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第五話

 目が覚めると目の前に人の顔があった。


 声もだせないほど驚き、後退るとそれがミアだと気づいた。


「おはよう。アイリーン」


「お、おはよう……」


 ミアは無表情に頷いた。


「アンサラーが呼んでる」


「……院長が?」


 立ちあがると、ミアがこちらの手をとり歩きだした。

 つながれた手を見つめる。


 マリアの手は拒否するし、そもそもクリスとは彼の本性がわかってからは手をつなぐことはないが、ミアの手を振りはらえないのはなぜだろう。

 おとなしくついて行きながら、そんなことを考えたが、たぶんミアは無表情で感情を押しつけてくることがないからかもしれない。たぶんアイリーンはミアのことをたまたま懐いた猫かなにかだと思っているのだ。


「ついた」


 気づけば院長室の前で、ミアが扉をあけた。


 院長――アンサラーははじめて見たとき同様、安楽いすに座り、盲目の瞳をこちらにむけていた。


「ようこそおいでくださいました。冥府の支配者」


「なにか用なの?」


「はい、あなたに一つ仕事を頼みたいのです」


「仕事?」


「はい」


 たまにクリスに仕事を頼んでいることは知っていた。なんの仕事をしているのか知らないが、それによって得られた金銭によってこの孤児院を運営をしているらしい。


「なぜわたしに?」


「ミアの先視る水鏡があなたを指名しました」


 アイリーンは顔をしかめた。


「それはわたしの堕技が冥府の支配者だから?」


「そうです」


 鼻を鳴らした。


「こんな死を視るしか能のないちからが必要なの?」


 その言葉に彼は静かに首を横にふるった。後ろに流した三つ編みが揺れてそれにミアがじゃれついていたけど、今は関係ない。


「そうではありません。あなたのちからはまだ完全に目覚めていないのです」


「目覚めていない?」


「はい。貴女の属性は王です。王とは神権の代行者のことをさします。そのちからが人の死を視ることだけのはずがありません」


「だってそれ以外のちからなんて……」


「ですからこれから目覚めるのです。神の権能を行使することを許されし者。貴女が望めば死をあたえることもできますし、逆に死から救うこともできます。もしかすると、死者を蘇らせることすらできるかもしれません。そんな人の手には有り余るちからをあなたはもっているのですよ」


「……嘘よ。信じられないわ」


 誰かを救えたことなどなかった。どれだけ助けたいと思っても叶うことなどなかったのだ。


「ですからこの仕事を受けてください。貴女のちからを目覚めさせてくれるきっかけとなるはずです」


 アイリーンは逡巡するも、本当に誰かを救うちからが手にはいるきっかけが得られるのならと頷いた。


「ありがとうございます。ではクリスを補佐につけますので、よろしくお願いします」


「は?」


 クリスと仕事をする? あんな癇にさわるやつと?


「やっぱりイヤです!」


「もう受諾されました。拒否は許しません」


「そんな――ッ」


「ミア。クリスを呼んでください。今から早速向かってもらいます」


「イヤ――」


 断る時間はなかった。

 ミアはアンサラーのそばから動くことなくアイリーンの背後にある扉を指さした。

 振り向いた瞬間、扉があいた。


「アンサラー。仕事があるって聞いたけど」


 クリスが絶え間ない微笑みを浮かべて入ってきた。


「あらかじめ来るように伝えておいた」


 褒めてと言うようにアンサラーを見上げる。


 いい子ですとその頭をなてると、ミアが無表情のなかにも喜色をうかべる。


 アイリーンは苦虫を思いっきり噛み潰したような顔でクリスをにらみつけた。


 その彼女にむかって柔和な笑みを浮かべ、クリスはさわやかな挨拶をのべた。


「おはよう、アイリーン。目元の腫れも引いたみたいだね」


「……あんたなんて大っ嫌いよ」


 こうして初めての仕事に向かうことになった。


 それは確かにアイリーンの人生を変える転機となるものだった。

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