08
久しぶりの自室のベッドでヴィオラは丸くなっていた。
脳裏に思い返すのは、年甲斐もなくヒステリックに声を荒げてしまった昨日のこと。
思い出すだけで顔が熱くなる。なんて恥ずかしい。
あの後、目が覚めたら寮部屋のベッドで横になっていた。スヴェンが保健医に許可を取って、自室での療養になったのだ。
そうなれば、別寮の妹は来れないし、男子禁制の女子寮にユリアは立ち入ることができない。
スヴェンは今更だ。錯乱か目隠し系の魔法がかけられているのだろう。じゃなきゃ、女子寮から男子が出てきたら大騒ぎだ。
「体調はどう? 僕のお姫様?」
「……昨日の記憶を消し去りたいわ」
「ははっ。僕に縋って泣く君はとっても可愛かったな」
「忘却魔法をかけてやろうかしら! ッげほ、うぅ……」
「あぁ、ほら、まだ完全に治ってないんだから、ちゃんと横にならなきゃ。体調不良のまま魔法を正しく扱えると思うかい? いくら才女の君でもやめておいたほうがいい」
クスクスと喉を転がして笑いながら、毛布を直される。
熱は下がったし、気だるさもほとんどないと言ってもいい。明日からは授業に復帰できるだろう。
どうせ明日は金曜日。明日も休んでしまいたいが、これ以上寝て過ごしていると身体が怠けてしまいそうだ。
授業に遅れが出るのもいただけない。
「授業は何をしたの?」
「魔法薬学は変身薬の調合。基礎体力学はひたすらランニングさ。天気も良かったから汗だくだよ」
肩を竦めて鼻を鳴らしたスヴェンに苦笑いをする。
基礎体力学はヴィオラも苦手だ。太陽の寮生たちは喜んで身体を動かしているが、お淑やかな貴族の子息令嬢が多い月の寮生たちは苦手としている者が多い。
先生曰く「いざと言うとき魔法が使えなければどうする? 自らの力で切り開くしかないだろう!」……だそうだ。
「あーあ、身体動かしたからお腹空いちゃったよ」
ベッドに腰掛けたスヴェンはわざとらしく溜め息を吐く。
食堂からテイクアウトしてきたサンドウィッチはヴィオラのものだ。そういえば、体調を崩してからスヴェンに血を上げていない。
具合が悪いヴィオラに、空腹をずっと我慢していたのかと思うと胸のうちが熱くなった。
「わたし、まだ治っていないのよ」
「これでもだいぶ我慢した方なんだけどなぁ。……少しだけならいいだろ?」
逡巡するふりをして、頷いた。ヴィオラが断らないと分かっていて、聞いてくるからタチが悪い。
眉を下げた表情は子犬や小動物を思わせて、罪悪感に苛まれる。
「ふふっ、ありがとう、ヴィオレティーナ。僕は恵まれているなぁ」
ゆっくりと身体を起こしたヴィオラを胸に抱き、ぷち、ぷち、とパジャマのボタンを開いていく。
真白く細い首筋が露わになり、薄い肌の下に流れる血液にごくりと喉が鳴った。
「――優しく、してね」
伏せがちに上目遣いで声を潜めたヴィオラに胸が詰まった。
僕のお姫様がこんなにも可愛い!




