01
原作クラッシャーだとかそんなのはどうでもいい。
今、この瞬間、これからを! 生きていくためにはまず第一に悪役令嬢にならないことだ。
初めは仲睦まじい姉妹になろうと思ったが、ヒロインのトラブルメーカーぶりに付き合っていられなかった。
一歩御屋敷の外に出れば二歩目で誘拐され、お洋服を買いに行ったお店ではロリぺド野郎に襲われかかって、その度にヴィオラは死亡フラグを回避するためになんとかどうにか強引に妹を助け出した。
これから先、こんな大変な思いをしていかないといけないの……? 幼いながらにゾッとして、家でも徹底的に関わらないようにした。
父には心配をされ、母には呆れられてしまったが仕方ないじゃないか。
だって死にたくない! 悪役令嬢エンドなんてイヤ!
「またぼーっとしてるよ」
「……ユリア、私、死にたくないのよ」
「それは誰だってそうだと思うけど」
「そのためにはね、あの子に関わったらいけないのよ。あの子はこの世界の中心で、核とも言える存在。あの子の進み方しだいで私は死んでしまうわ」
暗く、冷たい声で告げる少女に怖気が走る。
全ての音が掻き消えて、ヴィオラの声だけが響いた。
時折、彼女は雰囲気を変える時がある。
ここではない、遠い所を見つめて、そのまま消えていってしまいそうで、怖くなる。
「……ヴィオラにとって、彼女は害になるの?」
だから、ユリアはヴィオラを守ろうと思った。
誰よりも愛される彼女の妹よりも、ひとりで闇の下に咲く花の彼女を守りたいと、思ったのだ。
守りたい彼女のためなら、持てる力全てを持ってして憂いを払ってあげたい。――実の妹だろうと、ユリアにとってはそこら辺の根無し草と同類だ。
「そうね、時と場合になるかしら。だから、ユリア!私が困ってたら助けなさいよ!」
びしっと人差し指を鼻先に突きつけられて、瞠目した。
「……ははっ、喜んでお助けするよ、僕のお姫様」
ほっ、と胸の内で息を吐いたのはどちらだろう。
柔らかく微笑んで、いつもの穏やかなユリアに戻る。
白雪の貴公子だなんて呼ばれるくらいだ、ゲームではもちろん攻略対象だった。それがどういう訳か、ユリアはヴィオラを助けてくれる。
シナリオでふたりに接点はなかったはずだが、分からないものをいくら考えても分かるはずがない。早々に思考を放棄したヴィオラだったが、ひとつだけ忘れていることがあった。
ファンの間で、ユリアはヤンデレ貴公子と呼ばれていたことを。