大事なことなので二度言うが、ラジオ放送は電波が命だ!
移住一日目の夜。
自分に与えられた部屋のベッドに、僕はダイブした。
「つっかれたぁぁぁ!」
東京は見るもの全て目新しく、引っ越し初日はあっという間だった。
先に送った段ボールの山から必要な荷物を探し出し、母が手早く作ったチャーハンとレトルトのスープを食べ、どうにかこうにかお風呂を済ませると、すでに二十二時を回っていた。
明日からは新しい学校で、早く寝ろと言われている。でも、あと三十分で、いつも聞いているラジオ番組がはじまるのだ。
「さてさて、ラジオ~ 生きてる限り、ラ~ジ~オ~!」
窓際の、一番いい場所に設置させたラジオを撫でる。
三年前、祖父を拝み倒して譲り受けたラジオ様は、予約録音もできる優れものだ。
だったら、今日は寝て明日聞けって?
ノンノン。
今日は大好きなバンドグループがラジオ番組に出演するのである。楽しみすぎて寝れるわけがない。
もちろん生で聴いても、録音はする。父にパソコンを借りて、音声データを取り溜めているのだが、そろそろ一〇〇〇時間をこえそうだった。
「音声データの整理もしたいけど、それより先に……ラジオ友達ほしいなぁ」
地元ではできなかった、あまりにも人がいなくて。
でも、東京ならきっと! できるはずっ。
好きなものを好きだと、思いっきり言い合える仲間たちが!
僕は明日からのラジオライフを夢見ながら、真剣に、ラジオのアンテナの角度を弄る。
ラジオ放送は電波が命だ。電波が命なのである!
大事なことなので二度言いました!!
アンテナの向きやラジオの置き場所によって、ラジオは音の聞こえ方がまったく違うのである。
「まあ、でも、東京だからクリアに聞こえると思うけど~……あ、あれ?」
ピィー……ガガガ……キュイーン。
ど、どうしたことでしょう。
ラ、ラジオ様が雑音を吐き出して、おられます!
「うっそ。電波の入り、悪ぃぃぃ。こ、こっちかな。ど、どこなら、電波が入るんだぁぁぁ!」
予期せぬ出来事に、僕は大慌てであちこち歩き回るが、クリアな音が拾えない。
ここは東京だというのに! 一体、どういうことだっ。
……後日、僕は自分の浅はかさを知る。
たしかにラジオキー局は東京の放送局で発信され、電波塔から各地に広がる。しかし、多くの電波が飛び、鉄筋の建物が多い東京は、ラジオの電波状態が非常によろしくないということを。
「あぁぁぁ、番組はじまっちゃうよ~」
「浩ちゃん、なにを騒いでるの!」
「あああああ。なんでだぁぁぁ」
……そうして、東京一日目の夜は、ふけてゆくのでした。