クロスワードパズル
いつも理系くんにデートプランを任せきりなのが申し訳なくて、今日は私から喫茶店に誘ってみた。
二人とも喫茶店の雰囲気が好きで、時間のあるときは気軽に入ってしまう。
ただ、いつも私ばかりがマシンガンのように話してしまうのがなんとなく申し訳なくて。
今日は秘密兵器を用意した。
――クロスワードパズルだ。
「1のタテ『アマゾン川を逆流する潮流のこと』ってあるけど理系くん分かる?」
「えっと、たぶんポロロッカ」
「じゃあ1のヨコ。頭がロで『映画ラピュタのムスカの本名。○○○○・パロ・ウル・ラピュタ』」
「ラピュタ見たことないんだよなあ」
「私わかる! 『ロムスカ』・パロ・ウル・ラピュタ!」
オタクな私と雑学に強い理系くん。
互いに足りない知識を補いあって、順調にパズルが解けていく。
「じゃあ2のヨコ『世界一長い英単語は?』か。理系くん分かる?」
この問いに、ちょっと困った顔をする理系くん。
「ちゃんと覚えてないけど、一応言ってみていい?」
「うん。聞きたい!」
「Methionylalanylthreonylserylarginylglycylalanylserylarginylcysteinylprolylarginylaspartylisoleucylalanylasparaginylvalylmethionylglutaminylarginylleucylglutaminylaspartylglutamylglutaminylglutamylisoleucylvalylglutaminyllysylarginylthreonylphenylalanylthreonyllysyltryptophylisoleucylasparaginy――」
うん。念仏かなにかかな。
「ちょ、ちょっと待って理系くん。何それ!?」
「チチンってたんぱく質のIUPAC名」
訊いても分からなかった。
「ちなみに十八万字以上あります」
「全部覚えてるの!?」
「ははは。さすがに無理」
ですよね。というかその文字数クロスワードに入らない。
「あっ!」と気付いたように理系くんが声をあげる。
「ヒントがあるね! 『頭文字がSで終わりもS』?」
ピンときた。
クロスワードは言葉を操る“文系ちゃん”たる私の領域。
私は胸を張って思い付いた言葉を言う。
「Supercalifragilisticexpialidocious!!」
「なにそれ!?」
「すーぱーかりぐらふりすてぃっくえくすぴありどーしゃす?」
「いや、だからそれなに!?」
「メリーポピンズに出てくる有名な呪文みたいなの」
「意味は?」
なんだっけ。確か意味はなかったような。
理系くんは小声で「すーぱーかりぐらふりすてぃっくえくすぴありどーしゃす」ってぼそっ呟いて、笑いながら言った。
「それだとクロスワードに入らないね」
ですよね。さっき私も同じこと思ったのに忘れてた。
ふたりでひとしきり笑った後に、ヒントを見直して気付いた。
――SとSの間がマイルある英単語。カタカナで五文字。
理系くんも気付いたみたいで。
私と一緒に笑顔で頷きあう。
そして二人一緒に口を開いた。
「「スマイルズ(smiles)!!」」
※このあと、渋めの店長に
「とても素敵な笑い声なのですが、少しだけトーンを落としていただけますか」
って目が笑ってない笑顔で言われてちょっと反省した。