表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/35

フェルマーの最終定理【理系くんSide】

 家で妹に、「二人から」と言って仙台土産を渡す。


 土産物袋に入った“笹かま”二つを見て、一瞬目を見開く。


「兄は良い彼女を得ましたね」


 口元を押さえながら、そんなことを言う。


「何を察した」

「だって私のお土産、計算に入れてなかったでしょ」


 文系の人たちはエスパーなんだろうか。科学で証明できない何かを彼女たちから感じる。


「にしても、ふふ」

「……なに?」

「笹かまっていろんな種類あるのに、同じものを二つ買ってくるなんて。仲良しを見せつけてくれますね」


 あ。確かにチーズ入りとか枝豆入りとか、いろいろあった気がする。


 そこまで頭が回ってなかった。


「伊達政宗公には会えました?」

「だから居ないって」


 妹は嬉しそうに笑いながら。


 笹かまの袋を開けて、ひょいと口に入れる。


「むぐむぐ。笹かまは美味しい」

「醤油もつけずに、気楽にいったな」

「これは兄からもらった分ってことで。文系お姉ちゃんからの分は、大切に食べます」


 ピースサインをしながらそんなことを言う妹がおかしくて。


 二人でしばらく笑っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「なんだ仙台行ったのか」

「あら素敵」


 旅行の二日後。

 最初のバイトの日に、文系ちゃんと二人でお土産を渡す。 


「もらったお手当の金額ぴったりで仙台行けたので感謝です!」


 文系ちゃんが、そう言って頭を下げる。


「一万で仙台なんて、交通費にもならんだろ!?」

「ちゃんと楽しめたの?」


 奥さんの言葉に、旅の思い出が脳内によみがえる。


 石垣の高さ。

 あの風の冷たさ。

 ひょうたん揚げの熱さ。

 松島の潮の匂い。


 ――ずんだシェイクの甘さ。


 全部が、言葉になるより先に、体に残っている。



「本当に楽しい旅でした。ありがとうございます」



 僕の言葉に、店長夫妻が驚いている。


 なんだろう。何かおかしいこと言っただろうか。


「……お前、そんな顔で笑えるんだな」

「…………うるさいですよ」


 楽しかった旅を思い出して、自然と笑顔になっていたらしい。


 文系ちゃんと店長夫妻が、楽しそうに笑っていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 答えがはっきり出るから理系科目が好きだった。


 だからこそ、簡単に割り切れない人間関係が苦手だった。


「文系ちゃん、就活どうする?」


 大学三年生の冬。


 もう本格的に就職活動が始まる。


「ひとまずいくつかインターン行って考えようかなぁ。理系くんは?」

「なんにも考えてなかった」


 自分の将来も、簡単に割り切れない。


「文系ちゃんはやりたいこと決まってるの?」

「うーん、編集とか出版とか、大変そうだけど文章に関係した仕事やりたいなあ」


 文系ちゃんは本当にすごい。

 答えのない問題を、ちゃんと見据えて前に進めている。


「理系くんはどう?」


 僕はしばらく考え込む。


 人と接するのが苦手だった僕が、いつの間にか他人と一緒に笑えている。


 絶対にできないと思ってた、接客のバイトすら、今では楽しく思ってる。


 文系ちゃんと店長夫妻のおかげが大きすぎるけど、もう今は向いてないとは思ってない。


 人を楽しませる仕事。

 でもちゃんと理系の思考でやれる仕事。


「ゲーム業界とか見てみたいかも」


 短絡思考かもしれないけれど、ふとそう思った。


 答えの出ない問題を考えるのが苦手で、理系になったと思ってた。


 でも、数学好きなら一度は憧れた「あの問題」。


――フェルマーの最終定理。


 少し前に証明されるまで、人生をかけてこの難題に挑んだ数学者が何人もいる。


 一度ワイルズの証明を見たけど、最新の数学理論がいくつも盛り込まれていたようで、全く理解できなかった。


 僕は隣を歩く文系ちゃんを眺める。


「いいねゲーム業界」


 文系ちゃんを数式に当てはめることなんてできない。


 感情は割り切れないし、不安や落ち着かない夜も多い。


 でもそれが嫌ではなくて、悩めることが幸せに思える自分もいる。


「フェルマーの最終定理に挑んだ数学者もこんな気持ちだったのかな」

「ん、フェルマー?」

「そう。絶対に解けないと言われてた、最近解けた数学の定理」


 「うわー分かんない」なんて言いながら笑う彼女を見て。


 文系ちゃんという最終定理を、追い続けたいと思った。




――そしてすぐに、なんて気取ったことを、自分は考えてるんだって。


 勝手に赤面したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ