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使い魔の捜索は難航していた。
魔力の残り香を辿れば、すぐに見つかると思っていただけに、疲労感が強い。
太陽の寮では「吸血鬼」の噂が広がっているし、薮を突いて蛇が出てきそうだ。
首を突っ込んではいけない問題に差し掛かっている気がする。
吸血鬼に襲われた一年生に話が聞ければ早いが、未だ意識不明で聖マリア魔法病院に入院中だ。
先生方も終始ピリピリしており、吸血鬼の噂も真実味を帯びてきている。
黒髪の麗しいお方だった、だの。緑の化け物だった、だの。黒い女だった、とか。
紙にまとめられた噂はどれもばらばらで、思わず溜め息を吐いた。
「フォーリアは、見つかりそうか?」
「――先輩」
「もう、二週間になる。こんなことなら放し飼いにしておかなければよかった……!」
意気消沈するカトレアに、眉を下げる。
太陽の寮生総動員で使い魔探しをしているようだが、手がかりひとつ掴めずにいる。
「……魔力の繋がりは切れていないのでしょう」
「ああ、だから、どこかにいるはずなんだ!」
使い魔は、魔力の供給が切れてしまうと現世で姿を保つことができなくなる。
「私も、できるかぎり探しているけれど……貴方たちの、太陽の寮での噂が現実味を帯びてきています。襲われた、エミーリアが襲われているところを目撃して、」
「食われたってのかよッ!?」
声を荒げ、肩に掴みかかってくるカトレア。
パートナーが行方知れずで、精神が安定していないのだ。
アダムが「グルルッ」と喉を鳴らして威嚇をする。
「俺の使い魔はどこにいる!? 学園一と言われる魔女のお前ならわかるだろっ!!」
懇願にも近い声。掴みかかられた肩が軋む。
感情の込められた力に、痛み表情を歪めた。
「ヴィオレティーナに触るなよ」
肩を掴む手を振り払い、後ろから抱き寄せられる。
ほのかな甘い香り。艶やかな黒髪が視界に映った。
「スヴェ、ン?」
きょとり、と目を瞬かせる。
冷たい声の友人は、ヴィオラを抱き寄せ、杖をカトレアに向けていた。
「スヴェン、ダメよ。校内での私闘は禁じられているわ」
「けど、こいつは君に無体を強いようとした」
「私が、早く使い魔を見つけてればいいだけのことだから」
そっと、杖を構える手を下ろさせる。
こちらを睨みつけるカトレアに、昂った気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……行方は、わからないけれど、犯人の見当はついているの。だからもう少しだけ待ってください」
ヴィオラの言葉に拍子抜けしたカトレアは、気まずそうに言葉を途切れらせ、「悪かった」と小さく呟き踵を返していった。
静寂があたりを包む。
先に切り出したのはヴィオラだ。
抱きこむ腕を外して、振り返る。愛らしい顔を顰めたスヴェンに、つい笑ってしまった。
「ありがとう、スヴェン。かばってくれて嬉しかったわ」
「……君のそばを離れなければよかった」
低く唸るような懺悔に、強張っていた頬が緩む。
誰よりも、過ごした時間は短いけれど、自分の為に心を寄せてくれる少女が大切だ。
たとえ、どんな結末になろうとも。




