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05000.このあたりが『元の世界』で日常が送れる時間帯


 ようやく、《リプレイス・コネクション》は成功した。

 十分にレベルを上げて、十分な魔法陣を描き、リーパーを中心とした仲間たちの協力を得て、ついに安全な世界間の移動を可能とする門を作り出せた。


 この『元の世界』に戻って、本当に色々あった。

 仲間たちはワールドギャップに大騒ぎで、超常現象でしかない事件をたくさん起こしてしまい――しかし、きちんと僕は両親と再会して、湖凪さんの墓参りも終わった。


 落ち着いた時間を取り戻せてきたと思う。

 そんな現在いまだからこそ、この提案だって出来るだろう。

 気軽に、でもどこかリベンジの『決闘』を申し込むように意気込んで、僕は誘う。


「――デートしよう。ラスティアラ」


 そう僕が誘った場所は、とある日本の一般的な賃貸住宅の中。

 『終譚祭』前、セルドラやクウネルを遊びに連れてきたのに使った家だ。

 あのときは、ただの移動用の拠点としてしか使われていなかったが、いまは掃除がされて綺麗だ。

 二人の男女ぐらいならば問題なく住める部屋の中央には、二千円ほどの小さなテーブルが置かれてある。


 そこに座って向かい合うのは、センスの悪い変なイラストが描かれた(のが、逆にセンスがいいと僕は思っているが、周囲からはファッション迷走中だと言われている)シャツを部屋着にした僕とラスティアラだった。


 こちらの『元の世界』に大分馴染んで、部屋の隅っこにあるテレビを眺めていたラスティアラは、嬉しそうに立ち上がりながら答えていく。


「おっ、デート? 久しぶりだね。じゃあ、一旦《リプレイス・コネクション》で向こうの連合国に戻らないとね。今度は何層まで行けるかなー」

「……いや、それは違うんだ。前々から言おうと思っていましたが、迷宮探索はデートではありません。デートくらい楽しいけど、あれはデートではなかったんです」


 と彼女が立ち上がるのを、どこか演劇めいた敬語で僕は引き止めてみた。

 すると彼女も呼応して、楽しそうに演劇めいた悪い表情で嘆いていく。


「あぁ、ついに……。ふふっ、ついにカナミは気づいてしまったんだね。『デート』という単語の闇に」

「悲しいけど、やっと気づいたよ。何かの言葉のあとに『デート』って付ければ何でもデートになるわけがなかったんだ……。本当に色々やったよな、ラスティアラ。鍛錬デートに決闘デートに討伐デート。だが、僕たちがやっていたデートはデートのようでいて、本当はデートじゃなかったんだ」

「ふふっはーっはっは! 気づいてしまったならば、仕方ない! 連合国に戻るのは諦めるしかないね! ということでっ、こっちの世界でデートするなら……、えーっと……アマゾンとか!? アマゾン川とかいいよね! 世界遺産の紹介で見た!」


 そして、ラスティアラは諦めた振りをしながら、全く反省していない提案をしていく。 普通に異世界迷宮の7層レベルくらいの危険はありそうな場所を。


「密林を進む私たち探索者隊! 立ち塞がるのは大自然の脅威! けれど、私とカナミのデートパワーで攻略だ!! 果たして、ジャングルの奥地で我々が見つけるモノとは!? 乞うご期待!」

「期待してないし、攻略もしません。絶対、アマゾンの奥地ってカップルで行くところじゃないから」

「そう? じゃあ、アフリカのサバンナとかかな? 野生生物がたくさんで、ワクワクするよね! ライオンさんとか撫でてみたいな。あっ、そういえば、この前SNSで変な新種が出てたって話題になってたよね。ヒタキちゃんの氷漬けの影響で、なんか変異してそうなやつ! もちろん、そのままサバイバル生活するのとかも面白そうかな? 果たして、我々はナイフ一つで、どれだけ生き残ることができるのか!」

「そんな配信サイトで再生数取れそうな企画も駄目です。ぎりぎりカップルでやってそうだけど……、とにかく今回はそういうのじゃないんだって」

「じゃあ、海中探検にでも行く? お金と魔法に任せて、マリアナ海溝の底へと向かえ! 暗黒に沈んだ世界の謎を解き明かそう! ……深海生物って、モンスターっぽくていいよね! 私の予想だけど、たぶん深海は魔力の濃度が地上と違うって思ってるんだ! 絶対あそこ、ボスモンスターがいるよ、ボスモンスターが!」

「……そ、そういう調査と研究は、こちらの世界の研究者さんたちに任せるべきで、僕たち『異邦人』がやることじゃありません」

「カナミも心は揺れてる……けど駄目……ってことは、もしかして海外が嫌? なら山かな、山! 日本のフッジサーン、行こう! 不死の伝説とか一杯で、私たちとシナジーあるよね! 二人の全魔力を使って、『過去視』したら新しい発見が――」

「ダメダメ! 全部面白そう……だけどっ、毎回毎回そっちの紹介プレゼンに負けるのも癪だから、そろそろ本気で抗うよ! ということで、はいっ、これ! 今回はこれに行く!」


 ドンっと。

 僕が懐から出したのは、映画の予約券。

 あとカップル割引デーについて描かれたチラシも。

 それを見たラスティアラは驚愕で、よろける。


「え、映画館……、だと……?」


 そのわざとらしい反応は無視して、すぐに僕はプレゼンを始めていく。

 ラスティアラにペースを握られていると、結局僕は彼女の提案を全部採用してしまうからだ。


「ちなみに、デートプランはこうです――」


 ――まずは軽くウィンドウショッピングをするつもりだ。

 映画館デートとはいえ、それが全てではない。二人で十分に買い物を楽しんで、こちらの世界で使える衣服をしっかりと揃える。

 そして、いま着ているダサTではなく新しいオシャレ着で、手を繋いで映画館に向かうのだ。

 静かな暗い場所で落ち着いて映画を楽しみ、そのあとはカフェ。予約したカフェの一席で感想会を嗜む。それから街を歩いたりして、夕食は値は張ろうとも立派なレストランに入るのだ――

 という熱の入った僕のプレゼンを――


「ふんふん。へー」


 まだ大人しくラスティアラは聞いてくれている。

 が、おそらく最後には断ってくるだろう。


 いま言った稲を刈るようなデートよりも、彼女は命の懸かったデートを好むからだ。

 その方針の差を埋めて、僕が僕好みのプランを通すならば……あとは、もう『決闘』しかない。


 だから、既に僕は軽く身構えていた。

 僕とラスティアラは同レベルだからこそ、いまのところの戦績はイーブン。

 基本的に、先制した者の勝率が高い。

 初手、気絶狙いで戦おう。


 昏倒させた状態で映画館の席に着かせてから起こしても、ラスティアラならば喜ぶだろう。そこは余り問題ない。

 その際、ラスティアラを抱えて映画館に入らなければいけないという問題のほうが大きい。

 ただ、その問題には目を瞑ろう。

 正直、もう僕の近所の評判は醜聞を極めている。

 元々あの醜聞を極めた芸能人夫婦のどら息子が、長身の外人モデルさんと同棲していると周囲で噂されているからだ。その上で、代わる代わるに色々な美人や美少女を家に連れ込んでいるとも思われている。


 だから、この地の底の底まで落ちた評判を無視してでも、今回の映画館デートは必ず達成する。

 と、軽い気持ちで『決闘』からの拉致誘拐を、ラスティアラ相手に先制で仕掛けようとして――


「いいよ。じゃあ行こっか、映画館。こっちの劇場みたいなものだよね?」


 その前に、あっさりと了承を得られてしまった。


「あ、あれ?」

「ん……?」

「いや、すごい素直だなって思って。そっちはいいの? 本当は、この新しい世界の危険地域をどんどん探索したいんじゃないの?」

「最近は、ずっと私のやりたいことばっかりやってたからね。……もちろん、いつかは海外行きたいよっ、世界一周旅行とかねっ!」

「あ、ああ……、僕も行きたいな。いつかは、世界一周旅行……」

「でも、今回はカナミのプランで行こうよ。ずっと私のプランばかりだと、良くないからさ」


 ああ。どうやら僕は、少し身構え過ぎていたようだ……。

 あと子供扱いしすぎていたかもしれない……。

 ラスティアラもそろそろ5歳だ。妥協やバランス配分を覚えて、自分の欲望のままに自殺まで走り抜けるような年頃は完全に乗り越えたのだ。

 と恋人の成長を喜びながら、それはそれとして確認を取っていく。


「一応聞いておきたいんだけど、二時間じっと座ってられる? こうやって、家でも見れなくはないんだけど」


 ポケットからスマホを取り出して、例として予告動画を見せてみた。


「家で映画? 映画館で見る方がいいって、よく聞くよ? あっちのほうが迫力満点なんだよね?」

「そうだね。でも、他に一般の人がたくさんいるところで座りっぱなしになるからさ」

「いやいやっ、二時間くらいは平気だよ! 私をなんだと思ってるの? 子供じゃないんだから!」

「なんだと思ってるのかと聞かれれば……、常識と落ち着きのない暴走系ヒロインかな? もしくは、ブレーキが壊れてる高性能レーシングカー?」

「いやいやいやっ、待って! 私って比較的だけど、ちゃんと常識あるタイプだよ!? そういう評価は、どっちかというと昔のディアとかマリアちゃんあたりじゃない!?」 

「あっちはちょっとタイプが違うかな? 何というか、導火線も安全弁もない爆破物系ヒロイン? リミッターが壊れているというか、そもそも取り付けられていないプロトタイプ核エンジンロケットみたいな?」

「……よしっ。いまの発言、あとでみんなにチクってやーろうっと」

「……ご、ごめんなさい。ちょっと調子に乗りました。……でも、ゲームとか物語的には、いまのは褒め言葉なんだよ。プロトタイプとか、格好いい主人公の代名詞だし」


 一応、どれも本人たちの目の前でも言える表現だが、どこか陰口っぽくなってしまったことを謝った。

 そして、その僕の持論を、ラスティアラは少し迷いながらも同意してくれる。


「……まあ、確かに。全部、褒め言葉だよね。どれも最高だもん」

「だから、ラスティアラのことも、ずっと僕は褒めてるよ。最高だから」

「そ、そう? そうだよね。へへっ……。カナミの拗れて曲がった恥ずかしい性格も最高だよ?」

「そ、そう? ありがとう、嬉しいよ」


 とよく分からない褒め合いをした後、ラスティアラは「でも一応、オブラートに包んで穏便にチクるから、本人たちからの反応をきっちり聞くように」と答えて、それに僕は頷き返した。


 そして、話が変な方向に脱線したのを修正すべく、僕は手元のスマホを操作していく。


「というわけで、ポチポチと。一応こんな風に映画鑑賞自体は、どこでもできるんだ。便利でしょ」


 と見せたが、またラスティアラは堂々と脱線し直していく。


「便利……というか、スマートフォンいいなぁ! ああ、早く私もスマホ持ちたい!」

「そういえば、こっちの世界に来てる面子だと、おまえだけ持ってないんだっけ?」

「そう! おかしいよ! これは明確な差別だって!」

「そう僕に言われても。マリアに止められる以上、僕に選択権はない」

「うぅぅ、マリアちゃんがぁあ……! ラスティアラさんにはまだ早いですって、ずっと許してくれないぃぃ……!」

「マリアの『炯眼』、外れないからなぁ。あと早いかどうかを考えたら、確かにまだ早いだろうしね。ラスティアラ、四歳半だから」

「前々から思ってたけど、それなんかおかしくない!? 肉体年齢っ、肉体年齢で数えようよ!? じゃないと、あと十三年! 十三年も十八禁関係は駄目ってことになるよ!? それどころか、十二禁のCeroBまで駄目! 私も血みどろなゲームで、ばんばん人を撃ち殺したいーーー!」

「そういうことを言ってるから、禁止されるんだと思うけど。ただ、ゲームに関してはマリアがやりすぎかなーって、僕も思ってるけどね。僕だって小さい頃は、人を撃つゲームやりまくってたし」

「ならっ、カナミ! さっきの話チクるときに、またマリアちゃんに直談判するから! そのときは私に味方して! お願い!」

「……ああ、分かった。ゲームに関してだけは、僕は全人類の味方だからね。全てのゲームを全ての子供たちができるべきだ」


 と脱線の果てに、余り良くない危険思想の元で協力を約束したところで、また話は戻る。

 スマホで映画について調べながら、話し合っていく。


「――ねえねえ、カナミ。この予約券以外のも、映画館では色々やってるんだよね?」

「えっと、いまやってるのは、ここらだな。マリアが怖いから、余り年齢制限を無視できないけど……。どれがいい?」

「んーっと……。あ、これとか見たいかも。朝やってるやつ」

「アニメ映画か。それなら、マリア的に絶対セーフだろうな」

「あっ、でもこっちもいいかな? 絶対ラブな感じじゃん!」

「恋愛映画かー。でも、年齢制限があるかも――」


 と悩むことが楽しいという時間を過ごしつつ。

 また会話があちこちに飛んだり戻ったりして。

 最後に、究極の答えは出る。


「――これって、全部見れないの?」

「……見れる」

「もう全部、見ない? コンプリートの方向性で」

「でも、そうなると観たあとの予定が……」

「もったいないけど、ショッピングとかはまた今度にしようよ。私はカフェで話すよりも、このボロ家がいいな……。安心できるここで、朝まで話そう!? いつもの徹夜ゲームのノリみたいにさ!」


 ああ、本当に……。

 いつも思う……。

 僕はラスティアラに弱い。

 今日も彼女のプレゼンに勝てない。

 だから――


「……そうだな。そうするか。それでいこう。いや、それが良かったんだ! ラスティアラ! それしかない!!」

「でしょでしょ!?」


 気持ちよく負けた僕は、すぐに立ち上がって、外出のための準備を終わらせていく。

 ただ異世界とは違って、こちらで顔を隠すことはない。両親は有名でも、相川渦波は無名も無名のおかげだ。


 ただ、ラスティアラのほうはポニテに帽子を被って、サングラスをかける。見た目の暴力が半端ないので、目元を隠すのは必須だった。ただ逆に言えば、ここまですれば、モデル業をしている美人外人さんくらいに思われるだけだ。


 準備を終えた僕たちは、玄関へと向かう。


「じゃあ、行くぞ! 映画館デートに!」

「おうともさ! 映画館デートだぁ!」


 扉を開けて出た。

 そして、そのまま近くの電車駅まで向かって駆け出していく。後ろで、ご近所さんがひそひそ声で色々と噂しているのを感じつつ、けれどもうそういうのは色々と開き直って――


来週の金曜日に、カクヨムさんあたりなどで「異世界迷宮の最深部を目指そう」の0話を含めた一章を投稿しようかなと思います。

とはいえ、Web小説の導入は負担のない軽いものでないといけないと思っているので、二千文字程度の小話になります。まずは実験ですね。


それと描きやすい小ネタがなくなり、とうとう後日談の時間を飛ばしてしまいました。

こんな感じでどんな時間帯も気軽に書いていって、適当なノリで投稿していきたいと思います。

ただ、すみません。来週火曜日は、まだネタ探し中にて、また投稿ないかもです。

それではー。



※宣伝

『異世界迷宮の最深部を目指そう』16巻発売です!

コミカライズ4巻も同時発売!

表紙はノスフィー! よろしくお願いします!

活動報告にて、イラスト感想や特典のご紹介などもしています。


PS.Pixivさんの鵜飼先生のところにて、一六巻表紙の大きなやつが見られると思います。

ウェディングノスフィーです、必見!

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― 新着の感想 ―
[一言] 前回の返信でカルドセプトー!ってなったので失礼します() カルドセプトめちゃくちゃ好きでした…世代とかコミュ力とかでほぼ語ったことがなかったのでプレイヤーを見つけられてウレシイ…ウレシイ… …
[良い点] 一気に時間が飛んだああああ!!! 前後するとは聞いていたのですが、気長に楽しみにしようと思っていた部分が来ると嬉しいですね。後日談自由… バカップルすぎる二人の面白さと可愛さに癒されます、…
[良い点] デート成功のための殺意が高い(初手気絶 両親と再会出来てよかった ご近所関係の醜聞は恵まれた外見でごり押ししていけ 時間飛ばすのは全然気にならなかったです 最初から時系列バラバラって聞い…
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