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一章 プロローグ

※前書き部分が少し長いです。最悪読み飛ばしてもらっても作品を楽しむ上で問題はありません。




 今より約3000年前の神話の時代の1ページ目。


 創造神は己の魂を半分に切り分け、魔神を生み出した。その後、神は魔神とともに下僕となる火龍、水龍、風龍、雷龍、岩石龍たち五大龍王を基礎に世界を創造した。


 そして神と魔神はさらに己の力を切り分け、様々な神をその世界に誕生させた。


 そうして、創造神だったものは自身を光の神と名を改め、創造した世界に光を与えた。


 一方、魔神は魔を生み出し、世界に魔を与えた。


 光の神はその魔神の勝手な行動を良しとしなかったが、この世界に本来想定してなかった魔法と言う巨大な力が生まれ、世界はさらなる発展をとげることとなった。



 光の神は人間を作った。魔神はそれを真似ながら人間より優秀な魔人を作った。


 そのことに激怒した光の神は人間に聖剣とそれを管理する天使を与えた。


 だが、魔神は天使という存在に憤慨し、己の力の一端を一人の魔人に与え、魔王を生み出した。


 光の神や他の神々は魔神のその暴挙に怒り狂った。光の神は魔神と同じように一人の人間に祝福を与え勇者を生み出した。


 そして、他の神々も二柱の勝手な振る舞いを真似て、それぞれが己の子となる種族を生み出した。


 そうして世界には人間、魔人、エルフ、ドワーフ、ケンタウロス、獣人、人狼、吸血鬼、鎧骨族、人魚、天羽族など様々な種族で溢れかえった。


 そして、自身の子を用いた代理戦争によって神々はこの世の果まで全てを争いで埋め尽くした。

 

 神話の時代に語られる神々の争い。


 その決着は魔神を月に封印することで終結した。光の神が唯一神となることで神話の時代は終わることとなった。


 だが、地上に残された子たちは他全ての自分たち以外の種族を絶滅させるまで争いをやめようとはしなかった。


 ―――光の神はその戦乱の世をただ眺めた。ただ眺め、全ての終わりを見届けるだけであった。幾度の希望も絶望も神が介入することは一度としてなかった。



 そうして数千年後の世界では、人間以外の種族は全て滅びたとされ、ついに人間は人同士で戦争するようになっていた。そこから約50年後、世界はようやく一つの人間の国の元、世界統一された。


 以降、その翌年から統一暦2年として、暦が新しく制定された。


 そして現在、統一暦42年。死神は誰かの声によって目を覚ました。


「せやから、これは重要なことやねんっ!もっさい男をずっと監視するよりも、ワシはカワイイ女の子をずっと眺めてたいねんっ!」


「だからってそれでワタシに似せる必要はないじゃないっ!」


「あるわっ!!あるにきまっとるやろが!この世で一番かわいいのはお嬢っ!ならば、その世界一のお嬢に似せるんは必然や!それにお嬢の遺伝子も入っとるんやから似るのは当然やろ、文句言う方がおかしいわ」


「だからってあれはやりすぎよ!」



 少女とどこか鼻にかかったような男の声によって俺は目を覚ました。そして言い争っていた二人もすぐに俺が目覚めたことに気が付いた。


「お、ようやくお目覚めかい。大丈夫なんか?ちゃんと意識はあるんやろな?冗談やないで、超頑張ってワシがあそこから回収した言うのに。使いモンにならんかったら意味ないで」


「まったく悠長ね。随分と待ちくたびれた。本当にこんなやつが役に立つんでしょうね」


「まあまあ、目覚めんのに時間かかったんは仕方ないことや。随分と無茶しとったんやから。それに話したやろ。死神なんて呼ばれて、ぎょうさん人いっぱい殺したんやから。腕は確かやで、腕は」


「ふんっ」


 少女の態度は尊大で男の声の方が終始なだめていた。なんなんだこいつら。そう思って訊ねようとして、そこで俺は声が出せない事にようやく気が付いた。


(―――っ゛!――――――)


「あーーあーー、今はなんもできひんで、自分。今魂だけの状態やからな。ワシらの姿もようはっきり見えへんやろ」


 そう言われて初めて目の前にいるはずの二人がおぼろげにしか見えない事に気が付いた。


 一人は髪が揺れていて少女らしいシルエットが分かるのだが、もう一人の方は小さいぬいぐるみ程度の大きさの物が宙にぷかぷかと浮いているだけであった。


 一人と一匹?の二人組に俺はまったくの覚えがない。そもそも俺死んだはずだし。


 困惑していると宙に浮いてる方が俺に嬉しそうに話しかけてきた。


「おう、なんや、ビビり散らかしとるんか。安心しぃ、強く念じてくれるだけでなーに考えとるかワシら大体わかるから」


(な、なら―――ここは。いや、お前らは?)


 そう聞くと俺の周りを嬉しそうにクルクルとシルエットが飛びながら、待ってましたと言わんばかりに答えてくれた。


「よおーーーきいとくれました。一回しか言わんから耳の穴かっぽじってよう聞きや。ワシの名前は風龍や。せや五大龍王の風龍さんやで。自分、敬意をこめて風龍様と呼んでくれてええんやで」


 俺はよくわからん羽虫を無視して、もう一人の少女の方を見上げた。まあ、体ないから見上げた言うより、とりあえず意識を向けたみたいな感じだけど。


 少女はジッと黙っていた。だが、しばらく何かを考えるて、そしてゆっくりと口を開いてその名を名乗った。


「………………ワタシの名前は……邪神よ。そう、邪神。この世に混沌と災厄をもたらし、いずれ神を殺すもの」


 どことなく不敵に笑っているように感じた。ていうか、何かうれしそう?


「お、お嬢ついに……せやせやせや、お嬢は邪神や!せやで、あんのバカ神ぶち殺す、邪神様やーーー!」


 俺の困惑を無視して風龍を名乗るシルエットがはしゃぎ始めた。あ、今空中三回転ひねりした。


 そうして、風龍は少女の周りをからかうように飛び回る。


 少女の方は下にうつむきながら恥ずかしそうに肩をプルプルと揺らし始めた。


「―――!風龍、うっとおしい!」

「あいだっ!」


 邪神と名乗る少女は自身の体の周りではしゃぎまくる風龍を手でズベシッとはたき落とした。気を取り直すように俺に向き直り宣言してくる。


「とりあえず死にぎゃみだか何だかっ…………!!」


 ………噛んだ。


(…………もしかして照れてんのか?)


「せやねん。お嬢、自分で言っといて恥ずかしがることとかよくあんねん。今も自分で邪神とか名乗ってて急に恥ずかしくなったんやろ。まあ、ええねん。お嬢が本当に邪神であることには変わりないし。とりあえず、そっとしといてやってや」


 ふらふらと風龍が舞い戻ってきながら教えてくれた。照れるぐらいなら初めからやらなければいいのに。


 だが、照れているのを隠すように、邪神がバッと俺に指を突きつけてきながら大きい声で宣言してきた。


「そこっ!うるさいわよっ!ああもう、なんでもいいの!よく聞きなさい!とりあえずアナタは今日からワタシの下僕になったってこと!いい?今日からはワタシにひざまずきなさい。ワタシの言うことには全てハイか、了解しました、とだけ答えるの。それ以外の返事は認めないから」


 邪神の言葉を理解するのに数秒。そして理解した後の困惑に数秒。絶叫したのはその直後。


 ……………は、はあああああああーーーーーー!!!


 何もない白い空間に俺の声にならない絶叫が響き渡った。


 手も足も体もない状態だからどんな風に暴れまわってるか分からないが、とりあえずひとしきり暴れもした。


 いったいどういうことじゃい!!


 邪神はうっとおしそうにそんな俺を手で払いのけた。普通に痛い。


 そうして大人しくなった俺に風龍が目線?を合わせながら説明してくれた。


「まあまあ、別にキミに悪いだけの話やないんやで。自分、分かっとると思うけど一度死んだんやで。神を憎んで神に挑戦して死んだ。普通はそこで人生終了や。せやけどな、ワシがキミの魂回収して、お嬢の、邪神の下僕としてならもう一度あの世界に生れ落ちることが出来んねん。魂も記憶もそのままにな。どや、悪い話やないやろ」


 風龍の言うその話を聞いて一度冷静になって考えてみた。


 これからは邪神を名乗る少女の下僕になって、もう一度神に復讐のチャンスをくれてやると言う話だ。悪くない話なのか?邪神の下僕が何をしなくちゃいけないのかよくわからないが、復讐のチャンスをもう一度くれるなんて魅力的な話だ。そう………もう一度…………神を…………


「新しい肉体もあげちゃうで」


 ふむ……


「いや、実はもう完成しとるんやけどな」


 それはそれは……


「どや?どんなんか知りたいやろ?」


 でも、それを知っちゃったら俺に拒否権なんてね~。うふふふふ。


 俺がどうしようか迷っていると、分かってますよ、と言わんばかりに風龍が自信満々に近づいてきて、まるで内緒話でもするかのようにそっと耳元?で教えてくれた。


「全然すごくない」


 え?


「むしろ、最弱の部類」


 は?


 突如として風龍は、先程とは打って変わって真剣な声になりトツトツと答え始めた。


「もっと言ってしまえば前世の能力は何も引き継いどらんで。と、言うか引き継げへんかったわ。まあ、どんまい」


(へ?あの、ちょ、ちょっと何言って……)


「そもそも、自分の魂が変容しすぎやねん。なんやあれ?直すのにリソース割り振られすぎてどうしようもなかったわ。これ、全部キミのせいやな」


(い、いやいやいや、なに訳の分からないのこと言って)


「知らんわ。あほらし。人間をやめてた自分が悪いんやろ。わかっとるか?もっと自分の体を大事にせなあかんのやで。これからは自分一人の体やないんやから。ワシらの優秀な下僕になるんやで。その辺勘違いしとったらあかんからな」


 はっ、ははは。こいつらぶっ殺す。


「もう説明はすんだ?いい加減早くしてほしいのだけれど」


 その一言で俺の何かがぷつんときれた。


(だーーーー!誰がテメー等みて―な怪しい奴らの下僕になんかなるか!いいから早く俺の元の肉体でもなんでも持ってこい!とっとと持ってこねえとテメー等全員しばきまわすぞ)


 そこら辺をぐるぐると暴れまわりながら叫んだ。

 

 だが、風龍はなおも冷静にありのままを説明してくれる。


「元の肉体?そら、無理な話やわ。あんなんとっくのとうに燃え尽きてなくなっとるわ。燃えカスぐらいならまだ残っとるかもしれへんで」


 も、燃えカス…………あれ?ということはもしかして


「ああ、そうそう。キミの魔眼な。それも引き継げずに消え去ったから諦めてや」


 のおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……


 うなだれた。おそらく体があれば膝や手をついて絶望していただろう。怒りよりもどうあったって悲しみの方が勝ってしまう。


 だって、だって俺の大事な魔眼。どんな毒も状態異常も無効化してくれた俺の《反逆の魔眼》。マイラブ…………


(《魔王の鎖》は……?)


「当然引き継げんかった。というか、あんなんいらんわ。何やあの呪い。あんなん貰うから自分、死神なんてけったいな呼ばれ方するんやで。鎖は没収や、没収」


(…………………………刀は…………)


 ぼそりと呟いた。最後の一塁の望みをかけて、物欲センサーにも引っかからないように興味をない振りもして尋ねた。


 だが、希望は無残にも打ち砕かれた。


「どっかいった」


 …………ハハハハ…………何でだろ?悲しいのに笑えて来た。……もう、死のう。死んでるけど死のう。こいつら殺して俺も死のう。


(て言うか、どっかいったって何だよ………もうこの世からなくなったんだろ……俺の刀……)


「いや、ホンマにどっかいった。ちゃんと自分の魂と一緒に回収できたはずなんやけど、ある日気づいたらなくなっとった。いや、ホンマに謎やねぇ~。刀って勝手に消えたりするもんなんやなあ」


(そんなわけねえだろっ!正直に言えよ!失くしたんだろ、なあ?そうだろ。探したら出てくるんだよなあ?)


「本当に申し訳ない」


(へ?何言って?)


「私にもわからん」


 もうこいつはだめかもしれない。目の前にふよふよと浮かんでいるコイツは神妙な雰囲気で何を言っているんだろう。辞世の句かな。よしそうだろう。今すぐぶち殺してやる。


「ああもう長々とうっとおしいわね。いつまでそんなゴミムシみたいに魂だけでフワフワといるつもりよ。どうせ最後には神をぶっ殺そうって復讐しに行くんだから早く納得しなさいよ。そもそもアナタは今日から私たちの下僕で最初から選択権なんてないの」


(だ~~~れが、貴様らの下僕になんてなるかっ!テメー等みたいなインチキ臭え奴になんか従うか。俺は別の方法で生き返る。ないならないでどうにかしてもう一度神に復讐する!テメー等とは関係なくな!)


「下僕のくせにぐちぐちと。復讐の道しか生きられないってのにみみっちく文句ばっかり言って。一度は復讐相手に敗れたことを後悔しなさい。そうすれば生まれ直せる価値が分かるわよ。それにそれだけ元気にうっとおしいのなら呪いの方も大丈夫そうね。なら、もう行くわよ」


 そう言って邪神は俺の魂だけの体を片手でつかむと、人型の何かにそのまま勢い良く叩きつけた。


(ぶへっっっ!!!)


「いいからとっととあの世に生き返れっ!」


 そうして次の瞬間、俺の体に謎の浮遊感を感じた。


「へっ?いや、あれ?これ落ちて……」


 視界が急に開けたと思ったの束の間、謎の縦穴へと落ちていた。


「あ?ああっ!ああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


 俺の声だけがずっとこだましていた。


「死にさらせ、クソボケがー!!!」



##########



 死神が落ちていくのを見送った邪神はやれやれと肩をすくめて言った。


「本当にあんなので良かったのかしら」


「それは……でもあれやで、神に傷をつけた人間はあれが初めてやで」


「頬に小さく切り傷一つでしょ。見てたから知ってるわよ」


「でもな、それだけで十分奇跡やで。創造物は創造主を決して傷つけられない。そんな当たり前のルールを知らん人間がそのルールを破ったんやから。ワシらのたった一人しか選べへん駒には、あの人間以上の存在はこの先の未来もずっと現れへんよ。アイツがワシらが五百年間ずっと待っとった人間であることは間違いないで」


「あの間抜けヅラがねぇ。あれがこの世界の命運を握ってるなんて信じたくはないわね」


「いや、間抜け面はお嬢が急に魂を器に入れて下に落っことしたからで……」




「「あっ………」」




 そこで二人の声ははもり大事なことを思い出した。


「どこに落として何をするかも何も教えてへんかった」


「大切なスキルも渡してないわよ」


 そうして、一人と一匹は顔を見合わせ呟いた。


「「やっべ」」



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