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05. 受験本番

遅くなりましたが5話目です

続ける気がなくなったわけではありません

「緊張してきた………」


 季節が変わって3月。

 現実世界ではいまだに肌寒さを感じつつも、花も色づきすっかり春へと移り変わる最中。

 中学生活の最後の生活もそこそこに、彼の世界も移り変わっていこうとしていた。


「イヤリングのおかげでここまで来たものの、ホントにここであってるのか?」


 学院にて受付を済ませた湊は、職員からもらった地図を頼りに『スパルタ林野』と呼ばれる土地へやってきた。

 学院まで付き添ってくれていた帽子屋は、流石に受付前で別れた。


「いいかい?湊クン。『バケモノ』には出くわさないように。キミの持っている武器をあんまり過信しないように。『ガン逃げ』の精神を忘れないように」


 そんなアドバイスを残して、彼は片手をひらひらと振り立ち去って行った。

 そんな彼からの贈り物である2丁の拳銃を腰に取り付けたホルスターにしまい、緊張の面持ちで周りを伺う。

 周りにも、似たような面持ちの少年少女が点々といるのが分かる。

 にしても、中世風の世界観にそった服装の中、自分のジーパンにシャツとパーカーの恰好がやけに浮いている。

 そう言えば街中でもチラチラと自分の恰好を見られていた気がする。

 こんな異世界転生あるあるってやつをすぐに体験できるとは思わなかった。


「試験開始までどれだけ時間があるか分からないし、予め人目のつかない所を探すかな」


 そして湊は人知れず1人移動を開始した。

 《スパルタ林野》という名の通り、開けた草原もありながら、森林地帯も存在している。

 帽子屋の言う『バケモノ』とやらに開始早々喧嘩を吹っ掛けられたらこちらとしてもたまったものではない。

 そんな事を思いつつ、とりあえず近くの森を目ざして歩き続けた。

 


※※※※※


「大分奥の方まで来たし、ここらで一息つくか」


 森林地帯に辿りつき、周りに人がいないことを確認した湊は近くの木の根を椅子代わりにし、腰を下ろした。

 改めて、湊は受付から貰った地図を広げる。


「しかし広い土地だな。常に受験生の動向は記録しているからコースアウトなどの心配はないって言ってたけど……」


 空を見上げると、点々と飛行する物体がある。

 球体に蜻蛉のような透明の翅がついており、その翅が忙しなく動きながら林野の空を駆けている。

 もし自分が試験会場の範囲外へと進みそうになった場合、この球体が警告してくれるそうだ。

 その警告がまだ届いてないってことは、ここは試験会場内ということで間違いないのであろう。

 

「時間がどうなっているのか分からないけど、そろそろ始まるのかな……」


 この世界には持ち運びできる時計がない。

 そのため、時間に対する認識が大分ルーズだ。

 スマートフォンの時計を見るという選択肢もあるし、もちろん持って来てはいるが、受付からは何時何分から試験を開始するかは聞けなかった。


「試験を開始する際、こちらからアナウンスさせていただきます。ですので、そのアナウンスをお待ちください。」


 とのことだった。

 まあ、帽子屋曰くこの試験を受ける人の階級はそこまで高いわけじゃない。

 時計なんて高級品を持ち歩いてる層はいないだろうという想定なのだろう。


「アナウンスも警告もない………、何もやることがないと不安になるな………」


 なにせ異世界にやってきて初めての試験だ。

 これに失敗したら浪人もするというプレッシャーも相まって、中々気分が落ち着かない。

 誰も姿が見えない森の中、湊が1人そわそわしていると、突如空から大きな声が響き渡った。


『このセレナディアに集いし、受験生の諸君。』


 声の主の姿は見えない。

 空を駆ける球体から聴こえてくるわけでもなさそうで、どこから響き渡っている声なのかも分からないが、声だけで人々を震え上がらせる。

 しかし、どこか美しさと気品を感じさせる女性の声だ。


『私が、このセレナディア神聖魔導学院を治める学院長である。今は、この様に声だけでの自己紹介になることを詫びよう。私の名と姿は、君達がこの学園へと入学した時に名乗らせていただく』


 学院長は粛々とスピーチを続ける。

 受付の話的にも、この声の主の雰囲気的にも、これが開始のアナウンスの役割を果たしているのだろう。

 湊はゴクリと唾を飲み、静かにスピーチを聞いていた。


『今回、この学院への入学を目指した者の数は30000人。それだけの人数が入学という目的のために、この《スパルタ林野》へと集まったのだ』


 それだけの人数が集まっていると言うのに、周りに人がいないこの状況は、この土地の広大さを物語っているのだろうか。


『我々が君達に求める事はただ1つ。()()()()()()()のみだ。人種や国籍。君達が縛られていたしがらみは、この学院には存在しない。強き者が上に立ち、弱き者は下につく。しかし、これらの話は全て、学院に入学した者にしか関係のない話である』


 声の主は一呼吸置いた後、話を続ける。


『君達には、この試験に早速1つ結果を残してもらうことになる。この試験に合格し、学院へと入学してもらうことだ。試験の内容は、再び私の号令がかかる時まで、このフィールドを駆けまわり、生き残ることである。』


 このアナウンスで「生き残ること」と言われてしまったら、本当に死の危険があるのだろうか。

 湊が内心ドキドキしていると、声の主が


『生き残る、とは言ったものの、この試験に失敗したところで君達の命が散ることは無いと言う事はこの私が保証しよう。上空で管理している監視システムの目が届く限り、失敗すれば怪我をすることもあるだろうが、それを原因として未来ある君達が死んでしまうことを、我々は望んでいるわけでは無い。』


 と、話を続けていた。

 この言葉は裏を返せば、監視システムの穴を突けば殺すことだって可能って話じゃないのか?

 湊は冷や汗をかきながら話の続きを待つ。


『だが、魔術とは神が諸君、地上で生きる民たちに授けた奇跡の力。力を奮うことが出来るのは、古来より強者の特権である。この程度の試練を乗り越える事の出来ない軟弱な者共を、我々は強者と認めない。この試験は、諸君らが魔術を奮うに相応しい強者であるかどうかを推し量る、重要な試験であることを胸に刻んで欲しい。』


「………神が授けた奇跡の力、ね」


 この世界にはユーグリア12神という12柱の神が存在する。

 それは帽子屋が事前に教えてくれた基礎知識だ。

 そして、この魔術という技術も地上の民、いわば我々人間のような存在に与えられた奇跡らしい。

 そんな奇跡の力を使いこなすことが出来れば、母の行方も分かるのだろうか?


『自身の魔力を奮い、立ちはだかる敵をなぎ倒すのも力である。無駄な戦いを避け、生き残るように立ち回る知恵もまた力である。我々が望むのは、君達が自らの力によってこの試験を生き残ると言う結果である。』


 声の主はここまで語ると、空気を変えるように1つ咳払いをする。


『長々と語り申し訳ない。君達の活躍を楽しみに、ここから観測させてもらう。それでは――――』


 いよいよだ。

 湊は気を引き締める。

 どれだけ長い時間になるのか、はたまたあっという間に終わってしまうのか。

 詳しいことは何も分かっていないが、それでも彼の願いはただ1つ。


『今この瞬間から、セレナディア神聖魔導学院入学試験の開始を宣言する!!』


「よし、頑張るか!!」


 この試験に合格し、学院に入学する。

 その目的のための大事な一歩を、最上湊は踏み出した。


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