ノットイコール【理系くんSide】
【理系くんSide】
文系ちゃんは、酸素だと思う。
僕はパソコンに向かって仙台行きの予定を組み上げながら、昨日の彼女の笑顔を思い出す。
「仙台で行きたい所? うーん」
真剣に考え込む彼女に見惚れつつ、僕も仙台の知識を総動員する。
牛タン……?
仙台=牛タンしか出てこない自分の知識の浅さに絶望する。
「えっと、仙台城でしょ。あとせっかく宮城県に行くから松島も観れるとうれしいけど……」
「松島――?」
聞き慣れない地名に、僕はスマホで検索しながら文系ちゃんに聞き返す。
「松尾芭蕉が、あまりの美しさに、俳句すら詠めなくなったと有名なとこ」
「『松島や、ああ松島や、松島や』の松島!」
「そうそれ! 実際はちゃんと俳句詠んでるんだけどね」
文系ちゃんの知識の広さに驚く。
「あとは、ずんだ餅、ずんだシェイクに笹かまぼこ!」
「それと牛タン?」
「あ、絶対食べたい!」
最初は漠然としていた仙台旅行のプランが、文系ちゃんのフィルタを通すと、だんだん魅力的に見えてきた。
「いいね! 往復高速バスで行くと丸一日いられるから、時間計算してみる」
僕の言葉に、文系ちゃんが嬉しそうに頷く。
「私そういうの苦手だから助かる! ありがとう」
「あと一万円以内の旅ね」
「店長夫妻へのお土産も入れといて」
いいことを思いついたとばかりに胸を張る文系ちゃん。
確かに、今回のきっかけは店長のお手当だ。
ご夫妻へのお土産も買いたい。
「おっけー。いろいろ計算してみるね」
「ありがと」
笑顔が眩しい。
今の彼女の輝きを測ったら、何ルーメンになるんだろ。
なんて、意味のない物思いにふける僕なのだった。
※※※※※※※※※※※※
『空気のような存在』
と言えば、いい意味に使われることがあまりない。
でも。
食べものがなくても水さえあれば、人は一ヶ月くらいは生きられる可能性があると聞く。
水がなければだいたい一週間。
でも。
酸素がなければ数分で致命的だと言われてて。
なんなら水にも酸素が含まれてる。
長く会えないときは寂しいけれど、それでも常に一緒にいる感覚があって。
連絡がないときは、不安よりも心配が勝つ。
理系≠文系で、たくさんの違いはあるけれど。
好意=束縛ではない二人の関係性が、とても心地良い。
「兄。いま暇?」
自室にいる僕に、妹の声がかかる。
「文系ちゃんとの仙台旅行プラン練ってるから無理」
「それ私も行っても――」
「良いわけない」
わかりきった返答に、妹が笑う声が聞こえる。
「仙台に行くなら“ひょうたん揚げ”は食べてきて」
ひょうたん揚げ?
聞いたことのない商品名だ。
「ひょうたん揚げな、調べてみる」
「がんばって」
旅行に行くのに「がんばって」は、僕の性格を分かりすぎてる。
いま分単位で時間計算をして、一円単位で予算計算をしている自分にちょっぴり苦笑した。
「文系ちゃんが酸素なら、僕はマグネシウムか」
酸素がそばにあるだけで影響を受けるマグネシウムは、空気から隔離して灯油のなかに保存される。
本を読むのが好きになった。
歴史もちょっぴり興味が出た。
理系のほうが得意だし好きなのは変わらないけれど。
文系ちゃんは、僕の身体を構成する大事な元素になってる。
逆に、最近は文系ちゃんが僕の言いそうな言葉を言ったりもする。
「同じじゃないから楽しい」
だからこそお互いに影響を与えあっていける。
文系ちゃんにとっての自分はなんだろう。
不安じゃなくて興味として。
違いすら楽しめる事を嬉しく思いながら。
頭の中に「≠(ノットイコール)」の等号否定の記号が、少しだけ輝いて浮かんだ。




