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8.「ジジィ、でしゃばんじゃねぇ」

「耳付き……」


 怒気をはらんだ声が俺へと向けられる。


 ソランに付き従う巨漢の部下も、俺に向けて怒声をあげた。


「この騒ぎは全部貴様の仕業か!?獣人風情が!人間様に楯突きやがって。ぶっ殺してやる!」


 そう叫びながら剣を抜き放ち、こちらへと向けてくる。


 こいつ、どっかで見たような。ああ、そうだ。コロシアムについて一番最初に会った暴力男だ。


 あれ?そう思うとコイツなんだかムカついてきたな。


 フッと目つきが細くなった。


「……獣人風情ね……ま、何でもいいや。来るなら来いよ。ぶっ殺してやるよ」


 冷たく言い返してやった。自分の中で何かがスッーと冷たくなっていくのがわかる。


 静かに眼前の敵を睨みかえす。


 一千一万の屍を築き上げた死神が、いま再び殺意を持って敵を睨んだ。


 こちらの態度に怒りを持って男が駆け出してくる。


「やってみやがれ!クソガキがーーー!」


 上段からの振り下ろし、流れるように二の太刀、三の太刀と続けざまに刀が振られていく。


 しかし、いずれも大振り。


 ひらりひらりと避けて、いずれも掠ることはなかった。


「クソッ、《剣技:中》のスキルをこっちは持ってんだぞ。何でテメーみたいなクソガキがそう軽々と交わせるんだっ!」


 苛立ちを隠さず巨漢は叫ぶ。


 だが何も答えず、ただ静かに敵を観察し、相手との間合いを推しはかる。


「な、なんなんだよ、いったい」


 そこでようやく、男は目の前の少女の異様さに異常さに気付き始めた。


 こちらがどれだけ怒鳴ろうと感情をぶつけようと目の前の獣人は揺るがない。殺気立つことも答えることもない。ただひたすらに観察してくる。


 冷静に、殺意を持って。


 敵をどう殺すかだけを考えている。


 目の前の小さな少女がだ。


 冷たく、殺意を持って見つめてくる。


 己の素性も個性も人生も全てを無視して、ただ殺すためだけに見つめてくる。


 そこに情も迷いも一切ない。


 異様な状況に男は恐怖した。


 自分を見ずに自分のことを殺そうとしてくる。


 巨漢の男はそこで初めて『死神』のことを恐れた。


「クソがっ、ふざけんなよ……クソがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 男は剣を後ろへと引きタメを作った。


―――っ!あの構えは


 そうして男の剣は鈍い光を発して準備の終わりを告げる。


「死にやがれ!《ストライクレイト》」


 ザンッと顔の横を光の刃が通り過ぎた。


 なんとか間一髪で避けることができた。


 だが、それは事前に男の構えから《スキル》の発動と種類が特定できたからであり、それでもギリギリでしか避けれなかったとも言える。


 そうして、男は続けざまに《スキル》を放った。


「《ストライクレイト》《ストライクレイト》《ストライクレイト》ー!」


「チッ」


 幾重にも交差して迫ってくる光の斬撃。


 それを大きく空中へと二転三転、体をひねり、跳んだりと器用に躱して見せた。


「何で避けれるんだよっ!」


「さぁ?それよりも尻尾があとちょっとで切れそうだったわ。あぶねぇ」


「ぐ、ぎぎぎっ」


 巨漢の男は己の渾身の《スキル》を躱し、なおかつまだ余裕を保っている俺に、煽られていると感じたらしい。


 その気は実際のとこなかったのだが。


 それでも現実として男は侮辱されたと感じ憤怒した。




 そして、その二人の殺し合いを遠くから静かに眺めていたソランは考えた。


「(あのガキ、ずいぶんと戦い慣れてやがる。《スキル》を使って避けたわけでもなさそうだし、そう今のは完璧に《スキル》の動作を見切って避けやがった。いったい今までどんな生き方してきたのか知らねーが普通じゃねえ。今も流れはガキの方にある。このままじゃホントに勝っちまうかもしんねえな)」


 だが、それでもソランは助けることはせず、ただ戦況を見守った。



「フー、フー、ふざけんなよ。なんで俺がテメーみたいなガキにいいように振り回されなくちゃいけねえんだ。おかしいだろ。とっととくたばりやがれ!」


 そうして怒りのままの一撃。


 もはやそれは突撃というよりもタックルに近い攻撃であった。


「《ダイレクトバスター》!!」


 《スキル》を叫ぶ大きな怒声。気合と共にはな垂れた渾身の一撃。


 だが、それはどの攻撃よりも大振りな一撃であった。


 そのスキを見逃さず、右足を一歩前に。


 剣と剣の側面同士を激しくぶつけ、力を横へと受け流す。


 そうして大きく隙間ができた敵の胴体に剣を勢いのままに突き立てた。


「ガホッッ……」


 巨漢の男はホントはこれから馬に乗って逃走する予定だったのだろう。比較的軽装であり、防具は革の胸当てしかつけておらず今の俺の非力な力でも、一撃で胸のみぞおちにズブリと刺すことができた。


 そのまま勢い良く剣を抜き放ち、再び敵と距離をとる。


 だが、


「ヴッ……バフォッ……」


 男は膝をつきグルンと白目を向けば、血が混じる赤い泡を口から溢れせ、一撃でドサリと無惨に死に絶えた。


 その様子を眺めながら、剣についた血糊を勢い良く振って払い落とす。


 そうして、そのまま何事もなかったかのように次はソランへと剣を向けた。


 その淡々とした様子にソランは呆れたように言った。


「ハハッ、これでも大事な部下だったんだがな。耳付き、お前今までどんな人生歩んで来たんだ?おい。人一人殺しておいて何でそんな平然としてられるんだよ、なぁ」


 何言ってんだこいつは?


 冷たく一言だけ答えた。


「知るか」


 何が気に障ったのか、ソランが睨みつけてくる。大木にもたれかかっていた姿勢を直し、剣を構えて少女おれを見据えてきた。


「俺はお前みたいな奴が大嫌い何だよ。人を人とも思わねぇその目が。アイツを、あの時のことを思い出させるんだよ!!」


 ソランが斬りつけてくる。剣で受け止めるも勢いを殺しきれず後ろへとよろめいた。


 そこにソランの蹴りが飛んでくる。


 腹に一撃を貰って、勢い良く吹っ飛ばされれば、小さい体は地を転がり泥まみれとなった。


「クッ」


 立ち上がり体勢をすぐに直して、剣を向けるもソランからの追撃はなかった。


 ただ、上から見下ろすソランの視線が先程よりも強まっている。


「その態度も気に食わねぇ。諦めないで何度でも立ち上がる。人を殺すことしか能がねぇくせに諦めねえ。感情なんかないくせに怒ったふりをする。何なんだ。いったいテメーら何なんだ!あぁっ!」


 攻撃の代わりに罵声が飛んでくる。


 何がそこまでソランを怒らせたのか全く理解ができない。が、その言葉は俺の胸に突き刺ささった。


 だが、それでも


「知るか……」


 今の俺にはそう答えることしかできなかった。


「そうか……なら興味はもうねえ。死にやがれ」


 そうしてソランとの剣の打ち合いが再び始まる。


 だが、戦いは終始ソランの方が優勢であり、どうあっても防戦一方でしかなかった。


「グッ……クソ……」


「どうした、その程度か。獣人ってのはその程度なのか!」


 ソランの一撃一撃が重く、防ぐ度に剣が持っていかれそうになる。


 先程の男とは違い、ソランはしっかりとこっちの動きを見ている。ただスキルに頼っただけの剣技ではなく、しっかりと実戦経験に基づいた動きで追い詰めてくる。


 俺とソランに、さっきの巨漢とのような剣技についての差はほとんどなく、後は体格差で優劣が決まるだけだった。


 つまり、俺は圧倒的な体格差の前に成すすべなく殺されそうになっていた。


「オラッ!」


 重い一撃が俺の剣を遂に上へと持つあげた。


 そしてその瞬間、ソランがトドメを刺そうと剣を頭上に構える。


 ―――そこっ!


 剣が折れることも構わず、ソランが振る剣に真正面から勢い良くぶつけた。


『押してダメなら引いてみろ。引いてもダメなら押し倒せ』


 剣と剣が交差する瞬間、瞬時に力を抜き敵の虚を突く。


『鉄血』ローレンス・バーリウッドから唯一教わった技。


 それを命のやり取りの最中で仕掛けにいった。


 ………が、刹那の空白を支配する前にソランの左拳が飛んできた。


 顔面に直撃し、態勢が大きく崩れる。


 そのまま蹴り飛ばされ、再び地面に転がされた。


「そんなもんが人にホントに通用すると思ったのか!動物相手ならいざ知らず、そんな小手先の子供騙し、通用する訳ねえだろ。あまり、こっちをなめるのもいい加減にしろよ。耳付きだか何だか知らんが、現実ってものを教えてやる」


 ソランが転がっている俺を睨み付ける。


「少しだけ本気を見せてやるよ。世界に歯向かったこと後悔させてやる」


 この現状が世界の圧倒的理不尽だとソランは言う。


 そして諦めろと、大人しく死ねと伝えて来る。


「グッ……クッ……」


 歯を食いしばり無理やり立ち上がる。そして、勢い良く飛び下がりソランとの距離をとる。


「んなもん意味ねえ」


 瞬時にソランは剣を構え、目の前の虚空を薙いだ。


 ゾワッと、その瞬間ひどく嫌な予感がし、右へ大きく跳んだ。


 だがそれでも、左肩から大きく血飛沫が飛びあがった。


ッ…」


 何も見えなかった。理解不能の一撃をジッと考える。


 今の攻撃は認識することさえできなかった。


「ふん、今のを避けるか。そう言う所はバケモノだな」


 傷口を押さえながら睨み返す。


 だが、ソランはなおも言葉を続けた。


「分かったか、お前が『獣』や部下達に勝って何を勘違いしたが知らねえが、これが現実だ。とっとと諦めちまえ」


 ソランはそう語り、ボロボロの傷ついた少女を見下ろす。


 見つめかえす俺に早く諦めろと剣をもう一度向けた。


 首筋に刃の冷たい感触を感じる。


 ――――――ッ、クソがっ。


 だが、そんな時だ。上方から声が聞こえた。


「はっはっはっ、大ピンチじゃねーか。負けそうになってやんの」


 そうしてバキバキバキッと木をへし折る音が鳴り響き、ドスンと『鉄血』ローレンス・バーリウッドが上から降ってきた。


「俺、参上。はっはっはっ、まだなんとか生きてたかクソガキ。もう死んだかと思ってたぜ」


「うるせー、こっから勝つんだよ」


「はぁー?絶対に無理だろ。逃げることも出来ずにくたばるのが関の山だ。いいからすっこんどけ。こいつは俺の相手だ」


 そう言って巨大な剣の切っ先をソランの方へと向けた。


「ジジィ、でしゃばんじゃねぇ」


 不愉快そうにソランは吐き捨てる。


 その態度に、


「連れないこと言うなよ。俺とお前の仲じゃねえか。それに、このガキと俺もそう大差ないしな」

そうおどけて見せた。


「………クソジジィが。もう何でもいい。テメーもそこの耳付きも最初からムカついてたんだ。だったら両方ぶっ殺してやるよ!」


 そう吠えてローレンスへと斬りかかっていった。


死神の一言日記

「で、ソランとの仲って?」

「知らん。今日初めてしゃべった」


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