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使い魔探しは、呆気なく解決した。――が、吸血鬼の問題が残っている。
敵意を見せないスヴェンに、ほっと肩の力を抜いたヴィオラは、あのままクラスメイトを放っておくこともできず、寮の談話室まで戻ってきた。
ソファにクラスメイト――ミス・ゴードンを寝かせ、首筋の傷痕を見る。
遠目から見ると小さいが、近くでみるととても噛み痕だ。
「女生徒ばかりを狙ったのは、貴方が変態だから?」
「処女の血が美味しいからだよ」
思わず、「うわ」とドン引きした。
治癒魔法をかけて、傷痕に目くらましの魔法をかければ、注視しない限りバレないだろう。
あとは明日、顔色が悪いだのと適当な理由をつけて医務室へ連れて行けば完璧だ。
「まるで僕の存在を隠そうとしてる。どうして? 危険な存在は排除されるべきではない?」
「――私は、貴方のことを友人と思っているわ」
きょと、と目を瞬かせるスヴェンを、失いたくないと思ってしまったのだ。
たとえ性別を偽っていたとしても、スヴェンはスヴェンであり変わることは無い。
仲良くなった同性の友達(男だったけど!)をなくしたくないと思うのは、普通じゃないだろうか。
「……友達って、思ってくれてたんだ」
「なぁに、それ。酷いわ。私、貴方以上に心を砕いている人なんていないのに」
クスクス、と鈴を転がして笑った。
吸血鬼の噂は、二ヶ月もすれば消えるだろう。なにせ毎日新しい噂が出ては消えていくのだ。
今後、新たな被害者が出なければ落ち着くはずである。
「だれそれ彼と、血を吸うのはやめてくれるわよね?」
「わぁ、食事をするなって言ってるものだよ、それ」
「毎回重度の貧血になるまで飲んでしまったら、吸血鬼の存在が定着してしまうわ。ねぇ、私のことが大好きなんでしょう? お願い、利いてくれないの?」
スヴェン(女)の時にはできなかった、上目遣いで見る。
「えぇ……」と眉尻を下げて、困った表情をするスヴェンは逡巡して、緩やかに波打つ黒髪を掬い上げた。
「――ヴィオレティーナが、僕に血をちょぉだい?」
闇が濃くなる。
ヴィオラが血を分け与えてくれるなら、他の生徒は襲わない、と。
血液錠剤でも、トマトジュースで飢餓を押さえても、いずれ我慢できなくなるから、と。
息を呑んで、「正気?」と呟く。
「月に一度でイイんだ。僕に血を恵んで?」
切なく呟くものだから、つい、頷いてしまった。
だって、可哀想なんだもの。
後戻りできないところまで来てしまっている。本当にこのままで良いのだろうか?
ヴィオレティーナの物語に、こんなシナリオあっただろうか?
疑問は尽きず降ってくる。
やったぁ、と無邪気に喜ぶスヴェンに、短く息を吐き出した。
明日、考えよう。
思考を停止して、ふと、思った。――全然傍観してなくない?




