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1.「おぅ、マジですか……」

 ――――ガタガタッガタガタッガタ


 馬車が悪路を無理やり行く寝心地悪い揺れで俺は目を覚ました。


 どこだここ?


 起きたばかりのまだうまく頭が回らない状態であたりを見回してみる。


 揺れや尻の座り心地の悪さからここが馬車の中であることは容易に想像ができる。


 ただし、いったいどこに向かっているのかは一切分からない。仕方ないので、とりあえず細い光が差し込んできている方に目を向けて、外の情報を仕入れようと試みた。


 薄明かりの中、小窓にはガッチリと鉄格子がはめ込まれていた。


「えっ?」


 慌てて、自分の体を見てみると手には木製の手枷がぴったりとはまっていた。


「はっ?」


 そして、俺一人しかいないのかと思っていた馬車は実際には、ピクリと誰一人動かないだけで、たくさんの人間が狭い空間にぎゅう詰めにおしこまれており、なおかつ全員が自分と同じ手枷がはめられていた。


「おぅ、マジですか……」


 まったくの状況を飲み込めずにただ唖然とするしかなかった。


 そもそも俺はまだ、今のこの状況が悪い夢なのではないかと未だ受け入れられずにいる。


 いやいや、だってね?意味わかんないじゃん。突然、邪神だとか意味わからない自己紹介し始めたヤベー奴と自分を五大龍王の一角だとかのたまうヤベー奴と死んだと思ったら生きてたとかいうヤベー奴しか今のところいないんだよ。

 全員ヤベー奴じゃん。俺もその一人じゃん。なら、ダメじゃん。詰んだわ。


 頭にかぶさっているガサガサのタオルを顔に押し付けて絶望する。


 あぁーー、そもそもここどこだよ。落下したと思ったのに、気づいたら移動中の馬車の中とかほんとに意味わからない。まだ、まだこれが幻覚の中だとか言われた方がまだ納得できる…………現実だよ、これ。


 馬車内の息苦しさや温度、気を一切使われていない激しい揺れが否が応にもこれが現実であると押し付けてくる。


 なんだってこんなことに。意味が分からん。――――あ、痛い。頭ぶつけた。


 自分の状況を冷静になって考えてみた。そして思った。


 …………………次あったらとりあえずアイツらぶん殴ろう。


 俺はそう強く決意した。


 とりあえずらちが明かないので、もう一度情報収集を試みることにしてみた。


「あの~、ちょっと聞きたいことがるんだけど少しいい?」


 まずは、隣に座っている小汚い青年に笑顔で声をかけてみた。


「………」


「……………」


『へんじがない。

 ただの しかばねのようだ。』


 ――――いや、ちがうな。これ単に無視されただけだわ。


 どことなくしょんぼりとした気持ちになったが、まだ一人目なのでこんなものだと割り切り、次の相手だと気持ちを切り替える。それに次の相手は真向いの、何だかいつも酒場で酒をずっと飲んでそうな強面のおっさんである。


 コイツならフランクに返事をくれそうだと勝手な期待を込めて先程以上に笑顔で話しかけた。


「この馬車ってどこに向かってるか知ってたりする?」


「………」


「……………あの」


「……………チッ」


 ――――あ、無理だ、これ。諦めよう。


 どこからともなくポキリと心が折れた音がした。


 その後はしかたないので周りの人間に倣ってじっと死んだように動かず馬車に揺られ続けた。




 小さな車窓から入り込んでくる光がどことなく陰ってきたような気がしはじめてきた頃。


 俺は暇を持て余していた。


 狭い、暗い、臭い。………と言うか、このまま揺られてていいのか?この馬車の行き先に何かしらの邪神が用意した意味とかあったりするのか?護送車っぽいけど、周りの人間が実は全員極悪犯罪者ってわけじゃないよな。どうもそんな風には見えねえし。どちらかと言えば、全員何だか被害者ってかんじなんだよなあ。


 暇すぎて脳みそを使わずにだらだらと、そんなとりとめのないことばかりを延々と考えていたら――――ゴトンッと、馬車が急停車した。


「痛っ、頭打った。ちょっと三回目」


「お前ら、着いたぞ。降りろ‼」


 乱雑な口調で怒声が聞こえてくる。ガチャガチャとカギを外す音が聞こえ、ギィィィーっと古臭い音を立てながら馬車の扉が開けられた。


 自分達がいる空間に一気に新鮮な空気が入り込んでくる。


「全員一列に並んでとっとと外に出ろ。モタモタすんな、ゴミカスが‼」


 そうして馬車内に入ってきた男が一番扉近くにいた男の腹に蹴りをいれる。当然、腹を蹴られた男は咳き込みうずくまった。それを見た馬車内の人間は逆らわず、しぶしぶと暴力的な男の言う通りに従い始めた。


 それにしても、せっかく狭い場所から解放されたと思ったのにまた閉鎖的な束縛されたとこですよ。イヤになるね、ほんと。


 そう、内心で悪態をつきながらも俺も続いて外へと降り立った。


 ブワッと風が吹きすさぶ。どこかの森の中、今初めて俺は自分がどこにいるのかを知った。


「これは、コロシアム?」


 陽がだいぶ傾き始めた夕方ごろ、高さ20mほどの円筒形の建物が俺を見下ろしてしていた。ぐるっと外壁を囲む巨大な壁はそれだけで威圧感があるが、ところどころ欠けていたりと建築物の年代の古さも物語っていた。


 コロシアムを見上げながら俺は疑問が尽きなかった。


 何でこんな深い森の中にあるんだ?それも隠されるように?普通もっとコロシアムって言ったら見世物なんだから街の中にあるはずだし。もっと言ったら大きな街ぐらいにしかないようなもんだし。コロシアム……ではないのか?


 だが、ここに馬車で連れてこられた人達はそのようなことを疑問には思わないのか、コロシアムの入口らしき所で一人一人、荒くれ集団の仲間と思しき人間から何らかの指示を受けていた。


 結局、お外に出てみても自分の状況は分からずじまいですか。そうですか。ま、そんな予感はしてたんだけどね。にしても、まだここでも暇を持て余すことになるとは。どうしよ。


 入口の方に目を向けると、受付のようなことを行っている人間は一人しかおらず、列として並ばされている人達はまだそこそこの数が残っていた。最後の方に降り立った俺の順番はまだまだ先のようだった。


 どうしようかとあたりをキョロキョロと見渡すと、丁度近くにお目当てのものがあった。


「お、ラッキー。水たまりあるじゃん」


 そうして勝手にトコトコと水たまりまで列を離れて歩いて行った。


 決してのどが渇いたとかそんな理由でなく、俺はこの世界に生まれ落ちてからまだ一度も自分の姿を見たことがない。ここでしっかりと見てみる必要があった。


 ………だって、とてつもなく嫌な予感がするんだもん。馬車内からずっとどことなく、自分の体が小さいような気がしてならなかった。細い手足に低い目線。まるで子供のような………。


 いやいや、と慌てて首を振り、意を決して水たまりに写る自分の姿を覗き込んだ。


 そこにうつっているのは8才程だろうか、華奢で小柄な子供が黄色い瞳でこちらを見返している。顔立ちはこの幼さにしてはしっかりと整っているが、まだまだ子供らしいかわいらしさが残っている。そんな奇跡の一瞬であるかのような美しさとかわいさがそこにはあった。またそのアンバランスさがひときわ将来美形になることを物語っている。


 ただし、白いとてもキレイなはずの長い白髪は今はボサボサで体中も小汚い格好で汚れている。


 水たまりに写る自分の顔がみるみると青ざめていく。


「ハ、ハハッ……マジか。やっぱりガキだ。それもこんなへんちくりんのザコそうなガキ。どうすんだよ、これじゃあ、いつ神をぶっ殺しに行けんだよ。………顔もなんかすごいカワイイ系だし。そんなとこばっか秀でてたって全く意味ねえよ」


 空が今までよりもずっとずっと高く感じる。


「……………はぁ~」


 深いため息が自然と口から零れ落ちた。


 そうしていつの間にか俺の頭の上にずっと乗っかっていた汚いタオルケットを振り落とす。


 日差しよけか何かだったのか。とりあえず頭に乗っかっていたそれを取り除いて、もう一度だけ水たまりをのぞいてみた。


 結果が変わるわけないのに、どうしても何かが諦めきれず見るだけ見てみたのだが、俺はそれを一生後悔することとなった。




「な、ななな………んじゃこりゃぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」




 自分でもどうかと思う声が森にこだました。


「おう、うっせーぞ。何してんだそこで‼」


「あ?何事だ、こら‼」


 列を勝手に抜け出して自由行動を謳歌していたことが、この場を取り仕切る彼らに絶叫を聞かれ見つかってしまった。


 だがそれでも俺は驚愕状態を抜け出せずに、口がずっと半開き状態だった。あばばば。


「おう、クソガキ。そこでなにしくさっとんじゃ。お?逃げようたって意味ねぇのがその年じゃまだわからんのか、お?」


「あ?テメー兄貴なめてんのか、あ?無視してんじゃねえぞ、クソガキ」


「俺らなめてたら見せしめにぶち殺すぞって、お?なんだガキ、そのふざけたもんわ」


「あぁ?おい、クソガキお前聞こえてねえのか。あ?なんだそれ?」


 彼らが目にしたもの。それはぴょこんと生えた”ねこみみ”であった。


「お、おい。なんでぇそりゃあ」


「あ~?何を勝手にはやしてんだ。クソガキ」


 遠くで何か「あ?」だか「お?」みたいなことが聞こえてる気がするが今はそんなことにかまってる余裕はない。だって、え?いや、え?なんで?意味が分からない。ねこ?ねこみみ?なんで?いや、だっておかしいじゃん。いらないじゃん。必要ないじゃん。ねこみみだよ。え?必要なの?そうなの?なわけないじゃん。


 頭の中でぐるぐると同じことを考えては否定し続けた。え?どゆこと?


「おい、いや、だからなんでお前も一緒に驚いとんじゃ。おぉ?」


「あ?そうだぞ。というか、テメーが一番驚いてんじゃねーか」


「いや、俺もたった今気づいた」


「あ?な訳ねえだろが!お前今まで何年生きてきたと思っとるんじゃ。なめとんのか!あ?」


「お?ふざけてんのか、テメー。お?」


「…………いや、もお、なんでもいいよ。疲れた。で、なんだっけ。ああ、列に並びなおせって。はいはい、ちゃんと並びますよ。ハハハ………はぁ~」


 話を打ち切り一人とぼとぼと列へと帰る。


 足がこんなに重いのはどうしてかな?体が子供だからかな?ハハッ、むずかしことこどもだからよくわかんない~、きゃぴきゃぴ。


 ――――もう一思いに殺してくれ。


「おいおいおい待て待て待て。お前みたいな特殊な奴どうするか上に聞かなくちゃ、おい、だから、お~い」


「あ!テメー、兄貴が呼んで、おい。ホントに、お~い」



 しかし、彼らの呼び止める声が俺のそのかわいらしいネコミミに届くことは無かった。


死神の一言日記

「復讐したい相手が増えました」

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