00100.スタッフロール前編
※これは『異世界迷宮の最深部を目指そう』という作品の後日談作品です。
それぞれお気に入りのED曲流してください。
イメージとして、今話と次話はスタッフロールシーン。
100層にて、『主人公』は受け継がれた。
どこにでもいる『人』の冒険者となった僕は、地上に戻って仲間たちと二度目の『聖誕祭』を楽しんでいく。
けれども、遊んでばかりもいられない。
その特別な一日を過ごしたあとは、すぐに清算が始まった。
と言っても、いままでに何度も繰り返した負債の清算とは違う。
――みんなにお礼をして回りたい。
感謝の清算がしたいと、そう僕とラスティアラは思い、その最初の場所としてフーズヤーズ大聖堂が選ばれた。
そこでフェーデルトさんや使徒たちと、現状の確認と今後の話を詰めた。
続いて、ヴァルト国の酒場を始めとしたみんなと酒を呑み交わした。
その次の日には、ラウラヴィア国のギルド『エピックシーカー』本拠まで行って、そこでメンバーたちと色々な話をしているところで――ここの実質ギルドマスターであるマリアとスノウが現れて、幽霊ギルドマスターである僕を問答無用で連れ去ってしまい――
――家に帰った。
それは、かつて記憶を失った僕が、買った家。
まだビギナーだった僕が、迷宮で倒したティーダの魔石を売り払って、口の上手い不動産屋のお姉さんに騙されて、買わされた高級一軒家。
いまはマリア名義となっている元僕の家のリビングルーム中央にて。
僕は大きな机に着いて突っ伏しながら、大きなため息を吐く。
「――ああ……。今日も、すごい歩き回ったな……。ふう」
現在、地上に戻ってからの二日目の夜。
足が棒になるほどの疲労感は、本当に久しぶりだった。
魔力変換による身体強化で長らく疲れ知らずの僕だったが、レベル1に戻ったことで体力の限界を迎えることができていた。
これでもう、精神の限界を超えるまで休まないという選択肢は取れないだろう。
そのヘトヘトな僕に向かって、元気にテクテクとリビング内を歩いているリーパーが嬉しそうに答える。
「ひひひっ! みんなへのお礼と挨拶で、ほんと歩き回ったみたいだねー。でも、これでも楽になってるほうなんだよ? 色んな細かいとこは、お兄ちゃんの代わりにお姉ちゃんたちが行ってくれたんだからさ!」
そう言って、彼女が目を向けるのは僕と同じ机に座っているマリア、ディア、スノウ。
自由で楽しい一日目の『聖誕祭』が終わったあと、二日目は彼女らも別行動を取って、各所にて僕たちの帰還の説明を行ってくれたのだ。その三人も、僕と同じく少し疲れた様子を見せていた。
ただ、僕から視線を向けられたマリアだけは、軽く首を振る。
「……気にしないでください、カナミさん。ギルド関連のお仕事は、私が結構好きでやっていることですから」
あれだけ壮大で馬鹿げた大騒動を起こしたのだ。
戦後処理とでも呼ぶべきものが大量にあった。
そして、その騒動には『エピックシーカー』だけでなく、それ以外のギルドたちも迷惑を――いや、協力してくれていた。親友エルがマスターをしている『スプリーム』を始めとして、たくさんのギルドたちの協力がなければ、あの結末には辿りつけなかったと僕は思っている。
その各ギルドへのお礼は、マリアが『エピックシーカー』を代表として回ってくれたのだ。
もう嘘偽り一つないマリアの表情を見たあと、僕は視線をディアとスノウにも向ける。
「カナミ、俺も好きでやってることだぞ。……というか、いま大聖堂は俺の家みたいなところあるし、本当に気にすることないからな」
「私はー、好きでやってないー。だから、ほんと疲れたー。振動魔法であちこち連絡し過ぎて、つーかーれーたー」
その机に顎を乗せたスノウの愚痴に、隣り合って座っているディアが呆れながら頭を撫でて、あやしていく。
「はいはい。頑張ったな、スノウ。偉いぞー、おー、よしよし」
「えへへ……。頑張ったから、回復魔法ください! ディアのぽかぽかなやつ!」
「だから、そういう回復魔法の使い方は駄目なんだって……。これ、完全に中毒になってるな。あとで当主さんたちに相談しとかないと」
「げっ。ディ、ディア! すぐお義母様にチクるのはやめよ!?」
ただ、過剰な回復魔法要求によって、途中から頭をバシバシと叩かれてもいた。
その安心できる仲間たちに、僕は「ありがとう」と返してから、さらに視線を動かす。
視線の先は、この家の台所。
そこには最も感謝すべき騎士セラ・レイディアントが、ラスティアラと仲良く『料理』に挑戦していた。
セラさんは初日、やっと合流できた僕たちが『聖誕祭』を楽しめるように、ずっと裏で頑張ってくれていた。
いまは、その大事な一日目を頑張ってくれた分、二日目の夜は主であるラスティアラと一緒に時間を過ごしている。
二人の楽しむ声が、夕食のいい匂いと一緒にリビングまで漂ってくる。
「ど、どうでしょうか……、お嬢様! こちらのスープのお味は……」
「おっ。いい感じにできてるねー。めちゃ美味スープだよ!」
「あぁ、良かった……。正直、家事には自信がなかったのです」
「セラちゃんはレシピ通りに作るから、大丈夫だよ。駄目な人はほんと、そこで駄目だからね。……あっ。ただ、そっちのやつは焼き過ぎかも!」
「了解です、お嬢様! ただいま!」
その暖かな家庭の匂いの中で……。
二人が仲良く、元気に共同作業をしている声を聞くだけで、僕の喉奥から零れる。
「あぁ……。ははっ」
笑い声を聞いて、一緒の方角を見て聞いていたマリアが呟く。
「……カナミさん。帰ってきたって気がしますか?」
帰った。
それは色々なものの本質の話。
長い物語の命題。
相変わらず鋭い『炯眼』のマリアに向かって、僕は嘘偽りない感想を吐き出す。
「うん……、帰った気がする。なにより、ここが僕の家だったんだなって……。いま、すごく再確認した」
「ふふっ。そう言って貰えると、嬉しいですね。しっかりと家を建て直した甲斐があります」
僕が家の中を見回すのに合わせて、マリアも目を細めていた。
思い出しているのだろう。
この家が燃えたとき、親友であるアルティと交わした約束と思い出を。
そして、ついこの間、100層で別れた記憶も――
その懐かしむ僕たちに対して、ディアは少しだけ疎外感を覚えた顔で話す。
「この家、いいよな……。俺には余り縁がなかったけど、これからはちょくちょく寄らせて貰うぞ」
「いつでも来てください、ディア。ただ、遊びに来るのではなく、帰る家として使ってくれると嬉しいです。ちゃんとあなた用のベッドもありますから、私と同じ部屋になって申し訳ないですが」
「そっか。……なら、そうさせて貰うか。アレイス家でお世話になってても、やっぱこっちのほうが落ち着けそうだからな」
どうやら、これからはここがみんなの拠点となりそうだ。
もちろん、僕の拠点にもなるだろう。
なにせ、もう大聖堂地下の隠し部屋を使う必要はない。あそこは一人でしか寝泊まりできない広さなので、これからは本来の役目である書庫に戻るはずだ。
こうして僕は、やっと帰ってきた家を眺めながら、その思い出深さに唸る。
聞けば、巷では「ここは元『始祖』カナミの家であり、いまは『炎の魔女』と呼ばれる英雄マリア様の家でもある――」という噂があると聞く。
その歴史も踏まえて、なんとなくだが、この大事な家に名付けたいと思った。
例の血陸から帰ってきた『リヴィングレジェンド号』とお揃いで、『リヴィングレジェンドハウス』とでも名付けて……いや、『リヴァイブレジェンドハウス』がいいか。そのほうが一度復活した家の伝説っぽさを強調できる。これをルビにして、漢名も欲しいところだが、それだと船とのお揃い感がなくなるので抑えておこう――と、間違いなく、ラスティアラ以外は嫌がりそうな名前の提案をする前に、もう一人の家主であるスノウが手をあげて、ディアに主張していく。
「あっ! 言っとくけど、ここって私の家でもあるからね! ここはマリアちゃんと私、ウォーカー家の名義になってます!」
「ああ、そうだったな……。つまり、おまえは反対なのか? これ以上、俺みたいな居候が増えるのは」
「増えるのは、いいよ! ディアは、ばんばん住んで!」
「…………? じゃあ、なんで聞いたんだよ」
「ディアに恩を売ろうと、なんとなく? ……というのもあるけど、私は家主権限で増築も考えてるだよーって話をしておきたくてさ!」
「なるほど。部屋の数の話か」
増築。そういう手もあるのか。
最近、建築にも興味が出てきたところなので、丁度いい話だ。
単純な利便性だけの話ではない。例えば、ちょっとしたオープンカフェというのもいい。ずっと心の隅に引っ掛かっていた「お店を開きたいな」という心残りが解消される。
と、一人で妄想を広げていると、咎める声があがる。
両手に料理の乗った大皿を持ったラスティアラが、机までやってきていた。
「あっ、カナミ……! 変なこと考えてる顔してるね。私も混ぜて欲しいけど、いまはそれより……!」
「みなさん、用意できましたよ! 夕食です!」
いまは食事だと、セラさんと一緒に両手に大皿を持って、僕の『たった一人の運命の人』はリビングに現れた。
次々と机の上に並べられていく良い匂いを漂わせる料理たちに、僕の妄想は一旦どこかへ飛んでいく。
そして、ラスティアラの宣言で始まる夕食の時間。
「できたよー! 私とセラちゃんで考えた特製メニュー! みんな、食べて食べて!」
たっぷりと並んだ料理。それを一目見た感想は、豪快。
野菜による彩は少なく、肉料理が中心だった。
部活動に勤しむ男子高校生が喜びそうなラインナップ――という印象で間違っていないだろう。ハードな騎士生活を過ごしてきたセラさんと精神的に幼いラスティアラならではの考案という感じだ。
その男料理を、まじまじと見つめる僕に、配膳し終えてエプロンを外している途中のセラさんが話しかけてくる。
「……おい。何か文句でもあるのか?」
刺々しい物言いだが、その裏にあるのは不安だろう。
『料理』の得意なマリアや僕の評価が気になっているセラさんの為にも、すぐに僕は「頂きます」と言ってナイフとフォークを手に取った。そして、彼女が最も手を出したであろう肉料理を口に入れて、頷く。
「……うん。いや、上手くなったねって思っただけ。家事を一切したことがないって言ってたけど……、すごく美味しいよ」
しっかりと味を確認してから、本音から褒めた。
それをセラさんは嬉しそうな顔で受け止めて、机の空いている席に座りながら言い返してくる。
「……おまえのそういうところが、本当に私は嫌いだ」
セラさんらしい憎まれ口だ。
ただ、その憎まれ口を、一緒に席に座るラスティアラが補足してしまう。
「そういうところが、本当に好き! だってさ、カナミ」
その主人の暴露に、騎士はたじたじになって容赦を願う。
「お、お嬢様……」
「いやー、もう隠し切れないよ。私が死んじゃってる間、二人がどういう風に付き合っていたのか、しっかり見てたからねー」
が、ばっさりだった。ノワールが色々と融通してくれていたようで、魔石になっていた際の情報共有はしっかりと行われていた。
確かに、ラスティアラがいない間、僕とセラさんは主従となっていた。
かなり親密になっていたと思う。
そのときの彼女の過剰な心配と世話焼きは、巷で妙な噂が流れるぐらいだった。
その事実をセラさんは――
「……だとしても、あれは主従の親愛ですよ。それも、ほとんどがお嬢様から影響を受けて、繋がり、継がれた感情です」
セラさんは否定しなかった。
困りながらも「それはあなたから受け継がれたせいだ」と、はにかむだけだった。
その穏やかな微笑みから、セラさんも成長して変わったのを実感する。
出会った頃の彼女ならば「この男が、お嬢様を喪った私の心の隙を突いたからです!」と誤魔化すように怒っていただろう。この仲間の夕食の場でも、頑なに給仕として立っていたままだったろう。
しかし、いまは主人の隣に座り、同じ食卓を囲んで、安らいでいる。
その彼女の変化を、ラスティアラも感じて――
「私から受け継がれた感情かぁ……。なら、仕方ないなぁ! 嬉しい言い方だから、そういうことにしておいてあげるっ」
同じく否定せず、はにかみ返した。
その後、セラさんは一瞬だけ僕に穏やかな視線を向ける。
元主従として、僕も彼女も少しだけ気恥ずかしい顔を作った。
だが、すぐにセラさんは気を取り直して、夕食の主催として料理に手を伸ばし、盛り上げていく。まずメインの肉料理を、それぞれの取り皿に切り分けた。
「では、食べましょうか! スノウ様、多めに作りましたから、たくさん食べてください!」
「おー、助かるよ! 肉だ、肉ー! カナミやマリアちゃんが作ると、栄養バランスってことで肉少な目になるけど、今日は本当に私好みー!」
「ありがとうございます。私と好みが一緒で、嬉しく思います……!」
「『獣人』の血が濃い同士だからね。私たち似てるところ、一杯あると思うよ」
予期せぬ僕への不満が発覚しつつ、スノウはセラさんの夕食をベタ褒めする。
その隣ではラスティアラが、逆隣に座っているディアに料理を切り分けていく。
「ほらっ、ディアも食べて食べて。たくさん食べて、大きくなろう!」
「ま、待て……。俺はそんなに腹に入らないぞ。スノウほどは喰えない」
「むむっ、好き嫌いは駄目だよ。いつかディアは『剣聖』になるんだから、お肉食べて身体を作ってかないと。このフーズヤーズ大聖堂騎士宿舎の伝統料理メニューで!」
「ああ、やっぱり……、これ、騎士たちが食べてるやつなのか。……俺も騎士たちみたいになれるなら、ちょっと頑張ってみるか。食べるのも訓練って聞くしな」
「ここまで豪勢なのは、流石に騎士でもお祝いのときだけだけどね。傾向はこんな感じだよ。とにかく、食べろ食べろー! 今日はお祝いだ!」
ディアは食べて強くなろうと奮起して、そしてラスティアラも負けじとたくさん食べようとナイフとフォークを手に取る。
続いて、セラさんが静かに料理を堪能していたマリアに、感想を聞く。
「マリア、どうだ? それの味のほうは。率直なところを聞かせてくれ」
「美味しいですよ。さっきラスティアラさんも向こうで言ってましたが、セラさんはレシピ通りですからね」
「なら、良かった……。機会があれば、おまえにも色々と教えて欲しい。味付け以外にも焼き方とか……。もっとレパートリーを増やしたい」
「ふふっ。ええ、もちろん。カナミさんと違って、教え甲斐がある生徒になりそうです」
二人で仲良く、料理についての話をしていた。
その後、セラさんはバクバクと食べ続ける健啖家スノウに、次に食べたいものを聞いたり。
ときには他愛もない談笑をして、和やかな時間が流れていく――
本当に、穏やかな夕食だ……。
その様子を眺める僕の隣の席で、リーパーがツンツンと指で突きながら質問する。
「ねえねえ、お兄ちゃん。お酒ないの? お酒ー」
「…………。昨日呑み過ぎたから、今日は控えようかと思ってるんだけど……」
「出そう! この家になくても、『持ち物』にはあるんでしょ?」
「あることにはある。けど、おまえまさか……」
「今日はアタシも呑むよ! なんだかんだみんなと飲む機会に恵まれなかったから、今日を私のお酒記念日にする! ということで、『持ち物』に干渉して、ごそごそっと」
「ま、待て、馬鹿……! おまえとラスティアラは年が――」
いつの間にか、ノワールと同じく僕の『持ち物』に手を入れられるようになったリーパーが、僕の隣の何もない宙に手を入れていた。
それを止めようと僕は焦ったが、すぐに考え直す。
彼女もまたノワールたちと同じで、『魔法』なのだ。お酒程度で崩れるようなものではないと、僕が一番よく知っている。
「年とか言っても……、今更だな」
「今更だね。……お兄ちゃんのところのお酒って、二十歳からだっけ? こっちは全く制限ないねー。まあ、あんま若すぎる時に無茶はさせないくらいの良識はあるけどね」
「本当は反対だけど……、好きに呑めばいい。ディアもいる場なら、安全だからな」
「ひひひ! 変な頑固さがなくなって、アタシは嬉しいよ。で、お許しも出たところで……、やっほーい! 初お酒ー! 楽しみー」
リーパーは『持ち物』の中でも、一番高価なお酒を選んで取り出して開けて、すぐさまグラスに注ぎ始める。
そのお酒の芳醇な香りに、肉を頬張っていたスノウが反応してすぐに「私も欲しい!」とアピールし始める。
談笑している他の四人の中だと、ラスティアラとマリアも手をあげていた。
前に酔いつぶれた経験のあるディアと、普通に苦手なセラさんは遠慮するようだ。
そして、「かんぱーい!! お疲れ様ー!!」と少しお酒が入って。
穏やかな夕食は進んでいく。
その本当に緩い食事風景に、つい――
「あぁ……、ははっ」
二度目の笑みは零れた。
だから、僕も手をあげて、「リーパー、こっちにも頼む。一番高いお酒なんだからな、それ」と空になる前に要求した。
地上に戻った二日目の祝宴を、心から楽しんでいく。
日常パート――に入る前のちょっとした談笑。
今回で6800文字。
3000文字に納まらない……。タイトルの「00100K」は私がプロットづくりするときの時系列番号ですね。これからは時系列目茶苦茶で短編を出していくかもしれないので、こういう風にします(あとで変えるかも)。
とりあえず、後日談の日常は書籍一巻分くらいの量を目指していきます。
次話はたぶん火曜日。