00700.元使徒と元始祖で
その日は、久しぶりにフーズヤーズの大聖堂までやってきていた。
場所は最下層にある『元老院合議室』。
ただ、今日は仕事や挨拶でやってきたのではない。
やっと元使徒のディプラクラが「一段落ついたぞ!」と、時間に余裕が出来たことを手紙で送ってきたので、ただの友人として遊びに来たのだ。
ただ、以前通り、顔を隠す必要はまだあるだろう。
今日は帽子じゃなくてマフラーで顔半分を隠して(僕が帽子で変装していることを、多くの『魔石人間』たちは知っているので)、大聖堂の奥深くまでやってきて、完璧な防諜がなされた部屋へと入っていく。
と同時に、中で満面の笑顔で出迎える声。
「おっ、おぉお! カナミよ、来てくれたのじゃな! はっはっは、嬉しいぞー!!」
「来たよー……って、ディプラクラ。まだその姿なの?」
直球の好意をぶつけてくるディプラクラは、僕のよく知るお爺さんの姿ではなかった。
『終譚祭』で暴走したときの青年の姿で、若々しい動きで僕に抱き付こうとしてくる。
そのまま、ハグで挨拶を交わしてから、いまの彼の状況を再確認する。
薄いシャツ一枚にズボン一つ。あとはサンダルのようなものを履いているだけ(シャツの柄がアロハっぽいので、まるでバカンス中のように見えて少し面白い)。
もうディプラクラは、見栄えや権威に拘っていない。
機能性や効率さえも捨てて、ただ自分の好みと居心地の良さだけを重視した装いだった。
その楽し気な様子から、本当に色々なものから解放されたのだと伝わってくる。
「別に、この姿でも良かろうて! 『理を盗むもの』たちが若作りしていたようなものじゃ! 儂じゃって若く、格好いい姿のほうがよい!」
「いや、『理を盗むもの』たちはなりたくて、ああなったわけじゃないんだけどね」
「何と言おうと、若いほうがいいに決まっておる! 顔だって、イケメンがいいに決まっておる! 大聖堂の皆の者も、若くて格好良い上司の方が嬉しいはずじゃ!」
「んー、そうかなあ。前の優しそうなお爺ちゃん姿のほうが助かるって人は多いと思うよ。男性恐怖症の子、多いし」
ディプラクラは賢明のようでいて、本質的には自分本位で思い込みが激しいところがある。
案の定、僕の忠告は届かずに、一人で大喜びしていく。
「しかし、若さというのは本当に素晴らしい! 美しいというのも素晴らしい! 綺麗なことは心地よい! つまり、老いなんぞ敵じゃ、敵ぃ! はははは!」
「老いることも美しさだと僕は思うけど……。なんにせよ、吹っ切れたなぁ、ディプラクラ。でも、その俗っぽさが、いまの僕のノリと合うからいっか」
「うむ! カナミと合うことこそが、最も大事よなあ! いま、カナミたちは漫遊編といった感じなのじゃろう? それに合わせてのこの姿よ! はーっはっはは!」
お揃いだと、僕と肩を組むディプラクラ。
その千年前では考えられないノリの良さに苦笑しつつ、最初の話題を出していく。
「そういえば、ここにエルが来て話し込んでたって聞いたけど。最近、仲いいの?」
「エルミラードォオオ!? いま、あやつの名を出したかぁ!? あの不届き者の名をぉ!!」
「……出したよ。ちょっと意外な反応だね。仲いいのかと思ってたのに」
「仲など全く良くないぞ! なにせ『終譚祭』以来、あやつとは因縁のライバルじゃからな! 色々と競い合う関係じゃ!」
「競い合ってるの……? 何を?」
「あやつ、隙あらばカナミの親友のような振る舞いをしておるが、そのポジションは千年前から儂じゃ! そういう勝負をしておる! 決して、儂は譲らぬぞ!」
「ああ、そういう系か。ははっ」
『終譚祭』での激闘と因縁もあり、もっと物騒な方向かと心配したが、全て杞憂だったようだ。
むしろ、僕にとっては少し気恥ずかしくとも、本当に嬉しい勝負だった。
ディプラクラは気に入らない優等生に突っかかる小学生のように、エルのことを語っていく。
「あと、あやつの大聖堂での人気も! 大陸での知名度も! 絶対に負けぬ! 連合国一の美丈夫と噂されるのも、今年からはディプラクラ! この儂じゃあ!」
「んー……、頑張って。僕はディプラクラを応援してるよ。実際、その姿で働き続けてたら、ありえない話じゃない」
「おうともよ、カナミ! 儂は絶対、全てにおいてエルミラードを超えてみせるぞ!」
その姿に見合った若々しい動きで、ディプラクラは自分の胸を叩く。
活き活きとお手本の背中を追いかける彼の姿に、僕は安心して、その話題の人の話を続けていく。
「あとエルのやつが白状ってたけど、大聖堂で僕の話をあることないこと吹聴してるらしいね。すぐに、それは止めるように」
「むっ、何の話じゃ? カナミの話はするが、あることないことは絶対話さんぞ? カナミの親友という誇りを持って、常に真実だけを語っておる」
「でも、千年前の僕が、色んな人を誑し込んだとか……。そういう話を、場所を選ばずにしてるでしょ?」
「誑し込んでいるとは、人聞きが悪い。ただカナミは大陸中で人助けをして周り、人々から好かれていたという話じゃのにな? 各国の姫様がカナミに惚れていたというのはただの事実じゃし、それを全て袖にしてカナミが世界を救おうとしたのもまた事実。いくらかの姫が、酷い放置をされて心痛めておったが……まあ、それも大義の前では致し方ないこと。カナミは全人類の希望であり、誰か一人だけを選ぶことができん時期じゃったからな。あのとき、ティアラがいなければ、今頃カナミは――」
「そういうの! そういうのがほんと駄目! 伝え方が最悪!!」
「ぬぬ!? し、しかし、事実じゃし……」
見事に自覚がない。
いや、話す前に一考する癖が消えて、非常に口が軽くなった感じか。
素で僕のことを褒めている気になっている分、エルよりも厄介だ。
「ディプラクラ、もっとオブラートに包んで。厳かな言い伝えっぽく、始祖のやらかしたことはぼかして……、ね?」
「そういうティアラのような真似は好かぬのじゃが……。のう、儂は別におかしいことは何も言っておらぬよな? シス?」
そこでディプラクラは、同僚に声を掛けた。
使徒仲間のシスは『元老院合議室』にある机に座って、書類と向かい合っていた。
まるで、千年前とは役割が交代したかのように、シスは知的に静かに、僕を批判していく。
「そうね……。全て事実ね。いつもカナミは、その気もないくせに女の子に優しい言葉を掛けては勘違いさせていたもの。しかも、その裏には『死去』という罠があったというのに、モテモテになりたいって理由だけで、あちこちでたくさんの女の子を引っ掛けて……。あれは本当に史上最悪の『女誑し』だったわ。同時に、史上最悪の災厄でもあった――その災厄という部分は隠してあげてるんだから、むしろカナミは私たちに感謝して欲しいわ」
「シ、シス……。なんか今日冷たいね……」
急な正論に、僕は声を震わせるしかなかった。
その僕を見たあと、次にシスは鋭い目を同僚に向ける。
「それより、ディプラクラ。さっきから、ベタベタしすぎよ。男同士で気持ちが悪いんだから」
「きゅ、急に機嫌が悪いな、シスよ……。ディアたちが来るときは、あんなにはしゃいでおったのに」
「……別に。機嫌は悪くないわ。ただ、まだまだ大聖堂の仕事は残っていて、気を抜く段階ではないってだけで――」
「ああ、そういうことじゃな? 素直ではないのう。本当は、おぬしもカナミとベタベタしたいだけじゃろうに」
「――――っ! し、したくないわよっ。そういうのは、もう私は卒業したのっ!」
ディプラクラに指摘されて、シスは顔を赤くして反論した。
久しぶりに顔を合わせた僕でも、図星だと分かる。
『終譚祭』で大きく成長しても、彼女の根っこは変わっていないと安堵して、話しかける。
「何にせよ、シスも元気そうで良かったよ」
「ええ、元気よ。だから、もうカナミがいなくても、こっちは平気。上もここも見てくれての通り、しっかりとやっていけてるから……」
僕に対して、口調も含めて冷たく厳しくなっている。
そう思った。
しかし、千年前からの付き合いだから分かる。
これは「もう自分が大人になったから、いつまでも心配しなくていい」と、優しさゆえに言ってくれているのだ。
そのシスの親離れ(?)アピールに、ディプラクラも続けていく。
「そうじゃな。いまは儂らだけでもなんとかなっておるよ、カナミ。エルミラードやフェーデルトから紹介して貰った人材のおかげでもあるが……。やはり、千年前の経験もあって、こういう仕事に向いておる」
「純粋な私たちの心酔者も多いしね。だから、カナミがここに来てもやることはないわ」
どこか釘を刺すように、もう「僕は頑張らなくてもいい」とも重ねてアピールするシス。
本当に暖かくて、優しい……。
千年前と比べると、とても頼りになる女性となった。
その彼女の言葉に甘えて、僕は自分の用事だけを伝える。
「うん、もう仕事する気はないよ。だから、今日は遊びに来た――いや、遊びに誘いに来た、が正しいかな? ディプラクラ、ちょっと新しい研究を始めるんだ。内容、聞いてみない?」
「ほほう! 新しい研究とな! 面白そうじゃのう!」
「ディアの義足と義手に、本格的に手を出すつもり。あと、マリアの目も戻す」
「……治すではなく、戻す。本格的ということは、いままでの既存のものではないと?」
「あの童話の『死神』グリム・リム・リーパーの四肢をイメージして欲しい。あれが欠損した部分に繋がれて、元からあったかのように動くんだ」
「ふむ、あの娘のレベルか……。そこまでいくと、もはや神の域に近いぞ。肉体的なものはともかく、魂までも含めた接続も行うのならばな」
「うん、神の域かもしれない……。でも、大丈夫だと思ってる。今回はディアやマリアも含めて、たくさんの人を巻き込んでやると思うから」
「なるほど。その中に、儂も巻き込もうと」
「ディプラクラも、時間があれば様子見に来てよ。千年前みたいに、助言が欲しいから」
「よかろう! 個人的な趣味もあるが……、この大聖堂と連合国を管理する『元老院』としても、放置できん研究じゃからな!」
「とか言って、ほぼ趣味のくせに。その顔を見れば、分かるよ」
「やはり、カナミにはお見通しか!? バレては仕方ない! 千年前の『ステータス』や『表示』とは趣向が違えども、非常に興味深い研究じゃ! なにより、また夜通しおぬしと語り合えるかと思うと! 血が躍って仕方ない!」
「僕もだよ。他のみんなと違って、ディプラクラはオタク的趣味が合うからね」
こうして、研究の助っ人の約束を取り付け終える。
忙しさを理由に断られるかもしれないと思ったが、やはりディプラクラは乗ってくれた。
旧友の姿は変われども、その本質は変わっていない。
それを二人で確認し合ったところで、なんとなくまた肩を組んでみる。
――そして、二人で「ははは」と笑い合う。
ちょっとシュールな光景だった。
しかし確かに、見た目の年が近いおかげで、前よりも仲良くなれそうだ。
そうディプラクラの言い分を、僕が認めかけたとき――
「――ねえ、カナミ。私は誘わないの?」
唇を尖らせたシスが、書類ではなく僕を見つめていた。
ただ、僕の視線は机の上の大量の書類に向いてしまう。
「え? でも、シスはすごく忙しそうだし……。シスの得意分野は結界とかで、こういうのはディプラクラのほうが向いてて……」
「ふーん、へー。……そう。別に、いいわ。私はクウネルと連むから」
僕が言い淀むと、明らかに拗ねた態度でそっぽを向いた。
言葉選びを間違えてしまったと反省するが、それ以上に気になる名前もあった。
「シス? もしかして、クウネルと連絡取れたの?」
「…………っ! ……教えない」
「お、教えないって……。大事なことだから、教えてくれると嬉しいんだけど」
「……私たちも女の子同士で大事な話があるもの。駄目よ」
「女の子同士で……、そ、そう。それなら、仕方ないね」
いつの間にか、シスとクウネルが仲良くなっていた。
しかし、友達感覚のように聞こえる。決して悪い付き合いではないと思いたい。
いま名前が漏れてたのも、クウネルから「内緒にしてて」と言われていたけど、うっかりと口にしてしまった程度に感じる。
という分析を、ディプラクラもしていたのだろう。
何度も頷きながら、クイズに答えるような気軽さで答える。
「ふむ……、分かってきた。儂は知っておるぞ。最近のシスはおかしいと思ったが……、これは人間の思春期というやつじゃな」
その大雑把で直球な指摘に、シスは首を傾げる。
「私が、ししゅんき……?」
「同性の友達たちとはいつも通りじゃが、家族相手には距離を取りたがり、好きな異性に素直になれない。そんな時期だと聞いておる」
「は、はあぁぁあ……!? 好きな異性!? 別に違うわよ! 何言ってるの、ディプラクラァ!」
「はっはっはっは! そうすぐに否定するところが、それらしい!」
同僚同士、本当に仲がいいものだ。
ディプラクラが煽るのを、シスは本気で怒って否定する。
だが、途中から少し様子がおかしくなる。
「――別にっ、別に別に別に……! カナミのことなんて、もうなんとも思ってないわ……! カナミなんて、ただの友達でしかなくて、でも、私にとっては、もう! もうっ……――!!」
返答する毎に震えていき、内容も不安定となっていく。
それは声だけでなく、その身の魔力も。
静かな水面のようだったシスの魔力が、大荒れの海のように蠢き出した。さらには、その形状が輝く巨大な『魔力の腕』と呼ぶべきものに変化して――
「おっと、それは駄目じゃな。キャンセルじゃ、キャンセル。……すまなかった、儂が煽りすぎた。やはり思春期というのは、酷く不安定なのじゃな」
その前に、ディプラクラが小さめの『魔力の腕』を作って、シスに触れた――瞬間、その全てが萎縮して、落ち着いていった。
強引に魔力を押さえ込んだようだ。
少し勘違いしていたが、いまのディプラクラは敗北した果ての弱体化ではなく、新たに得た戦闘モードの姿だ。最初から臨戦態勢に入っていた分、非常に反応が早かったが、もう少し遅ければシスの『魔力の腕』は……。
「いまの感じ……、もしかしてディアの『過捕護』? もう消えたと思ったら……」
「元は、シスのやつのものじゃからな。巫女であるディアから失われても、シスの深層心理には残っておるのだろう」
「よくよく考えたらそうか。なら、いまシスは……」
あの頃の不安定なディアのように、苦しんでいるのだろうか?
すぐに僕は魔力を落ち着かせた彼女に近寄り、その両肩に触れる。
「ごめん。もっと早くに、調子に乗ったディプラクラを止めるべきだった。シス、大丈夫?」
一目で怪我はないと分かる。
しかし、問題は心身の心の方だ。
だから、シスの両手を僕は強く握り締めるのだが、
「……そういうところが嫌いよ。大嫌い」
赤くなった顔を俯けたシスに、首を振られてしまう。
ぎゅっと強く握り返されたあと、その顔を彼女はあげる。
「カナミ、心配しなくても大丈夫よ。ここにいる二人も、クウネルも、みんな私の大切な友達……。ただ、最近友達が一杯になった分、色々と考え込むことも多くなったの」
かつてのディアと違い、悩みを隠すことなく打ち明けて貰えた。
つまり、先ほどクウネルの名前を出したのが切っ掛けだったのだろう。「隠して」と友達に頼まれて、しかし別の友達である僕に「教えて」と頼まれて、その板挟みになって混乱してしまい――そこをディプラクラが揺さぶってしまった。というのが、おそらく大体の流れのはずだ。
それは唯我独尊だった時代では経験できない初めての経験だろう。
シスは苦笑しつつ、その新たな自分の状況を受け入れていく。
「……私って、人間の思春期に入ってたのね。もしかしたら、クウネルもそうなのかしら? なんだか、私とちょっと同じ感じだったから……」
シスは冷静だった。
自分だけでなく、友達の心配をする余裕さえあった。
使徒という生まれゆえに多少の不安定はあれども、いまの成長した彼女ならば一つ一つ乗り越えられていけると信頼できる姿だった。
「ほうほうほう! そういうことか! あちこちで、千年前の面々が遅れて思春期か! いいのう、いいのう!」
ただ、この結構調子に乗っているディプラクラが変なことをしなければだが……。
僕はかつての親友の変化もいいことばかりではないと、シスと同じように苦笑を浮かべてから、彼の状況も伝えておく。
「……ディプラクラのほうは一周回って、やっと幼少期がきた感じだけどね」
「ほう!? いま儂は、幼少期なのか! ならば、時さえ過ぎれば、思春期も来るということじゃな!? そのとき、儂はカナミを疎ましく思うのか!? 想像も出来ん! 楽しみなことじゃなあー!」
「はぁ……。僕よりもディプラクラのほうが、エピローグを目茶苦茶エンジョイしてるよね。まあ、いいことだけど」
その僕のちょっとした呆れ具合に、ディプラクラは気づいたのだろう。自身の誇りを守るために「おほんっ、おほんっ」と咳払いをしてから、昔のような厳格な言葉を紡ぐ。
「うむ。確かに、エンジョイしておる……。しかし、だからこそ気を引き締めなければな。カナミよ、クウネルのやつには気を付けよ。こうして、シス相手にも色々とタネを撒いておる。あの『終譚祭』は色々な問題を解決したが、あやつだけは違う」
急に老賢人モードになられても困るが、その忠告は遠く外れてはいない。
その上で、僕はクウネルのフォローをしておく。
「クウネルは、敵じゃないよ。ただ、最後の挑戦をしたいだけなんだと思う」
「最後の挑戦とな? それはどういう意味じゃ?」
「千年前も『終譚祭』も、一人だけ戦えずに逃げちゃったから、それの精算をするんだ。きっとね」
「つまり……、『後悔』や『未練』を残さぬ為にか? それならば、堂々と『決闘』でも挑めばいいじゃろうに」
「そういう話じゃないし、そんな器用な性格もしてないんだよ。意外にクウネルは、タイミングを掴むのが下手なんだ。だから、たぶん、その最後の挑戦は長引くだろうね」
と、まだ幼少期のディプラクラには、曖昧な説明だけで止めておく。
だが、思春期を受け止めたシスが、その曖昧な説明に一つだけ足す。
「――カナミ、少し違うわ。クウネルは最後じゃなくて、最初の挑戦をするのよ。私は……、私だから、それが分かるわ」
断言する。
そこの言葉だけは間違えてはいけないと、シスは話を続けていく。
「千年前の初恋。その挑戦を、いまから彼女は頑張るの。この平和になった世界で、やっと落ち着いて、頑張ってもいいんだって、気づいた顔をしていたわ。……だから、同じ千年前を生きた仲間として、彼女に協力したいなって私は思ってる」
思春期仲間だからという理由だけでなく、色々とシスにも思うところがあるのだろう。
その僕との遠回りな敵対宣言を、僕は歓迎する。
「分かってる。きっとクウネルは僕を奪いに来ようと……、ラスティアラたちに挑戦する気だ。そのときが来たら、シスは彼女に協力してあげて」
そう言うと、シスはゆっくりと頷いた。
これで少しは友達と友達の板挟みが緩くなってくれると嬉しい。
だが、その僕とシスの心配は――
「うーむ……。つまり! シスはカナラスカップル破局派ということじゃな! はっは! なんと簡単な話じゃ!」
「カナラスって、カナミとラスティアラ? なんか急に俗っぽい単語がきたなぁ。もっとロマンチックな表現が、僕は好きだけど……」
「で、儂はカナラスカップル推進派じゃ! たぶん、あのエルミラードのやつもじゃのう! ほんと楽しくなってきおった!」
「そういう分け方をすると、破局派にラスティアラ自身が回りそうで嫌なんだよね」
「ははははっ! 確かに、そういうところがティアラに似て、あるからのう! あのお転婆『魔石人間』には!」
心配は全て、「考え過ぎだ」と言うように、ディプラクラは大笑いしてくれる。
その仲間の楽しげな姿を見て、僕とシスは少しだけ心が軽くなって、釣られて「あははっ」と笑ってしまう。
確かに、ただ心配するばかりでは、このエピローグに申し訳ない。
だから、この「楽しい」という感情を大事にして、僕たちはディプラクラと一緒に笑いながら、この『元老院合議室』でくだらない談笑を続けていった。
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