仙台アーケード〜松島(宮城県一万円旅編その3)
仙台城からの下りはとても心が軽くて、あっという間だった。
「あ、文系ちゃん、ここから行きとは道変えるから」
「え、うん。分かった」
青葉通から左折して、アーケード街のようなところに入る。
と。
そこはまさに仙台だった。
牛タン屋さんがある。
和菓子屋さんに、スーパーに。
歴史がありそうな店舗と、チェーン店に、新しいおしゃれなお店が不思議と調和している。
最初に通った青葉通りより、人通りも多かった。
「行きは仙台城に集中して欲しかったから、まっすぐ青葉通で行ったんだけど」
「確かに。この道を通ってたら気持ちが分散してたね、きっと」
どこまで計算し尽くされてるんだろう。
綿密な計画というと息苦しくなる方だけど、理系くんのは心地良い。
多分、私を楽しませるための配慮が散らばってるからだろう。
「さて。見えてきました、あのお店!」
大きな交差点の角に、少し行列のあるお店が見える。
「あそこに、ひょうたん揚げが売ってます」
「出たねひょうたん揚げ! 人気すごいね!」
平日なのに列がある。
「阿部蒲鉾店? かまぼこ?」
「まあまあ。頭空っぽにして食べてみて。さっきのお団子だけじゃ足りなかったでしょ?」
「ずっとペコペコ!!」
ここでの揚げ物は完璧すぎる。
十分くらい並んだだろうか。
私たちの番が来る。
「ひょうたん揚げ二本で」
理系くんの言葉に、店員さんが笑顔で応じる。
「ケチャップかけてもよろしいですか」
「文系ちゃん、ケチャップ苦手だったりしない?」
「全然!」
かまぼこ店でケチャップ。
全然想像できないけど、もう任せてしまおう。
出てきたのは、のの字に乗せられたケチャップが可愛い、アメリカンドッグみたいな揚げ物だった。
「形がひょうたんみたいだからひょうたん揚げ?」
「そうみたい。揚げたてのうちに食べよう」
かじってみると、サクッとアツアツ、揚げたての食感。
やっぱりアメリカンドッグみたいな甘い生地とケチャップはベストマッチで。
でも。
それに負けない存在感のかまぼこが中から出てくる。
まさに見た目通り、かまぼこ版アメリカンドッグ。
「これ、美味しいね」
「ホントに! かまぼこがジャンクフードになっちゃった」
空腹に嬉しい揚げ物特有の油の香りと、甘いホットケーキ生地が、ケチャップの酸味でスッキリ食べられる。
負けない旨味のかまぼこが、ちゃんと主張してる。
「ひょうたん揚げ、妹ちゃんの発案だっけ」
「うん。感謝だねこれは」
妹ちゃんが、なんでこれを知ってたのか分からないけど。
「……妹、ゲームで伊達政宗ファンだったかも」
理系くんの言葉に、二人で笑った。
時間は朝の11時半。
仙台の日が、だんだん眩しくなってきた。
歩きながらゆっくりひょうたん揚げを食べていたら、仙台駅が見えてきた。
「これから松島へ行きます」
「松島!!」
「電車で四十分くらい」
「思ったより近いね」
「仙石線で松島海岸駅まで一本でいけるから楽ちん」
夜の高速バスが仙台駅から二十二時半出発だから、まだまだ時間に余裕もある。
「――じゃあ、松尾芭蕉に会いに行こう!」
「だから居ないってば」
「いざ松島!」
「……鎌倉じゃなかったっけ?」
テンションの高い私に、逐一ツッコミを入れてくれる理系くん。
仙台城で歩き通した足に、電車で座れるのがありがたかった。
理系くんが、座った瞬間に「ちょっと、ごめん……」って言いながらすぐに寝た。
バスでは見れなかった寝顔を、とても可愛く思いながら。
私も睡魔に負けて、重いまぶたを閉じたのだった。
「――文系ちゃん。松島海岸着いたよ」
「……ううん。はっ!?」
完全に眠ってしまってた。
私は飛び起きて、理系くんと一緒に電車を降りる。
「理系くんもちゃんと眠ってたのに、よく起きたね?」
「到着時間に合わせて、目覚ましかけてたからね」
「最初から電車で寝るつもりだった?」
「……歩いてる途中に、たぶん電車で起きてられないなと思ってた」
抜け目なくて感心するやら、可愛いやら。
寝ぼけ眼でぼんやりと松島海岸駅を出ると、景色が目に飛び込んできた。
「海だ」
海沿いの松林の隙間から、海が見える。
海を見ると気分が高揚するのはなぜだろう。
「松島、結構盛り沢山なんだけどいい?」
「え、島見るだけじゃないの?」
「うん。まずは牛タン」
「牛タン!!」
「利久ってお店が有名らしくて」
「そこ行こう!」
「あとは国宝瑞巌寺」
「瑞巌寺?」
「詳しくは知らないけど、国宝指定されてる1200年の歴史があるって言われるお寺」
「すごいね! 絶対見たい」
「あとは、もちろん松島」
説明を聞きながら、牛タンのお店に向けて、私たちは歩く。
潮の香りが、今までに行ったことのある、どの海よりも優しい気がする。
海沿いの風が、疲労の残る足を弄ぶ。
太陽が高くなって、気温も上がってきてた。
お腹の虫が、グウウと大きく昼の訪れを告げていた。
私は、ここまで完璧だった理系くんの計画を、もう完全に信頼しきっていた。
理系くんが何かを計算し直すように一瞬首を傾げたのを、まったく気付かなかった。
宮城県一万円旅編、次で終わります。




