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記念日のはじまり。

ちょっと久しぶりに理系くんに会える今日は、ダウンを着てきたことを後悔するほどの暖かさだった。

吐く息は白くならず、冬のはずなのに、どこか春を先取りしたみたいな空気。


「文系ちゃん、暑くない? 今日、最高気温14度あるって」

「……うそでしょ」


確かにテレビで『今年は暖冬』だと言ってたけど、それにしたって暖かすぎない?


冬将軍、まだ布団から出てきてないのかな。


「上着持とうか? 自分はリュックだから両手空いてるし」


さらっと出てくる理系くんのイケメンな提案に、私は一瞬だけ迷ってから、ダウンを預けることにした。


人に甘えたり、頼ったりするのが苦手な私にとって、自分の荷物を誰かに預けるなんて珍しいこと。


でも今日は、久しぶりに会えたから。少しだけ、甘えたかった。


「理系くんはコート着てて暑くないの?」


紺のコートの下に白いパーカー。

見た目だけでも、ちょっと暑そうだなと思って聞いてみたんだけど――私は、答えを知っている。


「うん。今日の予想気温から服装、計算してきたから」


理系くんはいつだって、抜け目がない。

理系くんの腕に収まったお気に入りのダウンを、少しだけ羨ましく思いながら、私はふと時計を見る。


「あ、そろそろ時間だ」

「そうだね。もう開場時間だ」


今日は、付き合って1ヶ月の記念日。

私の『絶対に普段やらないことをやりたい!』というワガママを聞いた理系くんが、悩みに悩んで選んでくれたのが――


「――サーカスなんて、見たことないから楽しみだな」


心から嬉しそうに、理系くんが言う。


そう、サーカス。

最初は、なんてものを思いつくんだと驚いたけれど、非日常感と特別感が重なって、私も朝からずっとウキウキしていた。


駅から少し歩き、ビルの間を抜けると、映像でしか見たことのないような巨大なテントが視界いっぱいに広がる。

赤と白の縞模様が青空に映えていて、まるで別世界への入口みたいだった。

ハリネズミもかくや、というその威容に、私たちはしばらく言葉を失って見惚れていた。


「文系ちゃんさ」

「うん?」

「今日は付き合ってくれてありがとう」

「なんで?」

「ずっと見たかったんだ、サーカス」


本当に楽しそうに笑う理系くんを見たら、私まで楽しくなってきて。


「理系くんさ」

「文系ちゃん、なに?」

「今日は――ううん、違うな」

「違うって、なにが?」

「――私と付き合ってくれて、ありがとう」


自然に出た言葉だった。


でも、頬を染めたまま硬直した理系くんを見たら、急に恥ずかしくなって、私は慌てて視線を逸らす。


「あ、理系くん見て!」

「……なに?」

「すごい美人さんがいる」


黒髪ロングで、すらっと背の高い女の子が、テントを見上げていた。

長いまつげに、吸い込まれそうな澄んだ瞳。

高い身長がその美しさをより引き立てていて、まるで物語のお姫様みたい。

なのに、ころころ変わる表情がとても愛らしくて、不思議と親近感もある。


私は、しばらく彼女に見惚れてしまった。


「いいなあ。可愛いなあ」


ぼそっと呟いた私の肩に、理系くんの手がそっと置かれる。


「――文系ちゃんさ」

「……うん?」

「たしかに、あの人は美人さんだなとは思うよ」


しまった。


これで理系くんが、あの子のことを好きになったらどうしよう。


目を泳がせて、口ごもる理系くんを見て、急に胸の奥がざわつく。


でも、なぜか言葉が出なくて。


私の沈黙をどう受け取ったのか。

理系くんが、意を決したように口を開いた。


「文系ちゃんより可愛い人なんて、いるわけないでしょ」


当たり前を装ってそう言ってから、彼はフードを目深にかぶって、私と目を合わせなくなる。


いつもなら、目を合わせてくれないのは少し寂しいのに。


今は、それがありがたかった。


――たぶん、私も顔が真っ赤だったから。


私たちは無言で歩き出す。

肩は並んでいるのに、彼の右腕だけが、ぴたりと動きを止めている。


こういうとき、手を繋ごうか悩んでいるんだって、もう知ってる。


自分から手を差し出せない彼に、ちょっとだけ意地悪したくなって、私は彼の右腕の袖をそっとつまんだ。


「ねえ、理系くん?」

「なに?」

「そのまま固まってたら、置いてくよ!」


渾身の、満面の笑顔を込めて。

彼の腕を引っ張った私は、たぶんすごく赤い顔をしていたと思う。



――理系くんSide――


文系ちゃんの言う黒髪ロングの女の子は、たしかに素敵だと思った。


でも、その隣にいた、ちょっと僕に似たメガネの男性が、本当に嬉しそうに彼女を見ていたから。


僕は彼に、勝手にシンパシーを感じて。

それと同時に、少しだけ対抗心も芽生えた。


僕の彼女だって、世界一なんだぞ――そんな気持ちを込めて、口を開く。


「文系ちゃんより可愛い人なんて、いるわけないでしょ」


これが僕の精一杯なのが、情けないやら悔しいやら。

急に恥ずかしくなって、彼女の目を見られなくなった。


文系ちゃんが落ち込んでいる気配を感じて、励ましたくて、手を繋ごうかとも思ったけど。


今じゃない気もして、迷っているうちに――


文系ちゃんの指が、僕の袖に触れた。


「そのまま固まってたら置いてくよ!」


その笑顔が、あまりにも可愛くて。

僕の彼女は、多元宇宙一可愛い!!と叫びたくなったのだった。

久しぶりすぎて上手く文章が出てこないですが。

書かないと上手くならないのでがんばります!

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