6 未来予知の攻略
「そういえば、君のユニークスキルをきいていなかったね。まあ、ユニークスキルを明かすことは命取りだからふつうはしないものだけれども。その竜が関係してることは間違いなさそうだが」
「【人竜融合】!」
その詠唱とともに、神竜の体が黒い霧となる。
俺の体を、足の方から装甲のように覆っていく。最終的には顔までいく。
「ユニークスキル・【竜騎士】、というところだろうか。顔まで竜そのものになるとは」
自分からは見えていなかったが、この反応を見るに、【人竜融合】時には人からは竜人のように見えるのだろう。
「まあ、そんなところです」
本当は【早熟】だが、あえていわない。神竜から授けられたユニークスキルだ。仲間をかたっていても、これだけはしばらくの方が黙っていた方がよいだろう。
「頼りない短剣だけじゃ、弱そうだと思われてもおかしくないが──────この勝負、私が勝つと確信している」
「強気だな、古海さん」
「強気じゃなきゃ、死線は潜り抜けていないさ、君」
ここで、古海のステータスを確認しようと思ったのだが。
どうも人のステータスは覗けないらしかった。強さを確かめるのは、戦ってみてからのお楽しみというわけらしい。
俺と古海で距離をとり、攻撃のタイミングをうかがう。
「私の剣では鱗に通らないかもしれない。よって先に相手の首を切る寸前までいけば勝ちとする。死んでは困るからね」
「わかりました」
剣を両手で握り、構える。あちらも、短剣を両手で握ってこちらの様子を伺っている。
「スタートは君のほうからで構わないよ」
未来予知の能力、【第六感】。下手に動けばすぐに行動を読まれて負けてしまう。
一本とれば勝ち、という形のようなので、有意なのはもちろん古海だ。しかし、まだユニークスキルの真意を見たわけではない。
慎重に、いこう。
「では、いざ!」
一発で勝負を決めにいくのは、リスクが高い。よって、はじめから一本を取りにいかなければいい。
俺は、まずはあえて相手の足を狙いにいく。
「いろいろ考えているようだが──────私には、すべて見えている」
足はフェイントで、本命は肩。そうするはずだったのだが。
切り替えて軌道を変えようと思ったときには、すでに肩のほうに短剣が移っていた。
「何?」
そのまま俺の黒剣は吸いよられるように短剣に衝突する。甲高い金属音が、響く。
「私の相棒が刃こぼれするじゃないか。あまり刀同士はあわせたくないんだよ」
ガラ空きになった俺の足を、古海は強く蹴り込んでバランスを崩させた。
「うぐッ!」
前のめりになって倒れていく。このままだと、すぐに負けてしまう。
「このままなら、私の勝利だな。思っていたより、強くはなかったか……?」
倒れていく方向に、短剣が向けられていく。
このままだと、負ける────────────
……いま、なんていったか?
このままなら、負ける。
そうだ。「このままじゃなければ勝てる」ということ他ならない。
たとえ「今の実力」で負けるとしても、俺が「すぐに」成長すれば、この局面を乗り越えられる。
俺のユニークスキルは、【早熟】だろう?
たかがおっさんの勝負に負けるほど、やわじゃないよな?
倒れていく状態なのに、後ろに素早く滑れたら回避できる。これなら──────
「はぁぁッ!」
指先に力を込めて、後ろにがっと下がるイメージ。
「いける!」
指から空気砲が発射されたかのような容量で、俺は一気に後ろに下がれた。
そのぶん、壁に背中を強打したが。
「どういうことだ? 私の【第六感】では、君がここで負けるはずになっていたはずなのに……?」
「古海さん。赤城竜司は、この戦いの中でも進化を続けている。どうも、あんたの力はそういうイレギュラーは対応していないらしいな」
「少し、違うな。少し強くなる程度なら、この【第六感】でも、予測が可能だ。だが、君は私の予想の範疇を遥に上まるほどの成長スピードだ。どうも、ただの探索師ではなさそうだな。しかも、これが初日だとは」
完全に古海の顔から自信というものが削がれていた。
「じゃあ、この勝負、俺がいただく──────」
先ほどの力を、今度は全身に使い。
接近してすぐ、黒剣で短剣を薙ぎ払った。
そして、剣を首に突きつける。
「……私の、負けだ」
これが、【早熟】の力の一端なのだろうか。
わからないが、相当な力であることは実感できた。