朝丘優子先生は若かった
一体、なにがまずかったのだろう?
教師に教室へ案内される道すがら、僕は何度目かわからぬ問いを己に投げる。
初めて同世代のラジオ好きを見つけて、テンションMAXで話しかけた。話しかけた相手に悲しそうな顔をされた。
その理由や、いかに?
知らない人に声をかけられたら、多少は警戒されるかもしれない。しかし、同世代で同じ趣味を持っているとわかったら、一気に親友になれる。自分なら。
ラジオ正義! ラジオ万歳!
でもそれは自分ならの話だ。
大都心東京ガールには、それ相応の礼儀が必要だったかもしれない。
たとえば……本日はお日柄も良く、あなた様とお会いでき、たいへん嬉しくて思っております、と深々と頭を下げる?
……いやっ、違うだろなんか!
じゃあなんて言えば良かったんだっ? あああ、無茶苦茶、ラジオトークしたかったのにっ。おかあさあああん! 僕は、どうすればよかったですかぁぁぁ!?
「……篠塚くん、大丈夫ですか?」
「は、は、はい!? 僕、マザコンじゃありませんよっ」
「な、なにを言っているんですか……!」
し、しまった! どん引きされている。これじゃあ、田舎もの丸出しだ。
僕はコホンと咳払いをすると、何事もなかったかのように、にっこり笑った。
「すみません、僕の聞き間違いでした。なんでしょうか、先生?」
僕の担任となる朝丘優子先生は、以前の学校では想像もつかないほどに綺麗で若い先生だった。
二十代半ばで、黒髪ポニーテール。
その名の通り優しい雰囲気の女性なのだが、今は顔を顰めながらこう返してきた。
「篠塚くんが、ひどく変な……不安そうな顔をしているように見えましたので」
変な顔をしていたらしい。
僕も渋い顔になってしまうと、優子先生は慌てた様子で教室を指し示した。
「ここっ、ここが君のクラスです。行きましょうか!」
「はい!」
先生が先頭切って、二年三組のプレートが掲げられた教室の中へと入っていく。僕は深く息を吐き出すと、歩き出した。
今朝のことは忘れて、目の前のことに集中だ!
そう、意識を切り替えようとした僕だったが、三十人以上の生徒を前にし、動揺した。
正確には、女生徒の制服を見て、びっくりした。
朝、プラットフォームで話しかけた少女が着ていた制服と、同じデザインだったからである。
ぼんやり考え事をしながら歩いていたから、周りが見えてなかった……!
てことはなにか!? 今朝会った女の子は、この学校のどこかにい……
僕はあんぐりと口を開けてしまう。
「マジか……」
窓際、一番後ろの席。
青空を見上げる、憂いを帯びた横顔。
あ、朝のラジオ少女だぁぁぁぁ! まさかの同じクラス!? なんて言ったらいいんだっ。
「はい、みんなぁ! 今日からクラスメートが一人増えますっ。北海道から転校してきた、篠塚浩太くんでーす」
優子先生の声に、少女の目線がこちらへと流れてくる。
心臓はバクバクだ。
踊り狂う心臓に、僕は思わず口を押さえる。なにか飛び出しそうだった。
少女は僕を見て、明らかに顔色を変えていた。