07
「吸血鬼の噂」は太陽の寮内でしか広まっていなかったが、学園中に広まるのも時間の問題だろう。
それとなく、月の寮生に吸血鬼の話題を振ってみれば、伝説や伝承の話題しか出てこなかった。
「スヴェンは、フォーリアがいなくなったことと、エミーリアが倒れていたことは関係があると思う?」
「関係付けるなら、エミーリアが襲われているのを見てしまったフォーリアが連れていかれた、とかかな」
関連付けるならスヴェンの言うとおりだ。だが、そう考えるとすると、どうしてわざわざ連れていったのか謎が増えてしまう。
集まった情報は、フォーリアの姿を目撃した人は居ない。
同時刻に、エミーリアが襲われていた。
吸血鬼が学園内を闊歩している。
太陽の寮は吸血鬼に呪われている。
進んでいるように見えて進んでいない。結局フォーリアの行方は不明である。
はぁ、と溜め息を吐いて頭を抱える。勢いで引き受けなければよかった。後悔が押し寄せるが、ふと、こんなイベントシナリオ、ゲームにあっただろうかと思う。
ヴィオレティーナの中身が違うことによる弊害だろうか。だとすれば、原作を壊してしまっているのではないかと、急な不安が背筋を這い上ってくる。
「どぉしたの、ヴィオレティーナ」
そっと、スヴェンに抱きしめられる。冷たい指先が首をするりと撫で、こめかみに柔らかな感触があたった。
スヴェンは、誰よりもヴィオラのことを好きだと言ってくれる。ユリアと一緒にいることのなくなったヴィオラに近づこうとする輩は多い。それを牽制するかのように、編入してきてからスヴェンはヴィオラの隣にべったりだった。
異国情緒溢れる少女に、同寮生はもちろん、他の寮生は話しかけるのを躊躇する。孤高の紫水晶のそばで、得物を狙う肉食獣のように瞳をぎらつかせているのだ。
「不安がってる。恐怖してる。僕がいるのに、何を強がっているのだい?」
「す、ヴぇん……」
「僕はそれなりに君のことが気に入っているんだ。憂いを払ってあげたいとも、思うのだよ。フォーリアのことが気になる? エミ―リアが心配? それとも――ユリア?」
煌めく翡翠の瞳に吸い込まれそうだ。
「ぐるぁっ!」
ごう、と炎がひらめいた。
「おっと、危ない危ない」
膝の上で寝ていたはずのアダムが、角を立て、翼を広げてスヴェンを威嚇していた。
「ふふっ、ヴィオレティーナの騎士はキミなんだね、アダム」




