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6.5. 幕間②

言葉の最初が何故か「お」になる兄貴と、言葉の最初が何故か「あ」になる子分の話です。


「お?」

「あ?」


「………あっ」


 一人の眼鏡をかけた青年と男たちは互いに目を見つめ合わせながら呟いた。


「………これはどうもどうも。あ、僕はすぐどっか行くので、これで」


 エディックがそそくさとその場を後にしようとする。


 その肩をがしりと掴まれた。


「お?そんな冗談で見逃せてもらえると本気で思ってんのか?お?誰だ、コラ。テメー、見ねえ顔だな」


「あ〜ん、テメー、コラ。兄貴無視してどっか行けると思ってんじゃねぇぞ」


「ちょ、あ、あーーーー!!」


 通路にボコスカと人を殴る音がこだまする。


 そして、二人を殴り終わったローレンスは彼らを見下ろすのだった。


「で?こいつらなんだったんだ」


「さ、さあ?おそらくソランの手下か何かでしょうが……」



「あ、兄貴ぃ……」

「お、おらぁ……」



「……助けてもらって言うのもなんですが少しやりすぎじゃないですか」


「いつもだいたいこんなもんだろ」


 ローレンスはてきとうにそう返事するだけだった。


 ため息混じりにエディックが批判するが、それを無視してローレンスは話を続けた。


「それよりもここらでいっちょ派手に祭りを打ち上げるか!」


 突然のローレンスの話題にエディックは困惑の表情を浮かべるしかなかった。


「はい?」


「このコロシアム乗っ取ったソランとか言うガキ、ムカつくから、ここ去る前にいっぺんしめちまおうぜ」


「は、はい?何不良みたいなとんでもない事仰ってるんですか、団長?今すぐ帰りますよ」


「うるせぇ、決定事項だ、今から戦争始めるぞ。戦争。準備しろ」


「は、はああああああ?」


 エディックの素っ頓狂な声が響く中、その話が聞こえていた二人は驚愕するしかなかった。


 地面に寝転がりながら顔を見合わせ相談をし始めた。


「あ、兄貴。これって……」


「おう、やべーぞ。ソランの兄貴が危惧していた緊急事態ってやつだ」


「兄貴、じゃ、じゃあもしかしてこれって」


「俺はここを引き受ける。お前は俺に構わず先にいけぇぇぇぇぇ!」


「あ、兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「何いってんだコイツらは?」


 兄貴と呼ばれている方がガバリと起き上がり、ローレンスたちの前に立ちふさがる。


「お前ら!ここを通りたくば俺を倒してから行け!絶対にあいつの後は追わせねえぞ」


「よくわからんがあいつは何しに行ったんだ?」


「お?知りてえか?ならば教えてやる。こういう非常時のために、ソランの兄貴から色々とマニュアルが用意されていてだな!あいつは今戦力確保のため獣たちの檻を開けに行った。はっはっはっ、いくらテメーが強かろうともう手遅れだ!このコロシアムの転覆はさせねえ!」


「ほう………ちとめんどくさそうだな。おい、セバスチャン。こっちも戦力の用意だ。やるぞ」


「セバスチャンじゃなくてエディックです。どんな間違え方ですか」


 エディックが文句を言う間にも、男は数秒で物言えぬ姿に変えられていた。


「おぐぶへぇっ!」


「よし!とりあえず、このコロシアムにいるバカ共らに剣を配るぞ。それで好き勝手暴れさせりゃ少しは祭りが盛り上がるだろ」


「何むちゃくちゃ言ってるんですか。それよりも獣人の少女を迎えに行くんですよね。行きますよ」


「ええ~、別にアイツはいらねえよ。捨てていっちまおうぜ」


 そう言って二人は駆け出していった。

 



 そのころ、もう一人の男は獣たちが収容されているエリアにたどり着き、鍵を開けようとしていた。


「ん?どうした?こんな夜更け過ぎに慌てて」


「あ?そんなことより戦争だ!戦争!ここの檻の鍵はどこだよ、あ?」


「はあ?戦争?何言ってんだ、お前はよう。今更このコロシアムの誰が起こすってんだよ、そんなこと」


「ああ?もういいから鍵よこしやがれ!俺が開けてくる」


「あ、おい!」


 そうしてガチャガチャと牢屋の扉を開けようと、何本かの鍵で試していく。


「ちょっとはお前、気を付けろ。中には全部の檻を一気に開けられるやつもあんだから。そうなったらあぶねえだろ」


今日の当番の男がそう声をかけた瞬間、



ガチャンガチャンガチャン―――と、



全ての檻の扉が開かれた。


「あ……やべっ。ミスった」


そう漏らされた言葉と共に全ての獣が解き放たれた。





 そしてそれから数時間後。


 今コロシアムの中ではいままでに類を見ない数の、様々な獣と屈強な剣闘士たちが争っていた。


「あ、あわわわわ………どうしよ、ヤバいヤバいヤバいヤバい」


「お?無事だったか、弟分。今はどんな状況だ」


「あ、兄貴ぃぃ~。生きてたんですね、兄貴!俺てっきり兄貴はアイツらに殺されちまったもんだとばかりに」


「俺様がこんなとこでくたばるタマかよ。お?一緒に天下取るって約束したじゃねえか」


「あ、兄貴いいいいいいっ!」


 抱擁する二人の後ろをゆっくりと虎が通り過ぎた。


「ふしゅるるるるるるる………」


「…………お?とりあえず今は逃げるか」


「あいっす。兄貴…………」





 そしてそれから数時間後。


 ニャーという悲鳴が響く中で、二人はこそこそとコロシアムの外まで逃げてきていた。


 そしてソランとローレンスの戦いの一部始終を隠れてみていたのだった。


「あ、兄貴………ソランの兄貴が……」


「お?やべーぞ。革命が成功しちまいやがった。どうすんだよ、俺たちソラン派はこれからどうなっちまうんだ。俺が運営資金とか横領していたのがばれたら、やべーぞ」


「兄貴、そんなことしてたんですね」


 二人は顔を見合わせ呟いた。


「おい、逃げるぞ」


「あい、逃げましょう」



 朝焼けに浮かぶコロシアムを背景に、二人はコソコソとトンズラをこいてコロシアムから逃げて行くのだった。



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