ブドウ糖のやさしさ
翌日、初詣リベンジの日。
二度も寝坊するわけにいかないプレッシャーと、彼の意味深な連絡に眠れなくなったけど、なんとか起きれた。
そのまま急いで家を飛び出したんだけど、朝七時に待ち合わせだったのに三十分前についた。
――でも、彼はすでにいた。
昨日と同じニット帽とマフラーに白いコート。
お気に入りの服なのかな。
「朝活派だから早起きが常態化してて」
なんて笑ってたけど、すでに初詣の行列に並んでくれてたから、きっと彼なりの優しさなんだと思う。
私は「ちょっと待って」なんて言って、近所の店で甘酒を買って二人で飲む。
彼は差し出した甘酒を見てふっと笑って言った。
「麹甘酒だ。いいね」
「こうじ――甘酒?」
「うん。砂糖を使わないのにこんなに甘いの、面白いよね」
「え、甘酒って砂糖使ってないの?」
「酒粕の甘酒は砂糖も入れるんだけど、麹甘酒は米のでんぷん質を麹菌がブドウ糖に変えてるから甘くなるだけで砂糖は使ってないんだ」
「へえ」
彼は「料理は科学だ」なんて頷きながらまた笑ってる。
私なんか「甘い! おいしい!」で終わってしまう甘酒に、いろいろ考えてるんだなあ。
「あ、そういえば」
携帯を見ながら彼が言う。
「この辺にずっと気になってたあんみつ屋があるんだけど、あとで行かない?」
ごめんね理系くん。
私見えちゃってたんだ。
理系くんが『○○駅 甘味』で検索かけてるの。
マメな理系くんはいつも予定を考えてくれるんだけど、今日は急遽のデート。
昨日考えてくれてたランチとかは昨日のうちに行ってしまったし、今日は早起きしてくれた。
だから今日は初詣後の予定を用意できなかったんだよね。
一生懸命、楽しいデートにしようとしてくれる気遣いが嬉しくて。
「よし、昨日の遅刻のお詫びも兼ねて、お姉さんが御馳走してあげよう」
なんて照れ隠しに言ってみたらね。
「誕生日が一ヶ月早いだけでお姉さんとか」
そう、笑ってくれる彼が可愛くて仕方なくて。
今飲んでる甘酒がとても優しく体にしみたのだった。