を行使しようとしていた僕に干渉して、維持していた《タイムシフト》を分解していく。


「が、ぁっ……!? ぼ、僕の魔法が!? 僕の魔力がぁぁあああ……!!」


 だが、無情にもゲームは続く。

 もう僕に魔法の補助がないというのに、リーパーはいまも楽しそうにノリノリだ。

 ここまで完全に拮抗していた勝負が決着するのに、それは十分過ぎた――



 ――数秒後。

 そこには、コントローラーを落として、愕然とする僕がいた。

 そして、勝利を喜ぶリーパーに、それを祝福する仲間たち。


「やったー。また勝ったー」

「やっぱり優勝はリーパーですね」

「おめでとー」

「すごいぞ。というか、ほんと呑み込み早いよな」

「上手かったよー! でもポテチはあげないよー!」


 あ、あぁあ、なんてことだ……。

 『一番』自信のあったゲームで、負けてしまった……。

 さらに、地味にお気に入りだった魔法もパクられて……。


「う、うぅ……」


 ショックで、年甲斐もなく涙を滲ませていく。


 だが、まだだ。

 まだ負けていない。


「も、もう一回! リーパー、もう一回だ! こういうのは二本先取……いや、十本先取じゃないと分からないから!」


 と得意の往生際の悪さを発揮するが、流石にマリアから叱られて、第一回トーナメントはリーパー優勝で終わっていく。


 ただ、そのあと、僕を慰めるようにゲーム大会自体は続いてくれる。


 そして、ここまで来ると、もうみんなのゲームスキルの差は大きくはない――


 基本的にゲームの上手い人が有利で、でも偶に得意じゃない人も逆転したりして。

 対人ゲームは疲れるということで、まったりとした多人数攻略のゲームもやったりして。

 本当に、ゆったりと時間は進んでいき――

 深夜には、家のテーブルにはデリバリーの夕食がたくさん並んで。

 ジュースを飲みながら、ゲーム攻略の討論をしたりして。


 ――そんなずっと欲しかった時間を、しっかりと僕は手に出来ていた。


 どこかで見たネタと流れ!

 別ページで投稿している「敵はいない!」ですが、あれは当時の私がいつかやりたかった「長編クリア後」のネタがふんだんに盛り込まれています。あのネタをいま「異世界迷宮の最深部を目指そう」をできるのは感慨深いですね……。


ちなみに『元の世界』君との交渉は、カナミたちが解決したわけではありません。事前に、パリクロ・グレン・ハインの仲良し幼馴染組あたりが行っている――という『久遠の空』編の話も、時間を大きく飛ばしちゃうと必要になってきますね。


オーバーラップさんの書籍10巻のあとがきのアトガキにて、誰がどういうゲームを得意かを掲載していた……ような気がします。よろしければ、どうぞー。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  このカナミ君クソ可愛いな。
[一言] もしかしなくてもリーパーってかなみさんの最高傑作かもしれない… リーパーは生まれつき?人読み出来るのがつよい、無理しない状態での気配り力の高さ、親に似てないな… IFルートのAIかなみちゃん…
[良い点] スノウの現代日本適応力が高すぎて危ない 聖母リーパーとマリア この二人がいないと今のクリア後世界でもパーティ瓦解しそう
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