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4.「なに?服を脱げって?この変態ロリコン野郎が」

 回想終了。


 今は涙目の少女オレと鎖に繋がれた老人が見つめあっている。


「で?戦えんのかって聞いてるんだよ、えぇ?お嬢ちゃん?」


「あ、ははっ。俺も知りたい」


「舐めてんのか、テメー。もういい、失せな」


 そう言ってフイとローレンスはそっぽを向いてしまった。


「悪かったって。別にふざけてる訳じゃないんだよ。ただ、こっちもちょっと事情があってその、あの……何と言いますか……」


 歯切れの悪い物言いにローレンスは怒鳴った。


「はっきり言いやがれ、ネコミミ小僧」


「生まれてからまだ実戦経験ゼロ」


 静寂が辺りを支配した。


 あまりにも俺が真顔で言ってのけせいでローレンスは呆れて物が言えなくなっていた。


「……そいつは凄え。帰って寝てな。お嬢ちゃん」


「待て待て待って、大丈夫だから、上手くは言えないけど、なんだかんだ言って大丈夫だから。なっ!こっちも意外と人生経験つんでるから。案外何とかなっちゃうから」


「ガキ特有の妄想だな」


「だから違うって!こう……なんかイケるはずなんだよ!」


「プライドばかり高くても意味ねえぞ。そんなんじゃこの先やっていけねえからな」


「だから違うんだって!!そんな諭す感じの目で見るなーーー!俺を見るなーーーー!!」


「うっせえぞ、クソガキ。喚くな」


「うぅ、もういい、分かった。弟子にしてくれるまではここを動かん!ずっと居座り続けてやる。覚悟しやがれ!」


「おう、なら弟子にしてやってもいいぞ」


「っ!?」


 急な意見転換。さしもの俺も、


「えぇ、唐突な変わり身。一秒も居座れなかったんだけど。逆になんか悔しい」


 驚いた。ただし、ローレンスはなおも言葉をつなげる。


「知るか。ただし条件がある」


「なに?服を脱げって?この変態ロリコン野郎が」


「ぶっとばすぞ、クソガキ。誰がテメエみてーなヘンチクリンで喜ぶか。もっと色々デカくなってから言いやがれ」


「デカけりゃいいんかい。で、条件って?」


「このコロシアムで生き残って見せろ」


 ローレンスが出した条件は想像していたものよりも遥かに簡単そうで肩透かしを食らった気分になる。


「簡単じゃん」


「な訳ねーだろ。なめてんのか?おい。それともまだ分かってねえのか?こんな辺ぴな場所に建ってるコロシアムが合法だとでも思ったか、ん?」


 だが、それでもやはり生き残るだけなら余裕だろう。


「流石に魔獣だとかの相手はしないだろ。相手は人か動物、なら余裕。楽勝しょ!」


「ハッ、テメーみてーな獣人。あの極悪人がそう簡単に優しくしてくれるとは思わんがな」


「過去にもこのコロシアムに獣人が?」


「な訳ねえだろ。俺も始めてみたぞ。獣人なんて」


「まぁいいや。それで俺が勝てば弟子にしてくれるって?フッ、武術ってもの体得するのも余裕そうだな」


「あ?武術?」


「え?知ってんでしょ?」


 ローレンスが今の言葉のどこに引っかかったのか分からない。だが、何やら下を向き何かを熟考し始める。そしてポツリと呟いた。


「……やっぱ弟子にするのやめだ」


「!?ちょっ、なんでだよ、おい、話がちげーぞ」


「知るか!何故か俺の正体も知ってれば、おまけに武術のことも知っているときた。そもそもがオメー怪しすぎんだよ!いったいどこで知った?誰に教えてもらった?何者だテメー?」


「どこで知ったって……えっと?、あれだよ……三丁目の駄菓子屋のババアだよ。あのいつも寝てんのか死んでんのかわかんねえ、あのバアさん」


「誰だよっ!」


 結局、話し合いは平行線のまま元の振り出しに戻ってしまった。


「よし、分かった。いったんとりあえず落ち着こう」


「あぁ?」


「そして弟子を取ろう‼」


「アホか、そんなんでうやむやになるか!誰がテメーみたいなチンチクリン、弟子にとるか!絶対に弟子なんかになれると思うなよ」


「いやー、お願いしますよう、師匠~」


「勝手に師匠呼びするんじゃねぇ!」


「チッ」


 その後も押し問答が続いたが話し合いに決着がつくことは無かった。


「はぁー、クソ!どうしてもとる気はねえのかよ」


「何べんも言わすな。誰がテメーみてえなの信用するか」


「こっちは神ぶち殺すのに必要だって言われたから武術習いたいんだけなんだよ。絶対諦めねぇぞ」


 俺がぽつりと再び漏らした言葉にローレンスは一拍おいて問いかける。


「それ本気で言ってたのか」


「たりめぇだろ。そのためにこんな辺鄙なとこまで来たらしいんだからよ」


「…………」


 ローレンスが黙る。なにを思い出しているのか。ジッと俺の目の奥を見つめてくる。


「?」


「本気なのか?本気で武を習う気があるのか。そもそも武術が何なのか分かっていってんのか?」


「あ~……あれだろ?武術ってのは何かすごいんだろ。何かこう……カッコいい動き……みたいな!」


「やっぱなめてんな。もういい、この話は全部なしだ。もう誰も弟子なんか取らん」


「分かった、悪かったよ!別にふざけてるわけじゃねえんだよ!ただ俺は確かに武術が何なのか、どんなのかすら知らない。だから一個だけ、一個だけ何か教えて。それを実戦で理解してみせる。その教えでここを生き残って見せる。それで条件もオールオッケイ。な?」


「ハァー………クソが」


 ローレンスの長いため息のあと、一言呟いた。


「『押してダメなら引いてみろ』この意味わかるか?」


「なにその安っぽい恋愛指南」


「れっきとした武術指南だよ」


「頭悪いの?」


「テメーに言われりゃ終いだな」




 結局、俺はもと来た道を引き返し、自分の部屋もとい牢へと帰っていた。


「『押してダメなら引いてみろ』……は?やっぱり意味わからん」


 この言葉を残したっきりローレンスは喋らなくなり諦めて帰るしかなかった。


 明日から通い続けてやろうかな。あのジジイの嫌がる顔が目に浮かぶ。


 だがそれよりもこの言葉の意味がさっぱりわからない。


 だって武術指南とか言っておきながら、それが明確な技じゃなくて、ひどくあいまいな言葉だし、訳が分からん。


「恋の駆け引きじゃないんだったらさあ。やっぱりからかわれただけか?」


 そう逡巡していると薄暗い地下通路から広い場所へと出た。


 行きも通った道なので問題はないはずなのだが、今は数十名の見知らぬ集団が飲んだくれている。


「ん?何だお前?」

「お嬢ちゃんかわいいね~」

「獣人?」


 物珍しいとこっちを訝しんでくる者が数名。だが、一人だけ俺を指さして誰かに説明をし始めた。


「あ!コイツですよ、本物の獣人のガキってのは。ホントに耳と尻尾が生えてますでしょ!」


「んぁ?このガキがか?」


「あい、そうです、ソランの兄貴!人の話聞かねえでフラフラどっか行きやがったんだ。このガキ」


「はっ、テメーがガキになめられるなんていつものことじゃねーか」


 そう言って返事を返したのは物が乱雑に高く積まれた、今にも崩れそうな山のテッペンに座っている一人の青年。


 この場の誰よりも顔が真っ赤であるが彼がここのリーダーなのだろうか?


 そしてソランと呼ばれた男は俺を見下ろしながら話始めた。


「そもそもがよう~、今の時代に獣人が生き残ってる訳がねぇだろうがよ~。あぁ〜?大昔ならいざ知らず、この時代によ~。つまり、そいつは偽物なんだよ、偽物!分かったか?バカやろう~」


「あえ?に、偽物!この耳も尻尾もですかい?」


「な訳ねーだろ!!このアホが。俺が言ってるのはこいつが、人体実験の末に出来上がった化け物だってことだ。どうせ、死神が死んで用済みになったとか勝手に研究所抜け出してきたかのどっちかだろうよ」


「ああ、なるほど。さすがソランの兄貴。頭のできが俺らとは違う」


「たりめーだ、バカ」


 二人して俺の正体の考察に盛り上がってる。


 こんな無害でかわいい俺を捕まえて何いってんだこの酔っぱらい共は。ぶち殺されてーのか?


「で?実際のとこどうなんだ?初日からフラフラと出歩くなんて根性あるじゃねーか、お嬢ちゃんよ〜」


 ここで唐突に俺に話がふられた。


 でも、実際のとこも何も、俺も邪神が勝手に何かして生まれ直したところで、まだ何も自分のことに関して理解できてない。


 なので、とりあえずのっかっておいた。


「ま、まぁ、そんなとこだな」


「あ?何だその口の利き方は?」


「え?」


 つい何も考えずにそのまま喋ってしまった。


 そりゃ、今は子供の姿なんだからそれ相応の話し方があるんだろう。だけど、なんかこう、こいつ等に敬語で話す必要性を感じなかった。むしろ、使いたくなかったと言うほうが正しいと思う。


 それにしても酔っ払いって急に機嫌悪くなるからやっぱり嫌いだ。


「おい、こっちも確かにテメーみてーな珍獣使って金稼ぎさせてもらうけどな、テメー、自分の立場ってものを理解出来てねぇんじゃねえか?あぁ?」


 ソランの言動に合わせて周りにいた人間も殺気だち始めた。


「珍獣呼ばわりかよ。ア、ハハッ。これちょっとまずいかも……」


 俺手ぶら何だけど。どうしよ、逃げるか?これがあれかな?押してダメなら引いてみろってやつかな?アハハ〜、俺を捕まえてごら〜んってやつかな。なるほど、役に立たん。


 俺がふざけてる間にもコロシアムを取り仕切っていた連中はグラスをほっぽり肩などを鳴らし始めて徐々にやり合う準備を整えていた。


 俺もダメもとでやってみるか。


 相手も俺もそれとなく構えはじめ、どちらが先に手を出すのか?そんな一触即発の雰囲気に突如割って入る声があった。


「待ってくれ!悪かった!ワシも謝る。だから、だから、どうかこの場は見逃してやってくれ!」


「え?おじいちゃん!?」


 向かい合う俺とソラン率いる集団との間に割って入ったのは、なんと同室の老人であった。


「たのむ、どうか!」


 なおもソラン逹に頭を下げる老人。


 しかし、彼らが止まることはなかった。


「すっこんでろジジィ!ブチ殺すぞ」

「テメーごとまとめてやっちまってもいいんだぞ」

「やんのか!こら」


 突然の乱入者にさらに感情をヒートアップさせる酔っ払い逹。


 だが、そこに一人静止の声をかけるものがいた。


 ソランである。


「やめろ、お前ら」


 先程の彼とは打って変わってどこか冷静である。だが、当然彼の意見の変わりように異議を唱える者はいる。


「何でですか?こんな生意気なガキとっちめちまいましょうよ?」

「そっすよ、死なない程度にボコせばなんの問題もないっすよ」

「こんなにかわいいのにもったいない。楽しまないと!」


 様々な意見が出る中、ソランは全体を見渡しこう叫んだ。


「待て待て、お前ら。何も許すとは言ってねぇだろ。それよりもここがどこか忘れたのか?コロシアムだろ?だったらコロシアム流のやり方ってもんがあるだろ。忘れちまったのか?」


 その意見を聞き彼らは一様に笑って見せた。


「あぁ、そういやそうだった」

「久々だな~」

「え~、今楽しもうよ~」


 ひどく醜悪な笑みを浮かべ、俺と老人の二人を見てくる彼ら。


 だが、その中でもとびきり邪悪な笑みのソランが話しかけてきた。


「おい、じじぃと耳つき。明日さっそく試合だ。楽しみにしてな、ハハハッ」


 弱者二人を取り囲む下卑た笑顔達。


 ――――くだらねえ。


 何も語らずただじっと彼らを見据える。


 この世に再び生まれ直してから初めて過去を思い出していた。


 自分でも気づかぬ内に瞳孔がキュッと細くなる。


 その目つきは似ている。


 過去に『戦場の死神』、そう呼ばれていた頃と同じ瞳であった。



風龍の観察日記

「この娘、さっそく色々とやらかしとるよ」

「…………三丁目のババアって誰?」

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