ひとまず語りたいのは、夕張メロンアイドルりっぴちゃん
神岡村は田舎だ。
学校から家に帰るまでの間に、人とすれ違うことはまずない。
ただ、春は白鳥に遭遇する。
「あいつら、まだいるぜ」
無言で家路をとぼとぼ歩いていると、沈黙に耐え切れなくなった隆志が口火を切った。
「あれさ、絶対、誰かエサをやってるよな」
湖沼には、たくさんの白鳥の姿。
渡り鳥である白鳥は、越冬のため春の間だけ、シベリアから北海道に訪れる。
そして、たいてい四月頃、帰っていく。
「コタ、お前もそう思わね?」
「……餌付けたら、白鳥、シベリアに帰っていかないじゃん」
「もう五月だぜ? 渡り鳥が渡っていかないって、まずいよな~」
ガァ、グゥワ! ガァ、グゥワ!
白い鳥たちが、なんか寄越せーと。
羽をバタつかせている。
その数、軽く二十を超える。高校の全生徒数よりも多いのだ。
白鳥を珍しがって見に来る観光客に、問いただしたい。
人の子供より、渡ってくる鳥のほうが多いこの地元に果たして住みたいか、否か、を。
少なくとも僕は
「さびしい……」
ポツリと呟くと、隆志はでっかいため息をついた。
「失恋なんてよくあることだ」
「ラジオ聞きたい」
「………………」
「コメント送りたい。今期のアニメとか、面白い漫画とか、夕張メロンアイドルのりっぴちゃんについてとかっ。誰かとっ、ラジオの向こうの誰かとっ、語りあってみたい!」
「っ。この、ラジオオタが!」
「なぁ、タカシ~」
「断固拒否する!」
休日、大人に混じってバスケをしている隆志は、オタク属性ゼロだ。
いい奴だが、話がまったく合わない。
「ラジオ友達ほしい~ ほんと、面白いんだぜ? 真由子ちゃん、なんでわかんねーんだよぉぉぉ」
ガァ、グゥワ! ガァ、グゥワ!
ガァ、グゥワ! ガァ、グゥワ!
「うっせぇ! とっとと、シベリア帰れー!!」