04
きらきら。ふわふわ。ぷかぷか。
水の中から見る空は、とっても綺麗だった。
『とっても綺麗な人間』
『宝石みたい!』
『甘そう』
『美味しそう!』
人成らざるモノの声がする。
きゃらきゃら、からから、楽しそうに笑う。
水の精霊と呼ばれる彼女たちは美しいモノが好き。水かきのついた手のひらで頬を撫でられる。
泳げずにもがくヴィオラを、楽しそうに彼女たちはつついたり、引っ張ったりした。
『でも人間にしては歪んでる』
『苔石みたい!』
『苦そう』
『不味そう!』
重なり合う甲高い声。
鱗の尾びれがきらりと光る。美しさに目を細め、つい魅了されてしまいそう。
かぷり、と口から空気が溢れていくのを止められない。上へ、上へと伸ばす手は悪戯に掴まれ、くすぐられ、下へ、下へと連れて行かれる。
どんどんキラキラが、光が遠のいていく。伸ばした手を――影に掴まれた。
ざぱん、と勢いよく引き上げられる。
「――ッ、は、はっ、ゲホッ、う、うッ、げほっ」
肺が圧迫されて、苦しくて、全身が重たく、鉛になったみたいだ。
「ヴィオレティーナ、ヴィオレティーナ、大丈夫かい!?」
「ゲホッ……げほっ……ス、ヴェン、」
濡れた身体を抱きしめられる。
暗闇に囚われた湖の中とは違う眩しさに目を瞬かせた。
水を吸い込み、ずっしりと重たいローブの裾を、クンッと引っ張られる。
また落ちる――衝撃に目を閉じた。
「しつこいんだ、よ……!」
器用に、箒の上に立ったスヴェンはヴィオラを抱いたまま上空へと勢いよく飛んだ。
「――”凍れ”」
透き通るほど冷たい声に、湖の中心部が白く凍っていく。ユリアの氷雪魔法だ。
吐き出した息が白く濁り、ぐんと周辺の気温が下がる。
「ヴィオラ、平気か!?」
「ッ、え、えぇ」
凍った湖の下を、今もぐるぐると水精霊たちは泳いでいる。きゃらきゃらと、笑い声が聞こえてきそうだ。
だが、おかげで水精霊の住む湖の水は手に入れられた。彼女たちは綺麗な水の場所にしか住まない。
「これを、」と二人に差し出した小瓶には、キラキラと輝く蒼く透明な水が入っていた。
氷上に降り、礼を言ってスヴェンから離れるととたんに氷の冷たさが肌に突き刺さった。
「イレギュラーだったけれど、無事に手に入れられたわ」
「……無事じゃ、ないだろ」
痛ましく、顰められたユリアに眉を下げる。
「もしかしたらあのまま沈んでいたかもしれないんだよ……!?」
悲壮な叫びに言葉を飲み込んだ。
「死にたくないって君は言うけれど、どこか足が地についていない、浮世離れしてる――僕は、ヴィオラがいつか消えていなくなってしまうのではないかと、いつも不安なんだ」
「そんな、つもりは」
いつだってヴィオラは一生懸命だ。生きるのに必死で、しかたないのに。
言葉を吐き出そうとしたのに、頭が働かずまともな音は出てくれなかった。
「あんまり、僕のお姫様を虐めないでおくれよ」
褐色の手のひらが目元を覆った。




