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7. 閑話休題

遅くなってしまいましたが、投稿です。

これからも頑張って書きます。

「いきなり斬りかかったことに関しては謝るよ。ただ、事情が事情なものでね」


遠野真宵と名乗った少女は、クスクスと楽しそうに笑いながら洞窟を先導する。

湊は、半歩引いてそのあとを歩いていた。

 確かにこの少女は先程まで湊に対して敵意を抱いていた存在だ。

 しかし、帽子屋の話では魔法が使えない湊にとって、仮初でも協力体制を築いてくれているのであれば、それに乗らない選択肢はなかった。


「そこまでの実力があるのに、表でやりあってる連中たちみたいに喧嘩を吹っ掛けたりしないのか?」

「そこまでする必要がないと思っているからね。試験に合格する条件は『最後まで立っていること』だろう?酷い言い方をするならば、これは名前さえ書ければ合格できると言われているようなモノじゃないか」


 真宵は人差し指の先から小さな光の玉を浮かし、それを光源として進んでいる。

 同じ日本人であるにも関わらず、このファンタジー世界における順応性の高さは完全に負けてるなと、湊は人知れず傷つきながら真宵の次の言葉を待つ。


「だったら素直に名前だけ書いて受かってやろうと思ったまでさ。労力を割くのはイレギュラーが発生した時のみでいい。それこそ、君のようなイレギュラーが。」


 真宵はそう言いながら後ろにいる湊を見る。

 困ったように笑っているように見えるものの、眼光は鋭い。

 まるで、目の前の『イレギュラー』の脅威を量っているかのように。


「ハハハ………。ところで、どこまで歩くんですかね?俺たち」

「もうすぐさ。君が協力者を欲していたように、私も協力者が必要だったモノでね」


 そのような話を続けて数分後、やがて2人は洞窟の中腹部で足を止めた。


「着いたよ、湊。ここに私の協力者がいる」


 そう言って真宵はある一点に視線を向けた。

 湊もその視線の先を見る。するとそこには―――


「………壁、だな。」


 洞窟の壁が広がっていた。

 何の変哲もない、岩盤が作り出す大きな壁だ。


「おいおい、湊クン。ここがどんな世界か忘れたのかい?」


 クスクスと笑いながら湊の一言を聞いていた真宵は、木刀を抜く。

 そしてその木刀で地面を2回小突いた。

 コツン、コツンと小気味いい音が洞窟に響き渡った後、静寂が訪れる。

 何も起きないじゃないか、そう湊が呟きかけたその時。

 ゆらり、ゆらりと目の前の壁が陽炎のように薄く消えていくのに気付いた。


「目の前の壁はフェイクさ。まぁ簡単なものだけど、使えるなら使った方がいいだろう?」


 やがて壁が消えたその先には、少し大きな横穴が姿を現した。

 横穴は奥へと続いており、少し先にはぼんやりと明かりが灯っていた。


「さて、それじゃ私は先に行くから。」


 そう言って、穴の奥へと進んでいく真宵の後を慌てて追いかける。

 やがて灯りのある部屋へとたどり着いた。


「あれ、早かったですね。真宵さん。」


 その部屋には、真宵とは異なる、褐色肌の別の少女が石の上に座っていた。

 少女の銀色で、ミディアムショートヘアの髪は灯りによってよりいっそう輝きを増しているように見える。

 少女が掛けている、アンダーリムの眼鏡のレンズ越しに見えた瞳の色は金に近い色だった。

 そして、何よりの身体的特徴として、少女の耳は『尖って』いた。


「もしかして、エルフ?」


 思わず湊は言葉を漏らした。

 エルフとは、所謂ファンタジー作品における雛形キャラクターの一種だ。

 特徴としては、魔法に長けていて、長命で、美男美女であることが多い。

 そうなのではないかと思ったのだが、少女は真宵と顔を見合わせて小首をかしげている。


「エルフ………というものは良く分からないのですが、あのぅ、あなたは?」

「彼の名前は最上湊。さっき新たに加わった協力者の最上湊クンだ。」


 自己紹介を真宵に取られてしまった。

 言うことがなくなってしまった湊は少女に対し、「どうも」と頭を下げる。

 それを見た少女はすっと立ち上がった。


「そうでしたか。私の名前はバージニア・プレイム。精霊族です。よろしくお願いします。」

「精霊族………?」


 聞きなれない言葉に湊は首をかしげる。

 そんな様子を見て、真宵が「私もさっき聞いたのだが」という前置きの元話始める。


「この世界では『人間』というカテゴリーに属する、3つの種族が存在しているんだ。私たちのような完全なる人間だけの血を引いている《純人族(じゅんじんぞく)》。樹木などの生命から派生した、精霊たちの血を引いた《精霊族(せいれいぞく)》。知能が発達した獣の血を引いた《獣人族(じゅうじんぞく)》の3つ。つまりプレイムは精霊の血を引いているってことになるね。」


 真宵の説明にプレイムは頷く。


「その通りです。どうやら、湊さんも真宵さんもこちらの事情に明るくないようですね」

「いやぁ………。いろいろ事情がありましてね………」


 湊はバツが悪そうに頭を掻きながら答える。

 プレイムは眼鏡を片手でクイッと直し、さらに話を続ける。


「いえ、大丈夫です。文献で読みました。どうやら時々、この世界とは異なる世界からやって来た人間が、魔術師として大成するという話が残されているので。」


 プレイムの話を聞いて、湊は驚愕する。

 もしかして、こっちの世界でも「異世界転生」が流行っているのか?

 そう1人で思案していると、今度は真宵が話を続ける。


「まぁ、そんな文献が出回っているなら私も読んでみたいものだけど。このように私たちの様な境遇にもある程度の理解を得ているらしい。そのような点で見ても協力者として最適だと思ったんだ。」

「な、なるほど………。」

「そんなことより、真宵さん。湊さん。ここからは早く離れた方がいいかもしれませんね」


 真宵と湊が話をしている横で、プレイムが割り込んでくる。

 2人がプレイムのほうを見ると、彼女の手には細長い棒のようなモノが握られていた。


「真宵さんが出向いている間に調べたのですが、やはりこれはゴブリンの骨で間違いないと思います。《魔力感知》で感じた奥の存在にも気になりますし、あまりここに長居するのもどうかと」

「………《魔力感知》?」


 聞きなれない言葉に湊は首を傾げる。

 そんな様子を見た真宵とプレイムは少し驚いた後、2人で顔を見合わせた後、湊に問いかける。


「もしかして、《魔力感知》を知らないのか?」

「《魔力感知》は、魔術師としての基本的な技能の1つです。自らの感覚を研ぎ澄まし、《魔力の灯》の熱源の数を測る。この学園を目指す者ならば、必須技能の1つだと思うのですが………。」


 自分の知らない常識を語られた湊は冷や汗を垂らす。

 それがどれだけ基本的な技術だとしても、魔法を使うことができない以上それを湊が知る由もない。

 それに、さっきの説明の中に、湊にとって気になることが1つあった。


「《魔力の灯》の熱源を感知ってことは、もしかして俺にも《魔力の灯》の反応があった、ってこと?」


 その疑問に対して、プレイムは首を横に振る。


「いえ、私達は洞窟の奥からしか感知していません。貴方に関しては、洞窟の入り口からと向かう足音から判断させてもらいました。」

「プレイムも私も知らないスキルか何かを使って意図的に抑えているのかと思っていたんだが………、その反応を見るに違うらしいな」


 真宵は湊に対して怪訝な目を向ける。

 協力者として招き入れた人材が、劣る存在である可能性を孕んでいるのだ。

 彼女たちの最終的な目標は試験の合格。

 自分たちの助けにならない人間を助けるつもりもないのだろう。


「………実は」


 意を決して、湊が口を開く。

 しかし、湊の言葉が届く前に洞窟の奥から轟音が響き渡った。

 

GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!


 思わず耳を塞ぐ。

 巨大な生物の雄叫びが、洞窟内の空気を振動させる。

 プレイムはその音を聞いて、眉を顰める。


「続きは、後で聞きます。今はそれどころではなくなってしまったので」


誤字や脱字、感想やブックマークなど。

ぜひぜひお待ちしております。

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