01
「ヴィオレティーナ、起きて、朝だよ。ほら、」
朝に弱いヴィオラを起こすのはスヴェンの特権だ。
ふかふかのベッドに埋もれて、ふわふわの黒髪が散っている。真っ白い肌と、艶やかな黒髪のコントラストが美しかった。
曝け出された首筋に、つい舌を這わせてしまうくらいには――
「ばか……こないだあげたばかり、じゃない」
寝起きの少しかすれた声。パカリと開いた口元を柔い手のひらで押さえられた。
「だって、起きないんだから仕方ないだろう? 据え膳食わぬはなんとやら、だよ」
「おきる……起きるわよ。今日は三時間目から授業じゃない。もうすこしくらい寝ててもいいはずよ」
「ヒトは三食しっかり食べないとすぐに身体を壊すじゃないか。早寝早起きは生活の基本だぞ」
「……スヴェン、あなた、吸血鬼なのに朝が得意なのね」
苦手は克服するものだよ、と眩しい笑顔で言われてしまった。
くるる、と喉を鳴らしながら枕元で丸くなっているアダムも飼い主に似て朝が苦手だ。
最近のアダムは、鱗の輝きも増し、食べる量も増えてきた。心なしか、体格も一回り大きくなっている気がする。
「アダム、起きて」
頭を撫でながら、声をかければ「ぐるぅ」と抗議の声を上げられてしまった。
「三時間目って、なんだったかしら」
「魔法薬学……じゃなくて、薬草学だね。箒必須だってさ」
箒必須ということは、野外活動だろう。
薬草学で学ぶのは基本的な薬草の見分け方や種類や効能だ。
上級生ともなれば、座学よりも野外講習の方が多くなってくる。魔法薬学で使う薬草の採取だったり、森の生態調査や、薬草畑の雑草抜きだったり。
箒を使うなら森に向かう可能性が高いだろう。
「ほら、前向いて」
ふわふわの黒髪は寝起きそのままにしておくといつのまにか絡んでしまっていることがある。
朝はたくさん寝たい。けど、朝の準備が人一倍かかる。魔法で櫛を動かすこともできるけど、やっぱり手でやったほうがふわふわさらさらになる。
そこで大きめの櫛を持ったスヴェンの登場だ。
化粧台の前にヴィオラを座らせて、一房一房丁寧に櫛を通していく。絡まったところは、決して引っ張らずに毛先から解いていくのだ。
他愛ない会話をしながら過ごす朝の優しい時間がスヴェンは好きだった。
まだ眠たいとぐずる少女の世話を焼きながら、時折細く白い指が化粧品選びで迷ったら代わりに選んであげる、この穏やかな時間が好きだった。
「うん、今日も可愛いよ、ヴィオレティーナ」
「……ありがとう。貴方も素敵よ、スヴェン」




