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夜遅く、寮の談話室で図鑑を読み耽るヴィオラ。
就寝時間はとっくに過ぎており、談話室にはヴィオラひとりだけだ。少しでも眠気が来るように、とココアの入っていたマグはとっくに空。
いつもだったら、隣にいるユリアは早いうちに部屋へと引っ込んでしまった。
すぴー、すぴー、と寝息を立てるアダムの頭を撫でながらページをめくる。
図鑑は面白い。知らないことがたくさん書かれている。
アダム――宝石竜の好物は幼体のときは林檎で、成体になると鉱物になる。パートナーの愛情によって大きさは変化して、身体輝きは増していくのだという。
大切にすればするほど、宝石竜は大きく、より輝きを増して美しく成長するのだ。
「――……ヴィオラ」
「……ユリア、寝たんじゃなかったの?」
カンテラと、暖炉の火で明るい談話室。影がひとつ増えた。
寝巻き姿のユリアが、入り口に佇んでいる。
「どうしたの? 眠れないの?」
「それは、君に言いたいよ。もう三時間もしたら起きる時間じゃないか」
溜め息を吐いて、呆れた声色に図鑑をぱたんと閉じた。
今、彼と話していると怒鳴ってしまいそうな自分がいる。図書室での一件以来、感情を上手くコントロールができなかった。
「もう、寝るわ」
「待って」
横を通り過ぎようとしたヴィオラの細い手首を掴む。
こんなに、彼女の手首は細かったか。
「僕が悪かったから、やめてくれ」
「何をやめるっていうの?」
「その、表情だよ。赤の他人だ、みたいな」
苦しげに、歪められた表情に眉を顰める。
隣からいなくなったのは、ユリアなのに、どうして私が悪いみたいにならないといけない。
眉を下げて、唇を噛むユリアは確かに整った顔立ちをしているが、それに騙されるヴィオラじゃない。
自分の顔の良さをわかっていて利用するユリアだ。わかっていて、哀情を誘う表情をしているに違いない。
「ヴィオレティーナ!」
どこか焦った、切羽詰った表情で肩を強く抱かれる。
いくら胸を押しても、叩いてもびくともしない。
「はなしてっ、ちょっと、ユリアッ!」
「離したら、君は行ってしまうじゃないか……!」
「なんのことよっ、私、もう寝るわっ、だから、んぅ――っ!?」
甘く、柔らかな唇を塞がれる。
繋がった唇から、冷たい吐息が滑り込んでくる。
目を見開き、抵抗の手を緩めたヴィオラをさらに強く掻き抱いて、捕食するように、食べられてしまう。
「んぅっ、ふっ」
薄く開いた唇から、熱くぬめった舌先が滑り込んできて――がりっ、と。鋭い音がして、ユリアは離れた。
「っ、は、は、ぁ、」
口元からボタボタと赤い液体が垂れる。
舌を噛んだ張本人のヴィオラは、呆然とユリアを見た。
「私はっ、こんなの望んでいないわ……!」
ぱしん、と頬を打った手のひらがじんじんと痛い。




