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悪役令嬢は傍観に徹したい!  作者: 白霧 雪。
原作・悪役令嬢、現在・傍観主希望
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11

 

 夜遅く、寮の談話室で図鑑を読み耽るヴィオラ。

 就寝時間はとっくに過ぎており、談話室にはヴィオラひとりだけだ。少しでも眠気が来るように、とココアの入っていたマグはとっくに空。


 いつもだったら、隣にいるユリアは早いうちに部屋へと引っ込んでしまった。


 すぴー、すぴー、と寝息を立てるアダムの頭を撫でながらページをめくる。

 図鑑は面白い。知らないことがたくさん書かれている。


 アダム――宝石竜の好物は幼体のときは林檎で、成体になると鉱物になる。パートナーの愛情によって大きさは変化して、身体輝きは増していくのだという。

 大切にすればするほど、宝石竜は大きく、より輝きを増して美しく成長するのだ。


「――……ヴィオラ」

「……ユリア、寝たんじゃなかったの?」


 カンテラと、暖炉の火で明るい談話室。影がひとつ増えた。

 寝巻き姿のユリアが、入り口に佇んでいる。


「どうしたの? 眠れないの?」

「それは、君に言いたいよ。もう三時間もしたら起きる時間じゃないか」


 溜め息を吐いて、呆れた声色に図鑑をぱたんと閉じた。

 今、彼と話していると怒鳴ってしまいそうな自分がいる。図書室での一件以来、感情を上手くコントロールができなかった。


「もう、寝るわ」

「待って」


 横を通り過ぎようとしたヴィオラの細い手首を掴む。

 こんなに、彼女の手首は細かったか。


「僕が悪かったから、やめてくれ」

「何をやめるっていうの?」

「その、表情だよ。赤の他人だ、みたいな」


 苦しげに、歪められた表情に眉を顰める。

 隣からいなくなったのは、ユリアなのに、どうして私が悪いみたいにならないといけない。


 眉を下げて、唇を噛むユリアは確かに整った顔立ちをしているが、それに騙されるヴィオラじゃない。

 自分の顔の良さをわかっていて利用するユリアだ。わかっていて、哀情を誘う表情をしているに違いない。


「ヴィオレティーナ!」


 どこか焦った、切羽詰った表情で肩を強く抱かれる。

 いくら胸を押しても、叩いてもびくともしない。


「はなしてっ、ちょっと、ユリアッ!」

「離したら、君は行ってしまうじゃないか……!」

「なんのことよっ、私、もう寝るわっ、だから、んぅ――っ!?」


 甘く、柔らかな唇を塞がれる。

 繋がった唇から、冷たい吐息が滑り込んでくる。


 目を見開き、抵抗の手を緩めたヴィオラをさらに強く掻き抱いて、捕食するように、食べられてしまう。


「んぅっ、ふっ」


 薄く開いた唇から、熱くぬめった舌先が滑り込んできて――がりっ、と。鋭い音がして、ユリアは離れた。


「っ、は、は、ぁ、」


 口元からボタボタと赤い液体が垂れる。

 舌を噛んだ張本人のヴィオラは、呆然とユリアを見た。


「私はっ、こんなの望んでいないわ……!」


 ぱしん、と頬を打った手のひらがじんじんと痛い。


 


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