杜の都(宮城県一万円旅編その1)
深夜の新宿駅。
深夜とは思えないほど人が歩いてるけれど、いつもの窒息しそうなほどの“人いきれ”は無くて。
歩きやすい駅構内に、少し戸惑う。
「バスタ新宿は新南口から出ると近いらしいけど……」
理系くんが困ったようにスマホとにらめっこしている。
新南口。さっきから案内板には一切書かれていない。
見かけたのは東口と西口の文字。
「駅構内ってGoogleマップもきかないもんね……」
「うーん。いったん出てから外回ろうか」
いつも思うけど、新宿駅は立体的なダンジョンに近いと思う。
少し迷いながら、私たちはバスタ新宿にたどり着いた。
そこは、ちょっと見たことのない光景だった。
「深夜0時に人が多い! バスも多い!!」
「これは……すごいね」
高速バスの停留所、バスタ新宿。
深夜なのに待合所のベンチは満員。何本ものバスがひっきりなしに多くの人を乗せて出発する。
まさか、バスの乗り口を探すのにも迷うとは思わなかった。
なんとか仙台行きのバスに乗り込む。
「バスで往復。行きが1980円、帰りが1800円。往復で3880円ね」
「安く見つかってよかったよねー」
平日だからなのか。
ちょっと不安になる金額でバスが取れた。
おかげでまだ六千円以上使える。
バスは、隣の理系くんと肩が触れ合う距離で、なんとなくドキドキする。
自然と窓側を私に譲る理系くんに感謝を伝えて、座席に付く。
深夜のバイト明けだから疲れてはいたけど、これから始まる旅の予感にワクワクする。
八時間のバスの旅。
眠れるかちょっと不安だ。
「――眠れないかもって」
「思ってたね」
私の言葉に、理系くんが笑う。
ぐっすりだった。
多分疲労も手伝ったんだろうけれど。
二人とも楽しみすぎて、前日から眠れなかった。
仙台駅到着が七時半。
バスを降りたら外は明るくて。
駅に大きく「仙台駅」と書かれているのにテンションが上がる。
東北だから寒いのかと思ったけど、東京と大して変わらないし、雪もない。
大きな建物も多いし“都会”なのは間違いない。
でも深夜の新宿の淀んだ空気より、清々しく感じられる。
旅行の気分がそう感じさせるのか、本当に空気が綺麗なのか。
大きく深呼吸をした私に、おもむろに理系くんが声をかける。
「まずは仙台城に向かいます」
「はい、先生」
「今晩の夜行バスでそのまま帰る強行軍だから、使えるのは23時まで。約十六時間で松島まで制覇します」
「松島!! 松尾芭蕉に会える!?」
「会えません」
変にきっちり否定する理系くんがおかしくて。
二人で目を合わせて笑い合う。
「あとは、予算の一万円。交通費もお土産代も入ってるし、牛タンも食べられます」
「最高!!」
理系くんは、カバンに入れたペットボトルの水を飲みながら、周囲を見回す。
「東京で買った水は予算にノーカウント」なんて言いながら、二人とも二本ずつペットボトルを持っている。
「ここで文系ちゃんに提案があります」
「お、いいねそういうの」
ちょっぴり気取った理系くん。
見知らぬ土地でテンションが上がってるみたい。
普段はあんまり見れない姿に、旅の醍醐味を感じる。
「ここから仙台城。電車かバスで行けば25分くらいで着きます」
「お、いいね」
「徒歩で行くと、片道45分かかりますが……」
「――が?」
理系くんは、ここで少し勿体つけたように息を吸い込む。
「浮いたお金で、ずんだ団子とひょうたん揚げが食べられます」
「歩こう!!!」
もうすでに楽しい。
理系くんはどこまで調べてくれたのか。
なんて頼りになるんだ。
「あ。でも、ひょうたん揚げってなに?」
「内緒。たぶん気に入ると思う」
前回の動物園の意趣返しだろうか。
理系くんに「今回は僕が予定組むから」って言われたから本当に何も調べてない。
ひょうたん揚げ?
なにそれ楽しそう!
残金は6120円。
旅の一日を戦い抜くには、心もとない戦力に見えるけれど。
理系くんなら――。
……その気持ちで、私は考えるのをやめてしまった。
私たちは、仙台の街を歩き出す。
八時間バスに揺られていたからちょっと背中が痛かったけれど、今は何も感じなかった。
ただただ、仙台の風が柔らかく私たちを包んでいた。
私たちの旅を祝福してくれるようだった。




