表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

気持ちとは姿勢に現れる

 まず一つ。気持ちとは姿勢に現れる。


 相手の前に跪き、両手は床に。頭も深く深く、床につけろ!


「な、なんだ。浩太っ。どういうつもりだ?」

「お父様、お願いがございます!!」


 晩御飯を終えて父が機嫌良くしているのを見ると、僕は土下座タイムをはじめた。


 ああ、実に。

 実に、二年四か月ぶりの土下座だ。


 前回は、僕の部屋を母さんと分けてもらいたくて土下座をした。あのときは父に無視をされたが、半年後、母さんの気まぐれの鶴の一声で部屋は分けられた。


 しかし今回の願望は、半年先まで決して待てぬっ。待っていたら、僕は干上がってしまうのだ!


「僕に、携帯電話を持たせてください! なんでもしますっ。勉強も、母さんの手伝いもっ。いっそ僕は、奴隷になってもいい!! どうしても、どうしても、携帯が必要なんです! お願いしますっ」


 頭を床にこすりつけ、本気の土下座!

 絶対、我が願望叶える。そのためなら、父さんの足でも舐めよう。


 それだけの覚悟だった。


 そんな僕に、父はため息とともに吐き捨てた。


「なぜ、そこまで携帯がほしい。学生のお前には必要ないものだろう?」

「あるんです。僕の命と言っても良いラジオが、携帯だととてもクリアな音で聴けるんです。この家はラジオの電波状況が良くないから、携帯がなかったら、僕は死んでしまうんです」

「くだらん……」

「父さんっ!」

「学生の本分は、勉強だ。お前がラジオに夢中になっているのは知っているが、深夜遅くまで聴いているのを、俺は良くないと思っている」

「そんなことはっ……し、し、しません。夜23時以降は聴かないようにしますっ、から!」

「お前は、何かにハマると周りが見えなくなるところがある。信用できん」

「そんな!」

「第一、携帯だと毎月、使用料がかかるだろう? そんな余裕は、我が家にはない」


 ぐうの音も出ない。

 しかしここで引いちゃダメだ。


 僕は土下座のまま、父さんの目を強く見返す。


「バ、バイトをします……!」

「バイトをして、勉強がおろそかになったら本末転倒だ。そんなことは許さん」

「勉強は、バイトをしても今まで以上に頑張りますからっ」

「それならば、勉強で結果を出してから、また言いなさい。まずは、本気の姿勢を見せる。話はそれからだ」


 さすが我が父、一切の隙のないど正論。


 僕は両手を地につけたまま、ガクリと頭を落とした。そのときだった。


「あら~ ねえ、お父さん。調べたら、この学割プラン、意外と安いわよぉぉ?」


 緊迫した空気を一掃したのは、母さんだった。父さんはむっと顔を顰めている。


「い、いかん。携帯は害悪なサイトも見れてしまう」

「大丈夫! ちゃんと、そういうサイトを見られなくする、ふぃるたー機能もあるみたい。それに、可愛い子には旅をさせないとね。今、本当にやりたいことをやらせられないのは、親として悲しいわ」

「む……しかしだ」

「お父さんが東京転勤になって、お手当てもでているし、ちょうどよかったわー! 私も、浩ちゃんがおうちのことを前より手伝ってくれると、助かっちゃうっ。ねえ、お父さん~」

「…………」


 笑顔の母さん、苦虫を嚙み潰したような顔の父さん。

 そして、土下座姿勢で事の成り行きを見守る僕。


「浩ちゃん?」

「っ……は、は、は、はい!」


 母さんの優しいまなざしは、優しいだけでなく、ほんの少しの厳しい色もあった。


「ラジオに夢中になってもあまり夜更かしはしないこと。あと、もちろん、勉強も頑張りなさいね?」

「は、はい! 頑張らせてもらいますっ。……それで……あのぉ、携帯買ってもいいのでしょうか?」

「いいわよぉ。た・だ・し! あとでお父さんと我が家での携帯利用のルールを決めます。それにちゃんと従うって約束できるなら、ね?」

「はい、了解いたしました!!」


 僕はぐっと両手を握りしめて、母さんに最敬礼をしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ