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題3話 朱色セロファン


ふと顔を上げると

夕日が教室を朱く染め始めていた。

隅には夜を思わせる薄い影。

朱色と黒が市松模様みたいに教室を彩っていた。

数十分前までは賑やかだった教室も

今では、日直の彼女と俺以外誰もいない。

彼女は時折溜め息をつきながら、箒で床を掃いていた。




俺はそれを横目で眺めながら机に座っている。

理由なんてない。手持ち無沙汰だったのだろう。

自分の分担はとっくに終わってしまったしな。きっとそうだ。

だからといって掃除を手伝ってやる、なんて選択肢はない。

掃除の当番はあいつだけとなっている。

仕事の分担をした時点で量の差に気付かなかったあいつが悪いだろ。

つか、何に言い訳してるんだろね。

自分で自分に意味の無い言い訳なんて本当に意味がな・・・


 「あのさぁ。あんたもやってよ掃除。」


あぁもう。人が考え事してるっていうのに。

しかも口を開いたと思ったらそれかよ。

正直に落胆を顔に出す。


 「今思えば、分担内容が不公平でしょ。」


彼女の顔が少し不服そうに歪み、しかしその瞳は俺を睨みつけたまま動かない。

濃い茶色の瞳が、夕日で朱く染まっていた。

まるで赤いセロファンを通して世界を見ているようだ。


 「・・・なんか言いなさいよ」

 「赤いセロファンを通してるみたいだなーと」

 「は?」

 「ほら、今日は夕日が綺麗じゃんか。世界が赤いなと思ってたら

  誰かさんも顔も真っ赤で、思わず見とれてたんだよ」


これぐらいの怒り、適当に流すのが手っ取り早い。

彼女は沈黙し、顔を俯ける。

だがすぐに顔をこちらに戻す。本当に顔が真っ赤だ。

今日も相変わらず沸点が低い。逃げる準備はしておこう。


 「なんで平気でそーゆー事言えんの?」

 「普段から言い慣れてるからじゃないか、知ってるだろ」

 「・・・誰にでもそんなこと言ってるなんて外道だね。」


・・・なぜそこまで言われなければならないのか。

それに皮肉なんて、言って大丈夫な相手にしか使わない。


 「彼女にだけ言ってあげなよ、そーゆーのは!」


どうしてそこで彼女が出てくるんだ。話が飛びまくりである。

煽っておいてなんだが、少し落ち着いてほしい。

そもそも、彼女にだけって・・・そもそも彼女が・・・

そうか、これは嫌味なのか。

自分で考えながら少し切なくなる。


 「彼女が居れば是非」

 「・・・居ないのは知ってるよ」

 「知ってたら俺が驚くな」

 「・・・だからって、あたしにそんな事言わないでよ!

  変に勘違いしたらどうすんだバカ!」


俺もそこまで鈍感じゃない、と思う。

噛み合わない理由がわかった。

怒ってるではなく、まさか照れてるのか?

照れるなんて珍しいじゃないか。

こんな面白い状況はそうそう無い。


外道なんて言われたんだ。

外道らしく全力でからかうしかないじゃないか。


 「何を?」

 「何をって・・・何がよ」

 「何を言われたら、どう勘違いすんだ?」


ニヤニヤしないようにするので精一杯だった。

彼女は俯き、うなだれてしまった。


 「・・・うぅ・・・」


ただ、さっきよりも顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。

夕日の色だと信じたい。信じたいが・・・

あーやばいか、宜しくないなこれは。

少し調子に乗りすぎたようだ。

罪悪感その他諸々の感情が湧いてしまいそうだ。


 「・・・元はといえばあんたが!」


びしっと俺を、箒を持っていない左手で指差す。

いや、そうしようとした、が正解。

頭に血が上って周りが見えてなかったのだろう。

思いっきり手を机のカドにぶつけた。


 「いっ・・・たぁー」

 「おいおい大丈夫かよ。手、痣できてないか?」


まじで痛そうだ。すげぇ音したぞ。

俺は吹き出すのを堪え、近づく。

ヤツは手を押さえ、俯いたまま動かない。

そろそろ謝っとこう、良い機会だ。


・・・しかし、ヤツはあろう事か捨て身で襲い掛かってきやがった!

この流れは読めなかった。つか謝ろうとしたのに!

空気読めよ!こいつ獣かっ!怖ぇっ!


 「ぐへっ!」


床に叩きつけられ、鈍い音を立てて頭を打った。

痛い。予想外すぎて受け身が取れなかった。

もしや、このまま殺されてしまうのか?バッドエンドか?

なんて痛む頭でまだふざけている俺の脳みそ。いい加減にしろ。


 「あんたさぁ・・・あんたさぁっ!」


あぁ、なんか重いと思ったら馬のりされてるのか。

今、重いなんて言ったら本当に殺されそうだ。

ヤツの顔が見える。苦しそうな顔だ。

逆光のせいでよく見えないが、もしかして泣いているのかもしれない。

でもなぜだろう、俺も凄く胸が苦しいんです。

思考と現実が一致しない。


 「あたしをおちょくりたいんなら変に優しくしないでよ!

  バーカって笑えばいいじゃない!なんでよ?なんで?」


いつもの皮肉が出てこない。

その質問にとっさに答えることは出来なかった。

急にあたりが暗くなり始めてる事に気付く。

ようやく思考が現実に戻ってきたようだ。

冷静なのか焦ってるのかわからない。


 「・・・ごめん」


謝りながらもなかなか動かない。

なぜか焦る。焦る。何に?

くだらない皮肉はまだ出てこない。何か言わなければ・・・

世界が壊れてしまうような、気がした。


 「好きだから・・・かな」


すっと口が言葉を紡ぐ。

自分でも内容に驚くが、その言葉に気付かされた気持ちを想う。

胸の苦しみが少し、解れた気がした。


 「…え…っあ…冗談・・・だよね?」

 「あぁ」

 「死んでしまえっ!」


振り上げられた拳をなんとか寸前で押しとどめる。


 「冗談だよ」


いつものように笑えてるか?

彼女はバカ、死んでしまえと力無く繰り返していた。

もう拳には殴りかかる気配はなかったが、手は離れない。

彼女と目があう。

薄く微笑んだ気がしたが慌てて目を逸らす。

こいつ、こんな顔してたっけか。一瞬見惚れた自分が悔しい。

朱色のセロファンのせいだろうか。そうに決まってる。


 「・・・意外に可愛いじゃん」


夕日の朱で顔色が隠れてれば良い、そう願った。







二人は並んで帰る。

二人のセカイはこれからも。これからも。

朱色は沈んでしまった。

朱色のセロファンはもう見えない。


夕日は回る。

次の二人を優しく照らす為に。

朱色のセカイを連れて。どこまでも。どこまでも。


少し短いですが、これでBoy's side も終了。

2人のセカイはおしまいです。


終わらせることが出来て良かった・・・


拙い物語でしたが、読んで頂き有難う御座いました。

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