06
ぐるる、と喉を鳴らして甘えてくるアダムの頭を撫でる。
召喚したばかりの頃に比べると、ふた周り以上大きくなり、鱗の輝きも増している。
宝石の原石の竜の名に相応しく、磨けば磨くだけアダムは美しく成長した。
「今日の授業はこれまでだ。各自、使い魔についてのレポートをまとめておくように」
しゅるしゅる、と机の上を這っていた白蛇のイブは、主の袖口から中に入っていった。
「ふぁ……やっと昼だ。今日は何を食べるんだい?」
「あまり、食欲がないからサラダとかかしら」
「食欲がない? それはいけないなぁ。お肉とか血になるものを食べなきゃ」
「それはあなたが美味しい血液を飲みたいからでしょ」
眉間を揉みしだいて溜め息を吐く。
魔法生物の授業は目が疲れる。使い魔たちの魔力に引き寄せられて、普段姿を隠している妖精や精霊が教室に集まってくるからだ。
アダムの頭に座った妖精をツン、と指で突けばきゃらきゃらと笑って飛んでいった。
昼休みが終われば隣の教室で魔法応用学だ。
高等部から学ぶ魔法応用学は、中等部で学ぶ魔法基礎学の文字通り応用編である。
基礎学では杖の振り方から呪文の発音や魔方陣の基本的な書き方を学ぶ。
応用学では習ってきたそれらを踏まえ、最終的にはオリジナルの魔方陣や魔法を編み出すことになる。
選択科目が多い中でも数少ない必修科目だ。
食堂は高い天井からシャンデリアがぶら下がり、消えることのない魔法の炎が灯っている。
妖精が見えない生徒でも視認できる給仕妖精のキャメリェーエは妖精種の中でも珍しい部類だ。上流貴族の中には人間ではなく給仕妖精を使役しているところも多い。
ナイトレイ家はメイドや執事がたくさんいたが、給仕妖精を使役している親戚もいた。
給仕妖精に食べたいものを言えば、ほどなくして料理が届けられる。
「何か悩みごとでもあるのかい? この僕が聞いてあげようじゃないか」
「悩み事は尽きないわよ。目下の悩みはあの子のことよ。……あと、ユリアが気になるわ」
「うーん、妹ちゃんについては面倒くさいの一言だね。それとユリア君のことは気にしなくてもいいじゃないか。何が気になるっていうんだ?」
時折見かけるユリアは、影を帯びているのだ。
真っ白い髪はくすんで見え、蒼い瞳は深海よりも深く暗い。顔色もすぐれなければ、柔和な表情も優れなかった。
仲違いしていても、ヴィオラは基本お人好しだ。
接点もなにもない生徒がユリアのようになっていれば見て見ぬふりをするが、以前まで常に隣同士だったユリアのことだ。心配しないわけがなかった。
「……とにかく、様子がおかしいのよ」
「僕にはいつもと変わらないように見えるけどなぁ」
「スヴェンはユリアに興味がないからそんなこと言えるんだわ」
「ヴィオレティーナは彼に興味があるのかい?」
「……純粋に心配しているだけよ」
苦虫を噛み潰して、ヴィオラは溜め息を吐いた。




