03
ひとり部屋だったヴィオラの部屋に、スヴェンは入ることになった。
ひとつだったベッドの隣にもうひとつベッドが並んで、閑散としていた室内に物が増えた。
アーデルハイト先生の魔法で、ベッドが増え、クローゼットが増え、机が増え、ついでに天井に星空の魔法をかけていってくれた。夜になるとその日の空模様を映し出してくれるのだ。
「ねぇ、ヴィオレティーナ。君はとっても優しいんだね」
ふと、明日の準備をしていたスヴェンは顔を上げて呟いた。
ベッドに寝そべり、アダムと戯れていたヴィオラは身体を起こして首を傾げる。
「急に、何かしら。褒めてもなにもでないわよ」
そういいながら、ベッドサイドの引き出しからチョコレートを一粒出して放り投げる。
カフェテリアで購入した、人気のチョコレートだ。超絶甘いから超絶苦いまで味のバリエーションがあり、特に「少し甘いホワイトチョコレート」がお気に入りだ。
「ん! とっても美味しい! これただのチョコじゃないね」
「あら、よく分かったわね。魔法のエキスが入ってるらしいわ。いくらカフェの人に聞いても教えてくれないの」
「うーん……これ、人魚の涙じゃないかな?」
「火竜のブレスで溶かしてるね」と付け足したスヴェンに目を見張る。
舌がいいんだ、とにぃっと笑った彼女の真っ白い犬歯はよく尖っていた。もしかしたら、家系に異種族がいるのかもしれない。
ぽかんとするヴィオラに、スヴェンは笑みを深めてベッドにぼふんっと飛んできた。
「ちょっ、あぶな、」
「僕、ヴィオレティーナのことがだぁいすきだよ!」
「……出会ってまだ一日じゃない」
「一日だからだよ! 編入生の世話なんて面倒臭いだけだろう? それを文句も言わないで部屋に招き入れてくれた。それだけでも君への好感度は爆上がりさ」
肩にもたれかかる彼女に溜め息を吐く。
可愛らしい女の子なのに、一人称は僕。先生の前ではお淑やかな少女だったのに、それは演技だと言うじゃないか。
なんとも、一筋縄ではいかない少女と同室になってしまった。




