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1 兄の死と予言

 日が暮れた頃、俺はダンジョン支部へと向かっていた。

 兄さんがダンジョンに潜ってから、三日も帰ってきていないのだ。


「ダンジョン支部」とは、ダンジョンに隣接した施設だ。探索師────ダンジョンに潜りモンスターと戦う者のこと────の情報を管理している組織だ。


 俺の中では、嫌な予感が渦巻いていた。

 探索師は、死と隣り合わせの危険な仕事。探索中に死ぬケースは、少なくないからだ。


 俺は支部に入るやいなや、受付まで走った。


「受付嬢さん! 兄さんは、兄さん無事ですか。もう三日も帰っていないんだ」

「急に言われましても……いったん落ち着いてください。まずはあなたの名前をうかがってもいいですか」


 気持ちを前面に押し出してしまった。

 つい不親切な言い方になってしまった。


赤城竜司(あかぎりゅうじ)。十五歳。兄さんは、赤城王牙(あかぎおうが)。二十一だ」

「少々お待ちください」


 受付嬢は、背後の本棚へと歩いていく。

 病院の診察室のように、いくつものファイルが挟まっていた。


 目的のファイルを取り出し、パラパラとページをめくっている。

 途中で手が止まると、別の棚から袋を取り出して戻ってきた。


「あなたのお兄様は────残念ながら、亡くなられました」

「まさか、何かの冗談ですよね」

「第三層の最深部で襲われたそうで。職員が救出に駆け付けたときには、首から上がなくなっていたようです」


 彼女はデスクの上に置かれた袋をつまみ、カウンターの上に差し出した。


「手首についていた【ステータスバンド】の情報を見てもらえばわかると思いますが、赤城王牙さんであるのは間違いありません」

「本当に、死んでしまったのか……」


 深呼吸する。探索師がダンジョンの中で死ぬことなんて、よくある話だ。

 それが、俺の唯一の身寄りである兄さんだっただけだ。


「こちらが遺留品です」

「どうも」


 密閉されたビニールの中に、兄の形見となるであろうものが入っていた。

 気持ちが、溢れ出しそうになる。 


「心中お察しします。まだ気持ちの整理がついていないとは思いますが……」


 この場にいるのが、つらい。

 そう認識したときには、すでに俺は走り出していた。


「あの、まだ話は終わって……」


 自動ドアが開く。とにかく、ここから出たかった。

 外は、ひどい雨だった。体を容赦なく叩きつけてくる。


「ちくしょう、ちくしょう……」


 俺は、ダンジョンの存在自体が許せなくなった。。兄さんを殺した、ダンジョンという存在が。


 ダンジョンが世界に現れてから、すべて変わっちまったんだ。

 ダンジョンさえなければ、兄さんは職を失わずに済んだ。

 ダンジョンさえなければ、兄さんは死なずに済んだ。


 頼りになるのは兄さんだけだった。それなのに。


「くそッ!!」


 ダンジョンを無に返せるだけの、力が欲しいと思った。

 大事な人を殺した人間を恨むのと同じように、俺はダンジョンが憎いと思った。


 膝からガクリと崩れ落ちた。俺は天を仰いだ。

 地面を拳で何度も殴りつける。兄さんがもう帰ってこないと思うと、やるせなかった。


『汝、竜の力はほしいか?』


 頭の中に流れ込む、見知らぬ女の声。

 甘く囁きかけ、俺を誘惑してきそうな、怪しい声だ。聞き間違えだろうか。


『汝、兄の復活を望むか。兄を死に至らせたダンジョンを憎むか』


「兄さんの復活を望む。そして、俺はダンジョンを憎んでいる」


『ならば、今すぐ舞風ダンジョンの第三層へと迎え。私は、第三層最深部にて待っっている。その前に、兄の遺留品を見たまえ汝こそ、次なる王の器にふさわしいとみた。汝の正しい決断を待っている』


「おい、どういうことだ。教えてくれ」


 そんな俺の願いには答えてくれなかった。幻聴が、消えていく。


「兄の遺留品の中に、何か手がかりが……」


 手当たり次第探していく中で、俺は紫色に光る水晶を見つけた。

 よく見ると、文字が刻まれている。


「なんだ……『汝、復讐を果たさんとする者。竜の力を第三層最深部に求めよ』」


 信じてみるのも悪くない。俺は、踵を返した。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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